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インバウンド年間4000万人の衝撃不動産価値の見極めも重要に
~2020年日本経済の行方~

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インバウンド年間4000万人の衝撃不動産価値の見極めも重要に

経済評論家
伊藤 洋一 (左)

東急リバブル
取締役専務執行役員
ソリューション事業本部長
岡部 芳典 (右)

2019.03.22
景気拡大が戦後最長を更新した。日本経済は今後、2020年に向けてどのように推移するのか、そうした経済環境下で不動産を保有する企業はどのように対応すべきか―。経済評論家の伊藤洋一氏と東急リバブルで企業不動産部門を統括する岡部芳典氏が語り合う。(文中敬称略)

岡部 景気拡大は戦後最長と言われています。日本経済はこれから2020年にかけてどのように推移していくとご覧になりますか。

伊藤 あまり実感がないですよね。それは、景気の意味合いが変わってきたからではないかと思います。好況時、かつてはインフレ気味でしたが、今はそうでもない。静かな成長です。

 産業や都市といったセクターごとに、景気拡大を実感できるところとそうでないところが鮮明に分かれてきている。昔のように誰もが景気拡大を実感できる時代ではないですよね。

 2020年に向けてもこれまでのように、経済成長率の数値自体は大きくないものの、成長の著しいセクターとそうでもないセクターが共存する、成長持続の新しい形が続くとみています。

岡部 不動産市場もそうですね。地域によっては、地価が3年前に比べ約1.5倍にも上がっています。それを押し上げているのは、海外から流入するマネーです。外資系ファンドを通じた投資や富裕層からの直接投資で、10億円から500億円までの規模の不動産が数多く取引されています。

 しかしその一方で、個人投資家に対する不正融資問題を受けてアパートローンは新規貸し出しが急速に減少しています。総額3億円以下の収益アパートでは取引が停滞し、在庫がどんどん積み上がっている状況です。

伊藤 消費増税の景気への影響が懸念されていますが、短期的なものでしょう。税率8%から10%に上がりますが、5%から8%に上がった時に比べれば、インパクトは弱い。長い目で見れば、影響は小さいでしょう。

岡部 市況が好調ということもあって、最近は保有不動産を売却する企業が増えています。単純に自社ビルを売却して賃貸ビルに移るだけでなく、自社ビルを売却後も利用し続けるセール&リースバックを採用するなど、持たざる経営への転換が依然、進行しています。

 もちろん、売却するだけではありません。立地に恵まれた不動産であれば、有効活用を図って人を呼び込み、収益を生み出す、という例も見られます。

伊藤 不動産というのは、収益を継続的に生み出せる可能性があるという点で資産性が高い。ただ日本の企業は、その流動化は上手ではない気がします。この土地は前の社長が購入したものなので売却はできません、といった具合に、企業を擬人化してしまって、不動産を手放すことに抵抗を示す企業は少なくないのではないでしょうか。

岡部 保有不動産の価値を適正に把握できていない企業は多いと思います。社会が複雑化する中、その市場価値を見極め、売却や有効活用によってどう収益に結び付けるか、税務や法務上の問題はないかなど、さまざまな課題に自社だけで応じるのは難しいのかもしれません。

 そこはやはり、「餅は餅屋」。専門家の力を借りるべきです。何より、情報量が違います。保有不動産を売却するにしても活用するにしても、企業にとって有利な相手を見つけやすい。税務や法務にも通じています。情報とそれを生かすノウハウによって不動産からの収益は大きく変わります。

18歳から東京で暮らし続ける伊藤氏が「大手町、渋谷、赤坂、虎ノ門など、東京は今最も変わりつつある」と言えば、2000年から、東京駅周辺に拠点を置くソリューション事業本部を率いる岡部氏も「当初は周囲が開けていた風景が、すっかり変わった」とうなずく

伊藤 最近、都会には24時間昼夜問わず人が歩いているけれど、田舎には日中でさえ人が歩いていない、ということに気付かされます。都会の中でもインターナショナルに多くの人を集める力を持つのは、日本ではまず東京です。

 ただ東京にしても、活気を見せている地区はそんなに多くない。住宅地で言えば、赤坂、青山、麻布の「3A地区」です。都市の多層化は顕著です。

 東京以外の都市でも、その地域の拠点になる都市に人口は集積していくと考えています。いわば「日本おまとめ論」ですよ。北海道なら札幌、東北なら仙台、日本海側では新潟。西に行けば、名古屋、京都、大阪、それに福岡ですね。

岡部 当社は47都道府県全てで取引していますが、確かに地方都市への投資は増えています。インバウンド需要も見過ごせません。当社は海外にも拠点を構え、対日不動産投資をサポートしていますが、アジアからは特に関東圏から西日本が人気です。

伊藤 講演の際に計算してみせるのですが、インバウンドの政府目標は年間4000万人。滞在期間を1週間と考えて年間週数の52で割ると、1週当たりおよそ76万9200人ですよ。これだけの数の外国人が毎週日本に滞在している。この計算結果から、日本の人口は減ってはいない、むしろ増えている、とも言えます。

 しかもこれらの外国人は、宿泊、食事、コト消費などにカネを使う。豊かな消費者が毎週70万人単位で日本に滞在しているわけですよ。日本経済にとって非常に大きなインパクトです。

岡部 インバウンド増でホテル開発が活発化していますが、最近では旅館も注目されてきているようです。インバウンドが日本経済や不動産市場に与える影響の大きさを感じています。

伊藤 観光のことを考えると、中国との関係悪化は避けたいですよね。国が訪日観光を止めると言えば完全にストップする国です。年間600万人以上の訪日外客数がゼロになったら、大変です。これが、最大のリスク要因ですね。

 ただ日本経済そのものは底堅いと考えています。

 世界中に市場経済が広まり、生活水準が上がったため、需要レベルも高まった。だから、日本経済を需要サイドから見ると、結構底堅い。仮に経済危機に陥っても生活水準を急には落とせないので、国はそれを回避しようと対応に乗り出すはずです。楽観的過ぎると言われるかもしれませんが、景気が急速に悪化するというシナリオは描きにくいですね。

岡部 金融緩和の流れが変わらない限り、不動産市場の好調さも変わらないとみています。消費増税の影響は限定的でしょうし、前回の増税時の教訓もありますから。

 そうした中で注視すべきは、やはり海外のマネーが今後も日本に流入してくるかという点ですね。伊藤さんからご指摘のあったように、とりわけ中国との関係は気になるところです。今後も国内外の動向に素早く対応し、不動産市場の活性化に貢献していきたいです。

 本日はありがとうございました。

経済評論家
伊藤 洋一 (左)

三井住友トラスト基礎研究所研究主幹。金融市場からマクロ経済、特にデジタル経済を専門とする。『ITとカースト インド・成長の秘密と苦悩』(日本経済新聞出版社)など著書多数。テレビ、ラジオでも活躍中。

東急リバブル
取締役専務執行役員
ソリューション事業本部長
岡部 芳典 (右)

1987年東急不動産地域サービス(現東急リバブル)入社。2000年に現ソリューション事業本部立ち上げを担う。2014年4月取締役常務執行役員。同年10月ソリューション事業本部長。2018年4月から現職。

※所属部署名、役職はインタビュー当時のものです。