今こそ保有不動産の棚卸しを
企業価値を高める
新たなCRE戦略とは

2019.03.25

企業をめぐる環境が激変する中、企業が保有する不動産(CRE)をどうするかが厳しく問われ始めている。売却するのか、利活用するのか、それとも新たな不動産を購入したほうがいいのか。経営戦略の一環として考える新たなCRE戦略について、エコノミストの高橋進氏と、東急リバブルの岡部芳典氏が語り合った。

活況を呈す
不動産投資市場

岡部 この2〜3年、不動産市況は大変好調です。この間に、高いところでは不動産価格が1.5~1.6倍に上がっています。東急リバブルは、2000年にソリューション事業本部を立ち上げ、業界に先駆けて法人向け不動産流通事業をスタートさせました。翌年にはJリート市場が創設され、私どもは拡大する不動産投資市場でさまざまな顧客と取引を重ね、成長してまいりました。現在、不動産価格はリーマンショック前を上回る水準にあり、不動産投資市場は活況を呈しています。経済全体も好調のように見えますがいかがでしょうか。

高橋 景気回復の長さが戦後最長といわれていますが、成長率などで見ると弱いので、あまり実感がないというのが実際のところでしょう。ただ、デフレから脱却し、経済がいい形になってきたのは確かなことです。国内は、消費税率の引き上げや2020年以降の落ち込みがリスク要因として挙げられます。しかし、消費増税については対策も用意されていますし、2020年以降の公共事業の落ち込み懸念に対しても、民間の建設需要が出てきています。景気の山谷はあるでしょうが、国内はそう心配ないと思います。むしろ心配なのは海外で、とくに米中摩擦は最悪の場合、新冷戦という段階にまで発展する可能性があります。

岡部 不動産におけるリスク要因で言えば、投資用不動産をめぐって地銀による不正融資問題が浮上しました。これによって銀行の融資がぐっと絞られましたが、不動産市場全体では停滞していません。今のように金利が低く大きなイールドギャップが見込めるうちは、収益物件を取得することで高いリターンが期待できるので、これからも不動産市場は活発に推移していくと思われます。

現在、不動産価格はリーマンショック前を上回る水準で不動産投資市場は活況を呈している

新しい設備を求めて
オフィス投資も堅調

東急リバブル
ソリューション事業本部
取締役 専務執行役員
ソリューション事業本部長
岡部 芳典

高橋 国内を見る限り不動産は実需もかなり根強いように思います。ここ数年、国内向けの設備投資が活発化しておりますし、ハイテク分野などでは生産能力増強投資も出てきています。省力化投資や研究開発投資も上向き始めています。ネット通販の拡大などで物流関連の投資も活発化し、インバウンドの増加で宿泊施設もどんどん建てられています。オフィス投資も堅調で、国内でも投資を拡大する機運がずいぶん盛り上がってきているようです。

岡部 確かに物流施設や宿泊施設への投資は活況です。オフィスビルも、働き方改革を受けた企業の労務環境見直しなどにより、新たなニーズが出てきています。テクノロジーの急速な進歩もあり、企業は今、生産性向上のため、新しい設備を備え、より便利で立地のよいオフィスを求めています。

高橋 IT、AI革命が世界的に進み、日本企業はいかにスピーディーにイノベーションを生み出すか、真剣に考えないとならない局目にあります。そういう中でオフィスに対する需要も従来と変わってきたところがあります。1つはハイテク化です。これから出てくる5Gなどにも対応できるオフィスであることが求められています。また最近増えている空間を広く取ったワンフロアのオフィスは、外部の人との交流のしやすさを考えた面があると思います。そのほかにも、ワーキングスペース以外に保育施設を設けるオフィスも出てきています。そういうオフィスは今、都心の真ん中の中央区や港区に目立ちますが、そのうち周辺部の渋谷や新宿にも広がっていくでしょう。中心部よりむしろ外縁部のほうがいいという企業もあるでしょうから、都市部のオフィス需要は、これから質的にも量的にもさらに増大していくと考えられます。

岡部 東急グループは今、渋谷の再開発をしていますが、都心部はオフィスの入居率が高く、開発は今後も続きます。それが一段落したら周辺にも需要が出てくることは大いにありえます。

いかに活用しているかが
問われる時代へ

日本総合研究所
チェアマン・エメリタス
高橋 進

高橋 一方で、遊休不動産を持っていることに対しては、投資家などの見る目が厳しくなっているのではありませんか。

岡部 おっしゃる通りで、かつては不動産を保有すること自体に価値があると考えられていましたが、今はいかに活用しているかが問われる時代です。その土地はいくらの利益を生むのかという観点で不動産の評価が見直されています。単に売却するだけでなく、リノベーションやコンバージョンにより収益向上を図ることはできます。自社で使用している不動産ならば、所有権は売却しつつ使用は継続するセールアンドリースバックという手法もあります。

高橋 投資家の目が、企業内部にまで及ぶようになっていて経営効率が問われるようになっています。不動産を持っていることが本業の足を引っ張るケースもあるでしょうし、余分な不動産を持っているがゆえにM&Aの対象になるケースもあると聞いています。ただ、企業を見ていると、本業と関係のない不動産は何でも手放すかというとそういう話でもありません。あえて社宅などを新たに建てる企業もあります。

岡部 遊休資産を処分したいというニーズがある一方で、最近では新たに不動産を購入しようという動きもあります。賃貸不動産による安定収益を狙うケースや、福利厚生目的で寮・社宅を取得するケースなどです。

高橋 実は似たようなことが行政の世界でも起きていて、財政難だから不動産はどんどん売れといわれていた頃からずいぶん変わってきています。街づくりを考えてあえて福祉関連施設を新たにつくるとか、廃校をインキュベーション施設に転用するとか、保有不動産の活用を行政も本気で考えるようになってきたのです。企業も同じような発想になってきて、場合によっては官民が連携するケースもあります。使い方を変えることで地域の活性化につながり、利益も生み出すことができるとなれば、これからそういう話はもっと出てくる可能性があります。

岡部 ある企業は、複数の企業の社員が入居するシェアハウスのような独身寮を運営しています。会社の枠を超えた交流の場を創出し、人材確保や育成を目的とした企業から多くの申し込みがあり、高稼働を維持しているようです。

高橋 生産性を上げるにはどうすればいいか、人材育成を強化するにはどういう方法があるか、そういうことを考えた結果として独身寮を改めて整備した大企業もあるようです。行政でも、若い人の流出を防ぐために公営住宅を活用しようという動きが出てきている。企業にしても行政にしても、経営戦略の中で不動産を考える、そういう時代になってきたということです。

岡部 時代が変わり、不動産に対するニーズも変わりました。企業は今、経営戦略として保有する不動産をどのように活用するべきか、ベストな方法を考える時期にきています。

経営戦略の中で
不動産戦略を考える

高橋 これまで多くの企業は不動産の管理を総務部などが担っていました。しかし経営戦略の一環として不動産を考えるとなると、どこの部門が管理するのかということから考える必要がありそうです。

岡部 不動産は重要な経営資源です。管理するだけならともかく、その資産価値を見極め、有効活用を検証し、税務や法務のことまで対応するとなると、専門の部署が必要です。しかし、社内でその人員を割くことは現実的でないかもしれません。そこはやはり当社のような専門企業を活用していただければと思います。東急リバブルのソリューション事業本部は企業の不動産に関するさまざまなニーズにお応えしています。場合によっては当社が不要不動産の買い取りも行います。何より、全国で活動し、地方の物件も扱うことができるのが最大の強みです。当社に限らず、ワンストップで対応できる専門家にアウトソースすることが効率的ではないでしょうか。

高橋 より広い視点で考えるとなると、社内だけでは制約がある。そういう意味でも社外の専門家に任せる意味は大きいといえますね。

岡部 専門家には多くの情報が集まります。その情報や知見を生かし、企業の経営戦略の中で、生産性を上げ、利益を拡大し、企業価値を高めるために不動産をどう活用すればいいかを考えるのがこれからのCREだと考えています。

高橋 投資に対するリターンだけでなくCSRのためにCREを活用するということもありうるでしょう。コンパクトシティをつくろうというとき、公的な土地や施設だけでは不足するかもしれません。それで企業が持っている不動産の活用を提案すれば、これはもう立派なCSRですよ。街全体の価値が上がれば企業の持っている不動産の価値も上がるでしょうし、企業イメージの向上にもつながる。そういうウィンウィンになるような賢いCSRをすべきです。

岡部 当社も、不動産流通事業を通じて地域の活性化に貢献していきたいと考えています。不動産価格はまだしばらく下がりそうにありませんし、海外投資家の多くは日本の不動産はまだ上昇余地があるとみています。今後の不動産市場は海外資金の動向にも注目です。

事業承継でも
的確な不動産評価を

高橋 東急リバブルでは海外事業も展開されているのですか。

岡部 香港、シンガポール、台湾、ロサンゼルス、ダラスに拠点があり、グローバル不動産投資をサポートしています。当社は、国内投資家とは異なる海外投資家のニーズも踏まえ、さまざまな不動産戦略をご提案しています。

高橋 保有不動産の再査定を実行するタイミングの1つが事業承継ではないでしょうか。不動産の棚卸しをして活用法を変えれば、事業承継やその後の投資に必要な資金が捻出できる可能性だってあります。事業承継は日本の大きな課題の1つですが、不動産という観点で見るのも大事なポイントかもしれません。

岡部 当社はM&A仲介も行っていますが、事業を第三者に承継するケースは増えています。不動産の売却を伴うM&Aでは、不動産評価が企業価値を左右することもあります。とくに地方の中堅中小企業では、取得した当時の不動産価値しか知らないとか、何年も現地を確認していないなど、不動産の現状を把握できていないケースが多く見られます。とにかくまず保有不動産の棚卸しを行うことが企業価値の向上につながると考えます。

左から日本総合研究所チェアマン・エメリタスの高橋進氏、東急リバブル・ソリューション事業本部・取締役専務執行役員の岡部芳典氏

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