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コロナ禍における
不動産のアセット別投資動向や
今後の
見通しについて解説

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コロナ禍における不動産のアセット別投資動向や今後の見通しについて解説

日本国内で新型コロナウイルス感染症が発生してから2年ほどが経ちましたが、ここ最近の不動産投資市場ではどういった変化が起きているのでしょうか。いったんはコロナ禍の収束が見え始めましたが、2021年12月頃から新たな変異ウイルス株が生まれて、依然として不動産投資市場にも影響を与えています。
本記事では、こうした背景を踏まえ、今後の不動産投資市場の見通しについてアセット別に解説していきます。

目次

  1. 不動産投資市場の動向
  2. アセット別動向|オフィス
  3. アセット別動向|オフィス
  4. アセット別動向|ホテル
  5. アセット別動向|ホテル
  6. アセット別動向|住宅
  7. アセット別動向|住宅
  8. アセット別動向|物流施設
  9. アセット別動向|物流施設
  10. アセット別動向|商業施設
  11. アセット別動向|商業施設
  12. 不動産投資市場の今後
  13. コロナ禍で減少傾向にあったオフィスやホテルなどはアフターコロナで注目される

アセット別の状況を見る前に不動産投資市場全体の動向を見てみましょう。

まず、東証REIT指数の推移から見ると、2021年12月末における上場REITの平均を示す東証REIT指数は2020年12月末と比べて約16%上昇しています。2年ほど前には、いわゆるコロナショックから不動産投資市場は下落傾向が続きましたが、2021年の2月以降は持ち直し始めて上昇傾向に推移しています。

特に目立つ点としては、在宅を余儀なくされた生活の変化から、ネットショッピングなどによる宅配物の増加に伴い、倉庫などの物流系マーケットの伸びは著しいものとなっています。

また、住宅市場では都心の広いマンションや郊外の一戸建ての需要が高まり、価格の上昇傾向が継続しています。いわゆる在宅ワークの増加に伴い、広い住まいへの転居が目立つようになっています。

こうした上昇傾向のセクターに反して、ホテル需要や商業店舗需要といったセクターに関しては下落傾向が続いています。ホテル需要に関しては、インバウンドがほとんどなく壊滅的な状況でしたが、ようやく国内の旅行や出張需要に一部回復傾向が見え始めてきました。しかしながら、ピーク時と比較すればまだ及ばずという感じが伺えます。

また、商業店舗需要については都心の商業施設は、まだ回復傾向には至っていないのですが、ホームセンターやスーパーマーケットといった生活密着型の郊外店舗需要は比較的高いものがあります。商業施設は足元の取引再開が徐々に増えれば、回復傾向に拍車がかかるといえるでしょう。

また、こうした傾向は国土交通省が毎年発表している地価公示にも表れています。2021年の地価公示によれば、全国平均としては全用途平均が2015年以来6年ぶりに下落しました。特に都市部を中心に商業地(繁華街や観光地)が大幅下落しており(※注1)、言い換えればインバウンド需要が大きかった繫華街や観光地ほど、地価の下落傾向にあるでしょう。

※注1 参考:国土交通省「Ⅰ. 令和3年地価公示結果の概要」

ここからは各アセット別に不動産投資市場の動向を解説します。

ここからはオフィス市場について詳しく見ていきましょう。

オフィスの賃貸市場を見ると、都内のビルの成約賃料は下落傾向にあります。オフィス需要については、1つの場所に集約して働くという今までの働き方から、リモートワークの普及で会社に出社するということが減っており、そのため広いオフィスを必要としなくなりました。これによりオフィスの解約が増加し空室につながり、結果、賃料を下げてでも早く空室を埋めようといった一連の流れが賃料落ち込みの原因といえます。

2021年9月末に緊急事態宣言が終了した後は、一時的に都心部への人流回復が見られ、オフィス市況の悪化に歯止めがかかった印象がありましたが、オミクロン株による新型コロナウイルス再拡大などで、今後もオフィスの需要が停滞するおそれがあります。

一般的には空室率が高まれば、賃料を安くしてでも空室を埋めるという流れになります。今後、2023年以降も都心の大型新築ビルの竣工が控えており、よりオフィスの供給が増え新たな空室が発生することになるため、空室率の上昇は避けられない状況になりつつあります。

コロナ禍でのホテル需要に関しては、かなり厳しい局面にあります。新型コロナウイルスが収束すれば、以前と同様に毎年多くの訪日外国人観光客が訪れると考えられますが、現状は訪日外国人観光客だけではなく、国内の観光客も減少し、あまり回復の兆しは見えてきません。

そのため、ホテル自体の収益性は低下し保有ホテルの売却や閉鎖に追い込まれるケースも散見されます。このような環境下の中では早期の観光客数の回復を祈るしかありませんが、オミクロン株による新型コロナウイルスの再拡大で先行きの不透明感は増しています。

ホテル需要については、観光需要と国内の出張需要が大きなウエイトを占めますが、この2つの需要はいまだに回復傾向には至っていない状況です。いずれは多くの観光客などを迎え入れ、業績も回復することが見通せるため、魅力的な投資先のセクターであることは間違いありません。

しかし、近々での需要回復があまり見通せない点もあり、投資先としては難しい判断を迫られます。売却や閉鎖に追い込まれた既存ホテルに不動産の資産価値があるとの見方をすれば、資金調達に余裕がある企業にとっては安価でホテルを取得することも可能なため、投資先としては魅力があるものといえます。

現に、大手ホテルチェーン企業ではその資金調達力から収益の悪化した既存ホテルを取得して、自社のホテルチェーンの1つとして組み入れています。

住宅市場はコロナ禍で一時、価格下落傾向がありましたが、首都圏を中心に価格の高騰が続いています。2021年の12月における新設住宅着工件数は68,393戸(前年同月比+4.2%)と10ヶ月連続で増加しています。特に、10~12月累計では約22万戸(前年同期比+6.1%)となっています。

2019年12月の新設住宅着工件数が72,174戸であることから、概ねコロナ禍前の水準近くまで回復してきていることが分かります。こうした背景には、住宅の投資市場は景気などの外的要因を比較的受け難い安定感があり、投資先としては期待できる一面をもっているといえます。

また、海外の投資家から見れば、日本の不動産価格は比較的利回りが高いとされている点や、コロナ禍でも不動産投資市場への影響が欧米に比べて小さいため、取引は増加傾向にあります。

海外投資家によるアセット別投資額の割合を見ると、住宅が39%、オフィスが30%、物流施設が17%となっており、中でも住宅の投資額は前年の1.7倍となっています。中でも、賃貸マンション市場は他の不動産投資セクターの先行き不透明感が強い中、相対的に賃料変動が少ないため、安定的な需要が期待できると見られています。

住宅市場は他のセクターから見れば賃料水準が低いものの、コロナ禍では安定感のある投資先とされています。

物流施設のセクターはコロナ禍で在宅を余儀なくされた環境下から巣篭り消費となり、ネットショッピングなどの利用が急増しています。それに伴い、倉庫などの物流系マーケットの伸びは著しいものがあります。J-REITの動向を見ても物流施設の増加率が高く、コロナ禍で収支悪化の受け難いセクターの一つとなっています。

物流施設は住宅市場のセクターと並んで、今後、安定感のあるセクターといえます。

特に、全国における物流施設の建設工事受注額は年々増加傾向にあります。EC関連企業や3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業者による物流拠点の拡大により施設自体の空室率は低く、賃料も緩やかに上昇傾向にあるため、投資家からは期待値が大きいと見られています。

また、ニッセイ基礎研究所の不動産市況アンケート(2022年2月)では「今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター」として不動産分野の実務家・専門家の67%が物流施設と回答しており、最も多く選ばれています。この点を鑑みると、物流施設は期待値が高い投資先だといえるでしょう。

出典:景況感は大きく改善。価格のピーク時期は今年または来年が6割を占める~リスク要因として海外経済、金利、建築コストへの関心が高まる。一方、国内経済、コロナ拡大、ニューノーマルへの懸念は後退~第18回不動産市況アンケート結果|ニッセイ基礎研究所

次に商業店舗などの商業施設のセクターを見ていきましょう。

商業施設に関しては2021年の緊急事態宣言の解除を受けて、ようやく百貨店や商業施設へ多くの人が出向くようになり、その売上やサービス消費は増え始めました。また、コロナ禍で巣ごもり消費が増加したため、スーパーマーケットやホームセンターといった生活に密着した郊外店舗需要は、増加傾向にあるといえます。

しかし、都心の商業施設はいまだコロナ禍の水準までの回復傾向には達していません。例えば、銀座のハイストリートでは賃料の下落傾向や需要の落ち込みで閉店に追い込まれる店舗もあり、厳しい現状があります。商業施設の賃貸借契約は長期契約が多いことから、新型コロナウイルス感染症の影響が比較的少ないと言われています。しかし、今まであったブランド店がいつの間にか閉店していたという現実を鑑みると、今後も厳しい状況が続く様相を呈しています。

個人消費の傾向は、コロナ禍でますますネットショッピングや宅配の利用にシフトしており、いずれかの場所に出向いてモノを買うという行為自体が減少していえるといえます。そのため、不動産投資市場における物流系の施設の伸び率は高く、不動産価格の上昇や市場拡大が期待できるセクターとされています。

一方、テナントと称する都市型商業ビルや郊外型商業ビル、アウトレットモールといった商業施設のセクターは、今後の市場拡大傾向があまり期待できない見通しとなっているのが現状のようです。

いくつかのセクターについて見てきましたが、今後の不動産投資市場について考えてみましょう。

コロナ禍でも比較的安定した需要があるのは住宅需要です。特に、テレワークや在宅ワークの増加に伴い広い住宅に移るという需要が増加傾向にあり、必然的に都心でも広いマンションや郊外の住宅需要の増加が顕著に表れています。今後もしばらくはこの傾向が続くものと見込まれます。

また、上記のような住宅事情から、在宅時間の増加にともない、ネットショッピングや宅配サービスが日常化したため、物流系の施設需要が高くなりました。あわせてデータセンターなどの産業関連施設も増加傾向にあります。

反対に、オフィス需要は減少傾向にあるといえ、今後のコロナ禍での状況次第では回復に不透明感があります。加えて、ホテル需要はいまだ需要回復の見通しが立っておらず、今後も厳しい状況が続く傾向にあります。しかし、いずれ観光客需要が回復することが想定されるため、この時期に不動産価値の高い既存ホテルを安価で取得することが可能であれば、将来的には魅力的なものとなる可能性もあるといえるでしょう。

今後の市場拡大が期待できるセクターとしては、物流系の施設、データセンターなどの産業関連施設、太陽光発電などのエネルギー関連施設が考えられます。このほかに、いわゆる高齢者向け住宅を対象としたヘルスケア不動産は、今後大きく需要が見込まれるものとされています。

また、住宅需要は安定的なものと見られており、賃貸マンションへの期待は大きくなっています。これらとは対照的に、ホテル需要やオフィス需要はやや回復傾向にはあるものの、依然として市場拡大には不透明さがあるでしょう。

加えて、コロナ禍で経営的に厳しくなった大手企業などが、法人保有の不動産でセール・アンド・リースバックを行って業績悪化からの脱出を図るという流れは、今後しばらく続く可能性があります。そうなれば、価値の高い不動産を安価で購入することも可能なため、資金調達力がある企業は優良な不動産の投資先を見つけれる可能性も大いにあるタイミングともいえるでしょう。

不動産投資アドバイザー(RIA)、住宅ローンアドバイザー(住宅金融普及協会&金融検定協会)、モーゲージプランナー、相続診断士、既存住宅アドバイザー、貸家経営アドバイザー
寺岡 孝 氏
Takashi Teraoka

住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年に独立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2500件以上の相談を受けている。