NIKKEI BUSINESS INNOVATION FORUM

日経ビジネスイノベーションフォーラム

ESGの視点で捉える
企業不動産戦略

~不動産の利活用による企業価値向上、その新潮流とは

主催:日本経済新聞社イベント・企画ユニット
協賛:東急リバブル株式会社ソリューション事業本部

働き方改革やESG投資が経営の大きなテーマとなる中、企業不動産(CRE)戦略は新たな局面を迎えている。2月に大阪で、3月に東京で開催された日経ビジネスイノベーションフォーラムでは、ESGの視点から企業価値を高めるCRE戦略をテーマに、不動産企業からは最新のソリューション事例を、各方面の有識者からはCRE、ESG投資に関する最新動向が語られた。

講演①

ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員

百嶋 徹

 企業の存在意義は社会課題解決にこそある。CRE戦略も地域社会との共生という視点の下で、CREの利活用が自然環境や景観に及ぼす「外部不経済」の除去や、構築した拠点を起点とした事業活動による地域活性化など「外部経済効果」の創出を目的とすべきだ。外部性を持つCREは、社会的価値を追求するESG経営のプラットフォームに進化すべきだ。

 地域社会に外部経済効果を生み出すケースとして、社会課題解決に資する製品の研究開発・製造拠点の構築に加え、事業所跡地・未利用地の再生可能エネルギー事業や分野横断型スマートシティへの転用も有効だ。

 ESG経営に資するCRE戦略は、経営トップのコミットメントの下で組織的に取り組まなければならない。①専門部署の設置と不動産情報の一元管理によるCREマネジメントの一元化②外部ベンダーの効果的活用③ワークプレイス戦略の重視、から成る「三種の神器」の整備から始めることをお勧めしたい。

講演②

CSRデザイン環境投資顧問 代表取締役社長

堀江 隆一

 主流化するESG投資の最重要テーマは気候変動で、不動産でも省エネルギーなどの環境性能がテナント賃料に影響することが分かっている。さらに最近では入居者の健康・快適性が注目され、こうした性能に関する認証制度も登場している。

 新たなパラダイムとして注目を集めるのはESG投資をさらに進化させた「インパクト投資」である。環境・社会・ガバナンスを考慮して長期的な収益を狙うESG投資に対し、財務的リターンに加えて社会的インパクトを与えることを意図するのが特徴だ。国土交通省は不動産が中長期的に生み出す社会的インパクトとして、「気候変動への対応」「健康・快適性の向上」「地域社会・経済への寄与」「災害への対応」「超少子高齢化への対応」の5つの分野を示している。

 今後のビルやオフィスの競争力には「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」や再生可能エネルギー調達に対するニーズ、そして健康・快適性などへの配慮も欠かせなくなってくる。

講演③

東急リバブル 常務執行役員
ソリューション事業本部 副本部長

柿沼 徹也

 少子高齢化による生産年齢人口の減少に直面する日本は人手不足への対応が喫緊の課題である。優秀な人材の確保や生産性の向上を図るため、就労環境の改善など、働き方改革に取り組む企業が増え、オフィスのあり方も変化している。

 企業のテレワーク導入の増加に伴いシェアオフィスの供給が加速している。第二のオフィスとしてだけでなく、外出時の隙間時間の有効活用や商談の場としても利用する。さらにはリゾート地にある保養所などをサテライトオフィスとして活用するケースもある。リラックスできる環境での業務が生産性の向上につながっているようだ。

 働き方改革の流れは、オフィス以外の不動産にも変化を及ぼしている。その一つが社員寮。所有コストの削減などから企業の寮や社宅は統廃合が進んだが、社員同士のコミュニケーション促進や、就職のため地方から上京する学生の囲い込みなどの目的で、ニーズが復活している。

 企業には、不動産の利活用による地域貢献も求められる。しかし、国交省の調査によれば法人が所有する土地約43万件が低・未利用となっている。企業には不動産を経営資源として見直し、活用してほしい。

 不動産戦略を考える上で重要なことは、まず不動産の状態や価値を正確に把握すること。当社には不動産の調査や査定を専門に行う各部署があり、対象不動産が抱えるリスクの検証や収支の精査を実施し、収益や活用方法の改善などを提案している。収益や従業員満足を生まない不動産、社会貢献に寄与しない不動産は売却することに加え、売却資金と税制の優遇措置を活用した新たな収益不動産の取得も併せて提案する。

企業不動産戦略の進め方(例)

 当社はこのほかにも専門知識やノウハウを生かした企業向けサービスを充実させている。たとえば、一般企業で不動産管理業務を担う総務部門などを対象に提供する「不動産総務サポートサービス」は、物件の現地確認や書類整理をはじめ、不動産管理に伴うさまざまな業務をパッケージ化し、サポートする。企業の遊休不動産などの売却ニーズに対しては「企業不動産一括引取りサービス」を提供する。遊休不動産を所有し続けることは、場合によっては株主から批判されたり、防犯や防災、景観、衛生面などで近隣住民とトラブルになるケースも多く、企業には対応が求められる。当社がまとめて買い取ることで売れ残る心配もなく、財務改善やリスク軽減を支援する。また、会社の清算を目的に不動産の売却を行う場合には「不動産M&Aサービス」も用意している。

 不動産の有効活用は、生産性向上などの経済的リターンだけでなく、地域の活性化や地域課題の解決にもつながり、社会からの企業に対する評価も向上する。こうした観点で不動産戦略を進め、当社のサービスを役立ててほしい。

特別講演 <大阪>

大和総研 常務取締役 チーフエコノミスト

熊谷 亮丸

 私は日本の今後を「緩やかな景気拡大が続く」と予測している。その理由は、①米国と中国が景気を刺激する可能性が高い②アベノミクス以降の所得・雇用環境の改善が継続③消費増税に伴う景気対策④設備投資は概ね底堅く推移⑤グローバルなITサイクルに底入れの兆し、という日本経済を下支える5つの要因があるからだ。

 不動産を取り巻く環境も好条件が揃う。マイナス金利政策が続く中、東京では品川・渋谷・虎ノ門で大型開発が予定されており、大阪の万博、名古屋のリニアモーターカー開通、博多の天神プロジェクト、青森市から北海道の札幌市までを結ぶ北海道新幹線も計画が進んでいる。

 ただ、日本経済には山積するリスクもあることを忘れてはならない。トランプ政権の迷走や新型コロナウイルスの悪影響の長期化、英国の欧州連合(EU)からの離脱による欧州経済の悪化、ホルムズ海峡閉鎖といった中東情勢の深刻化など、すべてが悪い方向へ転がれば日本の国内総生産は大幅に下がることとなる。

 「資本主義の再定義」をテーマに掲げた今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では「ステークホルダー資本主義」がメインテーマの1つとなった。目先の利益だけを追い求めるのではなく、従業員や地域社会、世界の人々を含めた地球環境に配慮した政策や企業経営がこれからの資本主義の中心へとフェーズが変わったのだ。

 世界がサステナブルな社会を求める中、日本は新たな資本主義経済のフロントランナーに躍り出る可能性を秘めている。日本の強みは所得などの格差や健康問題が軽微な安定的な社会であるということに加え、100年以上の歴史を持つ長寿企業が2万6000社あることも大きな優位性となる。そして最も期待できるのが少子高齢化という課題を解決するビジネスモデルを創出し、これから高齢化を迎えるアジアなどの諸外国に輸出することだ。5年、10年で財政規律が戻らなければ金利が大きく上がる可能性がある。いまが大きな飛躍のチャンスである。

特別講演 <東京>

シンクタンク・ソフィアバンク 代表

藤沢 久美

 いま、企業を取り巻く変化の中で最も大きな潮流は第4次産業革命だ。デジタル化する社会の中で様々な課題が露呈する。それを解決できる企業だけがその価値を高めることができる。リーダー自らがこの「革命」の先に具体的な未来をイメージできるか、そしてそれを明確な定義で社内外に伝えることができるかどうかで、企業の未来も大きく変わる。

 革命は一夜にして起こるわけではない。自動車産業革命では、「クルマが多くなると社会が危険になるのではないか」「それでも暮らしは便利になりビジネスも広がる」といった議論をいくどとなく繰り返しながら、人々が選択した結果として革命は実現した。

 そして、私たちはいま、「クルマの自動運転」という新たな社会の扉を開こうとしている。

 遠い未来と思われた自動運転はこの数年で現実味を帯びてきた。それはモニター機能やセンサー技術、衛星情報の活用など様々な分野から、この変化をいち早くイメージした企業が自動運転につながる商品やサービスを社会の中に少しずつビルトインしているからだ。

 デジタルトランスフォーメーションは移動手段だけでなく、暮らしや働き方を大きく変えながら社会を革新していくだろう。

 既成概念を超えた新たな未来を実現するのはミレニアル世代やベンチャー企業、そして新興国だったりする。インターネットが普及した環境で育ったミレニアル世代は情報リテラシーが高く、ベンチャー企業は大企業には描けない未来の姿を提案することが使命といえる。そして新興国では一足飛びに最新のデジタル技術で社会インフラが構築される。例えば、アフリカには救急車の配車アプリサービスなどがすんなり普及している。

 革命とは主役が変わること。そして革命の先にあるのは社会課題の解決だということを忘れてはいけない。「持続可能な開発目標(SDGs)」も、その一部だけに取り組むのではなく、すべての課題が自社の事業と関わっているのだと気付ける企業だけが、主役の座に躍り出るチャンスをつかむことができる。

※本記事は2020年3月23日(月)付 日本経済新聞 朝刊掲載の全面広告を再構成したものです。

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