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ナフサ不足が不動産投資に与える影響と対策|地政学リスクを踏まえた修繕計画・物件選定

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ナフサ不足が不動産投資に与える影響と対策|地政学リスクを踏まえた修繕計画・物件選定

2026年2月末のホルムズ海峡封鎖を契機に、断熱材・塗料・防水材・硬質ポリ塩化ビニル管(塩ビ管)といった修繕工事の根幹をなす主要建材の供給逼迫と急激な価格高騰が発生しました。
2026年9月現在、供給は徐々に回復基調とされているものの、価格の高止まりは続いており、長期修繕計画の前提を見直す動きが業界全体に広がっています。
今回のナフサショックが示したのは、中東地域における地政学リスクが、サプライチェーンを通じて国内不動産投資の収益構造に直結するという事実です。
こうしたリスクは、一過性の混乱ではなく「今後も繰り返し発生することが想定される構造的な外圧」として捉え直す必要があります。
この記事では、ナフサショックが不動産投資や保有に与える影響を整理し、資材高騰に対応する「修繕計画の見直し」、リスク耐性の高い「物件選定」に必要なポイントを解説します。

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ざっくり要約!

  • ナフサ不足は地政学リスクが不動産投資に波及した一例であり、今後も繰り返し発生することが想定される構造的なリスクである。
  • 修繕費の高騰や工期遅延は、保有期間中のキャッシュフローを圧迫する実質的なインフレリスクとして顕在化する。
  • 今後は修繕履歴の透明性と長期修繕計画の健全性が、物件評価の恒常的な軸となる。

目次

  1. ナフサとは?不動産修繕を支える供給構造
  2. ナフサ不足による不動産投資への影響
  3. 地政学リスクを前提とした不動産投資戦略
  4. 今後の見通し|一時的な混乱で終わらせないために
  5. 地政学リスクを「物件評価の恒常的な軸」に
ナフサとは?不動産修繕を支える供給構造

ナフサとは、原油を精製する過程で得られる石油化学工業の基礎原料です。

「ナフサクラッカー」と呼ばれる設備でエチレン・プロピレンなどの基礎化学品に分解され、そこから断熱材・塗料・防水材・シーリング材・塩ビ管・接着剤といった多様な化学製品が製造されます。

つまり、マンション・オフィスビル・物流施設などの修繕工事に欠かせない建材の多くが、ナフサを起点とするサプライチェーン上に位置しているのです。

また、今回のナフサ不足は、2021年頃に発生した「ウッドショック」と比較しても、その波及範囲の広さにおいて異なる性質を持っています。ウッドショックの影響範囲は主に木造住宅や木質構造材などの特定の分野・素材にとどまっていたのに対し、ナフサ不足は断熱材・塗料・防水材・配管材をはじめとする多様な建材へ同時に影響を及ぼしています。

したがって、特定の品目を代替品に切り替えるだけでは対処しきれず、修繕工事全体のスケジュールや予算管理に支障をきたすリスクがあります。

中東情勢におけるナフサ供給の現状

ナフサが不動産修繕とこれほど密接に結びついている背景には、日本のエネルギー調達構造そのものがあります。そもそも、日本における原油輸入は約9割を中東に依存しており、そのほぼすべてがホルムズ海峡を通過して届きます(※1)。

さらに、ナフサの調達構造を見ると、中東からの輸入が全体の約4割、国内精製が約4割、その他地域が約2割を占めています(※2)。ただし、国内精製に使われる原油自体も9割以上が中東産であるため、直接輸入分と合わせると、ナフサ供給の実質8割超が中東地域に依存していることになります。ホルムズ海峡において輸送が滞れば、この8割超が供給不安にさらされる構造となっています。

2026年2月末に発生した地政学的混乱によって同海峡が事実上封鎖状態となり、このリスクが顕在化しました。政府は米国・アルジェリアなどからの代替調達を5月に前年平月比3倍超まで拡大しましたが、2026年8月時点においても価格の高止まりは継続しています。

詳細な経緯については、中東情勢記事をご参照ください。

関連記事:中東情勢が不動産投資・開発に与える影響とは?引渡遅延リスクと今取るべき対策

※1出典:経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保の対応状況」

※2出典:大和総研「ナフサ問題がもたらす日本経済の不安要素」

ナフサ不足による不動産投資への影響

ナフサ由来の建材高騰は、新築・開発フェーズだけでなく、すでに物件を保有するオーナーにも深刻な影響を及ぼしています。

修繕工事費の高騰・工期の遅延・資産価値の目減りという3つの影響は、保有期間中の収益を徐々に圧迫し、気付いたときには長期修繕計画の前提が大きく崩れているというケースが増えています。以下では、影響の実態を順に確認します。

ナフサ不足は、修繕工事に直結する建材の価格を押し上げており、その上昇度合いはデータからも明らかです。

ホルムズ海峡における海上輸送リスクや原油価格の上昇を背景に、塗料用シンナー・防水材・断熱材など石油系原料への依存度が高い資材において、供給面での懸念と価格上昇の動きが顕在化しています。

建設資材物価指数(東京・2015年平均=100)を見ると、建設総合で2026年5月に147.5(前年同月比+4.0%)、建築補修においても142.0(前年同月比+2.9%)を記録し、さらに2026年6月には建設総合で149.6(前月比+1.5%)、建築補修も144.3(前月比+1.7%、前年同月比+4.1%)の追加上昇を示しました(※1)。

2024年の年平均は137.6、2025年が142.1であったことと比較しても、ここ1〜2年の上昇幅は到底看過できるものではありません。

つまり、わずか1〜2年前(2025年以前)の単価設定で作成された長期修繕計画であっても、現在の現実的な工事費見積もりとは大きな乖離が生じつつあると言わざるを得ません。

こうした価格上昇は、投資家の収益構造を複合的に圧迫します。修繕費の増大は修繕引当金の不足を招き、キャッシュフローを長期にわたり圧迫します。

さらに、実質利回りが悪化すれば売却価格の査定に影響し、出口戦略の選択肢が狭まります。修繕引当金の不足は、売却時のデューデリジェンスにおいてもディスカウント要因として表面化する可能性があります。

長期修繕計画の前提となる単価を現在の市況に更新することは、今や緊急のリスク管理といえるでしょう。

※1出典:一般財団法人 建設物価調査会総合研究所「建設物価建設資材物価指数」

施工業者団体が2026年4月に実施したアンケート調査によると、全国594件の大規模修繕工事で工期遅延が発生しています。また、回答した施工業者87社のうち51社(約59%)が「すでに工期が遅れている」、または「今後遅れる見込み」と回答しています。

しかし、問題は「遅れた」という事実だけではありません。工期の遅延は、修繕コストを複合的に押し上げる連鎖を生み出します。

工期が延びることで、足場・養生の設置期間は長期化します。それにより、現場経費が膨張し、工期の再調整による職人・資材の手配コストが重複して発生します。修繕を延期した物件では、こうした追加コストが積み重なることで、次回修繕費がさらに膨らむ可能性があります。

特に見落とされがちなのが「物理的劣化によるコストの膨張」です。修繕のタイミングを逃した建物は劣化スピードが上がり、数年後の大規模修繕では当初計画を大幅に上回る費用が必要になります。

不動産の所有者は、「今は資材が高いから先延ばし」という判断が、将来的にさらなるコスト負担を招くという構造について、強く認識しておく必要があるでしょう。

不動産売買や融資の審査において、修繕履歴や長期修繕計画の確認は従来から欠かせない基本項目です。しかし、資材高騰や工期遅延が常態化する現在、デューデリジェンスの現場における確認の精度は一段と厳格化しています。

今後は「修繕履歴の透明性」が、物件価値を左右するこれまで以上にシビアな評価基準として定着していく可能性があります。

修繕が滞った物件や当初想定していた工事単価のまま更新されておらず、現在の市況と乖離した長期修繕計画のままになっている物件は、売却時の査定においてディスカウントを求められるリスクがあるでしょう。

反対に、修繕計画を適切に管理し履歴を透明化している物件は、今後の不動産市場において相対的に有利な評価を受けやすくなると考えられます。

地政学リスクを前提とした不動産投資戦略

ナフサショックが示した教訓を踏まえ、不動産投資家が今すぐ取るべき行動は大きく3つに整理できます。

「保有物件の修繕計画を現実に即して更新すること」、「リスクの高い物件のポートフォリオ組み替えを検討すること」、そして「新規取得における選定眼を磨くこと」です。さらに、これら3つの行動を保有形態(自社利用や賃貸)に応じてどう実行するかという、BCPの視点も押さえておく必要があります。

今すぐ着手すべき最優先事項は、保有物件の長期修繕計画の単価前提を現在の市況水準に更新することです。

建設資材物価指数は依然として高水準で推移しており、2025年以前の単価で積算された長期修繕計画は現実と乖離したままです(※1)。

単価を更新することで修繕引当金の不足額が把握でき、積立金の増額・修繕スケジュールの前後調整・代替工法の検討といった次の判断につながります。

具体的な対応としては、まずPM会社・施工会社と工事の優先順位・資材の仮押さえ・代替工法の可否を協議することから始めるのがよいでしょう。

直近予定の工事は早期発注・前倒しで資材単価の安定を図り、非石油系建材であるグラスウールやロックウールなどへの仕様変更も選択肢になります。ただし、需要増によりこれらの価格も上昇傾向にある点には、留意が必要です。

そして何より重要なのは、今回の対応を単発の緊急対応として終わらせず、地政学リスクを前提とした定期的な長期修繕計画の見直し体制を恒常化することです。

※1出典:一般財団法人建設物価調査会「建設資材物価指数(東京・2015年平均=100)」

保有物件の修繕リスクを洗い出した結果、一部の物件について「修繕コストが高く、長期修繕計画の前提が大きく崩れている」という状況が明らかになるケースもあるでしょう。そうした場合には、ポートフォリオの組み換えを積極的に検討することをおすすめします。

将来的な修繕コストの増大が懸念される物件を保有し続けるのではなく、修繕が完了しておりしばらく追加コストが発生しない物件や、長期修繕計画・修繕引当金が適切に管理されている物件へ入れ替える戦略は、地政学リスクが高まる時代における資産防衛のための積極的な選択肢となるでしょう。

組み換えの判断にあたっては、長期修繕計画の現実性、修繕履歴の透明性、修繕引当金の充足度、中長期キャッシュフローへの影響試算を軸に、総合的に評価することが重要です。

資材高騰に伴う修繕費の上昇が常態化する現在、新規物件の取得時には、従来の立地や収益性の評価に加え、「将来のCAPEX(資本的支出)リスクをどう見極めるか」という視点が一段と重要になっています。

そのため、修繕が完了しており当面追加コストがかからない物件や、修繕履歴が透明な物件については、将来リスクが低い点を取り入れ高評価につなげるといった視点が欠かせません。

取得時のデューデリジェンスでは、修繕完了報告書・工事竣工書類・施工業者との契約内容を確認し、大規模修繕の実施履歴と次回予定時期を把握することが基本です。

長期修繕計画の精査においては、工事費単価が現在の市況水準を反映しているか、修繕引当金の残高が計画に対して充足しているかを確認します。

売買実務における具体的なデューデリジェンスについては、関連記事もあわせてご参照ください。

関連記事:不動産デューデリジェンスとは?不動産の取引に欠かせない調査について解説

築浅物件は大規模修繕まで10〜15年の猶予があり、直近の修繕コストリスクは限定的です。しかし、今後、ナフサ高騰期の高値で建築された物件が築浅物件として市場に流通し始めたときには、その取得価格が適正であるかどうかを精査する必要があります。

また、アセットタイプによって修繕計画の立案・必要費用・使用資材が大きく異なる点も押さえておきたいポイントです。

物流施設は屋根・防水の面積が広く、雨漏りなどのリスクを防止する必要性が高く、ナフサ由来の防水材や断熱材の影響を直接受けやすいため、修繕費の変動リスクが特に高いアセットです。

一棟マンションは外壁塗装・シーリング・配管材が主な修繕項目となり、修繕の頻度と単価の両面から検証が必要となります。

オフィスビルは設備更新(給排水・空調配管等)が主な修繕項目となり、塩ビ管や断熱材の価格動向が直接影響します。

取得検討の段階から、アセットタイプ別の修繕感応度を念頭に置いた長期修繕計画の精査が、今後の投資判断においてより重要な視点となるでしょう。

以上の3つの対応に加えて、保有形態別にBCPの観点からも整理しておきましょう。

ナフサショックのような地政学リスクへの備えは、単なるコスト対策にとどまらず、企業のレジリエンスを高めるBCP戦略そのものです。修繕の停滞は、自社の操業ストップを招くだけでなく、賃貸物件であれば入居企業の事業継続も脅かし、退去リスクに直結するためです。

不測の事態を想定してあらかじめ修繕計画をコントロールすることは、自社の事業基盤を守るだけでなく、入居企業の満足度向上と中長期の収益安定化をもたらすでしょう。

具体的には、アセットの種類に関わらず、物件の「利用形態」に応じて次のように大規模修繕計画を再設計します。

・自社利用の物件

修繕遅延が自社の営業活動や操業の停止リスクに直結するため、計画において最優先で予算と資材を確保すべき必須投資として見直します。

・賃貸している物件

修繕の滞りはテナントのBCPを阻害し、満足度低下を招きます。コストを見極めつつ、入居企業の事業を支えるインフラとしての機能を維持できるよう、長期修繕計画を戦略的にコントロールすることが必要です。

地政学リスクを「大規模修繕計画の現実的な修正・見直し」の中に今すぐ盛り込むこと、保有形態(自社利用か、賃貸中か)に合わせたメリハリあるアプローチこそが、これからの不動産インフレ時代を生き抜くための鍵となります。

関連記事:BCMとは?BCPとの違いと企業不動産戦略における重要性

関連記事:今こそ、BCP(事業継続計画)を考える〜BCPの基本情報と策定の手順を徹底解説!〜

今後の見通し|一時的な混乱で終わらせないために

どのような地政学的リスクもいつかは落ち着きを見せるものですが、中東情勢の構造的な不安定さを踏まえれば、同様の外的要因は今後も繰り返し起こり得ると考えるべきです。

建材コストの高止まりが常態化した場合、これからの不動産評価や管理において求められるのは、単なる金額の書き換えにとどまらない「修繕の仕様や方法そのものの抜本的なアップデート」です。石油系建材に依存しない代替工法の採用や、大規模修繕の内容や工事実施サイクル自体の見直しを視野に入れる時代がきています。

しかし、これからの10〜20年という長期スパンにおいて、市場の高止まりの常態化というシナリオどおりに推移するとは限りません。

コスト高が定着するシナリオでは「修繕方法や仕様のアップデート」が求められる一方、代替建材の普及で価格が安定する反転シナリオも十分に考えられます。だからこそ、予測を「単一の未来」に固定せず、マルチシナリオで備える視点が欠かせないのです。

どちらの局面に振れても機動的に出口戦略や損切りラインを調整できるようにしておくことが、長期にわたって機能し続ける修繕計画のあり方です。

地政学リスクを「物件評価の恒常的な軸」に

これからの不動産評価は、修繕履歴の透明性と長期修繕計画の健全性が判断の軸になっていきます。ナフサショックは一時的な混乱ではなく、地政学リスクが保有不動産のコスト構造に直結することを示した事例です。

保有物件の長期修繕計画を今すぐ市況水準にアップデートし、修繕引当金の充足度を確認することが、地政学的リスクに備える第一歩です。

そのうえで、修繕リスクの高い物件は売却を検討し、修繕が完了した優良物件への入れ替えという積極的なポートフォリオ組み換えCRE戦略が、地政学リスクが高まる時代における資産防衛の一つの選択肢となります。

新規取得においては、修繕履歴の透明性と長期修繕計画の充実度を重視した物件選定眼を持つことが、将来のコストリスクを抑制するうえで重要です。継続的な修繕計画の見直しとリスク管理体制の構築が、今後の不動産投資における差別化要因の一つとなるでしょう。

宅地建物取引士
佐藤 賢一 氏
Kenichi Sato

大学卒業後、不動産業界一筋。賃貸仲介・管理から売買仲介まで幅広い実務を経験した後、専門性を深め、プライム企業にて信託関連のオフィスビルや商業施設のAM・PM業務に従事。
現在は注文住宅会社の不動産部門責任者を務めつつ、多様な経験を活かし兼業ライターとしても活動中。不動産の実務から投資・管理戦略まで、多角的な視点に立ったわかりやすい解説を得意としています。

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