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金利上昇が不動産投資家に与える影響とは?AMの実務対応とポートフォリオ再構築の視点

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金利上昇が不動産投資家に与える影響とは?AMの実務対応とポートフォリオ再構築の視点

日銀の段階的な利上げの継続により、政策金利は31年ぶりの高水準に到達しました。保有物件の含み益の目減りや調達コストの増加など、不動産投資を取り巻く環境は大きく変化しています。現在の状況は一時的な調整にとどまらず、投資判断の前提そのものを見直すべき構造変化といえるでしょう。
本記事では、こうした局面で適切な投資判断を下したい不動産投資家に向けて、プロのAM(アセットマネージャー)が実践する財務・運用面でのリアルな対応事例をもとに解説します。
また、インフレ耐性に応じたアセットの選定基準や、機動的な運用を行うAMの評価軸を提示するとともに、その着眼点を保有ポートフォリオの評価に応用し、個別物件の組み替えを成功させるための具体的なポイントもお伝えします。

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ざっくり要約!

  • 長期金利:政策金利に連動して上昇し、10年国債利回りは2026年初の2%台前半から、2026年9月には約30年ぶりの高水準となる3.0%台に突入。
  • 政策金利:日銀は2025年12月に0.5%から0.75%へ引き上げ、2026年6月に1.0%へと連続利上げを実施。さらに同年9月には1.25%程度へ引き上げることを決定。1%台は1995年以来、約31年ぶりの水準。
  • 変化のスピードと実務におけるリスク管理:1年弱で計0.75%の利上げという急激な調達環境の変化に対し、インフレ耐性が乏しいアセットは増加する金利コストにNOIが圧迫されるリスクがあり、平時からの機動的なポートフォリオ見直しが不可欠。

目次

  1. 2026年における足元の金利動向
  2. 金利上昇が不動産投資家にもたらす3つの影響とリスク
  3. 不動産市場では金利上昇の影響をどう捉えているか
  4. 金利上昇局面で明暗を分けるアセットの条件|成否を握る「賃料転嫁力」
  5. 金利上昇下で不動産投資家が注視すべきこと
  6. マクロな金利変動にとらわれず、個別物件レベルのリバランスを徹底する
2026年における足元の金利動向

日銀は2025年12月に政策金利を0.5%から0.75%へ引き上げたのに続き、2026年6月には1.0%への追加利上げを実施しました。また、2026年9月18日には、政策金利を1.25%程度へ引き上げることを決定しました。※1※2

政策金利1.0%台は、実に1995年以来(約31年ぶり)の水準です。

これに連動して長期金利の上昇も加速しており、10年国債利回りは2026年1月に2.3%を突破しました。その後、長期金利はさらに上昇し、2026年9月1日には3.0%へ到達(1996年以来、約30年ぶり)、以降も3%前後で推移しています。

ここで注視すべきは、金利上昇の1%という「絶対値」ではなく、約9ヶ月で0.75%の引き上げという「スピード」です。なぜなら、数ヶ月単位で調達コストの前提が塗り替わる状況下では、従来型の「様子見」そのものが含み益の目減りやイールドギャップの縮小を招く要因となり得るためです。

※1出典:日本銀行「政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨(2026年6月15、16日開催分 2026年8月5日公表)」

※2出典:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)

金利上昇が不動産投資家にもたらす3つの影響とリスク

金利上昇がファンド実務へ及ぼす影響は、主に以下の3つの経路に整理できます。

イールドギャップとは、NOI利回り(キャップレート)と借入金利の差のことです。金利上昇によってこの差が縮まると、借入を活用して収益性を高めるレバレッジ効果が弱まります。

さらに金利上昇が進み、借入金利が物件利回りを上回ってしまうと「逆ザヤ」の状態に陥ります。こうなると、借入を活用するメリットが失われるだけでなく、借入の存在そのものが投資リターンを押し下げる要因となります。

金利が上昇すると、不動産投資家の要求水準が高まり、物件のキャップレートも引き上げられる傾向にあります。

一般的に、キャップレートが上昇すると物件価格には下落圧力がかかるため、保有資産の評価額(NAV)が低下し、含み益が目減りする可能性があります。

既存の借入を借り換えるリファイナンスのタイミングで金利が上昇していると、新たな借入金利も高くなり、支払利息が増加します。

また、金利上昇リスクを抑えるために固定金利化を進める場合、金利スワップなどのヘッジコストが上昇する点にも注意が必要です。

不動産市場では金利上昇の影響をどう捉えているか

不動産投資家をはじめとする市場関係者は、先ほどの3つの影響経路について現状をどのように捉えているのでしょうか。調査結果をもとに、実務者の意識と将来見通しをデータで整理します。

日本不動産研究所の第53回調査(2025年10月時点)で実施されたインフレの影響に関する特別アンケートでは、賃料やNOIなどの個別項目について、以下の結果が示されています。※1

・賃料への影響

回答時点で「影響あり(「あり」「ややあり」の合計)」は88.0%に達し、今後2〜3年の見通しでは「影響あり」の回答率が21.8%から50.4%へ大幅に増加しています。※1

・NOI・管理コストへの影響

インフレに伴う運営費用の増加により、回答時点で86.6%の実務者が影響を認めています。※1

・キャップレートへの影響

回答時点では「影響なし」が54.6%と過半を占めるものの、今後2〜3年の見通しでは「ややあり」との回答が37.6%から52.1%へ増加するなど、将来的な影響を見込む回答が増えています。※1

・建築着工・新規開発への影響

インフレによる建築着工や新規開発プロジェクトへの影響について、「影響あり(「あり」「ややあり」の合計)」が95.1%と極めて高い水準となっています。※1

上記のとおり、賃料やNOI、利回りといった個別の収益項目への影響が意識されている一方で、金融政策そのものが市場全体に与える影響については、やや異なる動きが見られます。

同研究所の第54回調査(2026年4月時点)では、一連の金融政策が不動産投資市場へ与えた影響を尋ねたところ、「影響はなく、変化は生じていない」との回答が68.2%(前回実施時の2025年4月調査比+1.8pt)で最多を占めました。一方、「やや萎縮し、市場は停滞の方向へ移行しつつある」は24.2%(同-8.7pt)へと減少しています。※2

しかし、長期金利が3%の大台を突破・定着する局面では、市場環境が一変する「悲観シナリオ」への警戒感は常に持っておきたいところです。

調達金利の上昇によってイールドギャップが消失し、一部の低利回りアセットでは借入コストが物件利回りを上回る「逆ザヤ」が発生するリスクが高まります。その結果、レバレッジ効果を前提とした取得の凍結やディールの停滞、さらにはキャップレートの上昇に伴う不動産価格の下落圧力が急速に強まるリスクを孕んでいます。

事実、今後のリスク要因として「金利の上昇」を挙げる企業は122社に達し、2位の「建築費の高騰、管理費等ランニングコストの上昇(73社)」を大きく引き離して引き続き最多となっています。※2

それでも市場全体への影響が「変化なし(68.2%)」と落ち着きを保っている背景には、同調査において「新規投資を積極的に行う」との回答が93%に達するなど、不動産投資家の極めて強い投資姿勢が維持されていることが挙げられます。※2

インフレに伴う賃料上昇への期待もあり、主要都市の住宅やホテルを中心に期待利回りは「横ばいから低下(物件価格は上昇傾向)」を維持しているのが現状です。

つまり、市場の取引意欲は旺盛である一方、個々の現場では金利上昇リスクへの警戒が着実に強まっています。だからこそ、不動産投資家には、表面的な市場の堅調さに安心するのではなく、「保有・検討物件が、金利上昇やコスト増を上回る賃料転嫁力(≒インフレ耐性)を備えているか」をシビアに見極める姿勢が求められます。

関連記事:金利上昇が不動産売買に与える影響とは?不動産投資市場の現状と見通しを予測

※1出典:日本不動産研究所「第53回『不動産投資家調査®』(2025年10月現在)の調査結果」

※2出典:日本不動産研究所「第54回「不動産投資家調査®」(2026年4月現在)の調査結果」

金利上昇局面で明暗を分けるアセットの条件|成否を握る「賃料転嫁力」

マクロな市場全体としては投資意欲が維持されているものの、先述のとおり金利上昇による調達コスト増のリスクは確実に高まっています。

しかし、こうした局面においてすべての不動産が一律に打撃を受けるわけではありません。不動産投資家が個別物件を見極めるうえで最大の分岐点となるのが、前章でも触れた賃料転嫁力の強さです。

物価や金利の上昇に合わせてタイムリーに賃料改定を行えるアセットであれば、NOIの成長によって借入コストの増加分を十分に相殺・吸収できる可能性があります。金利上昇環境下で資産価値を維持・拡大できるかどうかは、この賃料転嫁力を備えているかどうかにかかっています。

日本不動産研究所の第54回調査(2026年4月時点)による期待利回りを見ると、この傾向が明確に現れています。※1

物件種別・
エリア
期待利回り 前期比・
推移の傾向
オフィス
(丸の内・
大手町)
3.2% 横ばい
(7期連続)
レジデンス(城南エリア) ワンルーム:3.6%
ファミリー:3.7%
いずれも -0.1pt
(利回り低下・価格上昇)
物流施設
(湾岸部)
3.8% 横ばい
(5期連続)
宿泊特化型
ホテル(東京)
4.1% -0.1pt
(利回り低下・価格上昇)

本来、借入金利が上昇すると、不動産投資家が求めるキャップレートにも上昇圧力がかかり、物件価格には下落圧力が働くのが原則です。

しかし、上記の表のとおり、主要アセットの期待利回りは「上昇(価格下落)」するどころか、オフィスや物流施設で長期にわたる「横ばい」、需要が旺盛なレジデンスやホテルではむしろ「0.1ptの低下(物件価格はさらに上昇)」を維持しています。

金利が上昇しているにもかかわらずキャップレートが上昇しない背景には、前述の旺盛な新規投資意欲に加え、物価高や需要増に伴う賃料アップが金利コスト増を十分に吸収・相殺できる、という期待が市場で強く働いているためです。民間企業の調査(2026年3月)でも同様の傾向が見られ、現在の市場では「賃料の上昇によって、金利・インフレの影響を相殺・上回るリターンを狙う投資」が主流になりつつあることがうかがえます。

実際、大手不動産投資法人(J-REIT)の資産入替戦略においても、この「賃料転嫁力(インフレ耐性)」を意識した動きが顕著です。

ある総合型リートの事例では、契約更新時の賃料引き上げが難しく老朽化した「郊外型商業施設」や「区分所有住宅」の鑑定評価額を上回る好条件(実勢価格)で売却する一方、需要変動に合わせて機動的な値上げが可能な「ホテル」をNOI利回り6.4%で取得するといったポートフォリオの再構築が行われています。

また、ポートフォリオの入替においては、同じアセットタイプであっても、運営・契約形態によって耐性が大きく異なる点は押さえておきたいポイントです。

「レジデンス」を例に考えても、すべてを一括りに捉えることはできません。

一般的な普通借家契約の賃貸住宅は、入居中の賃料改定に時間を要し、インフレへの追従にタイムラグが生じがちです。一方で、シェアハウスやコリビングのような入居者の入れ替わりサイクルが早いタイプや、サービスアパートメントのような運営型アセットは、退去・新規募集のサイクルが短いため、物価や需要の高まりをタイムリーに新賃料へ転嫁しやすい傾向があります。

ただし、こうした運営型アセットに投資するときは、エンド入居者の回転だけでなく、「所有者と運営会社(オペレーター)との契約形態」にも着目する必要があります。

固定賃料のマスターリースでは物価上昇の恩恵を十分に享受できないため、稼働や売上に連動する歩合型(レベニューシェア等)になっているかまで確認することが重要です。

不動産投資家としては、単に「住宅か、ホテルか」というカテゴリだけで判断するのではなく、「賃料改定の頻度や契約形態が、インフレ・金利上昇に即座に対応できる構造になっているか」まで踏み込んで見極めるようにしましょう。

関連記事:サービスアパートメントとは?CRE戦略の新しい選択肢

※1出典:日本不動産研究所「第54回「不動産投資家調査®」(2026年4月現在)の調査結果」

金利上昇下で不動産投資家が注視すべきこと

不動産投資家は、AMが「受け身にならず、先回りした財務・運用戦略を実行できているか」という点を注視しましょう。金利の上昇局面において「様子見」を続ける運用先は、収益性が構造的に侵食され続けるリスクを抱えていると評価される傾向にあります。

このように、先回りした財務・運用戦略を実行することの大切さは、借入規模によるコストインパクトの差を見れば明らかです。

不動産ファンドや法人投資家が巨額の借入を活用する現場では、金利動向に対する感応度が極めて高くなります。借入規模が数十億〜数百億円単位に達するプロジェクトでは、わずか0.01%の調達金利のブレであっても、年間の支払利息は数百万円から数千万円単位で変動するためです。

仮に借入金利が1.0%上昇した場合、コストへのインパクトは年間で数千万円から数億円規模にのぼり、不動産投資家への分配金利回りや当初の目標リターンを直撃します。だからこそ運用現場では、常にbps単位で金利環境を注視し、調達コストの最適化を図るシビアな財務戦略が求められます。

固定・変動比率の見直しとは、有利子負債全体に占める「固定金利」と「変動金利」の割合を、金利局面に応じてコントロールすることを指します。

すべての金利変動リスクを一律に排除するのではなく、調達コストを抑えつつ許容できるリスクの範囲内でコントロールすることが目的です。

実際の運用現場における固定・変動金利比率の見直し(固定・変動のバランス調整)に関する具体的なアプローチを見てみましょう。

事例1:変動調達を基本としつつスワップで固定化ヘッジ

J-REIT市場全体を見渡すと、有利子負債の約8〜9割を高水準な固定金利で調達し、金利上昇リスクをあらかじめ抑制するのが一般的な財務オペレーションです。

しかし、ある総合型大手不動産投資法人の財務方針では、「長期・変動でのデット調達を原則」としつつ、「金利上昇局面では固定化も検討」と明記されています。平時はコストの低い変動金利で利息負担を抑えつつ、上昇局面では機動的に固定化を選択肢に入れる戦略です。

実際、同法人では想定元本合計約488億円分に対して金利スワップ(変動受取・固定支払)を実行し、金利上昇リスクへ事前に対策しています。

事例2:高水準の固定比率を維持しながら変動枠を戦略的に拡大

オフィスビル特化型の大手不動産投資法人の事例では、長期固定金利比率を83.9%という高い水準で維持し、金利上昇への守りを固めています。

その一方で、変動金利での長期借入残高を前期末の730億円から翌期末には1,010億円へと拡大させました。あらかじめ高い固定比率で安全域を確保しているからこそ、一部で機動的に変動金利を活用し、全体の調達コストを最適化させている好例といえます。

両社の事例に共通しているのは、単に「全額を固定にする」「全額を変動にする」という二者択一ではなく、「金利の方向性やスワップコストの水準を見極め、局面に応じて比率を機動的にコントロールしている」という点です。

これらの事例から、不動産投資家としては、投資先ファンドや管理会社を評価するとき、以下のポイントをチェックしておくとよいでしょう。

  • 金利スワップ等のヘッジ手段を機動的に実行できる体制があるか
  • 一律の固定化・変動化ではなく市場局面に応じた調達比率の調整実績があるか

リファイナンスリスクとは、借入の返済期限が特定時期に集中することで、その時点の金利水準や金融機関の融資姿勢次第で、調達コストの急騰や資金繰りの悪化を招くリスクを指します。

調達環境が急速に変化する局面では、「返済時期」と「金融機関」の双方を計画的に分散させ、特定のタイミングや単一の金融機関に運用が左右されない耐性を作ることが不可欠です。

実際の運用現場における具体的な分散事例を整理します。

事例1:短期借入の長期化と返済期の分散

商業施設特化型の大手不動産投資法人の事例(2026年7月公表)では、短期借入金50億円を全額長期借入へシフトさせるとともに、返済期限を2027年1月期から2032年7月期までの「12期(約6年間)」にわたって細かく分散配置しました。

あわせて案件ごとに異なるシンジケートを組成することで、返済時期だけでなく貸し手の分散も同時に実現しています。

事例2:7年スパンでの均等分散と高水準な固定比率の維持

物流施設特化型の大手不動産投資法人では、借入の返済時期を7年程度の間隔で均等に分散させ、一時期への借換え集中を徹底して排除しています。

金利固定化コストが上昇する環境下においても、借入の約95%を固定金利で確保しつつ、平均残存期間を適切にコントロールすることで、金利急変動の影響を最小限に抑える財務体質を構築しています。

事例3:31社体制によるレンダー分散と格付けの維持

レジデンス特化型の大手不動産ファンドの事例では、借入の約88%を固定金利で調達して急激なコスト増を抑えつつ、借入先金融機関を31社体制まで拡大しています。

特定行への依存を排除し、返済期限を複数年度に分散配置することで単年度の借換え集中を回避しており、格付投資情報センター(R&I)の「AA−(安定的)」という高い信用度を維持しています。

この「格付けの維持」は、ファンドのみならず事業会社にとっても死活問題といえます。金利上昇に伴って支払利息が増加すると、ICRや債務償還年数などの財務健全性指標が悪化し、格下げリスクに直結するためです。

万が一格付けが引き下げられれば、金融機関からの借入スプレッド拡大や社債発行コストの上昇を招き、「利息増がさらなる調達コスト高を呼ぶ」という悪循環に陥りかねません。

こうした「返済時期」と「調達先」の分散は、すでに運用現場における標準的なリスク管理手法です。

不動産投資家が投資先ファンドや管理会社の財務健全性を評価する際には、以下の指標を重点的にチェックするようにしましょう。

  • 返済時期の分散度
  • 固定金利比率
  • 借入先金融機関の分散度など

関連記事:不動産ファンド投資のリスクと判断|金利・インフレ下での最適な資産運用戦略

固定・変動比率の調整やリファイナンス分散が「守り」の財務戦略だとすれば、資産の組み替えはポートフォリオの収益性を引き上げる「攻め」の運用戦略です。

金利上昇の局面で低利回りのアセットを漫然と保有し続けるほど、イールドギャップ縮小による収益圧迫を直接的に受けてしまいます。そのため、市場環境が落ち着いており含み益が確保できている段階で、戦略的に資産を組み替える判断力が問われます。

実際の運用現場における具体的なアプローチを見てみましょう。

事例1:低利回り・老朽資産の売却益を活用した質的転換

オフィスビル特化型の大手不動産投資法人の事例(2026年1月公表)では、NOI利回りが2.3%にとどまる築35年ほどの老朽化物件を売却し、51億円の譲渡益を実現させました。

その売却資金を活用して高利回りの築浅物件を取得することで、ポートフォリオ全体の収益性と競争力を高める「質的転換」を機動的に実行しています。

事例2:平時からのコミットメントライン確保と透明性の高い開示

アコモデーション施設(住宅・宿泊施設等)特化型の大手不動産ファンドの事例では、資産入替とは異なる角度から平時の備えを徹底しています。

金利上昇によって支払利息がどれだけ増え、分配金にどのような影響を与えるかを具体的に開示し、不動産投資家があらかじめリスクを見通せるようにしています。同時に、複数の主要銀行といつでも融資を受けられる契約(コミットメントライン)を結び、急な資金ニーズにも即座に対応できる体制を整えています。

「攻めの資産入替」と「守りの流動性確保・開示姿勢」は、アプローチこそ異なるものの、いずれも金利上昇リスクが本格化する前からの能動的な備えという点で共通しています。

不動産投資家が投資先ファンドや管理会社を評価する際には、以下の点を確認することが重要です。

  • 含み益があるうちに老朽・低利回り物件を機動的に売却・入替できる実行力があるか
  • コミットメントラインの設定等、急な市場環境変化に耐え得る流動性枠を平時から確保しているか
  • 金利上昇による収益インパクトを透明性高く開示し、先手を打った財務戦略を講じているか
マクロな金利変動にとらわれず、個別物件レベルのリバランスを徹底する

ここまで見てきた3つの実務対応に共通するのは、マクロな金利動向そのものをコントロールしようとするのではなく、個別の物件レベルでの入れ替え、いわゆるリバランスをいかに的確かつスムーズに実行できるかという視点です。

固定・変動比率の見直し、返済期限の分散、資産入替は、いずれもこの視点に基づく基本戦略です。

インフレ耐性に乏しい物件を保有し続けることで、金利上昇に伴う借入コストの増加にNOIが押しつぶされ、収益性は構造的に損なわれます。金利上昇の世界でポートフォリオを堅守できるかどうかは、まさにこうした平時からの備えと見極めの有無にかかっています。

金利上昇という環境変化のなかでポートフォリオを守るためには、固定・変動比率の調整や返済期限の分散、機動的な資産入替といった「AMの能動的な実務力」をシビアに見極める姿勢が欠かせません。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業後、不動産業界一筋。賃貸仲介・管理から売買仲介まで幅広い実務を経験した後、専門性を深め、プライム企業にて信託関連のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務に従事。
現在は注文住宅会社の不動産部門責任者を務めつつ、多様な経験を活かし兼業ライターとしても活動中。不動産の実務から投資・管理戦略まで、多角的な視点に立ったわかりやすい解説を得意としています。

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