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2026年度(令和8年度)税制改正~不動産関連のCRE戦略はこう変わる~

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2026年度(令和8年度)税制改正~不動産関連のCRE戦略はこう変わる~

不動産を所有する企業にとって、2026年度(令和8年度)の税制改正は、不動産活用の前提を見直すべき局面です。従来、不動産は「本業の拠点」であると同時に、実勢価格と税務上の評価額の乖離を利用し、税負担を抑える手段として活用されてきました。
しかし、今回の改正で賃貸不動産における「5年ルール」や不動産小口化商品の「時価評価」が導入・見直しされることで、これまでの手法によるメリットは事実上、消滅します。
「守り」に頼る運用が難しくなった今、CRE戦略に求められるのは、税制の意図を的確に捉え、自社資産を本業の成長や生産性向上に直結する形へと再編する「攻めの資産活用」への転換です。
本稿では、改正が実務に与える影響を整理し、即時償却も可能な「特定生産性向上設備等投資促進税制」などの税制優遇を最大限に活用し、事業基盤を強化するための具体的な考え方を解説します。
なお、2026年度の改正内容を把握するためには、まずベースとなる「現行の税制と特例」を正しく把握しておくことが欠かせません。ポートフォリオの売却や組み換えを検討するときの基礎知識として、以下の記事も併せてご参照ください。

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ざっくり要約!

  • 賃貸不動産「5年ルール」の導入と不動産小口化商品の評価見直しにより、これまでの評価圧縮メリットは事実上使えなくなる
  • 評価上昇は自社株評価・事業承継コストにも波及するため、保有資産の「評価区分」と「取得時期」の棚卸しが急務
  • 新設の投資促進税制やポートフォリオ再編を活用し、CRE戦略を「守りの保有」から「稼ぐ資産への組み替え」へ転換する手順を整理する

目次

  1. 2026年度税制改正の背景とポイント
  2. 2026年度税制改正の不動産評価見直しに関する実務的解説
    1. 賃貸不動産の「5年ルール」の導入
    2. 不動産小口化商品の「強制時価評価」
  3. 2026年度税制改正を機に資産を磨き直す「攻め」のCRE投資戦略
  4. CRE担当者がリードするこれからの企業不動産活用
2026年度税制改正の背景とポイント

2026年度(令和8年度)税制改正関連法が2026年4月に施行されました。今回の改正で不動産関連の目玉となるのが、賃貸不動産の「5年ルール」と不動産小口化商品の「時価評価」の見直しです。いずれも2027年(令和9年)1月から本格適用されます。

法律上の枠組みは整った一方で、新ルールの本格適用までは一定の猶予期間が設けられており、まさに「対応策を練るためのカウントダウンが始まった」局面といえます。

今回の改正は、高市首相が掲げる「強い経済」の実現に向けた税制措置が盛り込まれており、その全体像は、家計と企業の両面から整理すると狙いが把握しやすくなります。

まず家計面では、物価高への対応として、所得税の課税最低限を178万円まで特例的に引き上げるなど、生活基盤を支える施策が講じられました。

一方、企業・投資家に対しては、投資促進の姿勢が鮮明に打ち出されています。

大綱が掲げる「大胆な設備投資の促進」がアメにあたり、即時償却や税額控除といった強力な優遇措置がその具体策です。対してムチにあたるのが、これまで一部で見られた「不動産を所有しているだけで税負担が抑えられる仕組み」への厳しい見直しです。評価の歪みを利用した節税手法に対し、公平性の観点から是正のメスが入りました。

この二つの施策からは、これまでの「資産を保有して評価を抑える」という消極的な保有から、「資産を動かして本業の生産性を高める」という積極的な活用へと、企業のスタンスに変化を促すメッセージとして汲み取ることができます。

実勢価格と評価額の差を利用した手法は、これまで一定の税務上のメリットをもたらしてきました。しかし、今回の税制改正が示すメッセージは明確です。「評価の歪みを利用した資産の固定化」を是正し、不動産を本来の目的である「事業の生産性向上や経済の活性化」に向けて機能させることを、政策として後押しする方向へと舵を切ったということです。

設備投資減税などの優遇措置が拡充されている背景にも、同じ政策意図がうかがえます。企業にとっては、税制上のメリットを享受できる領域そのものが変わったと捉えるべき状況です。

使い慣れた手法が制限されることは、短期的には負担に映るかもしれません。しかし、「ムチを受け入れつつアメを最大限に活かす」という発想への転換こそが、今回の改正を乗りこなす起点となります。「強い経済」の実現という政策の方向性に沿いながら、自社資産の役割を再定義する転換期と捉えてみてください。

2026年度税制改正の不動産評価見直しに関する実務的解説

2026年度(令和8年度)税制改正により、賃貸不動産および不動産小口化商品の相続税評価が厳格化されることになりました。なお、新ルール適用は2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与からとなります。

押さえておきたいポイントは、これまで活用されてきた「時価と相続税評価額の乖離を利用した評価圧縮メリット」が得にくくなる、という点です。以下で詳しく解説します。

土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価されるため、都市部の収益不動産では相続税評価額が時価の3〜4割程度となるのが一般的でした。この評価差が、不動産を活用した資産圧縮の主要なメリットとされてきました。

しかし、2027年1月1日以後の相続・贈与から、相続開始前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した「一定の賃貸不動産」は「課税時期における通常の取引価額(時価)」を基準に評価することが原則となります。実務上は、取得価額の8割を評価額とする取り扱いが示されています。これにより、相続税評価額は概ね2〜2.5倍へ跳ね上がる見込みで、従来のメリットは事実上、失われることになります。

評価増を回避する有効な対応策の一つは、相続時点で取得・新築から5年超となるよう保有期間を確保することです。5年を超えれば、従来どおり路線価や固定資産税評価額での評価が可能になります。

ただし、5年要件の当てはめは、取得・新築の態様によって異なる点に注意が必要です。実務上は、土地の取得と建物の新築が別タイミングの場合、判定が土地・建物で分かれるケースが想定されます。

典型的な例は、長年保有している遊休地に賃貸マンションを新築するケースです。この場合、土地部分は「相続開始前5年以内の取得」という要件に該当しないため、従来どおり、路線価ベースでの評価が可能となります。しかし、ここで注意すべきは、建物の新築に起因して新たな評価ルールが適用される点です。

建物については新築時点が「取得」とみなされるため、課税上の弊害がない限り、竣工から5年間は、建物部分の相続税評価額に「取得価額の8割」という高い基準が適用されてしまいます。つまり、同一物件でも「土地は路線価評価(低評価)」「建物は取得価額を基に算定した8割相当額での評価(高評価)」となり、評価の不一致が生じ得ます。「土地は昔から持っているから安心だ」と考えていても、建物は新しく得た資産として扱われ、5年が経過するまでは建物全体の相続税評価額が跳ね上がります。

ただし、建物の評価引き上げが一律に生じるわけではありません。

新ルールの適用対象は「2027年1月1日以後に発生する相続・贈与」かつ「その時点から遡って5年以内に新築した建物」です。たとえば、2021年以前に竣工した建物であれば、2027年の相続時点ですでに5年超となり、新ルールの対象外として従来の固定資産税評価額が適用されます。今後の建築計画においても、着工・竣工時期を意識して設計することで、相続時の評価上昇を回避する余地がある点を押さえておきましょう。

「建物の5年ルール」は、単なる節税上の注意点にとどまりません。取得時期を誤れば、相続税評価の上昇が法人の純資産を押し上げ、事業承継コストの増大に直結します。承継を視野に入れている経営者ほど、保有不動産の評価影響を早期に把握し、法人ごと出口を設計する選択肢(いわゆる不動産M&A)も含めて検討する必要があるでしょう。

事業承継と不動産の関係、不動産M&A、実際の活用場面や売却手法の具体例については、以下の記事で詳しく解説しています。自社の状況に照らし合わせながら、最適な手法を検討するときの参考にしてみてください。

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任意組合型など一定の不動産小口化商品は、今回の改正で最も厳しい評価ルールが適用されることになりました。具体的には、相続税評価額の算定基準が、従来の路線価等から「課税時期における通常の取引価額(時価)」へ見直されます。

この改正により、これまで大きなメリットであった「路線価評価による大幅な評価圧縮」は、事実上消滅します。小口化商品は、取引価格が明確で金融商品に近い性質を有すると判断されました。その結果、現物不動産のような評価の圧縮を一切認めないという、極めてシビアな判定が下されることになったのです。

小口化商品は保有期間を問わず、「常に時価評価」が義務付けられます。一方で、現物不動産は「5年ルール」を適用できる余地があります。この差こそが、改正後における現物不動産の優位性です。5年超の保有という経営判断によって、従来どおりの路線価評価(時価の3〜4割)に戻る選択肢が残されている点が、小口化商品にはない、現物不動産ならではのアドバンテージといえます。

貸付用不動産と不動産小口化商品の相続税評価額比較表

つまり、「5年」をまたぐかどうかが、相続税評価額に大きく影響し得る分岐点となります。評価の圧縮が完全に塞がれた小口化商品に対し、現物不動産は「長期保有」という経営判断によって、資産価値を圧縮し、資産を守る選択肢が残されているといえるでしょう。

ここで見落とせないのは、こうした評価ルールの厳格化が「不動産そのものの税負担」にとどまらないという点です。保有不動産の評価額が上がれば、法人の純資産額も連動して膨らみます。つまり、経営の根幹に直結する「自社株評価(株価)」を押し上げる要因にもなり得るのです。

この影響は、特に事業承継や相続を数年以内に控えるオーナー企業にとって、極めて深刻です。非上場株式の評価(純資産価額方式)において、小口化商品や取得直後の現物不動産が「時価」で計上されるようになると、法人の純資産額が膨らみ、結果として次世代へ引き継ぐ際の税負担が跳ね上がります。

「節税のために組み入れた資産が、結果として事業承継コストを増大させる」という事態は、今後注意すべきリスクです。承継に向けた準備を進めている、あるいは準備を開始すべき段階にある企業ほど、早期に保有資産の「評価区分」と「取得時期」を棚卸しし、財務への影響を再試算する必要があります。

出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱 閣議決定」

2026年度税制改正を機に資産を磨き直す「攻め」のCRE投資戦略

評価ルールの変化は、保有資産によって影響の深刻度が異なります。ただし、いずれの場合も共通していえるのは、「とりあえず現状維持しておけば大丈夫」という前提が崩れたということです。そのため、今回の改正を、ポートフォリオを能動的に組み替える契機と捉え、税制の優遇が効く領域へと資本を振り向ける「攻めのCRE戦略」へと舵を切る必要があります。

資産を「評価圧縮のために保有する」という守りの姿勢から、「税制優遇を活用しながら、本業の成長に貢献する形へと再構築する」という攻めの戦略に切り替えることこそが、今後の経営における重要なポイントであり、改正後の時代を勝ち抜く経営判断の要諦となります。

評価の厳格化という厳しい側面がある一方で、企業が攻めの投資を行う強力な後押しとして創設されたのが、「特定生産性向上設備等投資促進税制」です。ただし、対象が「事業の用に直接供される資産」に限られる点に注意が必要です。賃貸目的の不動産や福利厚生施設は対象外となります。

法人不動産における主な対象例は、自社工場や物流施設、研究開発棟の新増設、1棟あたり1,000万円以上の大規模改修です。また、省エネ性能を高める空調や電気設備更新(120万円以上)や、生産管理システムの導入などが含まれます。これらは、税務メリットを享受しながら競争力を高める「戦略的投資」となります。

なお、対象となる資産の取得に対し、自社の財務状況に合わせて以下のいずれかを選択できます。

・即時償却(特別償却)

取得価額の100%(普通償却との合計)を、取得年度に一括償却できます。短期的なキャッシュフローを最大化し、利益を大きく圧縮したい場合に有効です。

・税額控除

取得価額の7%(建物等は4%)を法人税から直接控除します。中長期的な法人税負担を軽減し、手元の純利益を厚くしたい場合に適しています。

本税制は極めて大きなメリットを持つ反面、適用には数億円単位の投資規模や厳格な審査手続きが求められます。特に以下の4点は、成否を分ける重要な事項です。必ず押さえておきましょう。

1. 「投資規模」の下限要件がある

中小企業者等は計画合計で5億円以上、それ以外の法人は35億円以上という投資額の要件があります。さらに、投資利益率(ROI)が15%以上であることも適用要件の一つとして求められます。大規模な修繕や建て替えなど、ある程度まとまった投資計画が対象となります。

2. 賃上げ等の適用要件がある

黒字企業の場合、継続雇用者の給与総額を対前年度比で1%以上(大企業等は2%以上)増加させるなどの要件を満たす必要があります。投資計画と人事戦略の連動が不可欠です。

3. 他の税制との「重複適用」ができない

「地域未来投資促進税制」や「中小企業経営強化税制」など、他の優遇税制と重ねて適用することはできません。どの制度が最も有利か、事前のシミュレーションが必要です。

4. 手続きは「着工・取得前」に完了させる必要がある

最も注意すべきはスケジューリングです。この税制の適用を受けるには、原則として「着工(取得)前」に経済産業大臣の確認を受ける必要があります。着工後に遡って申請することはできないため、余裕を持った工程管理を徹底する必要があります。

なお、仮に35億円(あるいは5億円)規模の投資が直近の計画にない場合でも、ポートフォリオの見直しは進めたほうがよいでしょう。税制上の即時償却は使えないものの、「低稼働な遊休不動産」を売却し、その原資で「都心の築浅物件」や「物流施設」など、マーケット需要の高い資産へ買い換えることで、中長期的な資本効率は改善します。

単に評価を下げるためだけに低収益・低稼働の物件を抱えるのではなく、「マーケットの成長性」と「安定した収益性」を軸にポートフォリオを再編する姿勢こそが、税制改正の波を乗りこなす真のCRE戦略です。

5年ルールの導入により、本業に寄与せず、生産性の低い資産を抱え続けることは、資本効率を低下させるだけでなく、意図せぬ事業承継コストの増大を招く「経営リスク」となりました。これからのCRE戦略は、従来の「形式的な評価圧縮」から脱却し、インセンティブを活用した「本業への貢献度重視」のポートフォリオへ組み換えることが最適解となります。資産の回転率を高め、「負債」を「稼ぐ資産」へと再定義することが、改正後の時代にふさわしい経営判断軸となるでしょう。

今後、CRE担当者が取り組むべきは、自社不動産の棚卸しを行い、保有・開発・建築のすべての計画を「ゼロベース」で見直すことです。どの資産を維持し、どこに投資を集中させるべきか、その判断を誤ると、会社の財務基盤を揺るがしかねません。

まずは信頼できるパートナーや専門家への相談を踏まえ、最適解を導き出すことから始めましょう。

出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱(3/9) (1)特定生産性向上設備等投資促進税制の創設」

CRE担当者がリードするこれからの企業不動産活用

2026年度(令和8年度)税制改正は、不動産の位置づけを「税負担の最適化を主眼とした保有」から「事業成長を支える資産活用」へと見直す転換点となり得ます。

この改正により、多くの企業が保有資産の見直しを検討する可能性があり、不動産市場の流動性が高まることも想定されます。「税負担の最適化」を主眼とした保有から、成長投資の原資を生み出すための「資産の組み替え」が活発化する局面です。

この環境変化を、自社の資産ポートフォリオ最適化の機会として捉えてみてはいかがでしょうか。

CRE担当者には、今後、税制改正対応に加え、市場動向を的確に把握し、将来の成長に適した資産構成を検討することが求められます。税制対応にとどまらず、事業戦略と連動した不動産活用を推進することが重要です。そうした視点が、これからのCRE業務の核となっていくでしょう。

【ご注意】

本記事は2026年度(令和8年度)税制改正大綱に基づき、一般的な情報提供を目的としてまとめたものです。大綱公表後の政令や省令等の変更には対応していないため、実際の対策立案にあたっては最新の法令をご確認ください。また、具体的な適用については、税理士や弁護士等の専門家にご相談のうえ、ご判断いただきますようお願いいたします。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業後、不動産業界一筋。賃貸仲介・管理から売買仲介まで幅広い実務を経験した後、専門性を深め、プライム企業にて信託関連のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務に従事。
現在は注文住宅会社の不動産部門責任者を務めつつ、多様な経験を活かし兼業ライターとしても活動中。不動産の実務から投資・管理戦略まで、多角的な視点に立ったわかりやすい解説を得意としています。

東急リバブル ソリューション事業本部では、最新の市場データを独自の視点で分析したレポート「不動産マーケットトレンド」を公開しています。

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