MICE都市実現を目指す大阪IRに焦点をあてた今後のCRE戦略
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6か月間に及んだ大阪・関西万博は当初の予想を超えた盛況ぶりで終え、注目は2030年開業予定の大阪IRへと移行しつつあります。
MICE都市としての発展を目指す大阪にとって、IRは経済基盤・都市基盤を確立する上で重要な施設と位置づけられています。大阪・関西万博のコンセプトである「未来社会の共創」を継続させるため、MICE誘致を戦略的に推進する計画です。本記事では、日本初となるカジノ施設を含んだIRの推進により、不動産市場にどのような影響が生じるのかを解説します。
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目次
1. 日本初のIRに注目すべき理由
IRとは「Integrated Resort」の略で「統合型リゾート」を意味します。特定複合観光施設区域整備法(2016年制定)では、カジノを含むホテル、国際会議場、商業施設などから構成される「特定複合観光施設」が定義されており、これらの施設群や関連事業全体をIR(統合型リゾート)と呼びます。
特定複合観光施設とは、以下の目的に沿った施設です。
- MICEの拠点となる国際会議場施設
- 国際的な展示会や見本市を開催できる施設
- 日本の伝統、文化、芸術などの魅力を発信・増進させる施設
- 日本の各地に観光客を送り出す施設
- 旅行需要が高度で多様化した利用者に対応した宿泊施設
- 国内外の来訪者増大に寄与する施設
これら施設の運営を財務面で支えるのが「カジノ施設」であり、アジアの既存施設においては、IR全体の収益に占めるカジノの割合は約8割に達しています。
IRは、カジノ収益を事業基盤としながら、MICEをはじめとする非カジノ事業を複合的に展開する、先進的な都市開発モデルです。日本政府は、2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人とする目標を掲げており、大阪IRはこの目標の達成に大きく貢献すると見込まれています。
1.1. 大阪IRの中心施設MICEとは何か?
IRの整備は、MICEビジネスが日本にしっかりと根付くきっかけとなります。大阪IRは2023年4月14日に認定され、2025年4月24日着工を迎えていますが、これまでの経緯は以下のとおりです。
- 2018年 7月 特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が公布(所管 国土交通省)
- 2019年 12月 大阪府が大阪IRの設置運営事業者を公募
- 2020年 1月 内閣府にカジノ管理委員会を設置
- 2020年 12月 IR整備の基本方針が策定され公表(所管 国土交通省)
- 2021年 9月 大阪府が大阪IRの設置運営事業者を選定
- 2021年 10月 区域整備計画の認定申請開始
- 2022年 4月 大阪府と長崎県が区域整備計画の認定を国に申請し受理
- 2023年 4月 大阪IRの整備計画が認定
- 2025年 4月 着工
2023年4月14日に整備計画が認定されましたが、その直前の4月11日付の審査結果報告書によると、17項目ある審査[中項目]のうち「MICE施設」に関する配点比率は12%と高く、重要視されていることがわかります。
また、評価の結果では、25個の[評価項目]のうち「IR区域全体の施設規模」は最も高い評価を受け、次いで高評価だったのが「MICE施設の規模」でした。
MICEおよびMICE施設とはどのようなものか、日本政府観光局がわかりやすく次のように定義しています。
MICEとは
企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称です。
引用:日本政府観光局(JNTO)MICEの誘致・開催支援「MICEとは」
大阪IRは、建設段階で約1.5兆円(計画段階では約1.27兆円、建設費高騰により増額)、運営段階では年間約1.1兆円の経済効果を生み出し、GDPを0.2%押し上げる効果があると期待されています。
出典:大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」
1.2. 経済の活性化を導くMICE
大阪に大規模なMICE施設が完成すると、近畿圏の経済成長だけでなく、日本各地の観光産業にも大きな影響を与えると考えられます。
大阪府の予測によると、大阪IR開業3年目には、IR区内への訪日外国人が約629万人、国内旅行者が約1,358万人に達するとされています。近畿圏全体では、訪日外国人約2,520万人、国内旅行者約9,815万人と予測されており、いずれも2019年比でそれぞれ11%増、3%増となる見込みです。
さらに、IR区内では活発な消費行動が見込まれ、開業3年目における旅行消費額は6,637億円(外国人旅行者3,623億円、国内宿泊旅行者910億円、国内日帰り旅行者2,104億円)と予測されています。
このようなIR区内における経済効果は、大阪市内のIR周辺エリアにとどまらず、近畿圏全体にも波及すると予測され、開業3年目の近畿圏における旅行消費額は1兆368億円に及ぶ見込みです。
出典:大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(2025年5月9日更新)」
こうした経済効果を生み出す要因の一つとして、レジャー目的の一般的な観光旅行と比べ、MICE参加者の平均消費額が約1.6倍に上ることが挙げられます。
また、各種の国際会議ではビジネスに直結するテーマが多く、日本の技術力や製品に対する認知が高まることで、新たなビジネスチャンスの創出が期待されます。
2. 大阪IRが与える不動産市場への影響
大阪IRは大阪市および大阪府のみならず、近畿圏全体に経済波及効果をもたらすとされています。以下では、加えて不動産市場への影響についても考察します。
2.1. 大阪IRの全体計画
不動産市場への影響を考える前に、大阪IRの全体像を解説します。大阪IRの全体計画は3期に分かれており、概要は以下のとおりです。
| 第1期計画 | 認定を受けた「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」に基づく現在進行中の計画 |
|---|---|
| 第2期計画 | 万博跡地の利用計画であり、ホテル、商業施設、賃貸住宅、アミューズメントなど民間からの提案をすでに受けており、2025年度後半に事業者が決定される |
| 第3期計画 | 第2期計画の南側用地の計画であり「長期滞在型のまちづくり」が想定されている |
第1期計画では、国際的なMICE施設の実現が中心テーマです。大阪の伝統・文化・精神を継承し、水とみどりを感じさせるランドマークとして、先進的で非日常的な空間の提供を目指しています。
約49.2万㎡の敷地に、次の4つのゾーンが整備される予定です。
| 関西ゲートウェイゾーン | ダイナミックな空間構成により夢洲駅を起点にIRへの誘因を図るゾーン |
|---|---|
| イノベーションゾーン | テーマとなるMICE施設によりビジネスの創出と付加価値創造の拠点ゾーン |
| ウォーターフロントゾーン | フェリーターミナルや海辺の公園ができ、うるおいや安らぎを与えるゾーン |
| 結びの庭ゾーン | ゾーン相互の連携を増大させるオープンスペースや商業店舗が建つゾーン |
2.2. 大阪IRで建設される施設
続いて、第1期のIR区域に建設される施設の概要について解説します。
建設される施設は1号から6号までの施設とカジノ施設に区分され、総延床面積は約77万㎡です。各施設の概要は以下のとおりです。
- 1号施設 国際会議場施設、約3.7万㎡、最大会議は6,000人以上の収容
- 2号施設 展示等施設、約3.1万㎡、展示面積は2万㎡
- 3号施設 魅力増進施設、約1.1万㎡、ガーデンシアター、フードパビリオン、カルチャーミュージアムなど
- 4号施設 送客施設、約1.3万㎡、ツーリズムセンター、バスターミナル、フェリーターミナル
- 5号施設 宿泊施設、約28.9万㎡、客室数2,500室、レストラン、プール、フィットネス、大浴場、バンケットなど
- 6号施設 エンターテイメント施設(約1.3万㎡)と商業施設(約31.0万㎡)、シアター約3,500席、飲食、物販、駐車場、エネルギーセンターなど
- カジノ施設 約6.5万㎡、カジノ行為区画は総延床面積の3%(2.31万㎡)以内
※カジノ行為区画の面積は、特定複合観光施設の総床面積合計の3%と定められています(特定複合観光施設区域整備法施行令第6条)。
出典:「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」
IRはカジノ施設を含むため、法令による厳格な規制があります。カジノ事業者に対する免許付与に際しては、カジノ施設の土地所有者や地上権者に対する審査が行われ、一定の要件を満たさなければ、免許は交付されません。
なお、第1期計画の敷地は、IR事業者が大阪市の所有する土地を「事業用定期借地権設定契約」により35年間借地する予定であり、期間満了時には最大30年間の延長申し出が可能とされています。
2.3. 不動産市場への影響
大阪IR整備計画による不動産市場への影響は、地価の変動にも表れています。
以下の図は、2019年から2025年にかけての、大阪メトロ中央線と並行する国道172号沿いに位置する、地価公示6地点の推移です。
都心部の本町駅付近にある地点「大阪西5-3」では2019年比で地価が1.8倍に上昇しています。6地点平均では約2割の上昇にとどまり、2024年・2025年はいずれも上昇率が12%です。(グラフには平均地価のみ数値を表示しています)
出典:不動産情報ライブラリ「大阪エリア」より作成
大阪市が推進する「スーパーシティ全体計画」では、「うめきた2期」と「夢洲」は2つのグリーンフィールドと位置づけられてきました。IRの着工や万博跡地の利用計画が具体化するにつれて、大阪都心と夢洲を結ぶゾーンでは都市インフラの整備が進んでいます。
さらに、夢洲へのアクセス手段として、JR桜島線(ゆめ咲線)の延伸が事業化に向けて検討されており、その沿線周辺では再開発の活性化も見込まれています。
地価の上昇は、以上のような都市インフラ整備による期待感が、都心部まで波及していることを示唆していると言えるでしょう。
IRの開業を契機に不動産市場が活性化した事例は、すでにシンガポールやラスベガスなどのIR先進地で確認されています。
例えば、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズは2010年の開業ですが、順調に成長軌道を歩んでおり、2025年7月に4棟目のホテルタワー建設に着手しました。
ラスベガスは1980年代からテーマホテルが建つようになり、現在では世界有数の観光都市として知られています。
大阪でも、IR周辺におけるホテルや商業施設の開発が今後活発化すると予想されます。
3. IRが生み出すビジネスチャンス
大阪IRは、さまざまなビジネスチャンスを生み出すと期待されています。以下では、大阪IRによって創出されるビジネス上の効果について考察します。
3.1. IR周辺エリアで活性化するビジネス
IRが開業すると、1年目には約611万人、3年目には約1,987万人の来訪が見込まれています。旅行消費額は1年目で約1,101億円、3年目には約3,623億円に達する予想で、IR区域内にとどまらず、周辺エリアにも大きなビジネスチャンスが生まれるでしょう。
IR施設全体の収容力は約12,000人の規模であり、国際会議や見本市が数日間開催されることからIR区域外での宿泊需要も高まり、小売店や飲食店などへの来店客数の増加も見込まれます。
IRの中心は、来訪者の大きな目的である国際会議や見本市・展示会などのMICE施設です。これらの施設の整備に伴い、周辺エリアでは不動産需要の喚起が想定できます。
開業1年目には、来訪者611万人のうち海外からの来訪者が約193万人、国内の宿泊旅行者が約86万人で、合計およそ279万人が宿泊需要を伴うとされています。3年目にはこの数が約908万人に増加し、IR地区内では客室数では対応しきれず、宿泊需要が大きく高まる見込みです。
そのため、周辺エリアではホテルや民泊の整備が必要となり、さらに開催スタッフ向けの低価格な宿泊施設の需要も高まるでしょう。
来訪者向けの商業施設も、IR地区内だけでは不足すると予想されます。そのため、大阪メトロ中央線沿線や国道172号沿線、さらに延伸が検討されているJR桜島線沿線にも、多くの商業施設の整備が求められます。
また、見本市や国際会議の主催者が事前に現地入りして準備を行う際には、会議室やワーキングスペース、レンタルオフィスの需要も増加すると考えられます。
3.2. MICEにより増加するビジネスチャンス
大阪がIRの実現によってMICE都市として発展すれば、その影響はIR周辺エリアにとどまらず、広域圏にまで及ぶと考えられます。
MICEは海外から多くのビジネスマン、研究者、イノベーターが日本に集まる機会を作り出します。観光消費に加えて新しいビジネスが生まれ、経済的イノベーションを起こす契機となるでしょう。
MICEを通じては、新商品の販路開拓に役立つネットワークの形成や、研究開発・技術開発における企業間連携などが促進されます。これにより、国内外の有力企業に加えて地元企業も参加し、地域経済を活性化させる多くの機会が生まれます。
さらに、MICEの中でも、企業主催の会議(M)や報奨・研修旅行(I)は、主催者が会議費用や宿泊費用を負担するため、一人あたりの消費額が高くなる傾向があります。つまり、MICEへの参加者は付加価値の高い旅行者といえ、CRE戦略の観点からは、質の高いユーザー層に対応した会議施設・宿泊施設が重要となるでしょう。
世界経済においてアジアの存在感はますます大きくなっており、その中でも日本は中心的な役割を担っています。注目を集めるMICEの誘致が大阪で実現すれば、大阪の国際的な評価向上が予想されます。
また、MICE参加者は大阪滞在中の体験を通じて、将来的に観光目的で再訪する可能性もあり、MICEは観光振興の大きなトリガーともいえます。
観光振興のトリガー効果を生み出す試みは、すでに大阪・関西万博で始まっており、万博からIRへと続く連携で、大きなビジネスチャンスを獲得できる機会となるでしょう。
関連記事:不動産を動かす大阪万博跡地の力|夢洲が示す未来のCRE戦略
4. IR開業に焦点をあてたCRE戦略
CRE戦略において、企業が所有する不動産および新規に取得し活用する不動産の立地条件は重要なポイントです。
ここでは大阪IR周辺における不動産投資について考察します。
IR各施設を運営するスタッフは、開業3年目に約15,000人を見込んでおり、これらのスタッフを対象とした住宅、商業施設、生活インフラなどへの不動産投資が必要です。また、IR来訪者を対象とした宿泊施設・商業施設の不足も予想されるため、IR開業時期を見越した先行的な投資姿勢が重要となります。
また、IRによる影響は周辺エリアのみならず広範囲に及びます。近畿圏全体における雇用効果は建設時で約14万人、運営時点で約9万人と予想されており、投資対象エリアをより広い範囲で検討する必要があるかもしれません。
大阪IRは30年、60年と継続する事業であり、IR整備計画は第2期・第3期と続く予定です。広い視野を持ち、長期戦略に基づいた不動産投資が必要でしょう。
不動産投資戦略を立案するにあたり、重要な要素となるのが建設費の高騰です。大阪IRの初期投資額は建設費の高騰により約19%の増加となっています。
現在の状況では上昇傾向が収まる可能性は低く、綿密な戦略に基づいた事業計画が必要になるため、リスクを適切に把握し、対応策を準備しておきましょう。
4.1. 大阪IRの経済的影響を受けるエリア
大阪IRの開業による経済的な影響は近畿圏全体に及びますが、特に大きな影響を受けるのは夢洲から梅田を結ぶゾーンです。区域でいうと、此花区、福島区、港区、西区、そして都心の北区、中央区となります。
主要道路は「みなと通(国道172号)」と「北港通」があり、公共交通では「大阪メトロ中央線」と延伸予定の「JR桜島線」沿線が有力です。
特に北港通にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンがあり、付近には世界最大級といわれる「海遊館」など、賑わいのある観光スポットも多く、ポテンシャルの高いエリアです。
令和7年の地価公示に基づき大阪市が発表した地価ランキングによると、西区と福島区は都心寄りのため、24区中それぞれ第3位と第5位に位置し、高い地価水準となっています。一方、港区と此花区は24区平均地価の半分以下であり、それぞれ第13位と第17位にランク付けされています。
このエリアで不動産を新規に取得する場合、都心に比べて初期投資額を抑えやすく、高い投資効率が期待できるでしょう。
5. IRは大阪の経済基盤を強化するか?
大阪IRの構想は2009年2月に大阪市が取りまとめた「咲洲・夢洲地区のまちづくりについて(咲洲プロジェクト報告書)」に遡ります。
同報告書では、1988年に策定された「テクノポート大阪計画」の総括と見直しに言及し、夢洲地区については「ものづくりの高付加価値化を支援するアジア交易の産業・物流拠点の形成」を目的とした土地利用を行うと結論が示されました。
しかし、翌年大阪府は「大阪エンターテイメント都市構想推進検討会」を組織し、IR構想をスタートさせます。それ以来、大阪府にてIR実現に向けた検討が進められ、2011年8月には基本コンセプト素案が発表されました。
国は、2016年に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」を翌年に施行し、カジノ施設を含むIR施設の実現に法的根拠を与え、推進の方針を明確にしたのです。
2023年4月には、大阪府および大阪IR株式会社が申請した整備計画が正式に認可されました。2010年の構想開始から15年を経て、2025年4月に起工式を迎え、5年後の完成が予定されています。
なお、大阪IRは今後、第2期・第3期と段階的に拡張される計画です。大阪は「第2の首都」としてふさわしい経済基盤を備えた、アジアを代表する都市を目指します。
東急リバブル ソリューション事業本部では、不動産BPO、相互売買(アクイジション)、M&A関連の不動産戦略まで、企業不動産(CRE)に関するあらゆる課題の解決をサポートしています。
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一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka
国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。