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2024年不動産動向~一棟マンションの市場動向から読み解く収益物件としての見通し~

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2024年不動産動向~一棟マンションの市場動向から読み解く収益物件としての見通し~

2022年後半から一棟マンションの取引量が増加しており、2023年には賃料の大幅な上昇が見られるなど、一棟マンションの投資需要は拡大する見通しとなっています。都心部に人口が集中する傾向が高くなっており、単身世帯の増加による賃貸ニーズの変化にも対応した投資戦略も必要になってくるでしょう。
また企業の不動産戦略としても一棟マンションは重要なカテゴリーであり、収益性を重視した投資戦略は企業評価の改善にも寄与します。
この記事では2024年の不動産動向について、「一棟マンション」を切り口として解説します。

目次

  1. 一棟マンションの市場動向
    1. 変化する一棟マンションに対する賃貸ニーズ
    2. 売買市場動向
    3. 賃貸市場動向
  2. 2024年一棟マンション市場の見通し
    1. マンション価格上昇の可能性
    2. 賃貸需要の増大
    3. 一棟マンション市場の活性化
  3. 一棟マンション投資とCRE戦略
  4. 一棟マンション市場は活発な動きとなる
一棟マンションの市場動向

一棟マンションの動向を述べる前に、現在国内に存在する一棟マンションの棟数を把握しておく必要があります。

公的データの中で一棟マンション棟数を記載したものはなく、年間の住宅着工統計から賃貸マンションと想定できる戸数を算出し、その戸数と国内の全住戸数の割合から一棟マンション棟数を類推する方法で行いました。使用した住宅着工統計は令和5年のものになります。

算出した結果、総戸数に占める賃貸マンションの割合は15.7%と推定されます。他の文献によってもおおむね2割以下とする資料が多い傾向であり、またこの推定では一般に言われる持家と賃貸比率が約6:4となることから、一棟マンション市場規模15.7%は現状の把握として正しいだろうと仮定し、この記事では論をすすめていきます。

国勢調査による2018年時点の住宅総戸数は約6,240万戸あり、上記の割合で計算すると賃貸マンション戸数は全国で約980万戸と計算できます。マンション1棟あたりの戸数を仮に20~30戸とすると、全国の賃貸マンションは40万棟前後存在すると想定されます。

なお2011年に東京都が実施した調査では、都内の賃貸マンション棟数は約8万棟、戸数は120万戸弱といったデータもあり、上記の全国の賃貸マンション推定棟数と総戸数は実態に近いのではないかと思います。

住宅の型式は時代の変化とともに変わっていくものですが、現在の「〇LDK」といった型式は1950年代に住宅公団が設立され、住宅不足を解消するための公的賃貸住宅制度がスタートした頃に定着しました。

以来70年を経て現代でも通用する型式ですが、住宅の住まい方や利用方法に変化が見られるようになりました。

たとえば、外国人の居住増加による入居管理面の変化や、シェアハウスのような利用方法と契約形態の変化、さらに多拠点居住やサブスクリプション型の賃料方式など、新しい賃貸ニーズへの対応が求められるようになっています。

上記のような住宅ユーザーの変化や利用方法、さらに契約形態もこれまでの「大家と店子」の関係から変化し、多様な賃貸住宅の形態が出現しています。最近ではテレワークが可能な空間を売りにしている賃貸マンションも登場しています。

さらに賃貸住宅はマイホームを持つまでの「仮の住まい」といった意識が変化し、生涯賃貸住宅を志向する層も増え、高い居住性や好ましい生活環境を求める声も多くなったと言えるでしょう。

大都市圏では「都心回帰」といった現象も起きており、利便性の高い都心部の賃貸需要が増加し、より質の高いマンションライフを提供できる物件が好まれる傾向も強くなると考えられます。

関連記事:都心回帰が与える影響|都心部への人口集中により不動産市場はどう変化する?

ここでは、一棟マンションの売買動向を見ていきます。

レインズにおける一棟マンションの売却物件登録は、24か月連続で前年比プラスとなり、2024年2月の発表では+5.6%となりました。しかしながら成約件数は伸び悩んでおり在庫数が増加している状況です。

一棟売り物件の動向

出典:全国宅地建物取引業協会連合会「不動産市場動向データ集 2024年2月」

また、物件価格は過去6年間の民間データで確認すると、単月では上下しているものの全体的に上昇傾向となっています。

物件価格の上昇は利回りを低下させる要因であり、最近の利回りは全国平均データで7%後半がつづいており、新型コロナ感染症が公表された2020年以降で見ると低下傾向となっています。しかしながら現時点の利回りが底で今後は反転する可能性もあり得ます。

利回りの上昇は賃料の値上げか売買物件価格の下落により起こります。1つは地価上昇・金利上昇などがトリガーとなり、賃料の上方修正を行う物件が増加する可能性です。

もう1つは、金利上昇により収益性の悪化する一棟マンションが投げ売りされ、売買物件価格が下落する可能性があることです。金利上昇は現時点で時期を見通すことはできませんが、年内に実施される可能性もあり注視する必要があるでしょう。

つづいて賃貸市場の動向を東京23区のデータを基に解説します。

マンションの賃料は2009年以降、リーマンショックの影響により低下していましたが、下図に見るように2013年を境に上昇に転じています。原因は異次元金融緩和政策などが効果を生み、わずかですが景気回復基調に変化したことが考えられます。

東京23区平均賃料単価推移

出典:全国宅地建物取引業協会連合会「不動産市場動向データ集」

都心回帰などの影響もあり都心部の賃料は上昇傾向ですが、今後は地価上昇やマンション建設コスト上昇が影響し、さらに賃料を押上げると予想されます。

賃貸市場は一戸建てや分譲マンションの新築住宅市場における変化の影響も受けます。

新築分譲マンションの価格高騰が賃貸需要を増加させており、さらに省エネ基準の義務化など住宅建設コストも上昇、加えて金利上昇が実施されるとますます持家から賃貸への転換が図られることになるでしょう。

2024年一棟マンション市場の見通し

2024年の一棟マンション市場を予測する上で次の2つのポイントが影響すると考えられます。とくに金利引き上げ時期をにらみながら、取引量が増大する活発な1年となる可能性があるでしょう。

  1. マンション価格上昇の可能性(金利・建設コスト・地価)
  2. 賃貸需要の増大

一棟マンション市場では、新築マンションと中古マンションが市場に供給されます。新築マンションはコスト面で減少傾向となる一方、中古マンションの供給は増加すると考えられます。

中古マンションの供給が増加すると、中には利回りの高い物件が相対的に増加する可能性があり、入居率が高くなる傾向のある新築マンションから中古マンションへシフトする需要も増えると予想されます。そのような影響により一棟マンション市場全体が活気を帯びると思われます。

ここからは上記2つのポイントと一棟マンション市場の見通しについて解説します。

一棟マンションの価格は、新築・中古ともに上昇する可能性が高いでしょう。価格を押し上げる要素として次の3つが挙げられます。

  • 地価の上昇
  • 建設コストの上昇
  • 賃料の上昇

令和6年の地価公示では、3年連続の地価上昇が確認され、2024年は評価替えの年のため固定資産税評価額は上がっています。新築物件・中古物件とも土地の評価額が上昇しマンション価格にはね返ってきます。

建設コストはすでに資材の高騰がすすんでおり、2024年は人件費の上昇もあり新築マンション価格は上昇が避けられません。中古マンションにおいてもリノベーションマンションのコスト上昇があり、平均価格は上昇すると予想するのが妥当でしょう。

また、日銀のマイナス金利政策が解除されましたが、政策金利の追加利上げが行われる可能性は高く、金利負担を軽減するための賃料値上げが起こる可能性があります。

賃料が上がると利回りが改善されます。そのため一棟マンションの売却にあたっては、売却価格を上げようとする動きも生まれ、結果として平均価格が上昇する可能性もあるでしょう。

マンション価格の上昇は賃貸マンションのみならず分譲マンションも同様であり、加えて金利が上昇すると購入希望者が賃貸へシフトする可能性が高くなります。

賃貸需要の増大は賃料相場を上昇させるのと同時に、需要増は空室率改善の効果も期待でき、売却価格の上昇を見込むことができます。

企業が保有する一棟マンションには投資目的の物件もあり、上記のように賃料相場の上昇や売却相場の上昇などにより、売却のタイミングを探る動きも活発になるでしょう。

またデフレ脱却の切り札ともいえる賃上げが中小企業にも浸透すると、賃貸志向の世帯ではより利便性の高い都心への移動が増加し、これも都心部での賃貸需要の増加を促進させます。

2024年は一棟マンション市場が活性化する可能性が高いと思われます。理由は次のような3つの要因により、一棟マンションへの積極的な投資が行われるだろうと考えられます。

  1. 賃料相場の上昇と収益の安定性
  2. 一棟マンション市場への積極的な投資
  3. 経営環境の変化に対応できない物件の増加

上記の3つの要因がどのように一棟マンション市場へ影響を与えるのか詳しく解説をつづけます。

2.3.1. 賃料相場の上昇と収益の安定性

賃料相場の上昇は賃貸需要の増大によるものであり、その根拠は経済活動の回復により人の動きが活発化し、住宅需要を増大させるからと言えるでしょう。

都心部への人口集中が再び始まっているのも理由のひとつです。

コロナ禍により郊外へと移動した人口が再び都心部へ移動していることも、賃貸需要の拡大につながっています。

日経平均株価が最高値を更新し、あらゆる業界における働き方改革と賃上げの普及により、長い期間つづいたデフレ脱却の可能性も感じさせるようになってきました。このことは賃料上昇が許容される環境にあるとも言えるわけです。

そして賃料の上昇は収益性を高め安定経営を確実なものにします。

2.3.2. 一棟マンション市場への積極的な投資

世界のほとんどでインフレが起こり金利高になっている現状において、近い将来金利が上昇すると見込まれる日本ですが、仮に上昇したにしてもその水準は非常に低いものと考えられます。

「金利安の日本」という不動産投資にとっての好環境はしばらく続くと予想され、投資市場には海外資本の流入は今後もつづくでしょう。

賃料の上昇は利回りを改善させますが、高い利回りは売却価格を押し上げる要因ともなり、出口戦略を前倒しして売却を図る動きも予想できます。

市場に出る物件が増大することは、投資機会をうかがっていた側にとっても好環境といえ、活発な取引が行わると期待できるでしょう。

2.3.3. 経営環境の変化に対応できない物件の増加

以上のように一棟マンション市場は活発な状況がつづくと考えられますが、一方で金利上昇の影響により収益性が悪化し、売却を余儀なくされる物件が少なからず出てくると予想されます。

借入比率が高く超低利で融資を受けている場合、金利が1%程度上がることによりキャッシュフローは数分の一まで減少します。30年もの期間「超低金利」の経営環境下にあったマンション経営は、金利上昇によりこれまでとは異なる様相を見せることになります。

賃貸マンションを運営する企業や事業者の中には、投資環境の変化に対応できる場合とできない場合があります。そのため対応できない物件は売買市場において、プレーヤー交代を図ることになるでしょう。

既述したように一棟マンションは企業の不動産戦略(CRE戦略)として重要なカテゴリーです。CRE戦略では、新規に不動産を取得し運用する方法も考えられます。

保有資金の有効活用として収益性の高い不動産に投資する場合、一棟マンションは有望な資金運用の方法です。賃貸経営はストックビジネスの代表的事業であり、立地条件によっては長期間の運用後に売却し転売益を見込めるケースもあるでしょう。

投資対象となる物件は、新築はもちろんですがリノベーションマンションも有力です。また現物投資のみでなくリートやファンド組成による物件への投資も選択肢となります。

さらに金利上昇の影響が一棟マンション売買市場にも表れ、借入比率の高いマンションはキャッシュフローが悪化し手放すケースも増え、その中には利回りの安定した好条件の物件を取得できる場合もあります。

CRE戦略は所有する不動産を対象としがちですが、内部留保されている資産運用の方法として、一棟マンションを対象とするのも有効な方法と言えるでしょう。

賃貸マンションは全住戸数の15.7%を占める有力な投資カテゴリーであり、2024年は賃貸需要も旺盛で活発な取引が期待できる環境になります。

外国人居住者の増加や利便性の高い都心部への人口移動に加え、シェアハウスや多拠点居住などニーズの変化も目立つようになりました。需要の増加や変化は質の高い賃貸住宅を求めるようになり、ニーズに対応できる物件は安定した経営が可能になるでしょう。

また需要の増加は賃料上昇の傾向を高くするため、利回りの改善や含み益の増加を期待することもできます。

一方で、売買市場では金利上昇を折り込む必要がでてきたため、売却時期を模索する物件も増えると予想されます。利回りの高い物件取得の機会が増えるため、投資戦略においてポートフォリオに組み入れることも可能です。

一棟マンションはCRE戦略として有力なカテゴリーであり、資産運用の一環として着目することをおすすめします。

関連記事:2024年の不動産市場はどうなる?現状と今後の見通しを分析

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。