ネットリテーラーもリアルが不可欠
EC時代に
見極めたい
商業開発の可能性

2018.10.26

リアル店舗の小売市場が毎年2%の割合で縮小する見通しという。背景にあるのは、EC(電子商取引)市場の伸びや人口減少だ。ただ、リアル店舗の役割が見直される中で、国内外で注目される業態も出始めている。EC時代を勝ち抜く商業開発の可能性を考える。

 新宿と池袋の街が、毎年1つずつ消えていく。数字上は、そんな感覚という。EC(電子商取引)市場の伸びを背景に落ち込む国内の小売市場の見通しだ。金額で言えば、1兆円規模。年間100兆円規模(自動車やガソリン等を除く)の小売市場全体の1%に相当する。

 打撃を与えるのは、それだけではない。人口減少という時代の流れもある。それによる落ち込みもやはり、小売市場の1%に相当する1兆円規模だ。

 「この2つで市場全体の2%。過去数年はインバウンド需要に助けられた面もありますが、このインパクトはこれから本格化します」。ビーエーシー・アーバンプロジェクト代表取締役の矢木達也氏はそう見通す。同社は商業施設のマーケティング会社として50年近い歴史を持つ。

 もちろん、市場規模は右肩下がりとはいえ、時代への向き合い方さえ誤らなければ、顧客の獲得は十分見込める。

ビーエーシー・アーバンプロジェクト
代表取締役
矢木 達也

 EC市場が伸びる中、米国ではインターネット上で事業を展開してきた企業がリアル店舗の展開に参入する動きも見られる。アマゾン・4スターが話題を呼んでいるアマゾンを筆頭にメガネブランドのワービー・パーカー、パンツショップのボノボスの例などがよく知られる。

 「デモンストレーションストア」「ガイドショップ」と呼ばれる店舗では、採寸・試着・体験やコンサルティングなどリアルな店舗でしか提供できない役割を担う。ネットの参入障壁は低いため、多くのリテーラーがネットからスタートアップする。競合との差別化を図り売り上げ規模を拡大するには、リアルショップが必要となる。つまり、ネットかリアルかの「選択」ではなくネット+リアルが「戦略」となっている。

 「女性向けにパーソナルショッピングのための空間を持ち、予約客をもてなしながら、ファッションに対するコンサルティングサービスに、AI(人工知能)を活用する例もみられます。マスマーチャンダイジングからパーソナルマーチャンダイジングへのシフトも特徴です」(矢木氏)

 EC市場の伸びや大手小売り事業者がPB(プライベートブランド)化を進めているため、これまでの販路が細くなり、メーカーが直接消費者に訴求できるリアル店舗を持つ動きも見られる。食品関係のメーカーが自社製品のプロモーションに期間限定のポップアップストアを活用する例も、その一つと言える。

 このように、店舗が商品を売るだけの場所からブランディング・マーケティングの場に大きくシフトしている。出店ロケーションも集客力のあるショッピングセンターやブランディングが可能なストリートが有望となる。

 「例えばデジタルガジェットを扱う店舗はアップルストアのそばに出店したいと考えます。強い店舗の近くに出店しようとするのは、その方がターゲットに認知してもらいやすいから。ネットリテーラーであってもリアル店舗を通じてブランドを認知してもらうことが何より大事なのです」(矢木氏)

 中でも、勢いがあり、多くの人の目に触れやすい「まちなか」が、価値を持つ。矢木氏は「ブランド構築は商品そのものではなく、建物のファサードや空気感にまで及びます」と話す。

スーパーセンタートライアル アイランドシティ店

買い物をする際は、「スマートレジカート」と名付けられたタブレット付きのカートで商品をスキャンし、タブレットで決済する。店舗の競争力を向上させるための無人店舗化への取り組みは、すでに始まっている(写真:飯山 翔三)

 店舗を出す狙いが、商品の販売からブランディングやマーケティングへと移行すると、どのような人が集まり、どのような街に出店するのか、という戦略が、これまで以上に問われていく。

 米国では、その傾向が商業施設の優勝劣敗をもたらしている。EC市場の伸びという共通の背景の下、集客力を一段と強める施設がある一方で、空き店舗の目立つ施設も見られる。その分かれ目が、施設の形態にあるという。

 「勝ち組の施設は『街をつくる』という意識の下、『人を集める場(Place Making)』として開発されています。これに対して、いわゆるクッキーカッターと言われるナショナルチェーンを揃えたインドアモール型の新規の開発はここ10年ほど、途絶えたきりです。ショッピングモールの疑似街化が進行しています」。米国の最新事情を、矢木氏はそう紹介する。

 一方で、日本国内でも、生き残りを懸けた競争力向上の取り組みが出てきた。全国で小売業を展開するトライアルカンパニーは、無人店舗化に向けた各種の取り組みを進めている。このほか、フードロボット、清掃ロボットといったリアル店舗でテクノロジー、AIを活用する企業も出ている。

 ブランディングやマーケティングの場にしても商品を売る場にしても、小売りの店舗は、その役割に応じた競争力でしのぎを削る時代。その優劣を見極めることで、商業施設というアセットも可能性を見込むことはできそうだ。

東急リバブルVIEW

立地に応じたリテナント戦略で
商業施設の再生価値を創出

東急リバブル
ソリューション事業本部 投資営業第一部(B)
グループマネージャー
貝森 卓人

 EC(電子商取引)市場の伸長などにより入居テナントの売り上げが低下し、施設全体の安定収入が崩れた商業施設では、特に地方や郊外を中心に売却の動きが目立ち始めています。一方、あえてそのような施設を積極的に取得する投資家もいます。リテナントやリニューアルにより売り上げを伸ばし、施設の価値向上を図る戦略です。

 商業施設は、立地環境やサービス業態などにより施設ごとの特性が大きく異なります。施設の価値向上には、立地に応じたテナントニーズの見極めが重要です。当社は、商業施設のコンサルティング会社と共同事業を進めたり、テナントニーズを収集する人材を置くなどして、商業施設の売買仲介におけるテナントアレンジに注力してきました。

 例えば千葉県船橋市のロードサイド店舗は、全テナントの賃貸借契約の満了を数年後に控え、所有者は売却を進めたいが価格を下げても買い手が見つからない状況で、当社にご相談をいただきました。当社は、対象施設は駅から離れているものの住宅密集地にあり、車の出入りが3方向に可能な立地条件であることなどから、スーパーマーケットを中心に代替テナント候補を絞り、約30社にアプローチをしました。結果、有力なスーパーマーケットから出店申込書を受領することができ、それにより他の候補者からも連鎖的に出店意向を取り付け、代替テナントの蓋然性が確保できたことで複数の投資家から購入申し込みを受け、売買を実現しました。

 当社には豊富な物件情報力があり、売り上げや稼働率などのパフォーマンスが下がっている施設に対してリテナントによるバリューアップを提案し、幅広い顧客層への流動化を図っています。また、既存施設に限らず、都市型商業地においては当社が土地に対する建物プランニングを行い、商業施設の開発を投資家に提案することもあります。

 EC化やインバウンド増によって商業施設の価値は多様化しています。今後も変化に応じたテナントアレンジを行い、市場活性化に貢献してまいります。

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