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令和6年の地価はどうなる?これまでの地価推移と今後の見通し


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令和6年の地価はどうなる?これまでの地価推移と今後の見通し

令和5年地価公示において全用途で2年連続の上昇と上昇幅の拡大が確認されました。さらに2023年9月に発表された地価調査では、全国的な地価の上昇が再確認され、長くつづいた地価の低迷状態が改善に向かうとの期待が不動産市場では生じています。
この記事ではこれまでの地価推移を確認した上で、地価上昇の背景と2024年3月に発表される令和6年地価公示において注目したいポイント、そして今後の地価の見通しについて解説します。

目次

  1. 地価公示とは
  2. 地価変動率の推移とその要因
    1. 全国平均の地価推移
    2. 三大都市圏の地価推移
      1. 東京圏
      2. 大阪圏
      3. 名古屋圏
  3. 地方圏の地価推移
  4. 令和6年公示価格の見通し
  5. 令和6年地価公示で注目したいポイント
  6. 見逃せない令和6年の地価公示

地価公示とは国土交通省土地鑑定委員会が「地価公示法」に基づき、毎年1月1日時点における土地の価格を公示するもので、全国26,000地点を標準地として指定し調査しています。

調査は不動産鑑定士および鑑定士補が行い、結果の公表は毎年3月に行われるのが通例です。

地価公示は、一般に行われる土地取引の際に取引価格の指標とされ、公共事業などのために土地を取得する際の価格算定基準になります。また相続の際の土地の評価や固定資産税評価の基準ともなります。

公的な土地価格の指標を公表する制度として地価公示のほか、都道府県知事が実施する「地価調査」があります。地価調査は毎年7月1日時点の地価を公表するもので、調査対象地点を「基準地」と呼称しその地価は「基準地標準価格」と言います。

なお、地価公示により公表される地価は「公示価格」と呼称します。

令和5年地価公示から、全国、三大都市圏、地方圏について地価変動率の推移を分析しその要因について考察した結果を解説します。

全国平均の地価は1991年(平成3年)をピークに、バブル経済崩壊によって急激に下落しました。以来31年間地価は低迷する状態となっています。

出典:国土交通省「地価公示」より作成

バブル崩壊以後地価は下落しつづけ、リーマンショックの直前に上昇する局面がありましたが、その後再び地価は下落をつづけます。

国はリーマンショックによる不景気から脱するため、さまざまな経済対策を実施しますが、地価の下落幅は縮小するもののプラスには転じませんでした。

2012年(平成24年)に誕生した第二次安倍内閣にて、アベノミクスと呼ぶ経済政策が掲げられ、これに呼応するように日本銀行は翌年から「異次元の金融緩和政策」を実施しました。

この政策により地価は上昇、2015年(平成27年)に商業地の変動率がプラスマイナス0となり、翌2016年には全用途平均で変動率が0.1とプラスに転じたのです。

その後、金融緩和政策の継続により地価はわずかに上昇をつづけ、2021年(令和3年)のコロナ禍による落ち込みはありましたが、2022年、2023年と連続して全用途での地価上昇と上昇幅の拡大を見ることができました。

公示価格は1月1日時点の地価のため、2023年後半の状況も確認してみましょう。

下図は基準地標準価格のデータですが、2023年前半と後半との地価変動率は住宅地が1.1%から1.4%へと、商業地では1.4%から1.9%へと上昇しており、平均3割ほどの変動率上昇が確認できます。

出典:国土交通省「令和5年都道府県地価調査の概要」

また、令和5年第3四半期地価LOOKレポートにおいても調査地点の98%で地価の上昇が見られています。

地価上昇はコロナ禍が世界経済に影響を与えた中で、日本の不動産市場の落ち込みが少なかったことを表しており、2013年以来の金融緩和政策の効果がより鮮明になった結果と言えるでしょう。

円安効果もあり、とくに日本の大都市圏の不動産は、海外投資家からも注目された結果であるとも言えるのです。

日本の地価は三大都市圏が牽引する構図となっています。三大都市圏の商業地および工業地の地価推移を、2010年(平成22年)以降で確認してみます。

2021年はコロナ禍の影響により商業地の変動率はマイナスに転じましたが、工業地は名古屋圏のみマイナスとなり、東京・大阪圏および全国平均はプラスを維持しました。

各三大都市圏の地価推移を平成22年以降のデータに基づき、詳細を次項で確認していきます。

東京圏は2013年(平成25年)に開始された異次元の金融緩和政策により、2014年から商業地・工業地とも地価の上昇傾向となりました。コロナ禍の影響により商業地は下落する局面がありましたが工業地は順調に上昇をつづけ、2023年には商業地・工業地とも3.0~5.0%の上昇率となっています。

出典:国土交通省「地価公示」より作成

背景にはマンション需要が堅調であることに加え、都心部におけるオフィス需要の持ち直し、さらにコロナ禍からの回復により店舗需要が高まっていることもあげられるでしょう。

2023年後半の推移を地価 LOOK レポートで確認すると、公示地価の時点よりさらに上昇した地区が増加しており、上昇傾向は今後もつづくと考えられます。

東京圏の地価上昇の要因として考えられるのは、2021年コロナ禍の中で開催された東京オリンピックです。これにより海外から東京への注目が高まりました。さらに2022年からの円安やコロナの収束に伴うインバウンドの回復など、東京に投資資金が流れ込む環境が出来上がったことがあげられるのではないでしょうか。

大阪圏も東京と同様に異次元の金融緩和政策により、2014年から地価の上昇が見られましたが、工業地は2年遅れの2016年からとなっています。その後順調に地価上昇が見られ、2023年には商業地が2.3%、工業地が4.0%の上昇となりました。

出典:国土交通省「地価公示」より作成

2023年後半の地価推移では上昇の継続が確認でき、商業地の上昇率は前半より後半が倍近い上昇を見せています。

大阪圏は大阪市が中心都市であり、2024年は新規オフィスの大量供給が予定されています。そのため再開発プロジェクトが進行中であり、海外からの投資資金も集まっていると言われます。

さらに2025年の大阪万博やIR誘致と関心が高まっています。将来的なリニア中央新幹線の開業が東京・名古屋・大阪を1つの経済圏とする効果もあり、大阪圏の地価は将来の成長を見すえたように上昇する可能性があると言えるでしょう。

名古屋圏も東京、大阪と同様の地価推移となっていますが、変動率の上昇幅はやや小さいと言えます。また商業地の上昇率が2019年に最大となり、以後は上昇率が低下し2021年にはコロナ禍の影響によりマイナスとなりました。

出典:国土交通省「地価公示」より作成

しかしながら2023年には商業地が3.4%、工業地が3.3%と、2022年を上回る上昇率となっています。

2023年後半の状況も上昇傾向は継続していますが、住宅地が上昇幅を拡大させる一方、商業地は上昇率が2.1%から1.9%と前半よりも縮小しており、中部圏における産業界の景況感悪化が反映している可能性があります。

名古屋圏は名古屋市が中心都市であり、再開発プロジェクトとして注目されるのは名古屋駅西側駅前広場の整備計画です。

同整備計画はリニア中央新幹線の開業を視野に入れたもので、リニア開通が大きな前提条件になっているとも言えます。

リニア中央新幹線の品川-名古屋間完工が「2027年以降」に変更され、現在開業時期が見とおせない点が景況感に影響を与えているとも言えます。今後の地価の動きに注視する必要があるでしょう。

地方圏の地価推移について特筆したいのは、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)と他の都市とで地価推移が大きく異なることです。

出典:国土交通省「地価公示」より作成

地方4市は2014年(平成26年)以降のデータでは商業地、工業地とも上昇をつづけコロナ禍の令和3年を除き上昇幅が大きくなっています。

対してその他地方圏は地価上昇に転じるのは2019年(平成31年)であり、それ以降の上昇幅は小さくコロナ禍の影響による落ち込みはわずかでした。

また2022年のコロナ禍からの回復も地方4市は大きな上昇を見せており、とくに工業地の回復は大きなものとなっています。

2023年後半の推移では上昇傾向が継続しており、地方4市とその他の地方圏の上昇率の変動は0.2%~0.3%とほぼ同程度で推移しました。

地方4市には各市の特徴があるため、「地方4市」と一括りでの特徴を表すことはできませんが、都心部での再開発が地価上昇の要因ということは、ある程度共通して言えるでしょう。

たとえば、札幌市では新幹線延伸に伴う駅前や新札幌副都心の再開発、仙台市は仙台駅東口の再開発と、いずれも地価上昇が見られました。

広島市は広島駅ビルの建替えや、路面電車の駅前大橋ルートの2025年完成予定などによる商業地の上昇が目立ちます。

福岡市では「天神ビックバン」や「博多コネクテッド」といったプロジェクトが地価上昇に大きく影響しました。

令和6年地価公示は3月に発表されますが、令和5年と同程度の地価上昇が見られるのではないかと予想されます。

理由の1つとして、地価は日経平均株価の動きと似る傾向があると言われます。1950年からの日経平均株価(年足ベース)では、バブル景気とバブル崩壊時の株価暴落、2009年のリーマンショックによる株価下落のチャートと地価推移が非常に似た動きになっています。

日経平均は2023年末にバブル崩壊後の最高値を更新しましたが、2024年に入りさらに更新をつづけています。

コロナ禍からの完全回復が意識されるようになり、今後は景気を大きく後退させる材料はありません。日銀の金融緩和政策の見直しは懸念材料ですが、不動産市場に大きな影響を与える政策の変化はないと考えられます。

さらに海外からの日本への投資意欲も継続すると考えられるなど、地価上昇を否定する材料はないと言えるでしょう。

令和6年地価公示では次のポイントに注目しましょう。

  • 全国平均、三大都市圏、地方4市の変動率
  • 地方圏で大きく上昇する都市

変動率が令和5年と同等か、あるいは上昇幅が広がるかまたは縮小するかがポイントです。地価の上昇は景気回復の指標とも言え、企業の経営戦略に影響を及ぼすものと言えるでしょう。

また、地方圏において突出して地価上昇が見られる都市にも注目です。令和5年は半導体関連で北海道千歳市や熊本県大津町が、住宅地や商業地で変動率トップとなりました。

令和6年に大きく上昇する都市は、今後の開発投資が期待できるエリアとなるでしょう。

令和5年の地価公示は2年連続の地価上昇により、コロナ禍からの回復と長期間にわたりつづいた地価下落傾向からの転換点となりました。

令和6年はさらに上昇幅を広げ、回復基調を裏付けるものとなるでしょう。また地方圏において地価上昇する地域もあり、産業基盤が整備されて地方経済の復興を後押しする期待が集まるエリアとなります。

2024年の不動産市場の動向に影響する3月の公示価格に注目です。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。