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大量供給に揺れる東京オフィス市場
足元は好調ながら2019年に潮目

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足元は好調ながら2019年に潮目

2018.07.27

東京の都心部のオフィスビルで空室率が下がり続けている。2012年にはビルの大量供給を背景に9%まで上がっていたが、直近は2%を切る空前の低水準。しかし今年から2020年にかけて、再び大量供給が見込まれる。東京のオフィス市場の今後を見通す。

 賃貸オフィス市況が好調だ。東京の都心部に立地する大規模オフィスビルでは、空室率が2%を切る水準まで下がり、成約ベースの賃料が坪3万5000円台に回復したとのデータもある。

 背景の一つは、企業業績の良さ。それに加えて、採用難解消や生産性向上に向けて、オフィス環境を改善する動きも活発化してきた。その象徴例を、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏はこう話す。

 「米グーグルの日本法人が2019年、本社を六本木から渋谷に移します。入居予定の新築ビルでは、人員増を見越して、現在の2倍の社員数を収容できる床を借りる予定です」

年平均170万㎡超の供給が2018年から3年間、続く

 賃料はここ6年ほど回復基調にあるとはいえ、その上昇カーブは、2006~07年のいわゆるファンドバブル(ミニバブル)期に比べれば緩やかだ。なぜ、賃料はそれほど上がらないのか。

 佐久間氏は空室率低下の背景にある企業業績に着目する。賃料=コスト負担の原資という観点で言えば、注目する業績は利益ではなく、売り上げとなる。

 「企業の売上高はファンドバブル期の水準には届いていません。また、高い賃料負担力を持つ企業も当時ほど多くありません」

 もう一つ指摘するのが、先の大量供給を見越したオーナーの慎重な姿勢だ。

 日経BP社が発行する「日経不動産マーケット情報」の調査によると、東京23区内で2018年から2020年にかけて例年の倍前後のオフィス床が毎年供給されていく見通しだ(図)。これほどの供給量は空室率が9%を超えた2012年に匹敵する。

東京23区内で完成する大規模オフィスビルの
棟数と延べ床面積

資料:日経BP社「日経不動産マーケット情報」2018年6月号。2018年4月に調査を実施

 「2023年以降にも、虎ノ門や八重洲で大規模ビルの完成が相次ぎます。オフィス供給が続くので、賃料をそう簡単に引き上げられないでしょう」(佐久間氏)

 大量供給は足元の好調な市況にいずれ潮目をもたらす。佐久間氏の見通しでは、その時期は2019年の前半だ。

 実は、2018年2月に公表したリポートでは独自の予測モデルを用いた推計を基に、佐久間氏は2018年後半に空室率は上昇基調に、賃料は下落基調に転じる、とみていた。その予測を、半年ほど後ろにずらすことになったわけだ。

ニッセイ基礎研究所
金融研究部 准主任研究員
佐久間 誠

 その要因を、佐久間氏はこう説明する。「2019年前半までに完成するビルではテナント確保が予想に反しておおむね順調だと伝わってきました。それらのテナントが流出するビルでも、次のテナント入居が順調に決まっています。思った以上に、市況は好調ということです」

 それでも、2018年から2020年にかけてのオフィス供給量は尋常ではない。潮目を迎える時期はともかく、いずれ需給バランスが崩れ、その影響が出てくることは避けられない。

 賃貸オフィス市場にはどんな影響が及ぶのか。その出方は、バランス崩壊の原因が需要減にあるのか、供給増にあるのかによって異なる。

 「今回は供給増を起因として、市況の変化が起こります。潮目が変わるときは、供給増だった2012年と同様に、空室率が比較的大きく上昇するでしょう。ただ、需要減が顕著だったリーマンショック後のような、賃料の大幅下落はないとみています」(佐久間氏)

打撃を受ける中小ビルビル経営の業態変化も

 市況の悪化によって、既存の中小規模ビルも大きな打撃を受ける。

 足元の市況は中小規模ビルでも決して悪くはない。賃貸オフィスのテナントは、大規模ビルに入居する大企業ばかりではないからだ。しかも、中小規模のビルの新築物件は数が少ない。

 「中小企業も業績が良く、オフィス需要は増えています。しかし、供給が限られているため需給はひっ迫しており、賃料も緩やかに上昇しています」(佐久間氏)

 それでも将来を見据えると、中小ビルの競争力は相対的に弱くならざるを得ない。築年数の古いビルやスペックによって思い通りのオフィススペースを実現できないビルでは、より良いオフィスを求めて、テナントが退居していくことになりかねない。

 ビルオーナーに事業意欲と投資余力があり、リノベーションなど競争力の向上を図る手を打てるならいいが、そうでないとビル経営の先行きは厳しい。

 佐久間氏は中小ビルの経営には2つの壁が立ちはだかるという。

 一つは、ビルオーナーの高齢化である。「後継ぎがいないと、新規の借り入れは難しい。競争力を向上しようにも選択肢がなくなってしまいます」

 もう一つは、ビル経営の業態変化だ。「オフィスは今後、ホテルなどと同じように運用次第で収益が変わるオペレーショナルアセットに位置付けられるようになると予想しています。単に床を貸すという業態から、運営を売るという業態への見直しを迫られるでしょう」

 これらの壁をどう乗り越えていくか。2018年から始まる大量供給は、中小ビルオーナーに次の一手を迫っている。

東急リバブルVIEW

予断を許さないオフィス市場の行方
市況が良い今こそ次の不動産戦略を

 東京ではいま、オフィスビルの空室率がかつてないほど低い水準にあります。しかし、「大規模オフィスビルの大量供給」が目の前に控えており、市況の行方は予断を許しません。供給増によるテナント誘致合戦が起きれば、そのしわ寄せはいずれ中小規模ビルにまで及びます。稼働状況が良い今のうちに、潮目を見極めながら次の戦略を検討するべきです。

 東急リバブルは、オフィスビルなど事業用・投資用不動産の売買仲介をメインに取り扱うソリューション事業本部を2000年に立ち上げ、ビルオーナーや投資家の方々の不動産戦略を積極的にサポートしています。

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ソリューション事業本部
投資営業第二部長
森 雅章

 オフィスビルの売却に対しては、市況に応じた的確な出口戦略を提案しています。そのままでは売却が難しいと思われる物件は、コンバージョンのスキルを持った投資家へ売却するなど、豊富な実績や広範な顧客ネットワークから様々な可能性を導き出し、商品化に繋げています。たとえば、浅草にほど近い空きビルはインバウンド需要の取り込みを狙ったホテルへ、自社ビルとして使用されていた銀座のビルは退去に伴い商業ビルへとコンバージョンする投資家へ紹介し、売却を実現しました。

 また、売買仲介に限らず、案件によっては東急リバブルが直接買い取るケースや、東急不動産ホールディングスグループの幅広い事業領域を生かし、アセットマネジメント(AM)やプロパティマネジメント(PM)、ビルマネジメント(BM)まで、ニーズに応じて多様なサービスを提供し、みなさまの不動産戦略を全力でサポートいたします。

※所属部署名、役職はインタビュー当時のものです。