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PBR対策の選択肢|
不動産売却を実施する企業の戦略と動向を解説

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PBR対策の選択肢|不動産売却を実施する企業の戦略と動向を解説

2023年3月31日東京証券取引所は、「PBR1倍割れ」の企業に対し経営改善を要請しました。PBRは企業の評価指標としても注目されており、PBR1 倍割れの企業は解散価値を下回ると評価されてしまいます。
上場企業には早急な企業価値向上のための改善策が求められており、収益性の向上による株価上昇や成長分野への投資促進など、持続的な成長を可能とする経営改善が必要です。
この記事では収益性の向上と成長分野への投資促進を図るため、企業が所有する不動産の有効活用や売却などによる経営改善戦略をお伝えします。

目次

  1. PBRとは?
  2. 求められる改善策
  3. PBR1倍割れから脱出するには
    1. PBR対策としての不動産売却
    2. 企業不動産の売却動向
  4. PBR対策として有効な不動産売却

PBRとは企業価値を分析する際の評価指標の1つで、株価純資産倍率(Price Book-value Ratio)のことです。

企業価値の評価指標としては次のようなものがあります。

  • 資本コスト(WACC、株主資本コスト)
  • 資本収益性(ROIC、ROE)
  • 市場評価(株価および時価総額、PER、PBR)

PBRは市場評価の指標であり次の式により求めます。

PBR=株価/1株あたりの純資産

つまりPBRは株価を1株当たりの純資産で割ったものであり、株価が安くPBRが1倍を割り込むと、時価総額は企業の純資産よりも低くなります。

時価総額が純資産よりも低いという状態は、仮に企業が解散した場合に負債をすべて清算し、残った資産を株主に分配する金額よりも株価が安いことを意味しています。

このことからPBR1倍割れは、企業の価値が正しく評価されていない状態と言えるのです。

PBR1倍割れ企業はプライム市場で約半数、スタンダード市場で約6割が該当し、東京証券取引所は2023 年3月31日「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」と題する文書を発出し、プライム市場およびスタンダード市場の企業に対し、経営に関する改善要請を行いました。

PBR1倍割れは前述したとおり「株価の時価総額が企業の純資産より低い」状態を言い、該当する企業にとっては「PBR1倍以上」を、経営改善の目標値として掲げることもできます。

しかし、東京証券取引所の改善要請はPBRに限りません。資本コストや資本収益性について現状を分析、企業評価を高める改善策を投資家に開示・実行することを要請しました。

東京証券取引所が求めている経営改善により収益性が向上すると、市場においての株価が上昇します。それに伴いPBRは1倍を超え、持続的成長が期待できる企業として評価されるでしょう。

2022年度末に東京証券取引所が経営改善を求めたのには理由があります。
2023年に入り日本の企業経営環境が改善され、海外からの注目も集まりました。そこで、日本経済が持つ「伸びしろ」に着目し、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現したいとしています。

つまり、上場企業の経営改善で収益性が向上し株価に反映されると、日本の証券市場の国際的な信用と競争力はより高まるものと期待しているからにほかなりません。

このような期待と企業価値向上の要請をする意味は何かを考えると、日本の上場企業にはまだまだ改善できる余地があり、その改善すべきポイントを表現する方法として「PBR1倍」を取り上げたものと思われます。

2023年6月16日の記者会見において、東証の山道CEOは次のように述べています。

 PBR1倍以上であれば合格、1倍未満であれば不合格、などといった絶対的な基準として考えているわけではありません。

― 中略 -

PBR というのは非常に一般的な指標ですので、わかりやすさという意味でも株主、あるいは投資家との対話に活かしていただけるのではないかなと考えた次第です。
ただし、企業あるいは業種によって、PBR よりももっと良い指標というのはあるかもしれませんし、他の指標を使っていただくことを我々は否定するものでは全くありません。

引用:東京証券取引所「記者会見要旨」

このようにPBRは「わかりやすい指標」であって、企業価値評価の指標としてはほかにもいろいろあると指摘しており、PBRに限らず具体的な改善に取り組む必要があるでしょう。

また東京証券取引所は2022年4月に市場区分を変更しています。最上位であるプライム市場の暫定基準経過期間が2025年3月で終了するため、経営改革の必要がある企業への警鐘として「PBR1倍割れ」を指摘したとも言えます。

さらに改善要請文書では「資本コスト」を意識した経営にも言及しており、ROA(総資産利益率)が資本コストを下回ると、PBR1倍割れ同様に市場評価が低くなることを指摘しています。

しかもPBR1倍割れの代表的企業では、資本コストよりもROAが下回る「資本コスト割れ」の状態になっていると言われており、余分な資産を所有している姿が想像されるのです。

「PBR1倍割れ」および「資本コスト割れ」の企業にとっては、プライム市場維持あるいはスタンダード市場からの移行計画において、早急な改善策の立案と実行が求められると言えるでしょう。

PBR1倍割れから脱出するには株価を上げるか、または純資産を圧縮するかになります。
純資産を圧縮するには「配当を増やす」方法や「自社株買い」を行うといった、分母を減少させる方法が考えられますが、どちらも短期的な手法であり、企業価値を高め投資家からの評価を得る改善方法とは言えません。

企業価値の視点からは収益性を高め持続的成長に対する評価によって、分子である株価を上昇させるほうが望ましいと言われています。

株価を上昇させるには

  • 収益性を高める
  • 持続的成長が見込める事業への進出
  • 無駄を省き効率的な経営を行う

このように企業価値が評価される実績を上げることが重要です。そこで注目したいのが、企業が所有する「資産」の見直しです。

とくに不動産について「遊休不動産」を洗い出し、有効活用を図り収益を生み出すか、売却により利益を生み出す方法がないのかを検討する「CRE戦略」が注目されます。

CRE戦略は企業が所有する不動産の効果的な活用により、企業価値を高めようとする考え方ですが、結果として収益性が改善され株価が上昇するという期待を持つことができます。

その他、不動産活用により企業価値を向上させる「CRE戦略」についての記事も参考にしてください。

関連記事:CRE戦略とは?不動産で企業価値を高める中長期的な戦略を詳しく解説

PBRを改善させる対策として、収益性を高めることは重要です。前述したようにCRE戦略により所有不動産の有効活用を図ろうとする時点で、次のような不動産が存在する場合もあるでしょう。

  • 収益を生んでいない遊休不動産
  • 収益はあっても利益率の低い不動産

このような不動産を所有している場合、企業の評価指標の1つであるWACC(加重平均資本コスト)が低下すると言われます。
日本の上場企業の業界平均WACCは5~7%と言われており、賃貸運営している不動産で年間利回り5%未満の物件があれば、資本コスト割れの不動産と言えます。その場合、売却するかもっと利益率の高い運用方法を検討しなければなりません。

また、売却で得た収益金は成長が期待される分野へ投資する、あるいは収益性の高い事業へ設備投資するなど有効に活用することが重要であり、利益準備金として社内留保していては純資産が増加しPBRを低下させてしまいます。

不動産売却による収益を本業での設備投資などへ投下することにより、収益増や利益率の上昇が見られるようになり、市場における評価は上がりPBRの改善が期待できると言えます。

一方、不動産を売却する目的が、再投資ではなく、借入金の返済やキャッシュフローの改善を図りたいとするケースもあるでしょう。

2021年前後には大手企業の本社ビル売却が話題となりました。自社ビルを売却しリースバックするという手法により財務状況を改善した事例です。売却益により赤字が解消され利益を生み出す構造改革の実施により、持続的成長を期待できるようになった結果、株価は上がっていきます。

このように企業が所有する不動産の売却が、企業の収益体質強化や将来性を確かなものとし、株価の上昇によりPBRが改善されるといった連鎖が生まれます。企業不動産の売却はこの連鎖の起点になると言っても過言ではないでしょう。

ここでは企業における売却動向について見ていきます。

東京商工リサーチによると、2022年度に不動産を売却した上場企業は114社にのぼり、15年ぶりの100社超えとなりました。

2022年度の集計なので、東京証券取引所による要請が発出する以前から企業では所有不動産を売却する動きがあったようです。

さらに114社のうち110社が譲渡損益を公表しており、うち99社は譲渡益を計上していますが、11社は譲渡損が出ており前年度よりも損失を計上した企業は増加しています。

このような結果から不動産売却を実施した背景には、コロナ禍により悪化した財務状況を改善しようとする企業があったと想像でき、不動産を売却した企業の約3割が赤字決算だったと言います。

しかし今後は東証の改善要請によりPBR改善を目的とした不動産売却が増加すると予想され、そのような動きが報道でも確認できます。

2023年4~9月の期間において、某信託銀行への企業不動産売却相談が昨年より件数にして8倍に増加しており、PBR対策としての不動産売却が認識されていると言えるでしょう。

また企業不動産には、自社ビル、社宅、工場、倉庫、活用されていない土地など、多くの種類があり有効活用や売却の検討が急がれます。

東京証券取引所は上場企業に対し、資本コストと株価を意識した経営改善を求めています。経営改善は「PBR1倍割れ」企業にとくに強く求めており、企業評価の指標としてPBRが注目されるようになりました。

PBRを改善する方法として、企業が所有する不動産の有効活用が考えられます。不動産が生み出す収益が資本コストを下回る場合は収益性の改善が必要であり、効率のよい活用が図れない場合は売却も検討する必要もあるでしょう。

2022年は企業が所有する不動産が多く売却された年でしたが、主に財務状況の改善を目的としたものでした。

2023年はPBR上昇を図るために不動産の有効活用を検討し、その結果、不動産売却が活発になる可能性が考えられます。そして企業不動産の売却によりPBRの改善を果たす企業が続出することを期待したいものです。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。