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物流施設の主役は「大型」「高機能」
人手不足に向けた新たな取り組みも

物流施設

開発・出資

人手不足に向けた新たな取り組みも

2017.12.15

首都圏内陸部で物流施設の供給が相次いでいる。主役は、時代のニーズに対応した「大型・高機能」施設。人手不足を背景に、人工知能(AI)を用いた自動化にも取り組む。物流施設のいまと今後を探った。

 常磐自動車道に交差する幹線道路を流山インターチェンジから北上すると間もなく、広大な造成地と建設現場が現れる。大和ハウス工業が総合計画の立場で進めてきた物流施設「DPL流山」の開発区域である。2017年5月に追加取得した土地を含めると、2022年には複数棟で総延べ床面積約71万5000m²と、国内最大級の規模になる。

人手不足の中、従業員確保へ託児所など就労環境の整備も

日通総合研究所
コンサルティング・サービス・ユニット
プリンシパルコンサルタント
赤尾 幸彦

 災害発生時の早期復旧を可能とする免震システムを導入するなど、高い機能を誇る。さらに、施設内には託児所やカフェ、コンビニエンスストアを設ける予定だ。テナント企業の従業員が働きやすいように、サービスや施設を充実させて質の高い労働環境を整えることが、これからの物流施設開発において欠かせない取り組みになっている。

 物流業界ではいま、人手不足が深刻な課題だ。図1のグラフは、厚生労働省「労働経済動向調査」を基に常用労働者の過不足感がどのように推移してきたかをたどったもの。運輸業・郵便業は調査対象の全20産業平均に比べ、人手不足感が一貫して強いことが分かる。

 これに拍車を掛けているのが、物流件数の増加である(図2)。0.1t未満の小口貨物が大幅に増加したことによって、件数ベースの物流量は増えていることが分かる。これはつまり、仕分けや配送などの作業手間が増えていることを意味する。

図1常用労働者の過不足状況

※厚生労働省「労働経済動向調査」を基に作成

図2物流件数の推移(流動ロット規模別)

※国土交通省「第9回 2010年調査 物流センサス」を基に作成

 もちろん、対応策は取られてきていた。それは例えば、物流施設の立地を決める段階で労働力を確保しやすそうな場所を選ぶということだ。日通総合研究所コンサルティング・サービス・ユニット プリンシパルコンサルタントの赤尾幸彦氏は「新しい施設はパートの就業者を確保しやすい立地に整備する傾向がみられます。おおむね半径2km圏内にパート就業者の供給源となる人口規模があるかという点が一つの目安です」と指摘する。

 もう一つ、課題に対応する形でますます進んでいくのが、物流機器や物流ロボットを活用した自動化・省人化である。「とりわけ通信販売の事業者は切迫感が強く、人工知能(AI)を活用した自動仕分け機器やロボットの採用、自動化・省人化に向けての先駆的な取り組みを進めています」(赤尾氏)。

「大型」「高機能」の背景に3PL事業やEC市場の急拡大

 ここ数年、物流施設のスペックは大きく変化してきた。特に、「大型化」「高機能化」が、この数年のトレンドとなっている。

 「大型化」の傾向は、新設倉庫の着工動向にも表れている(図3)。ここ半世紀の推移をさかのぼると、最初のピークは1970年代前半。当時は延べ床面積合計が1500万m²にも達したが、1棟当たりの平均床面積は広くても250m²程度だった。ところが2000年度以降、1棟当たりの平均床面積は急速に増え始め、600m²近くに達した時期もある。

図3倉庫着工建築物の床面積と、倉庫一建築物あたり床面積の推移

※国土交通省「建築着工統計調査報告」を基に作成

 もちろん、この数値はあくまで平均値。どの程度の床面積を「大型」とみるかに関しては、物流施設に投資するJ-REITの考え方が参考になる。

 それによれば、ある投資法人が自法人で保有する施設の一般的な特徴として挙げる規模は、延べ床面積でおおむね1万6500m²以上。また別の投資法人も、投資する対象施設の規模として同じく1万6500m²、つまり約5000坪という目安を示している。

 「高機能化」の流れも、これらの投資法人の姿勢に表れている。

 ある投資法人では自法人で保有する物流施設の機能面での一般的な特徴として、(1)有効天井高おおむね5.5m以上(2)床荷重おおむね1.5t/m²以上(3)柱間隔おおむね10m×10m(4)上層階にトラックが直接アクセス可能な大型ランプウェイまたは十分な搬送能力を備えた垂直搬送機能などを挙げる。スペースの使い勝手や車両の出入りのしやすさが問われている。

 「大型化」や「高機能化」の背景にあるのは、サプライチェーン管理機能を請け負うサード・パーティー・ロジスティクス(3PL)事業や電子商取引(EC)市場の急拡大である。

 「これらの事業はいずれも、高い機能性を持つ作業効率の良い大型物流施設を基盤として成り立っている業態です」と赤尾氏。先ほど挙げたような仕様を備えた物流施設を利用し、作業効率の向上を図ることが、それぞれの業界での競争力を高めることに直結するという。

 機能面で求められている点にはこのほか、災害対応力もある。具体的には、地震時の揺れ幅を小さくするため地盤と建物の間に免震装置をかませる免震構造を採用したり、停電時でも一定期間は利用可能な非常用発電機を設置したりする対応がみられる。

湾岸から内陸に向かう立地今後はBTS型が主流になる

 物流施設の高機能化、自動化の流れに一段と弾みが付いていくと、今後はテナント企業1社を確定させたうえで、施設をその仕様でつくり上げ、一括貸しする「Build To Suit(BTS)」と呼ばれる開発形態が主流になっていくのではないか、と赤尾氏はみる。「自動化機器には建物と一体構造化したものもあり、また物流ロボットや物流機器活用に適した環境整備等のため、設計段階から天井高や施設の仕様などを事前検討する必要があるからです」。

 「大型化」「高機能化」という施設の特性とは別に、その立地に関してはどのような傾向がみられるのか。

 たとえば、「DPL流山」の最寄りの流山インターは、環状道路である東京外かく環状道路(外環道)と国道16号のほぼ中間点。都心部から直線距離で約25kmの地点に位置する。この立地を赤尾氏はこう評価する。

 「都心部への転送を見すえて物流拠点を配置する場合、圏央道周辺が限界で、できれば都心部からの距離が30kmほどの国道16号周辺以内が望ましいとされています。一方、流山インターより都心部寄りの地域で開発の見込める土地は極めて少ない。都心部への配送を見すえた物流施設を整備するには希少な立地と言えます」

 図4は、首都圏で2016年以降に完成または完成予定の主な賃貸用大型物流施設の分布を示したものだ。そこでは、2つのゾーンで新規立地が目立つ。

 一つは、常磐自動車道周辺の流山から国道16号周辺の柏や印西に至る千葉県の内陸ゾーン。もう一つは、埼玉県内の圏央道周辺ゾーンだ。これらの内陸部は、物流施設の集積地である臨海部に比べ土地代が安い。そのうえ、圏央道は途切れていた区間が神奈川県内と千葉県内の一部を除き全てつながったことから、その周辺への立地が相次いだ。

図42016年以降に完成または完成予定の主な賃貸用大型物流施設

※1都3県と茨城県の圏央道周辺とその内側のエリアで建設中・計画中の延べ床面積3万m²以上の賃貸用物流施設を対象に「日経不動産マーケット情報」編集部が2015年末までに調査した結果を基に作成

圏央道の外にも立地が拡大古い小型施設の行方にも注目

 「ただ圏央道周辺までのゾーンは飽和状態。大型施設を開発できるようなまとまった土地はそう見当たりません。最近はさらにその先、栃木県や群馬県の南部に立地するケースもあります」(赤尾氏)。開発余地を求めて立地がさらに内陸に入る例がみられるという。

 もちろん、都心部から離れる分、土地代は安く済むにしても、賃貸事業としてはリスクが高まる。それだけに、都心部から離れた立地では、「BTS」が中心になるとみられる。

 赤尾氏が注目するのは、内陸部で新規供給が続く一方、老朽化した物流施設はどうなるのか、という点だ。先ほどグラフで示したように、1970年代前半に盛んに建設された倉庫は築50年近く。倉庫の使用可能年数は一般的に40年から50年程度と言われており、倉庫としての継続利用に問題のある老朽化した小型施設が大量に生じてくることとなる。

 それらを物流施設としてどう使い続けていくか。あるいはその地域で需要のある他の用途の施設に変えていくのか。状況に応じて検討する必要がある。赤尾氏は「『大型』『高機能』の開発適地を生み出すことに加え、その検討場面でも、不動産会社の役割は求められていくはずです」とみている。

CASE STUDY

DPL流山 Ⅰ(千葉県流山市)

(提供:大和ハウス工業)

概要

所在地 千葉県流山市大字西深井
敷地面積 6万6580.69㎡
延べ床面積 15万1368.60㎡
構造 プレキャストコンクリート造
一部鉄骨造(免震構造)
階数 地上4階
完成時期 2018年3月末

国内最大級の「高機能」施設
エリアを絞り、適地を創出

 大和ハウス工業が、千葉県流山市内で現在建設中の物流施設「DPL流山Ⅰ」は、東急リバブルがパートナー企業と組み立てたスキームの中で開発されてきた。耕作放棄地を含む第一種農地を転用して約19万5000m²の開発用地を確保し、1棟目となる「DPL流山Ⅰ」が2018年3月にも竣工する。

 2017年5月には、隣接の土地約15万9000m²も追加取得した。総開発区域面積約35万4000m²の敷地に、複数棟で延べ床面積約71万5000m²の倉庫を2022年にも完成させる。東京ドーム15個分を超える国内最大級の規模を誇る。

 開発区域は、常磐自動車道の流山ICから約2.4kmの距離にあり、県道沿いで農地が広がる一帯だ。東急リバブルが中心になって300人近い地権者との不動産売買契約を取りまとめ、開発事業に必要な農地転用許可と開発許可等の手続きを進めてきた。

 東急リバブルソリューション事業本部事業戦略部長の菊池秋雄氏は開発事業に取り組んだ経緯をこう振り返る。「大型で最新設備を備えた物流施設へのニーズに応えようと、都心から30km圏までのエリアに絞って適地を探したのですが、まとまった用地が見当たらなかったため、各種許認可取得を前提に、インター至近の農地をまとめることにしました」

 「DPL流山Ⅰ」には、長さ約12.2m×幅約2.4m×高さ2.6mのコンテナを積載した40フィート車が直接、各階に乗り入れることができるランプウェイを2基設置するほか、荷物の積み下ろしに用いるトラックバースを合計276台分用意する。

 このほか、テナント企業従業員の就労環境を整える狙いから、施設内には託児所やカフェテリアなどを設置。近隣市域からの通勤利便性を高めようと、乗用車用駐車場を約400台分確保した。近隣主要駅と施設を結ぶシャトルバスの運行も計画している。

 また、周辺農地の浸水対策として機能する、調整池(約5万9000m³)を設け、県道沿いには、将来30m近くまで成長が期待されるメタセコイアの並木を配し、市道沿いは桜並木とするなど、環境及び景観上も配慮された計画となっている。

東急リバブルVIEW

開発型アセットマネジメント事業を拡大
企業の不動産戦略をサポート

 大和ハウス工業の物流施設「DPL流山」の開発で、開発地の選定を主導したのが東急リバブルだ。このプロジェクトでは建設予定地の「農地転用」が前提となっていた。東急リバブルは開発適地を探すだけでなく、転用や開発に必要な許可手続きを担い、新たな事業機会を創出する役割を果たした。

東急リバブル
取締役常務執行役員
ソリューション事業本部長
岡部 芳典

 東急リバブルは、すでに稼働している施設(アセット)のマネジメントに加えて、「開発型のアセットマネジメント事業」にも積極的に取り組んでいる。物流施設だけでなく、ホテルや住宅、オフィスビルなど幅広いアセットが対象だ。

 東急リバブルが持つ全国の不動産情報をベースに、仲介情報も含めて物件をソーシング。土地・エリアの特徴やニーズを検証し、不動産価値を高めるための開発戦略を立案している。こうした開発型アセットマネジメントのほか、企業の不動産戦略を様々な形でサポートするサービスも提供している。

※会社名、所属部署名、役職はインタビュー当時のものです。