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オフバランスとは?手法やメリットについてわかりやすく解説

「オフバランス」という言葉を耳にしたことはあるものの、実際のところはその意味を理解していない方もいるのではないでしょうか。
「オフバランス」とは、不動産等の資産をバランスシート(貸借対照表)から外す(分離する)財務手法の一つです。本記事では、オフバランスを「どのように行うのか」「どのようなメリット・デメリットがあるか」などについて解説していきます。

目次

  1. オフバランスとは?
    1. オフバランスと不動産の証券化、流動化との違いは?
  2. オフバランスの手法
    1. 不動産売却
    2. 不動産の証券化やリースバックという手法もある
  3. オフバランスのメリット
  4. オフバランスは不動産を売却し財務改善を図る方法のひとつ

オフバランスの正式名称は「オフ・バランスシート」(簿外取引)といい、一般的には不動産等の資産をバランスシートから切り離すことをいいます。

オフバランスは資産の「保有」と「利用」を分離する財務手法(財務改善)のひとつで、その要件として不動産等の権利・義務が、実態として第三者に移転することが求められます。

企業が「資産のオフバランスを検討する」という場合には、不動産の規模(土地面積や建物の規模)や売買金額が必然と大きくなるため、決算数字へ大きなインパクトを与えます。売買損益の計上時期によっては、株式上場企業であれば株価も大きく動く事案です。オフバランス案件を取り扱う場合には特に情報漏洩に気を付け、インサイダー取引やそのほかの不正を疑われる事案に該当しないよう注意が必要です。

一般的にオフバランスは、オフバランス対象の資産や負債を貸借対照表に反映しないようにすることをいい、「不動産の流動化」や「不動産の証券化」はオフバランスの手法の一部です。オフバランスにはこのほかに、ITシステムのクラウド化や人材のアウトソーシングなども含まれます。不動産の証券化、流動化についてはこの後説明します。

資産をオフバランス化する手法には、「不動産の売却」や「不動産の証券化」「リースバック」などの手法があります。以下、それぞれについて説明していきます。

高度経済成長期や不動産バブルの頃は、不動産が大きな資産価値を持っていたため不動産を所有することが企業価値を増大させ、株価が上昇するという時期がありました。しかし近年は、資産が有効活用されているかどうかに重点がおかれるようになり、資産の有効活用が行われているかどうかによって、企業評価(企業価値)が増減する傾向となっています。

不動産等を所有し、十分な利益や利益率を有している場合には大きな問題とはなりませんが、資産を有効活用できていない不動産(遊休不動産等)については、資産効率が低いとみなされます。

また、2006年に導入された固定資産の減損会計制度により、利益を生まない遊休不動産は損失計上することが定められました。このことにより、企業は資産をただ所有するだけでなく、常に資産の活用状況(収益の獲得状況、利益率)の管理をすることも必要となりました。

このように利益を生まない不動産は、すみやかに売却することが有効です。バランスシートを改善するだけでなく、不動産管理の手間や管理コストも削減することができ、収益改善にも効果が見込めるでしょう。なお、不動産売却の手法は早期売却や秘密裏の売却など複数あります。売却時期(当期内で売却したいかどうか)や最低売却額の調整なども、企業のニーズによって異なる手法を採用します。

不動産の証券化とは、不動産を売買しやすくするために、不動産を「証券」という形に変えて売却(流通)させる手法で、不動産の流動化ともいいます。これは、不動産の所有権をSPC(特別目的会社) (※)等に移行することで、元の不動産所有者(オリジネーター)の貸借対照表から対象不動産を除外する手法です。

資産を譲受したSPC等は、譲受した不動産で見込まれる収益をもとに証券を発行し、これを投資家に購入してもらうことで証券を流通させます。

※SPC(特別目的会社)とは特定の資産(不動産など)を証券化するためなど限定された目的のために設立された法人

リースバックは、不動産等を売却し、売却した不動産等を買主から賃借する方法です。毎月賃借料を支払うことにはなりますが、不動産の売却収入を得たうえで当該物件の使用をそのまま継続することが可能です。

オフバランスのメリットとしてまず考えられるのは、当該資産がバランスシートから外れてバランスシートのスリム化が図れることです。さらに、バランスシートから外れることで、資産保有リスク(価格評価減や災害などによる滅失)が回避できます。

また、当該資産がバランスシートから外れることで、バランスシートがシンプルになります。それによりROA(総資産利益率)(※)が高まり、企業評価の向上やIR(Investor Relations)対策にもつながることが期待できるでしょう。

※ROA(総資産利益率)=当期純利益÷総資産×100

ROAの計算例を挙げてみましょう。ある企業が総資産100億円(うち不動産10億円)、当期純利益1億円だとします。この10億円の不動産を10億円で売却し、負債10億円を返済した場合(当期純利益の金額は変わらない)、下記のように売却前と比較して約1割ROAが向上したことになります。

売却前ROA 
1億円÷100億円×100=1%
売却後ROA 
1億円÷90億円×100=1.11%

不動産を売却した資金で借入金の返済を行えば、さらにバランスシートのスリム化になり、 設備投資を行えば利益増につながる可能性があります。不動産の売却資金で、高収益が見込める優良な不動産を取得すれば、収益向上にもつながるでしょう。

オフバランスの概要や手法、メリットについてお伝えしてきました。オフバランスとは有効活用できていない不動産を売却(オフバランス)し、企業の財務改善を図る手法です。売却することで貸借対照表がシンプルになるため、ROAの向上につながり、IR活動に有効とされています。

不動産において従来では「所有価値」が評価の主流でしたが、現在は「利用価値」が評価の主流となっています。そのため、株主や債権者、金融機関などのステークホルダーも、企業を分析する際にはROAをはじめとして、さまざまな指標を使って企業を多角的に評価しています。オフバランスを検討する際には、物件の精査や市場調査、査定などが必要となるため、不動産会社等のプロに相談をしてみるのもよいでしょう。

日商簿記 1 級、税理士試験 3 科目合格(簿記、財務諸表、消費税)、CFP(R)
1 級ファイナンシャル・プランニング技能士、プロフェッショナルCFO
大間 武 氏
Takeshi Oma

飲食業をはじめ多業種の財務経理、株式公開予定企業などの経理業務構築、ベンチャーキャピタル投資事業組合運営管理を経て、2002年ファイナンシャル・プランナーとして独立。
「家計も企業の経理も同じ」という考えを基本に、「家計」「会計」「監査」の3領域を活用した家計相談、会計コンサル、監査関連業務、講師・講演、執筆など幅広く活動。