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老朽化とバリューアップ|
企業に求められる不動産戦略のポイント

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老朽化とバリューアップ|企業に求められる不動産戦略のポイント

建物の資産価値は、築年数の経過とともに下落していきます。価値が下落しているにもかかわらず、何もせずにそのまま放置していると、収益性が下がったり、売却を検討している場合は売却価格が下がったりします。
収益性を上げる、少しでも高く売却するには、不動産戦略を考えることが欠かせません。バリューアップに取り組めば資産価値や収益性の向上が期待できますが、取り組み方は多種多様なので、自社に合ったバリューアップを見つけることが重要です。
この記事では、企業が保有する不動産(企業不動産)の老朽化が抱える問題点、バリューアップで重要なポイント、事例などを解説します。

目次

  1. 企業不動産の老朽化が抱える問題点
    1. 資産価値が下落する
    2. 収益性が低下する
    3. 所有者責任を問われる
    4. 法的な問題が発生する
  2. バリューアップで重要なポイント
  3. 老朽化とバリューアップの事例
  4. 自社に合ったバリューアップを取り入れることが重要

老朽化によって企業不動産の資産価値や収益性が低下した場合は、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に1987~1992年のバブル期には13,310棟の中小規模ビルが大量に供給されており、それらの物件の老朽化が問題視されています。これらの老朽化に対して外壁、屋上防水、エレベーター、空調、鉄さびといったハード面の修繕が必要です。特に築30年を迎える物件では、以下のようにエレベーター更新、給排水管更新といった周期の長い工事に加えて鉄部塗装や屋上防水といった周期の短い工事が重なります。費用負担が大きく、採算がとれないという理由で「やりたくてもできない」と悩んでいるオーナーも少なくないでしょう。

項目 周期
鉄部塗装 6年ごと
屋上防水 12年ごと
シーリング打ち替え 12年ごと
外壁塗装 12年ごと
タイル補修 12年ごと
エレベーター更新 36年ごと
給排水管更新 36年ごと

老朽化は採算がとれないという理由で放置して良いものではありません。放置した場合は以下のような問題点が生じるので注意が必要です。

  • 資産価値が下落する
  • 収益性が低下する
  • 所有者責任を問われる
  • 法的な問題が発生する

それぞれの問題点について詳しく見ていきましょう。

なお、現在は使用していない事務所や倉庫などの遊休不動産を所有している企業では、状況に応じた対策が求められます。遊休不動産の対策について詳しく知りたいという方は以下の記事を参考にしてください。

関連記事:遊休不動産は積極活用すべし!具体的な事例と併せて解説

収益物件や社宅などの建物は築年数の経過とともに経年劣化が生じるため、老朽化の影響を受けて不動産の資産価値が低下します。一方、土地の場合は経年劣化が生じないため、影響を受けません。

建物の価値が低下した場合、築年数によっては売却価格が土地の価値程度にしかならないこともあります。老朽化が原因で売却時に安く手放すことになるということを理解しておきましょう。

収益物件の場合、老朽化によって収益性が低下する点にも注意が必要です。新築時は設備が新しく、キレイといった理由から需要があるため賃料が高めに設定されており、収益性が高くなります。

しかし、老朽化が進行した物件では、設備の古さやよごれなどが原因で空室が目立つようになります。空室による収益性の低下、新築もしくは築年数の浅い物件との差別化のために家賃を下げて入居者を募集することで収益性が低下します。

収益性が下がっても維持コストは大きく変化せず、新築との性能差は年々拡大するため、老朽化を改善しないと運用継続が厳しくなるでしょう。

老朽化が進行した物件では、外壁タイルが落下して通行人がケガをする可能性や、漏水が発生して下階の居住者が被害を受ける可能性があります。そのようなトラブルが発生した場合は、所有者である企業が補償しなくてはなりません。これが所有者責任です。

老朽化に対して適切な修繕が実施されていない場合には、所有者責任を問われるリスクが高くなります。

また、所有者責任を問われるようなトラブルが企業不動産で発生すると、損害賠償請求や企業の評判が下がることによって、業績に多大な影響を及ぼす可能性があるので注意しましょう。

不動産に関する法規は時間の経過とともに変化します。そのため、当時は法規に基づいて建築された物件でも、改正で現在の法規を遵守できていない物件も多いです。このような物件を既存不適格物件と呼びます。

既存不適格物件は、建て替え時に現行の法規に合わせるために規模の縮小が求められる、耐震不足で行政指導が入る可能性があります。

法的な問題が原因でなかなか買い手が見つからず、行政指導を受けるリスクがある点に注意してください。

老朽化した物件の問題点を解決するためには、バリューアップが欠かせません。バリューアップとは、経年劣化した設備や収益性の低い物件を魅力ある物件にすることで不動産の価値を上昇させることです。バリューアップに取り掛かる際は、事前に以下のポイントを押さえておくことが重要です。

  • ニーズを把握する
  • 費用対効果を考慮する
  • 安全性を確保する
  • コンバージョンを検討する

市場のニーズに合わないバリューアップを実施しても、コストがかかるだけで資産価値や収益性が向上しない可能性があります。バリューアップの効果を高めるには、資産価値や収益性が下がっている原因を考え、市場のニーズに合ったリフォームやリノベーションを実施することが大切です。

費用対効果とは、バリューアップの費用に対してどのくらいの効果が期待できるかです。費用対効果が低い場合、バリューアップの効果が得られず、費やしたコストが無駄になってしまう可能性があります。複数の選択肢がある場合は、費用対効果が高いものを選択すれば、バリューアップの効果を高められるでしょう。

現行法の基準を満たしていない既存不適格物件では、安全性に問題を抱えているケースが多いです。例えば、耐震性が低い場合には地震によるリスクが高くなります。耐震性の問題は基礎や接合部、壁の補強などで解決できます。壁の補強は入居者への影響が少ないため、入居したままでも取り組みやすい対処法です。また、外壁タイルの落下によるトラブルは定期的な外壁タイルの浮きを確認して対処すれば解消できます。事故が発生してからでは手遅れなので、定期的に建物の安全性を確認して的確に対処することが不可欠でしょう。

コンバージョンとは、用途変更や転用のことです。社宅を保有している企業の中には、社宅の利用率低下に悩んでいるという企業も多いでしょう。利用率が低下していても、社宅の維持コストは変わらないことから、社宅の継続が企業の業績を悪化させる要因になることも少なくありません。そのような場合、社宅を賃貸住宅にする、社宅を解体して駐車場に転用するなど別の用途に変更することで、資産価値・収益性の向上が期待できるでしょう。

老朽化に対する最適なバリューアップは、所有する不動産がオフィスビルなのか、居住用不動産なのかによって異なります。

バリューアップの事例として、以下のような手段が挙げられます。

  • リノベーション
  • コンバージョン

リノベーションとは、建物に改修を加えて価値を高めることです。故障した設備を交換、劣化に対して工事を実施するだけでなく、間取りや配管の変更のような価値を向上させる大規模工事も含まれます。
オフィスビル関係のリノベーションの事例に、大手町ビルの事例が挙げられます。大手町ビルは1958年築の古いビルですが、リノベーションでスタートアップ企業を対象とした小規模賃貸オフィスとして生まれ変わりました。

社宅や賃貸物件のような居住用不動産の場合、リノベーションで間取りや設備をニーズの高いものへと変更することで収益率の上昇が期待できます。ただし、リノベーションは、基本的にターゲットが変わりません。

次に、コンバージョンについて解説します。
コンバージョンとは不動産の用途変更を伴う工事のことです。収益率低下の背景には、用途がニーズに合っていないという原因が考えられます。用途変更によってニーズに合う物件を提供できれば、収益率の向上が期待できるという流れです。

オフィスビル関係のコンバージョンの事例に、京都祇園のホテルの事例が挙げられます。祇園四条駅から徒歩5分の既存ビルをホテルにコンバージョンしました。

通常の居住用不動産のコンバージョンの事例に、保土ヶ谷の賃貸物件の事例が挙げられます。こちらは1989年築、事業法人の元社員寮でした。元社員寮をコンバージョンでサウナ付きマンスリー賃貸としてよみがえらせた事例です。また、品川のスケルトン分譲の事例も挙げられます。1991年築の邸宅を区分所有建物にコンバージョンしました。

元のコンセプトが需要に合っていないケースでは、リノベーションの効果が期待できない可能性があります。ターゲットを変更する必要がある場合には、リノベーションではなくコンバージョンのほうが向いているでしょう。

老朽化で資産価値や収益性の低下した企業不動産の扱いに悩む企業は少なくありません。改善を図る手段としてバリューアップが挙げられます。しかし、バリューアップであれば何でも取り入れれば良いというわけではありません。

ただ単に老朽化の改善だけを目的とするバリューアップもあれば、新しい価値をもたらすバリューアップもあります。

課題や費用対効果などを考えながら自社に合ったバリューアップを取り入れましょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。