マーケット

【最新】令和5年分の路線価から読み解く
不動産市場の現状と見通し

不動産投資

全国

実勢価格

【最新】令和5年分の路線価から読み解く不動産市場の現状と見通し

2023年7月3日に令和5年分路線価が公表されました。全国平均は令和4年につづき2年連続の上昇となり、しかも上昇率が前年比を上回り、本格的にコロナ禍からの回復を裏付けたと言えそうです。路線価の上昇は投資意欲を高める一因ともなり、不動産市場にも大きな影響を与えると考えられます。
バブル経済崩壊以来「失われた30年」とも言われるように日本経済が低迷する中、地価の低迷も長くつづいていましたが、地価の回復により不動産市場に生じる今後の変化について考察します。

目次

  1. 路線価の意味と目的
    1. 地価上昇率と経済成長率の関係
  2. 令和5年分路線価の概要と注目すべきポイント
    1. 路線価が上昇した都市の再開発
  3. 令和5年分路線価から今後の不動産市場を読む
    1. 不動産市場への影響
  4. 路線価で行う不動産の机上査定
  5. 路線価の上昇により不動産市場は活性化

「路線価」とは国税庁が定めている「相続税・贈与税」の課税を行うための土地の基準価格のことです。毎年1月1日時点の価格を7月に発表しており、2023年は7月3日に国税庁ホームページで公開されました。

路線価はほとんどの都市の道路に面する宅地に対し価格を定めています。他に公的な土地の価格基準には地価公示制度による「公示価格」があります。

公示価格は全国の26,000か所の標準地に対する価格であり、路線価の調査地点約336,000か所と比較すると少なく路線価のほうが地価調査に役立つ指標になっています。

路線価は地価公示価格の約8割になるよう設定されており、土地が実際に取引される「実勢価格」とも異なっています。また、地価公示価格も実勢価格よりは低めになっているのが実状です。

その他、土地の価格には5つの評価額がありますので「不動産評価額は5つある?」の記事も参考にしてください。

関連記事:不動産評価額は5つある?それぞれの概要と調べ方を解説

令和5年分の路線価は全国的な上昇が確認されています。路線価を含め地価全般の上昇と経済成長率には相関関係があるといった研究があり、令和4年そして令和5年とつづいた路線価の上昇は、今後の経済成長につながるものなのか簡単に触れておきましょう。

下図は昭和62年(1987年)から令和5年(2023年)までの地価公示価格データに基づき、都道府県庁所在地の商業地の「最高」価格の推移を表したグラフです。

出典:国土交通省「令和5年地価公示」(都道府県庁所在地の商業地の「最高」価格)

グラフ上には3つのピークがあり、平成3年(1991年)はバブル経済の最盛期です。平成20年(2008年)はリーマンショック直前の地価を表しています。3つ目のピークが令和2年(2020年)コロナ禍の影響が生じる直前です。

次に国内総生産の推移を確認してみましょう。

出典:Data Commons「日本の国内総生産の成長率」

グラフは国内総生産の成長率を表していますが、地価の第1のピークに近いのが1988年で成長率は6.66%に達しています。第2のピークに近いのが2010年で4.09%、そして第3のピークに近いのが2021年の1.65%という結果です。

2022年に関して実質成長率は1.4%の結果が内閣府のデータで確認でき、地価上昇と経済成長率にはある程度の相関関係があると言え、令和5年の路線価上昇は今後の日本経済復活の兆しとなるのか大きな関心を持つ必要がありそうです。

令和5年分路線価から注目したいポイント3つをとりあげます。

  1. 路線価の全国平均値は2年連続で前年比増
  2. 上昇率上位3位は、北海道、福岡県、宮城県
  3. 東京都心では横ばいか、わずかな上昇

とくに全国平均が2年連続で上昇したこと、なおかつ上昇率が1ポイント前年よりも大きかったことから、コロナからの回復が本格的になったと言える状況です。

上昇率が高かった上位3道県について共通することは、札幌、福岡、仙台、それぞれ都心部での再開発が進行している点です。加えて訪日外国人や国内旅行者の増加など、観光業における回復も期待されています。

一方、上昇率が第5位となった東京は最高路線価地点の上昇率が1.1%となり、札幌、福岡、仙台に及ばない結果でした。背景には東京都心における高いオフィス空室率が影響しているとも考えられますが、今後は変化した働き方に対応する新しいオフィスビルの供給や、好立地でしかも大規模なビルの供給が見込まれており、オフィス需要の拡大を期待させる動きもあります。

ここでは路線価が上昇した3都市の再開発の状況を確認していきます。

札幌市は2030年北海道新幹線札幌延伸をひかえ、札幌駅北口から主要玄関口となる札幌駅南口周辺における大規模な開発に加え、駅前通り、大通り、すすきのと40件近い再開発が進行しています。

また中心部の再開発に加え、厚別区の副都心「新札幌」では前年比14.3%の上昇がみられました。周辺都市においても路線価の上昇がみられ、隣接する北広島市はプロ野球球団のホームグラウンドが新設するなど話題とともに地価の上昇が見られました。

福岡市は「天神ビッグバン」が先行しその後「博多コネクティッド」と、福岡駅と博多駅の2か所において再開発が進行しており、建築確認申請ベースで79棟もの建替等による新規ビルが誕生しています。

仙台市では次のように各区において開発プロジェクトが進行しています。
とくに中心部である青葉区の再開発が多くなっており、都心部での活性化に期待が集まりそうです。

  • 青葉区:14か所
  • 宮城野区:7か所
  • 若林区:1か所
  • 太白区:4か所
  • 泉区:4か所

大都市における再開発は都市圏を構成する周辺都市へも影響を与えるため、経済回復の契機となり今後も路線価の上昇につながると予想されます。

路線価の上昇によりコロナ禍からの回復は本格化したとすでに述べましたが、今後は消費者行動が活発になり、小売業やサービス業そしてインバウンド需要回復による観光業など、コロナ禍で厳しい状況におかれた分野での経済回復が期待できるでしょう。

消費者行動が活発になると同時に企業活動も活性化し、再開発により路線価の上がった都市ではオフィス需要が大きくなると見込まれます。

とくに路線価上昇の上位3位に入った道県における中心都市である、札幌市、福岡市、仙台市とその周辺の都市圏は経済成長が期待されます。また、3大都市圏においても再開発プロジェクトなどが継続しており、ホテルやオフィス需要の回復が期待できることは言うまでもありません。

そして路線価の上昇は不動産市場にも影響を与えます。

不動産市場は路線価上昇による影響を直接受けます。

  • 不動産流通の活性化
  • 海外資金による日本不動産への投資
  • 大都市圏を構成する周辺都市での住宅投資
  • 企業のオフィス拡張や移転が活発化

路線価の上昇は投資行動が活発になったことの現れであり、さらなる投資を生み出す作用があります。加えて円安と金利安がつづく現状は、海外からの資金が日本に流入しやすい環境を作っており、投資目的の不動産取引がより拡大すると考えられます。

大都市圏では今後2~3年の期間において、再開発による大規模オフィスビルや複合商業施設などの竣工がつづき、業績好調な企業の拡張や移転などオフィス需要が高まります。都心における消費動向も活発化し、景気回復への兆しが見えるようになると、不動産流通がより活発となるでしょう。

また、新しいニーズに対応したビルへの転居が活発になると、古い既存ビルの役割についても見直しが行われるようになります。既存のオフィスエリアでの再開発や既存ビルの再生事業など、不動産に関わるビジネスチャンスが増えることにも期待ができそうです。

路線価は地価公示価格よりも調査地点が圧倒的に多いことから、不動産査定などにおいて価格算定の参考に使うことができます。

不動産査定は次の3つの方法により算定することが一般的です。

  • 取引事例比較法
  • 原価法
  • 収益還元法

とくに土地の査定は取引事例比較法が算定しやすいものですが、取引事例の少ないエリアの場合は参考にするデータがない場合もあり、路線価図から公示価格相当額を算定することが可能です。

路線価は地価の変動を客観的に知る方法ですが、不動産取引における実務に応用できる基礎データとも言えるでしょう。

路線価が2年連続上昇し低迷をつづけていた地価は、今後上昇傾向に転じると推測されます。

地価の上昇と経済成長は無関係ではないとする研究もあり、失われた30年を脱し経済回復が期待できる局面に入ったと期待するのは早計かもしれませんが、3大都市圏に加え札幌、仙台、福岡と、路線価上昇が見られた都市において進む再開発は、今後の各大都市圏の経済成長を牽引するキッカケとなるでしょう。

また、3大都市圏では開発が先行する東京において大規模な高機能ビルの供給が始まり、2024年には大阪圏においても同様のオフィス供給が行われます。企業のオフィス拡張や移転が増加し、古いビルの再生事業なども活発となり、不動産に関わるビジネスチャンスの増加が期待されます。

都市の再開発は周辺に投資機会を創出し、不動産流通の活性化と海外からの投資資金を呼び込み、企業活動の活性化はオフィス需要を高めるといった、不動産業における好循環サイクルを生み出すことでしょう。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。