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PBR改善のための不動産戦略|含み益を活かして「保有」から「活用」へシフトする出口戦略とは

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PBR改善のための不動産戦略|含み益を活かして「保有」から「活用」へシフトする出口戦略とは

東証によるPBR(株価純資産倍率)改善要請や投資家からの不動産売却圧力が強まるなか、日本企業を取り巻く経営環境は、保有不動産のあり方そのものを見直す局面に入っています。
長年眠らせてきた含み益を戦略的に顕在化し、その資金を成長投資や財務体質の強化に充てることで、企業価値を最大化させることが求められています。
本稿では、保有不動産を単なる「保有資産」から「企業価値向上のエンジン」へと転換するための具体的な戦略と、最適な出口戦略の実務ポイントについて解説します。

含み益を成長投資へ転換し企業価値を最大化する不動産戦略
売却・査定について

購入について

ざっくり要約!

  • 利益を生まない不動産を保有し続けると、「稼ぐ力に対して資本が大きすぎる」状態が常態化し、株式市場での評価を押し下げる要因となる
  • 含み益を眠らせたままにするのではなく、売却・組み替え・バリューアップといったアクションと、その後の再投資シナリオを一体的に設計することが、企業価値の向上につながる
  • 「どの物件を見直すか」だけでなく、「いつ、どのように動かし、得られた資金をどこに振り向けるか」まで設計できているかどうかが、CRE戦略の鍵となる

目次

  1. PBR改善と不動産の関係性
  2. 含み益とは?なぜ今動かすべきなのか
  3. 資産の組み替えと不動産M&Aによるポートフォリオの再構築方法
    1. 不動産M&Aが有効な場面
  4. PBR改善のためにCRE戦略で資産をコントロールするステップ
    1. 失敗しない出口戦略の描き方
  5. 不動産をコントロールしてPBR改善を実現しよう
PBR改善と不動産の関係性

PBRは、株価が「純資産」に対してどの程度の水準にあるかを示す指標です。PBR改善において、なぜ不動産戦略がボトルネックになりやすいのかを理解するには、まずその構造を正しく把握する必要があります。

PBRは次の計算式で表されます。

PBR = 株価 ÷BPS(1株当たり純資産)

PBRが1倍を下回る状態は、企業の将来性や収益力が純資産(簿価)を下回って評価されているといえます。これは単なる「株価の割安感」のみならず、経営側に対して抜本的な資本効率の改善を求める市場からのシグナルとして受け止める必要があります。

例えば、「総資産100億円、負債20億円」の企業があると想定します。純資産は80億円です。この企業の株式時価総額が60億円だとすると、PBRは60億円 ÷ 80億円 = 0.75倍と算出されます。

つまり、純資産80億円に対して市場評価では60億円に留まっている状態ではPBRが1倍を下回る状態となり、投資家からは「割安な水準」と映ります。一方で、企業側にとっては、保有資産が時価総額に見合う収益を生み出せていないという資本効率上の課題が浮き彫りになっている状況といえるでしょう。

では、なぜそうなるのでしょうか。最大の要因は、保有資産が本業の利益に十分貢献していないことです。不動産を「持っているだけ」で収益を生まない状態が続けば、株式市場からは「資産を有効活用できていない企業」と評価されてしまいます。

この計算式をさらに分解すると、次のように表すことができます。

PBR = ROE(自己資本利益率) × PER(株価収益率)

ここで重要なのは、PER(株価収益率)は市場の評価に左右される要素が大きく、自社でコントロールしにくいという点です。一方、ROE(自己資本利益率)は、経営の意思決定によって高めることができます。

ROEとは、「投下した自己資本に対して、どれだけの利益を創出したか」を示す比率です。ROEを向上させるには、利益を増やすだけでなく、「分母となる自己資本」の部分をいかにスリムに保つかがポイントとなります。例えば、1億円の利益を上げた場合、自己資本が10億円ならROEは10%ですが、20億円に膨らんでいれば5%まで低下してしまいます。自己資本の肥大化は、結果として企業の資本生産性を押し下げる要因となります。

次に、なぜ不動産がROEを押し下げる要因となり得るのかを解説します。

それは、利益貢献の低い不動産が資産として滞留し、ROEの分母である自己資本を膨らませてしまうことで、計算上の利益率を低下させてしまうためです。利益を生まない遊休地や老朽化資産が活用されないまま残ると、資本効率を低下させ、結果としてROE改善の足かせになるケースは少なくありません。

株価を直接コントロールすることはできないため、PBR改善に向けては、ROEを高めることで市場評価の向上につなげることが本質的なアプローチになるといえます。しかし、純資産を下げる施策(自社株買い等)は資本効率の適正化には有効な場合がある一方、それだけで本質的な企業価値向上に直結するとは限らない点に留意が必要です。

なお、含み益を多く抱えた不動産を保有している場合、BPS(1株当たりの純資産額)を押し上げる要因となりますが、裏を返せば、PBR改善の余地を大きく持っているともいえます。PBR改善は財務戦略であると同時に、実際にはCRE戦略としても捉えることが可能です。

関連記事:PBR対策の選択肢|不動産売却を実施する企業の戦略と動向を解説

含み益とは?なぜ今動かすべきなのか

先ほどの説明にもある通り、ROEを押し下げる要因のひとつとして、未活用の「遊休不動産」の存在が挙げられます。会計上、不動産は帳簿価額(取得原価)を基準に計上されるため、長年保有している資産は時価と乖離が大きく、膨大な「含み益」を抱えているケースが少なくありません。この潜在的な価値が貸借対照表上の自己資本を実質的に押し上げ、結果として「利益に対して資本が大きすぎる」という資本効率の低下を招きます。

一方で、不動産の潜在価値を顕在化し、売却や資産の組み換え、再投資につなげることができれば、ROEの向上やPBR改善につながる可能性があります。仮に、足元で含み損の状態にある不動産であっても、バリューアップ施策によって時価を引き上げ、将来的に含み益を生む資産に転換することは可能です。そのため、今すぐ動かせない資産でも、将来的な活用シナリオを描いておくことには十分な意義があります。

含み益を顕在化・活用する具体的なアクションとしては、主に次の3つが考えられます。

売却による現金化(キャッシュ・アウト)

最も直接的な資産圧縮の手段です。売却益を成長事業への再投資や高収益資産への組み替えに充てることで、ROEの向上が期待できます。ただし、売却タイミングの見極めが出口戦略の成否を左右するため、日頃から物件ごとの時価を継続的にモニタリングし、最適な売却タイミングを逸しない体制にしておくことが前提になります。

建て替えや用途変更による価値向上(バリューアップ)

現状のままでは収益性が低い物件でも、用途変更(コンバージョン)や建て替えによって不動産そのものの時価を引き上げることが可能です。仮に現時点で含み損の状態にある物件でも、適切なバリューアップ施策によって将来的に含み益を生む優良資産へと転換できる点が、戦略上のメリットです。

セール・アンド・リースバックによる売却後の利用継続

売却によって流動性を確保しつつ、同じ物件で賃借契約を締結することで当該不動産の継続利用を可能にする手法です。「手元資金の確保」と「事業継続」を両立できるため、本社機能を維持しながら財務改善を図りたい企業にとって有効な財務戦略です。

重要なのは、これらのアクションから一つだけを選ぶのではなく、物件ごとの特性と自社の財務状況に応じて使い分けることです。そのためには、個別物件の処分や活用を検討する前に、保有資産全体をどのように組み直すかというポートフォリオの設計が必要です。次章では、その具体的なステップを整理します。

関連記事:セールアンドリースバックとは?実施目的や具体例、会計処理のポイント

資産の組み替えと不動産M&Aによるポートフォリオの再構築方法

含み益の実現は重要ですが、単発の「売却」のみでは一時的な対応にとどまり、根本的な解決にはなりません。資本効率を構造的に改善し、持続的なPBR向上を実現するには、個別の不動産処分にとどまらず、ポートフォリオ全体の構成を抜本的に見直すことが不可欠です。

ポートフォリオの再構築にあたって最初に取り組むべきは、保有資産と賃借資産を「コア資産」と「ノンコア資産」に分類することです。まずは、コア資産とノンコア資産の定義を確認しましょう。

コア資産

コア資産とは、事業継続に不可欠である、代替が困難である、あるいはブランド価値や人材確保に寄与しているといった観点から判断される資産です。単なる不動産としてのスペックだけでなく、「その資産が自社の事業戦略にいかに貢献しているか」という戦略的価値に基づいて定義される資産を指します。

ノンコア資産

ノンコア資産とは、稼働率が低い物件、事業への貢献度が曖昧な物件、遊休不動産、代替可能な設備など、経営戦略上の優先順位が低い資産を指します。

保有資産を見極めずに一律で売却すると事業基盤を損なうリスクがあるため、適切な選別はCRE戦略において重要です。事業の根幹を支える「コア資産」は戦略的に保有しながら、役割を終えた「ノンコア資産」を成長領域や高収益物件へ組み替えることが、目指すべきゴールといえます。

ポートフォリオの再構築を本格的に進める場合、個別の物件売買だけでなく、より大規模で、税務面でも効率的になり得る手法として、「不動産M&A」も選択肢に入ります。

不動産M&Aとは、不動産そのものを売買するのではなく、不動産を保有する会社の「株式」を譲渡する取引のことで、間接的に不動産の所有権を移転させる手法を指します。通常の不動産売買で発生する、登録免許税や不動産取得税といった諸費用を抑えられるため、取引コストを大幅に削減できる可能性があります。

代表的なスキームとして挙げられるのが「新設分割+株式譲渡」の組み合わせです。具体的には、売却対象となる不動産を新設会社に承継させる「新設分割」を行い、その後に当該会社の株式を譲渡する流れです。このスキームにより、不動産取得税や登録免許税の負担を抑えつつ、売主・買主双方にとって税務上のメリットが生じる場合があります。

一方、株式を取得するということは、その会社に付随する負債や簿外債務も引き継ぐ可能性があるため、一定のリスクが存在します。そのため、買収前のデューデリジェンス(買収前の資産・契約・財務・法務の調査)を十分に行うことが前提であり、専門家との連携が欠かせません。

ノンコア不動産の切り離しや大規模な資産の組み替えを検討する場面では、通常の不動産売却との比較も含めて、不動産M&Aを比較検討することが推奨されます。税務効率や事業承継の観点を含め、自社の経営課題に最適な出口戦略を選択することの価値は極めて高いといえるでしょう。

CREにおける不動産M&Aの基本や事例は、以下の記事を併せてご覧ください。

関連記事:不動産M&Aとは?スキームやメリット・デメリットを解説

関連記事:不動産のプロだから提案できる「M&A」を活用した賢い不動産売却

PBR改善のためにCRE戦略で資産をコントロールするステップ

持続的なPBR改善を実現するには、単発的な物件入替だけでは不十分です。保有資産全体をひとつの「重要な経営資源」として捉え、戦略的に運用し続けながら見直しのサイクルを回すことが、資産最適化に向けた有効なアプローチです。以下の4ステップを継続的に実行することで、不動産を単に「所有」するだけのフェーズから自社の経営戦略に基づいて「コントロール」する段階への転換を図ります。

Research(現状把握):保有不動産の棚卸しと価値評価の仕組みの整備

物件ごとの稼働状況・収益性・修繕状況・契約条件などの実態を数字で把握します。帳簿価額だけでなく、現在の時価や含み益の規模を把握できる仕組みを社内で整備することが出発点です。

Planning(計画):資本コストを意識した保有判断基準の設定

棚卸し結果をもとに保有判断の基準を定め、「売却」「有効活用」「建て替え」といった複数のシナリオを立案します。「明確な根拠のない保有」を排し、各資産に対して戦略的な保有理由を定義することが重要です。

Practice(実行):売却・賃貸活用・建て替え・コンバージョンの戦略的な使い分け

立案したシナリオに従って、具体的な施策を実行します。単純な売却のみならず、賃貸活用やコンバージョン(用途変更)など、最新の市況・金利・事業フェーズに合わせて最適な手法を選択します。

Review & Action(検証・改善):定期的なポートフォリオレビューと外部専門家との連携

実行結果を検証し、その内容を次の現状把握にフィードバックします。外部専門家と連携することで、自社では把握しにくい市場動向や税制の変化も迅速に経営判断に反映することが可能になります。このサイクルを継続的に回すことが、不動産管理のあり方を単なる「所有」から能動的な「コントロール」への転換につながります。

このマネジメントサイクルに終着点はありません。マクロ経済環境や金利動向、あるいは事業フェーズの変遷に伴い、最適解は常に流動的であるからです。「一過性の整理」に留めることなく、見直しのサイクルを継続することが、PBR改善を持続させる鍵となるでしょう。

また、このサイクルを機能させるうえで、もうひとつ重要なのが「出口戦略の設計」です。どれほど優れたポートフォリオを持っていても、「いつ・どのように手放すか」という明確な判断軸が欠けていると、売却機会を逃したり、予期せぬ損失を招いたりするリスクが生じてしまいます。

出口戦略は「売却か、保有か」という二択ではなく、複数のシナリオを事前に想定し、状況に応じて最適解を選択するプロセスです。以下に代表的な4つのシナリオを整理します。

1. 本業不振を背景とした「受動的売却」

事業環境の悪化が引き金になるケースです。CREの観点から主体的に判断した結果ではなく、経営上の制約により資金確保を優先せざるを得ない結果として売却に至る形です。このシナリオを想定しておくことで、有事の際も売却益の使途を最適化し、結果的に資本効率の悪化を最小限に抑えることが可能になります。

2. 市況の急変や個別要因による「機動的売却」

都市再開発計画の公表や金利の変動など、外部環境の急変によって想定外のタイミングで売却判断を迫られるケースです。チャンスを確実に捉え、損切りのタイミングを誤らないためにも、物件ごとの時価を日頃から把握できる体制を整えておくことが前提となります。「高くなってから気づいた」というように市場の変化を後追いで認識するのではなく、モニタリングの仕組みを確立しているかどうかが判断の成否を左右します。

3. 保有コストの増大による「適期売却」

建物の老朽化に伴う修繕費の増大や稼働率の低下など、保有コストが収益性を侵食し始めたタイミングで売却判断に至るケースです。このシナリオは徐々に進行するため、意思決定の遅延を招きやすい点に注意が必要です。LCC(ライフサイクルコスト)の視点で保有・売却の損益分岐点を定期的に試算しておくことが、適切なタイミングでの判断につながります。

4. 売却益の再投資を狙った「戦略的売却」

売却の適期を能動的に捉え、得られた売却益を成長投資や高収益物件への再配当に充て、ポートフォリオを組み替える、最も戦略的なシナリオです。1〜3がいずれも外部要因への「対応型」であるのに対し、4は自ら売却時期と使途を設計する「設計型」のシナリオです。これはCRE担当者が本来目指すべき方向性のひとつであり、このシナリオを念頭に置いてポートフォリオマネジメントを実践できているか否かは、CRE戦略の成熟度を測る指標となります。

4のような能動的なアクションとして、売却以外の選択肢も視野に入れておくと、CRE戦略の幅はさらに広がります。

例えば、土地をデベロッパーに提供し、新築建物の一部を取得して資産価値を高める「等価交換」や、定期借地権の設定による「長期安定収入の確保」などは資産を完全に手放すことなく価値や収益性を向上させる有効なアプローチです。

どのシナリオを採択すべきかは、物件の特性、市況、事業フェーズによって変わります。重要なのは、これらを場当たり的に判断するのではなく、あらかじめシナリオとして整理しておくことです。どのフェーズでどのシナリオに切り替えるかという主体的な判断こそが、単なる「所有」から経営戦略に基づいた「戦略的コントロール」への転換を具体化する重要な要素です。

また、賃貸活用しながら保有を継続するシナリオも想定しておく必要があります。その場合は、維持管理コストや修繕計画のほか、キャッシュフローにも目を向けておくことが重要です。

これらの一連のステップを継続的に実行することが、結果としてROEを向上させ、PBRの改善につながります。

関連記事:不動産のライフサイクルコスト(LCC)とは?CRE戦略に欠かせないコスト管理と最適化の手法

関連記事:キャッシュフローとは?計算方法から改善の仕方、企業不動産の経営戦略まで解説

不動産をコントロールしてPBR改善を実現しよう

PBRが1倍を下回る要因の一つとして、活用されていない不動産の存在が挙げられます。含み益の顕在化から再配分、資産の組み替え、そしてシナリオ設計型のCRE戦略という一連の流れがROEの向上導き、PBR改善につながります。

ここで重要なのは、「何を動かすか」だけでなく「いつ・どう動かすか」まで設計することです。PBR改善は、高度な財務戦略であると同時に、不動産という経営資源を最適化するCRE戦略でもあります。自社の保有資産を、企業価値向上のための戦略的な資産へと変えていくために、まずは現状のポートフォリオの棚卸しから着手してみましょう。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業後、不動産業界一筋。賃貸仲介・管理から売買仲介まで幅広い実務を経験した後、専門性を深め、プライム企業にて信託関連のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務に従事。
現在は注文住宅会社の不動産部門責任者を務めつつ、多様な経験を活かし兼業ライターとしても活動中。不動産の実務から投資・管理戦略まで、多角的な視点に立ったわかりやすい解説を得意としています。

東急リバブル ソリューション事業本部では、最新の市場データを独自の視点で分析したレポート「不動産マーケットトレンド」を公開しています。

各方面への調査に基づいた本資料を、今後の不動産取引における判断材料としてぜひご活用ください。

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