マーケット

サービスアパートメントとは?CRE戦略の新しい選択肢

不動産投資

バリューアップ

有効活用

開発・出資

サービスアパートメントとは?CRE戦略の新しい選択肢

不動産賃貸業は多様化しており、レジデンス、オフィス、物流倉庫、データセンターなど、多岐にわたるアセットクラスが存在します。そのなかでも、レジデンスとホテルの「いいとこ取り」ができるサービスアパートメントが、時代のニーズに適した新たな選択肢として注目を集めています。
サービスアパートメントは賃貸住宅の安定性とホテルの高収益性を兼ね備えた、不動産ポートフォリオの柔軟性と収益性を高める上で極めて有効なアセットです。
この記事では、なぜ今サービスアパートメントが注目されているのか、その理由や事業のポイント、将来性までを詳しく解説します。
本記事の末尾には、【LIVABLE VIEW】寄稿コメントを掲載しています。あわせてご参照ください。
関連記事:CRE戦略とは?不動産で企業価値を高める中長期的な戦略を詳しく解説

目次

  1. 「ホテルでも、賃貸でもない」サービスアパートメントの定義と特徴
  2. なぜサービスアパートメントが注目されるのか?
  3. サービスアパートメントの事業モデルと収益構造
    1. サービスアパートメントの事業モデルと運用形態
    2. サービスアパートメントの収支構造
  4. なぜ今注目されるのか?投資アセットとしての優位性とリスク管理
  5. サービスアパートメントの市場動向と将来性
  6. サービスアパートメントという新たな可能性
  7. 【LIVABLE VIEW】アパートメントホテル投資という選択肢
「ホテルでも、賃貸でもない」サービスアパートメントの定義と特徴

サービスアパートメントとは、ホテルと賃貸住宅の「いいとこ取り」をした、中長期滞在者向けの新しい居住形態です。具体的には、家具・家電が完備された居室に、清掃サービスやフロント対応、コンシェルジュサービスなどのホテル機能が付帯した宿泊施設を指します。

従来、ホテルと賃貸住宅の中間にはウィークリーマンションやマンスリーマンションが存在していました。家具・家電が備え付けられており手軽に利用できるため、一定の需要を満たしてきたのは事実です。しかし、サービスアパートメントはさらに一歩進んで、室内清掃やフロント対応など、ホテルのような手厚いサービスを提供しています。

つまり、「自宅のような快適さ」と「ホテルのような便利さ」を同時に享受できる、新たな住まいのスタイルです。個人の働き方や旅行スタイルが多様化している現代において、非常に適したサービスといえるでしょう。

サービスアパートメントの独自性を理解するために、他の宿泊・居住形態との違いを表にまとめました。

賃貸住宅 ウィークリー・
マンスリーマンション
サービス
アパートメント
ホテル
契約期間 長期
(2年契約など)
中長期
(1週間から数ヶ月)
中長期
(数週間~数ヶ月)
短期
(1泊から数日)
設備 なし 家具家電・キッチンなど 家具家電・キッチンなど なし
サービス なし なし 清掃・フロントサービスなど 清掃・フロントサービスなど
ターゲット 居住者 中期出張者 長期出張者・訪日外国人など 短期出張者・旅行者など
初期費用 敷金・礼金・仲介手数料などが必要 敷金・礼金などは不要だが、鍵交換費用・保証料などの雑費がかかる 原則不要 不要
保証人・
保証会社
いずれかの保証機能が必要 保証会社加入が必要なことがある 原則不要 不要

このように、サービスアパートメントは賃貸住宅のような「暮らす」機能と、ホテルのような「サービス」を融合させることで、独自の価値を提供しています。

なぜサービスアパートメントが注目されるのか?

サービスアパートメントが注目される最大の理由は、利用者層やニーズが多様化したことに加え、賃貸住宅とホテルの収益モデルの「いいとこ取り」ができる点にあります。

この利用者層とニーズの多様化の理由は、主に以下の3点です。

1. 急増するインバウンドと宿泊施設の不足

訪日外国人の急増が、宿泊市場に大きな変化をもたらしています。日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2025年8月の訪日外客数は342万人を超え、8月として過去最高を記録しました。観光庁の宿泊旅行統計調査でも、都心部のビジネスホテルやシティホテルの稼働率は70%を超える高水準で推移し、客室不足が常態化しています。

このような状況で注目されているのが、サービスアパートメントという新たな選択肢です。中長期滞在するビジネス客や富裕層にとって、ホテルの利便性とプライベート空間の快適さを兼ね備えた施設は、理想的な滞在先となっています。

2. 企業のグローバル化による滞在ニーズの変化と財務メリット

企業のグローバル化も、この市場を後押ししています。海外からの長期出張者や駐在員は、ホテルの一室では得られない「暮らすような滞在」を求めています。家具・家電・キッチンが完備され、自宅のように過ごせる環境は、まさに彼らのニーズに合致しています。

企業側も、長期滞在コストの効率化という観点から、福利厚生の一環としてサービスアパートメントを積極的に活用し始めています。

加えて、サービスアパートメントは、企業の財務戦略に大きなメリットをもたらします。従来の自社社宅や寮は固定資産として、維持管理コストや需要変動への対応が課題でした。しかし、サービスアパートメントは必要な時に必要な分だけ利用できるため、固定費を変動費化できます。これにより、企業は資産効率を高め、企業価値の最大化を図る戦略的な選択が可能になります。

3. 働き方の変化が生む新たな国内需要

さらに、国内でも新しい需要が生まれています。リモートワークの普及により、ワーケーションやスロートラベルといった新しい滞在スタイルが定着しました。デジタルノマド(IT技術を活用して場所にとらわれず働く人)や長期出張者にとって、キッチンやランドリー設備を備えたサービスアパートメントは、もはや特別なものではなく、当たり前の選択肢になりつつあります。

働き方の多様化が、宿泊施設の在り方そのものを変えているのです。

利用ニーズの多様化に加え、投資商品としての特徴も押さえておきたいポイントです。

利用者が賃貸住宅とホテルの両サービスを享受できるように、投資面においても、賃貸住宅の持つ長期契約による安定した収益性と、ホテルの持つ短期利用による高単価収益の両立が可能です。

こうした高い収益性を背景に、国内では大手企業のサービスアパートメント事業への参入が相次いでいます。さらに、日本企業による海外でのサービスアパートメント運営も活発化しており、市場の拡大と成熟が進展しています。

この動きは日本国内にとどまりません。海外でも類似のサービスが高く評価されており、サービスアパートメントは世界的なトレンドとなっています。

アメリカの主要都市では、コンシェルジュやジム、サウナなどの「ウェルネス」サービスを充実させた高級サービスアパートメントが富裕層から支持を集めています。イギリスでも、機関投資家が賃貸事業を前提に建物を開発・運営する「Build to Rent(BTR)」モデルが定着しており、その仕様はサービスアパートメントとほぼ同等です。

これらの海外事例は、住宅が単なる「住む場所」から「サービス付きの商品」へと進化していることを示しています。

ジムやラウンジ、コンシェルジュなどのサービスが新たな価値として認識され、機関投資家による住宅の金融商品化も進んでいます。都市部を拠点とする中長期的な居住需要は今後も拡大が見込まれており、この世界的な流れは、企業の不動産担当者にとって見逃せない投資機会といえるでしょう。

関連記事:賃貸市場の展望~働き方の変化が賃貸需要に及ぼす影響~

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年8月推計値)」

出典:国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査報告(令和6年1~12月)」

サービスアパートメントの事業モデルと収益構造

ここからは、サービスアパートメントにおける事業モデルや運用形態、その他の収益構造について解説を進めます。

サービスアパートメントの事業モデルは、物件の保有と運営責任の範囲に応じて、主に以下の3つの形態に分類できます。

最も基本的な形は、物件を自社で保有し、運営もすべて自社で行う「自社運用型」です。この方法では、ノウハウが蓄積され品質を徹底して管理できる反面、多額の初期投資と日々の運営負担が課題となります。

一方、物件は自社で保有し、運営だけを専門会社に委託する「分離型」もあります。この場合は安定した賃料収入を確保しやすい一方で、運営のノウハウが社内に蓄積されにくい点が特徴です。

もう一つが、自社で運営しながら清掃・フロント業務・集客など一部の業務を外部に委託する「ハイブリッド型」です。最近注目されている事業モデルで、コスト効率と品質管理のバランスを取りながら、効率的な運営が実現できます。

運用形態は、法律的な枠組みや事業者の戦略によって、3つの類型に分けられます。

1. 賃貸住宅型

借地借家法に基づいて運用するこのタイプでは、入居者と定期借家契約を結ぶのが一般的です。契約期間が最初から決まっているため、事業者は計画的に運営できます。従来の賃貸住宅と比べて初期費用を抑えつつ、安定した賃料収入を得られる点が大きな魅力です。また、大規模な設備投資が不要なため、比較的低コストで事業に参入できます。

2. ホテル型

旅館業の認可を取得して施設全体をホテルとして新規に運営する運営するこのタイプは、宿泊約款に基づくホテル独自の契約を結びます。利用日数の設定や到着時の前払い、長期利用時の申込金制度など、ホテル業界特有の仕組みを導入します。また、キャンセル料や途中退去時の返金不可といった契約条件も柔軟に設定できるため、収益を最大化するための戦略的な運営が可能です。

3. 客室転用型

既存ホテルを運用しながら、その一部のフロアや特定の客室を、長期滞在向けのサービスアパートメントに転用する手法です。通常のホテル営業を継続しつつ、空室リスクの高い客室を安定収入源に変えることで、ホテル事業者にとって新たな収益源を手に入れることができます。

客室転用型では、ホテルの既存インフラ(フロント・清掃・予約システムなど)とサービス体制を最大限に活用できるため、設備投資を抑えつつ高品質なサービスと運営効率の両立が図れます。例えば、すべての客室にキッチン設備を設置する必要はありません。ホテル内のレストランやルームサービスなど既存の飲食サービスが、長期滞在者の食事ニーズを満たす代替機能となるためです。

これらの運用形態の違いは、収益性と安定性に大きな影響を及ぼします。賃貸住宅型はコストを抑えつつ安定した収入を目指すのに適しており、ホテル型は多様な収益源で高い収益性を追求できます。また、客室転用型は既存のホテル資産を活かしながら、収益の安定化と最大化を両立できるのが強みです。

サービスアパートメントを運営する上で重要なのは、賃貸住宅と宿泊業の法的な区別を正しく理解することです。この区別の判断基準は、利用者にとって「生活の本拠」があるかどうかです。短期利用を想定していても、実態が「生活の本拠」と判断されると、通常の賃貸借契約として扱われてしまいます。

これが問題となる理由は、通常の賃貸借契約には「法定更新」のリスクが潜んでいるためです。このような契約形態では、契約期間が満了しても借主が居住を継続すると「法定更新」が成立し、契約は自動的に更新されます。一度この状態になると、貸主は正当事由がなければ契約を終了できません。

こうしたリスクを防ぐ有効な手段が定期建物賃貸借契約です。この契約形態では、契約期間満了時に確実に契約が終了するため、法定更新という概念が存在しません。契約期間終了時に確実に物件が返還されるため、将来的な売却や用途変更といった出口戦略を柔軟に実行でき、トラブルを未然に防ぐことができます。

サービスアパートメントの収益の大部分は賃料収入です。その収益性とコスト構造は、運用形態によって大きく異なります。事業者が目指すべきは、売上から運営経費を差し引いた利益率である「営業総利益率(GOP)比率」の最大化です。

最初に、運用形態別の収支の特徴を確認します。

1. 賃貸住宅型の収支構造

賃貸住宅型は、コスト効率性と収益の安定性が特徴です。

収入はほぼ賃料収入のみで、水道光熱費やサービス料も賃料に含まれます。利用者が追加で支払うのは、週1〜3回の清掃費用程度です。

運営費用は、一般的なホテルと比べて大幅に抑えられます。これは、毎日の清掃やリネン交換がなく、アメニティ費用も限定され、ルームサービスなどの飲食サービスも基本的に提供されないためです。

また、定期借家契約によって入居期間が事前に確定しているため、空室の予測が立てやすく、未契約の居室を他の利用者に柔軟に提供できます。短期的な空室が発生した場合でも、ホテルとして短期利用者に貸し出すことで稼働率を維持でき、収益機会の最大化と安定的かつ柔軟な収益構造の構築につながります。

2. ホテル型・客室転用型の収支構造

ホテル型および客室転用型は、高い収益が期待できる反面、運営コストの増加が収益性を圧迫する要因となります。

一般的なホテルでは、旅館業法に基づき24時間体制のフロント運営や毎日の客室清掃、予約管理システムの維持などが求められ、これらが人件費や維持管理費を押し上げる主な要因です。1泊あたりの単価は高く設定できるものの、それに見合った運営コストも発生するのが実情です。

このように、賃貸住宅型は安定性を、ホテル型は高収益性を追求できる一方で、それぞれ異なる課題も抱えています。サービスアパートメント事業を成功させるには、こうした特性を正しく理解した上で、これらの特性を踏まえた戦略的な判断が求められます。

関連記事:ホテル経営のビジネスモデル|知っておきたいホテル投資と市場動向

なぜ今注目されるのか?投資アセットとしての優位性とリスク管理

サービスアパートメントは、従来の不動産投資にはない独自の魅力と課題を併せ持つ投資対象です。高い収益性や運営の柔軟性という大きな魅力がありますが、専門的な運営ノウハウやリスク管理能力が求められます。そのため、成功には十分な準備と適切なパートナーシップが不可欠です。

サービスアパートメント事業の最大の魅力は、従来の不動産投資を上回る収益性と資産価値を維持しやすい点です。

高い収益性を生む最大の要因は人件費の削減です。24時間体制のフロント業務や毎日の客室清掃が不要なため、運営コストを大幅に抑えられます。また、長期契約を基本とすることで、アメニティやリネン、光熱費などの変動費も効率的に管理できます。

さらに、長期滞在により賃料収入が安定し、キャンセルや空室のリスクも低減されます。加えて、清掃やランドリーなどの有料オプションを提供することで、賃料以外の収益源も確保できます。

長期滞在という需要に対して付加価値の高いサービスを提供することで高利回りが実現し、従来の不動産ポートフォリオに新たな収益の柱を加えられるでしょう。また、定期的な清掃やメンテナンスが運営システムに組み込まれているため、物件の資産価値を維持しやすいという利点もあります。

加えて、短期利用と長期利用を組み合わせることで、需要の変動に柔軟に対応できます。市場環境や観光需要の変化にも適応しやすく、リスクを分散できるでしょう。

これらの特徴により、従来の不動産投資では難しかった「安定収入と高収益の両立」が実現できます。賃貸マンションは収入が安定している一方で収益性に限界があり、ホテルは高収益が期待できるものの、稼働率に左右されやすく不安定です。サービスアパートメントは、この両方の利点を併せ持つ新しい投資手法といえるでしょう。

一方で、サービスアパートメント事業には注意すべき課題とリスクが存在します。

まず、運営には高度な専門性が求められます。不動産管理とホスピタリティサービスという、従来は別々とされてきた2つの専門領域を習得する必要があります。具体的には、予約システム運用、多言語対応、顧客サービスなど、多岐にわたる知識と経験が不可欠です。

また、初期投資の負担も大きくなります。これは、家具・家電の設置、フロント設備の整備、予約管理システムの導入など、通常の賃貸住宅では発生しないコストが必要となるためです。

収益性の観点では、ターゲット層が訪日外国人や企業出張者に限定されるため、空室発生時の収入減リスクは通常の賃貸住宅より大きくなります。

さらに、サービスアパートメントは賃貸住宅とホテル両方の特性を併せ持つため、空室、競合、法改正、カントリーリスク、自然災害などの多様なリスクを同時に管理しなければなりません。

これらのメリットを最大化し、リスクを回避するには、以下3つの要素を戦略的に組み合わせることが重要です。

1. 利用者目線に立った立地選定

立地選定は、単なる交通アクセスの良し悪しだけでなく、ターゲット層の生活様式に基づいた選定基準が必要です。ビジネス街、空港、主要駅からの距離に加えて、コンビニ、レストラン、病院、薬局など日常生活に必要な施設の充実度を十分に調査しましょう。

「仕事の利便性」と「生活の快適さ」の両方が長期滞在者の満足度に直結するため、これらの観点を踏まえた立地評価が不可欠です。

2. 明確なターゲット設定とサービス品質の維持

提供するサービス内容と価格帯を明確に設定し、ターゲット層の期待水準を正確に把握することが重要です。ターゲットが訪日外国人なのか、国内出張者なのかによって、求められるサービスレベルは大きく異なります。

サービス品質の一貫性を保つには、定期的な品質チェック体制と改善プロセスの構築が欠かせません。これが競合他社との差別化と顧客満足度の向上につながります。

3. 専門パートナーとの戦略的連携

最も重要なのは、サービスアパートメント運営の専門ノウハウを持つパートナーとの連携です。この事業は「不動産管理」と「ホテル運営」という2つの領域に加え、旅館業法や各自治体の条例への対応など、複数の専門領域にまたがる知識が必要です。そのため、単独での運営には大きなリスクが伴います。

法務・運営両面で実績のあるパートナーシップにより、運営リスクの軽減と収益の最大化を同時に実現できます。

サービスアパートメント事業への参入を検討している事業者は、これら3つの要素を統合的に管理し、信頼できる運営パートナーと連携することが成功の鍵となります。入念な準備と戦略的なパートナーシップにより、持続可能かつ高収益な事業展開が実現できるでしょう。

サービスアパートメントの市場動向と将来性

サービスアパートメント市場は、グローバル規模での急速な拡大と日本国内における需要の多様化により、これまでにない成長が予想されています。

グローバル市場では、2025年に約1,241億米ドル、2032年には約2,849億米ドルに達すると予測され、年平均成長率12%前後で推移する見通しです。

日本国内でも、サービスアパートメント市場の成長が加速しています。この成長を牽引するのは、インバウンド需要の本格回復とビジネスニーズの多様化という2つの主要因です。

インバウンド需要については、2025年の訪日外客数が4,000万人を超えると予測されており、コロナ禍前の水準を大きく上回る見通しです。訪日客の間では、短期観光から中長期滞在へとニーズシフトが進み、サービスアパートメント需要の拡大を後押ししています。

ビジネスニーズの面でも大きな変化が起きています。リモートワークの普及に伴うワーケーション需要の増加、企業の長期出張者の増加、さらには海外からの出張者の宿泊ニーズなど、従来のホテルでは対応しきれない多様な需要が生まれています。

これらのニーズの具体的な成功事例として、大阪万博による需要喚起効果が挙げられます。大阪エリアのサービスアパートメントでは、旺盛な需要を背景に利用者数が大幅に増加しており、国際的なイベントが中長期滞在需要を強力に牽引する効果が実証されています。実際に、万博開催に合わせて訪日客を中心とした月単位の滞在契約が急増し、平均滞在日数も長期化する傾向が確認されています。

この実績から、今後開催される国際イベントや都市開発プロジェクトにおいても、同様の需要拡大が期待できます。都市を拠点とした中長期的な居住ニーズは、今後さらに強まることが確実視される状況です。

ただし、市場が拡大しているからといって、安易な参入で成功できるビジネスではありません。参入にあたっては、旅館業法上の許可取得や特定行政庁ごとの条例対応といった法務面の障壁をクリアする必要があります。これらの複雑な手続きには、法務に精通した専門パートナーとの連携が不可欠です。

そして、参入後の事業成功を左右するのが、AIやDXといった先進技術の利活用能力です。これらの技術導入は単なるトレンドではなく、競争優位性を確立するための必須要件となっています。

DX導入の投資対効果(ROI)は、コスト削減と売上向上という2つの面で現れます。

まず、デジタル技術による業務効率化は、人件費や印刷コストなどの費用を削減します。例えば、電子契約や自動化ツールを使えば、手作業にかかる時間を大幅に減らし、直接的なコスト削減につながります。

次に、DXは新たな収益源を生み出し、売上を向上させます。顧客データをAIで分析したり、VR内見システムを導入したりすることで、営業効率や成約率を高められ、顧客満足度が向上することで、リピート率や紹介を増やし、長期的な収益にもつながります。

DXは単なるシステム導入ではなく、事業全体を最適化するための戦略的投資です。初期費用はかかりますが、中長期的な視点で投資対効果を考えることが重要です。

実際、AIを活用した不動産管理システムやIoT対応アメニティなど、先進のスマートテクノロジーに投資し、運営効率とゲストの快適性を高めている企業が市場をリードしています。特に、デジタルチェックイン・チェックアウトや非接触サービスの導入は、もはや必須と言えるでしょう。

日本では「2025年の崖」問題により、DX化の遅れが年間12兆円の経済損失を招くと警告されています。技術革新への対応は単に効率化の遅延や人手不足の解決策に留まらず、競争優位性を確保し、市場における生存可能性を左右する極めて重要な経営課題です。

なぜなら、技術革新への対応が遅れた事業者は、市場競争において不利な立場に置かれる可能性が高いからです。逆に先進技術に積極的に投資する企業は、データ活用や新しいサービスの創出を通じて、独自の競争優位性を築くことができます。

本事業への参入や拡大を検討する事業者は、市場成長の追い風を活用しつつ、技術革新への投資と運営ノウハウの蓄積を並行して進めることが、持続的な競争優位性を確立する必須条件となるでしょう。

関連記事:宿泊ニーズの変化と多様化するホテル|外資系ホテルはなぜ増える?

関連記事:不動産を動かす大阪万博跡地の力|夢洲が示す未来のCRE戦略

サービスアパートメントという新たな可能性

サービスアパートメントは、高級賃貸とホテルそれぞれのメリットを併せ持つ、ハイブリッドな不動産アセットです。この事業には、両方の専門性が求められますが、その分、従来の投資モデルにはない高い収益性と運営の柔軟性を備えています。

特に魅力的なのは、長期契約による安定した収益と、需要に応じた柔軟な運用が可能な「弾力性」です。これは、事業運営だけでなく、将来の出口戦略にも大きな選択肢を与えてくれます。

高額な賃料設定が可能でありながら、長期的な収益安定性も兼ね備えたサービスアパートメントは、CRE戦略において、単なる新たな収益基盤となるだけでなく、既存の賃貸住宅やホテル資産を転用し、ポートフォリオの弱点を補強する戦略的な選択肢として十分に検討する価値があると言えるでしょう。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業後、不動産業界一筋。賃貸仲介・管理から売買仲介まで幅広い実務を経験した後、専門性を深め、プライム企業にて信託関連のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務に従事。
現在は注文住宅会社の不動産部門責任者を務めつつ、多様な経験を活かし兼業ライターとしても活動中。不動産の実務から投資・管理戦略まで、多角的な視点に立ったわかりやすい解説を得意としています。

東急リバブル ソリューション事業本部では、不動産BPO、相互売買(アクイジション)、M&A関連の不動産戦略まで、企業不動産(CRE)に関するあらゆる課題の解決をサポートしています。

最新の市場動向やCRE戦略のヒントをお届けする「リバブルタイムズ メールマガジン」へのご登録もぜひご検討ください。

LIVABLE VIEW

東急リバブル株式会社 ソリューション事業本部 ホテルアセット推進PT

サービスアパートメント市場が注目される背景には、ライフスタイルの多様化があり、企業のグローバル化に伴う中長期滞在はもちろん、ワーケーションやブリージャーといった新しい働き方・滞在スタイルが定着し「暮らすような快適性」を求める需要が顕在化していると考えています。

また、この市場には「住宅型」と「ホテル型」があり、不動産賃貸の安定性とホテル水準のサービス品質を両立させるノウハウが求められるため、品質維持のオペレーション構築や、中長期滞在者特有のニーズに応えるコンシェルジュ機能が参入障壁となっている現状があります。

一方、サービスアパートメントとよく比較される業態として「アパートメントホテル」があります。サービスアパートメントと比べ客層は異なりますが、オペレーションが簡素化されており、比較的参入難易度が低いと考えられているため、デベロッパーやゼネコンの参入についての相談を受けることが増えてきております。

私たち東急リバブルホテルチームは、既存ホテルやホテル用地の売買仲介をより円滑に行うため、様々な取り組みをしております。

例えば、ホテルのADRやOCC等の運営情報の取得が困難な昨今、当社の独自データの蓄積・活用や多様化する宿泊アセットを法的観点から分析等行っております。また、2024年からはJTB総合研究所と提携し、より消費者目線に立った客観的な分析結果もご提供できるようになり、直近ではホテルマーケットレポートを発行させていただきました。

弊社のホテル売買仲介で培った知見、独自のデータ、そしてコンバージョンや出口戦略における柔軟な対応力は、サービスアパートメント事業を展開される皆様のお悩みや課題解決にお役立ていただけるのではないかと思っておりますので、宿泊アセット事業をお考えの方はぜひご相談ください。