CRE戦略とは?
企業価値を高める不動産戦略

2019.11.29
本記事は、企業における不動産担当者向けに「CRE戦略の基礎」を解説したものです。
CRE戦略の概念や実施の必要性を説明し、CRE戦略を行うことによって自社にどういった効果が得られるのかを解説しています。さらに、戦略の進め方についての具体的な手法も記載しています。
CRE戦略を始める第一歩として本記事をご活用ください。

 企業にとって、不動産は重要なインフラです。昨今、企業不動産(CRE:Corporate Real Estate)を経営の視点から活用し、企業価値の向上を図るCRE戦略に、再び関心が集まってきています。

 しかし、CRE戦略とは一体何なのか、言葉は知っていても十分な理解をしていない方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、CRE戦略とは何か、改めて解説していきます。

目次

  1. CRE戦略とは?
  2. CRE戦略の必要性
  3. CRE戦略の効果
  4. CREマネジメントサイクルの実践
    1. リサーチ
    2. プランニング
    3. プラクティス
    4. レビュー・アクト
  5. CRE戦略と社会動向
    1. ファシリティマネジメントで展望する未来のワークプレイス
    2. 押さえておきたい「不動産テック」
    3. 5.3. 変化をとらえて企業価値を高める、これからのCRE戦略
  6. まとめ

 CRE戦略とは、不動産を最大限活用し、企業価値を向上させる経営戦略の1つです。CRE戦略というと、「企業が保有している不動産の有効活用や売却のこと」といったイメージを持つ方が多いかと思います。しかしながら、これは正確な理解ではありません。

 CRE戦略は企業が不動産に対してどのように関わっていくかを含めた経営戦略であり、現在保有している不動産についてだけ考えるものではありません。例えば、事業遂行上必要な不動産がある場合に、保有した方がよいか、あるいは賃借で対応可能なのかといった判断もCRE戦略の1つです。

 全ての企業には営業上の拠点が必ず存在します。よって、「当社はCRE戦略なんて関係がない」という企業は存在しません。つまり、CRE戦略は不動産を多く保有する限られた企業だけの話ではなく、全ての企業のさまざまな局面で必要な経営戦略であり、業種業態に関わらず取り組むべき「不動産に対する考え方」なのです。

【CRE戦略の定義】

 CRE戦略とは、企業不動産について、「企業価値向上」の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方である。

引用:CRE戦略を実践するための ガイドライン - 国土交通省

 定義の中で重要なキーワードは「企業価値向上」です。不動産の有効活用や売却は、CRE戦略の中では企業価値向上に向けた選択肢の1つに過ぎないことになります。

 企業価値向上といっても、CRE戦略は必ずしも経営層だけが取り組むものではありません。不動産に関する企業経営の課題は、身近なところに潜んでおり、CRE戦略は不動産担当者なら誰でも取り組むことができます。

 CRE戦略が実施されていない状況として、以下のようなケースが挙げられます。

【CRE戦略が実施されていない状況】

  1. 不動産の購入や売却が、財務諸表に及ぼす影響について考慮されないまま、現場の判断が優先され実施されている。
  2. 建物や設備の老朽化に対して修繕計画が立てられておらず、放置されたり、場当たり的な対応がなされている。
  3. 事業遂行上、不動産を保有することが必要な事業なのか、賃借で対応可能な事業なのか十分な検討が行われずに、購入や賃借が決まっている。
  4. 保有不動産が資産価値に見合った活用がなされているかどうか、検証が行われていない。
  5. 契約書や修繕履歴が部署ごとに管理されており、全社統一基準で確認できない。
  6. 不動産の不便・不測の解消について、現場からの要請に対し管理部門が受身で対応している。

 上記のようなケースを自社に置き換えると、思い当たる節がある方も多いのではないでしょうか。CRE戦略が実施されていないことで生まれるこのような状況は、どのような企業にも起こり得ます。

 例えば、財務諸表に及ぼす影響を考慮した上で不動産の購入や売却を判断するため、業務プロセスを見直し、社長の判断を仰ぐ前に財務部や経営戦略室等を含めた意思決定会議を行うことも立派なCRE戦略の1つです。

 また、老朽化している建物や設備に関しても、長いスパンで修繕計画を立て実行していくだけで支出は適正に抑えられます。支出が適正化されれば、その先に企業価値向上が見えてきます。老朽化している不動産を洗い出すことも、不動産担当者の仕事となります。

 CRE戦略というと、「国際会計基準やCSRへの対応に必要だから」といったことが語られることもありますが、身近な問題を解決することもCRE戦略となることを理解しておくべきでしょう。

 CRE戦略の効果としては、主に経営の安定、事業価値の向上、コスト削減、ブランディング向上といった要素が挙げられます。また、株主への利益還元や、CSRの実践、顧客サービスの向上といったものも期待されています。

 不動産担当者が実感できる具体的な効果としては、以下のようになります。

【CRE戦略によって得られる効果】

  1. 経営陣から現場担当者に至るまで、不動産の管理運用に対する方針が明確化される。
  2. 保有・管理コストがデータベース化され、資産の効率性が統一基準で判断できるようになる。
  3. 運用効率の検証が可能となり、コスト削減や収益向上を検討できる。
  4. 建物や設備の老朽化に歯止めがかかり、計画的な修繕と設備の更新が可能となる。
  5. 長期的な維持管理費用が明確となり、予算管理が行いやすくなる。
  6. 不動産の購入・売却が中長期的に財務に与える影響を即座に把握できる。

 CRE戦略によって得られる効果は、企業によっても異なります。不動産の課題はさまざまで、CRE戦略はアプローチもゴールも各社のオーダーメイドとなるからです。

 まずは自社の不動産の課題がどこにあるのかを洗い出し、その課題解決に向けた対処を行うことがCRE戦略の実践となります。

CRE戦略を成功させると経営の安定、事業価値の向上、コスト削減、ブランディング向上、株主への利益還元、顧客サービスの向上などの効果が期待でき、企業価値の向上につながる。

 ここからは、CRE戦略のベーシックな進め方について解説していきます。

 企業は常に、財務状況や社員数といった自社の内部環境の変化や、市場動向や法改正といった外部環境の変化にさらされています。仮に現時点でベストなCRE戦略が構築できたとしても、内部環境や外部環境が変われば既存の戦略は不適合を引き起こしかねません。

 そのため、CRE戦略は一度構築したら終わりというものでなく、ましてやずっと守り続けなければならないものでもありません。状況に応じて柔軟に変更し、絶えず深化・成長させていくスタンスが必要です。

 例えば、企業にとって、3ヶ年や5ヶ年といったスパンで長期経営計画を立てるのは普通のことです。そしてその長期経営計画は、絶対不変なものではなく、状況に応じて変えるのが通常です。CRE戦略もこれと同じで、最初に計画を作ったとしても、定期的に見直していくサイクルが必要です。

 国土交通省が示す「CRE戦略を実践するためのガイドライン」にておいては、「リサーチResearch」、「プランニングPlanning」、「プラクティスPractice」、「レビューReview」「アクトAct」といったCREマネジメントサイクルが提唱されています。

 これに似た手法に、PDCAサイクルがあります。PDCAサイクルとは、「Plan:計画立案」「Do:具体的な行動」「Check:測定・評価」「Action:必要に応じた修正」の頭文字をとったものです。

 CREマネジメントサイクルがPDCAサイクルと異なる点は、最初の「リサーチ」です。この「リサーチ」によって現状把握がなされ、その後の「プランニング」によって行動すべき方向性が決まります。

CREマネジメントサイクルのイメージ

引用:CRE戦略を実践するための ガイドライン - 国土交通省

4.1. リサーチ

 リサーチは、「不動産に対する基本方針」、「管理運用」、「リスク管理」の3つの視点で現状を把握することがポイントです。

(不動産に対する基本方針)

  • 不動産の購入や売却が財務諸表に及ぼす影響を考慮した上で検討されているか。
  • 保有と賃借が合理的な理由によって判断されているか。
  • 全ての不動産で資産価値に見合った利用方法がなされているか。

(管理運用)

(リスク管理)

 上記のような項目を中心に現状把握を行い、課題を抽出します。
リサーチがなされていない段階では、課題が何であるかもわからない状態といえます。まずは「不動産に対する基本方針」、「管理運用」、「リスク管理」を切り口として、気になっている部分から実態調査を始めてみるのが良いでしょう。

 リサーチによって課題が見えたら、課題解決に向けてプランニングします。
プランニングにおいて重要なことは、「あるべき姿」がどのようなものであるかを設定することです。現状の課題が見つかったとしても、「あるべき姿」のゴール設定がなければ、どのような計画を立てて良いか分かりません。

 例えば、立て続けに不動産を購入したことで借入金が急速に膨らんでしまった企業が、リサーチによって、不動産の購入や売却が財務諸表に及ぼす影響を考慮せずに行われているという現状を把握した場合、不動産売買のルール化が課題であり、財務内容の健全化が「あるべき姿」となります。

 そのプランニングにおいては、課題解決のため不動産売買の意思決定プロセスや決裁権限の見直し、購入金額の基準等を定めることと合わせて、財務内容の健全化を図るため、所有不動産の売却による資金化や、有効活用による収益化等の方針を決めることが必要となるでしょう。

 プランニングには1つしか正解がないわけでありません。自社の置かれている状況を踏まえてオーダーメイドで策定していくことが必要となります。

 プランが策定できたら、いよいよ実施段階に入ります。
プラクティスでは、プランニングで決めた方針に基づいて施策を進めていきます。例えば、不動産の継続保有や購入、売却という施策の場合、それぞれ以下のように進めます。

(1)継続保有の場合

 保有不動産の使用価値に見合った有効活用を探る。有効活用の手法は、法的な観点とマーケティング的な観点の双方を持って模索する必要がある。法的に可能な利用方法であっても、物件周辺にニーズがなければ意味がなく、逆もまた然りである。
また、収益向上だけでなく、コスト削減を図ることも重要で、外部企業に管理を委託している場合には契約内容が適正かどうか精査すべきで、限られてはいるが固定資産税や都市計画税を削減できるケースもある。不動産の資産価値はマーケットによって変動するため、定期的に手法の見直しを行い、場合によっては売却を再検討する。

(2)購入の場合

 希望エリアや規模、予算等の計画決定から購入までの一連の作業を行うプロジェクト体制を構築する。計画決定においては、購入条件に優先順位を付け、物件の選定基準を明確化する。
競合が多い物件を検討する際は早く正確に物件価値を見極めて意思決定することが必要である。そのため、早い段階から財務部などの関係部署に相談しておき、意思決定プロセスのスピードや質の向上を図る。

(3)売却の場合

 購入と同様、売却の一連の作業を行うプロジェクト体制を構築する。不動産市場の動向や自社の経営方針などに合わせ、保有不動産の中から売却対象物件を選定し、各物件の特性に合わせて売却手法や価格などを検討する。
実際に売却活動が始まると、問合せや資料請求への対応や内見への立ち会いなどが発生する。また、売却活動が思うように進まない場合の対応もあらかじめ想定しておく。

 レビューでは、実施した結果をモニタリングし、プランに基づき適切に実行されたか、予定されたパフォーマンスを達成できているかどうかなどを検証します。

 そして、レビューでのモニタリング結果をリサーチへフィードバックし、アクト(改善)を施します。環境の変化に応じて計画を見直すことも必要です。当初の計画に縛られ過ぎず、柔軟に計画を変更していくこともCREマネジメントサイクルとなります。

 このようにしてCREマネジメントサイクルを構築することで、CRE戦略の実践効果をより高めることが期待できるのです。

 昨今CRE戦略の〝常識〞が大きく変化しています。これからのCRE戦略に必要となってくる事柄について、昨今の社会情勢を踏まえて解説します。

 いま、多くの企業が働き方改革に伴って、変化する働き方に応じたワークプレイスづくりに取り組んでいます。

 しかし、快適なワークプレイスの導入は、専門的な知識が必要で、簡単ではありません。そこで、経営視点でワークプレイスを構築・運営していくための有効な手法が ‘ファシリティマネジメント(以下、FM)’ です。

 FMは1980年代に米国で生まれた、総合的なマネジメント手法です。FMは単なる施設管理ではなく、経営戦略との整合をとりながらPDCAサイクルを回して運営されます。

 昨今のFMのトレンドは、「人」と「環境」への配慮です。日本は少子高齢化が世界で最も進んでおり、人手不足への対応が求められています。人の能力を引き出し、エンゲージメントを高めるワークプレイスは、今後のトレンドとなっていくでしょう。

 建築や都市という長期スパンの戦略と、変化し続ける人々とを、企業を取り巻く環境や働き方の変化に応じて、どのように接合させていくかが、今後のFMの鍵となります。

 不動産業界ではいま、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組み、いわゆる「不動産テック」も注目を集めています。

 不動産テックの事業領域は年々変化しています。管理業務支援やマッチング、IoTやAR・VRの活用など、さまざまなサービスやツールが開発されています。

 不動産テックは、主に不動産業界企業のサービス向上や業務効率化を狙いに開発されていますが、必ずしも不動産業界固有のものではありません。不動産を利用する一般企業にとっても、専門的で煩雑な業務を改善する新たなツールになるでしょう。

 働き方改革をはじめとするさまざまな影響により、企業を取り巻く環境は大きく変化し、オフィスの空間や立地に新たなニーズが生まれています。活況な不動産市況を受け、企業が不動産投資へ乗り出すケースも増えてきました。

 これまで「遊休資産」とみなされていた不動産が「優良資産」に変わる可能性がでてきた今こそ、所有不動産を経営資源として見直し、新たな価値を見出す好機と言えるでしょう。

 不動産の活用は、生産性や経営効率の向上、本業の補完などメリットは多いものの、踏み出せていない企業は依然として多くあります。不動産活用を実行するには、所有する不動産の状態や価値を知ることが必要です。

 専門的な知識なしに不動産の価値向上を目指すことは難しく、パートナーとして共に課題を解決できる専門家を選ぶことが重要なのは、これからのCRE戦略においても変わりがないと言えます。

 不動産は、企業価値向上のための経営資源であり、企業には、適切なCRE戦略の実践が求められます。

 グローバル化や少子高齢化、ITテクノロジーの発展等を背景に、企業の経営環境は激変し、不動産の役割も多様化しています。その激しい環境変化を乗り切るため、CRE戦略の重要性はますます高まっています。

 一方、多くの企業では、不動産に関する専門部署が存在せず、CRE戦略を実践しようにも難しいということもあるでしょう。そのような場合には、専門家に相談することもまた戦略の1つです。

 CRE戦略を積極的に取り入れ、不動産のポテンシャルを最大限に生かして企業価値の向上を実現させましょう。