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デジタル証券(ST)とは?仕組みやメリット・デメリットを解説

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デジタル証券(ST)とは?仕組みやメリット・デメリットを解説

新しい時代の鍵を握る技術として、デジタル証券が注目されています。デジタル証券とは、従来の有価証券をデジタル形式で発行および取引可能にする金融商品のことで、不動産業界においても投資のしやすさなどから活用が検討されつつあります。
本記事では、デジタル証券の仕組みから活用する際のメリットとデメリットは何かまで具体的に解説します。

目次

  1. デジタル証券(ST)とは?
    1. デジタル証券の仕組み
    2. デジタル証券と従来型有価証券の違い
  2. 不動産デジタル証券(不動産ST)
    1. リートとの違い
    2. クラウドファンディングとの違い
  3. 企業における活用のメリット
  4. 企業における活用の課題
  5. デジタル証券の将来性

デジタル証券とは、ブロックチェーン技術などを用いてデジタル形式で発行および取引可能にした有価証券のことで、ST(Security Token)とも呼ばれます。従来の証券に比べ、証券の発行や取引がより効率的になり、小口発行や即時決済を行いやすい特徴があります。

日本では、2020年5月に施行された改正金融商品取引法において「電子記録移転権利」として法制度化され、金融機関での取り扱いができるようになりました。

ブロックチェーンの役割

デジタル証券は、ネットワーク上にデータの形式で存在しますが、ブロックチェーンを用いることで、改ざんのしにくさや、透明性の確保を実現しています。

ブロックチェーンは、仮想通貨でも利用されており、そのデータは一度書き込むと、削除や上書きができないといった特徴を持ちます。

したがって、新しい情報は以前の情報の後にどんどん書き足されていきます。新しいブロックが以前の情報の後に書き足されてチェーンの様につながっていく様相がブロックチェーンという名前の由来ですが、こうした方法により、履歴がすべて確認できるだけではなく改ざんが難しくなるのです。

分散型台帳技術

ブロックチェーンのシステムは、分散型台帳という仕組みで管理されています。

従来型の証券は、中央にあるデータベースに情報が格納されており、そうしたデータベースへ情報登録などをすることにより発行がなされます。証券の名義人が変更した場合、中央のデータベースの情報を書き換える必要があります。また、このデータベースは誰でも自由にアクセスできるものではありません。

これに対し、デジタル証券で用いられる分散台帳技術には、そのような中央集権的なデータベースは存在しません。代わりに、ネットワークに参加している参加者が情報の書きこまれた「台帳」をもち、情報を常に同期しながら共有し、自由に閲覧することができるシステムで構築されています。

セキュリティ・トークン・オファリング(STO)

これらの技術をつかって発行されるデジタル証券は、セキュリティ・トークン(ST)と呼ばれます。

この「セキュリティ」というのは、証券という意味でつかわれます。発行されたデジタル証券はトークン化されることにより、投資家が所有することができるようになります。セキュリティ・トークンが売買されると、ブロックチェーン技術を用いてセキュリティ・トークンに情報が書き足され、人々に同じ情報が共有されます。

そして、セキュリティ・トークンを利用した資金調達をセキュリティ・トークン・オファリング(STO)といいます。

これまで見たように、デジタル証券はその仕組み自体が従来の証券とは大きく異なります。デジタル証券と従来型有価証券では、技術および運用上において、次のような観点から違いを指摘することができます。

技術基盤

デジタル証券はブロックチェーン技術により、証券の発行、取引、保有などの情報がブロックチェーン上に分散して格納されます。一方、従来型証券は中央集権的なシステムやデータベースを使用しており、金融機関や証券集中保管機関などが証券の管理と取引の仲介を行います。

流動性

デジタル証券は、取引履歴や証券の所有権などの情報をリアルタイムに参照することができ、365日24時間取引可能であるため流動性が向上します。

一方、従来型証券は取引や証券の情報が中央集権的なシステムで管理されているため、取引時間にも制約があります。日本では、証券保管振替機構が一元的に管理しており、証券の取引はその機構システムに制約されるのです。

効率化

デジタル証券は、スマートコントラクトというプログラムにより取引や証券の発行プロセスの自動化が可能です。例えば、株式の配当金の支払いなどの際に第三者の金融機関などを介在させる必要がないため、費用的にも時間的にも効率的です。

一方、従来型証券は多くの手続きや中間業者が介在するため、複雑なプロセスが必要となり、効率性には劣ります。

デジタル証券(ST)とは?

ここでは、小口化商品であるリートやクラウドファンディングと比較して不動産デジタル証券について見ていきましょう。

デジタル証券とリートでは、投資対象が異なります。

デジタル証券は1つの物件に投資しますが、リートは複数の物件を保有する法人の株式に投資します。そのため、デジタル証券は特定の物件に投資でき、投資家にとってわかりやすいというメリットがあります。

また、価格の動きも異なります。デジタル証券は、カンテイ評価額に基づいて取引されるのに対し、リートの価格は株式市場の開始に常に影響を受け、金利や大口投資家の取引によって価格が変動します。

そのほか、流動性にも違いがあります。リートは株式市場で取引されるため、流動性が高く投資家が比較的容易に売買できます。一方、デジタル証券は証券会社への売却が主流で、タイミングが重要になります。

デジタル証券は、不動産投資の安定性や有価証券としての換金性、安全性を兼ね備えており、リートとは異なるアプローチで投資家に選択肢を提供しています。

クラウドファンディングは、特定の物件に投資できるためデジタル証券に近しいですが、匿名組合制度を使用し随時売買が出来ず売却が難しいという弱点があります。

一方、デジタル証券はブロックチェーン技術により安全性が高く、価格の安定性・換金性に優れています。弱点として定期的な監査や鑑定評価の必要性があり、コストを高める原因になっています。

また、資金調達の観点でも異なります。クラウドファンディングはインターネット上で多くの人から少額ずつ資金を集める方法ですが、デジタル証券はブロックチェーン技術を活用して発行され、非上場株式の発行を通じて資金調達を行います。

不動産デジタル証券(不動産ST)

不動産STOの活用は企業にとってさまざまなメリットがあります。

  • 不動産の流動性が高まる
  • 小口化メリット
  • 取引の安全性

株式投資と比較すると不動産は流動性の低さが特徴の1つですが、デジタル証券化することで、所有権のトークン化、取引の効率化をもたらすことが可能になり、流動性を高めることができます。

さらに、小口の投資も容易になるため、大きなプロジェクトに関しても、多様な投資家の参加を見込むことができます。デジタル証券の性質上、国境を越えた投資家のアクセスも容易であることから、国際的な投資の促進にもつながると考えられます。

また、データ改ざんが困難であることより、その安全性、また取引が24時間可能であることなどがメリットとして挙げられます。

企業における活用のメリット

不動産STOは、資金調達の可能性を大きくする一方、まだまだ発展段階にあるため、現状では様々な課題が指摘されています。

  • 法的課題
  • 市場流動性の不足
  • 技術の問題

課題の一つは、国内の法令への適合や各国によって異なる法規制をどのように適合させるかということです。取引が違法とされるリスクの存在は、健全な市場の発展の妨げとなり、法令の改正や、各国での協調の取り組みを進める必要があります。

不動産投資市場では、不動産STへの需要は少なく取引も相対的に少量にとどまっています。今後発展させるためには、需要を喚起するような税制や、その優位性の認知を人々にもたらすような市場環境の構築など、人々の意識をひきつけることが必要となります。

不動産STはまだまだ始まったばかりであり、投資家からの信頼不足も課題の1つとしてあげられます。さらに透明性を高めることや、セキュリティ対策などをより堅固にするなどさらに信頼を醸成していくことが求められます。安定、安全のための技術の向上と、最新のセキュリティ対策を構築していくなど技術面の向上もつねに行っていかなければなりません。

企業における活用の課題

デジタル証券はまだ始まったばかりですが、今後の進展により、新たな金融資産やビジネスモデルが生まれると予想されています。

現状では、デジタル証券市場に参入している企業や投資家は少なく、また証券会社を通じての売買が基本となるなど、一般的な流通が出来ているとはいえません。

しかし、市場規模は急拡大しており、不動産関連では不動産信託受益権やデジタル社債を裏付けとする受益証券発行信託型、匿名組合出資型のデジタル証券が発行されて販売されるなど、新たな金融商品のかたちとして注目を集めています。

今後は、幅広い分野で利用されるとみられ、不動産市場においても将来性や投資家の需要を考慮すると、大きな成長が期待される分野といえます。

株式会社週刊住宅タイムズ
代表取締役 鈴木美由紀
Miyuki Suzuki

創刊64年の歴史を誇る不動産業界紙「週刊住宅」を発行。売買・開発・住宅、DX・GXなど幅広いトピックを総合掲載。不動産関連の最新情報やSDGs、デジタル化、地方創生など多岐にわたるトピックを提供。