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リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年下半期~


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リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年下半期~

事業用不動産を所有している方の中には、不動産価格の上昇が継続しているというニュースを見て、今後の動向が気になっている方も多いのではないでしょうか。
しかし、不動産価格の上昇がいつまでも続くとは限りません。2008年のリーマンショックや2019年の新型コロナウイルスなどのように景気を悪化させる要因が生じると、不動産市場にも大きな影響が生じる可能性があるので注意が必要です。不測の事態に備えるには、リテールマーケットの面からも不動産市場を把握しておくことが大切です。
この記事では、事業用不動産の戦略を練る上で重要な不動産価格の推移について、リテールマーケット動向に基づいて解説します。

目次

  1. 2023年上半期の振り返り
  2. 首都圏の中古マンションの価格は依然右肩上がりに推移
  3. 首都圏の中古住宅の価格も依然堅調に推移
  4. 首都圏の土地の価格は郊外で上昇が目立つ
  5. 2024年の不動産市場を予想
    1. 金利政策
    2. 為替変動
  6. CRE戦略の判断を誤らないように注意

【2023年上半期の振り返り】

  • 2023年上半期は中古マンション、中古戸建住宅、土地ともに価格が上昇
  • 中古マンション、中古戸建住宅の価格上昇は新築価格上昇が主な原因
  • 円安による海外資本の流入や景気拡大を見越した先行投資も要因の1つ
  • 郊外の価格上昇はテレワークによる需要拡大が原因と考えられる

本章では、東急リバブルが独自に調査したリテールの売買状況に関するレポートから2023年上半期の不動産市場について振り返ります。

2023年上半期の中古マンション、中古戸建住宅、土地の価格は右肩上がりとなりました。円安による建築資材の高騰や人件費の上昇などの影響によって、新築物件の価格が大幅に上昇したことで、比較的安価に手に入りやすい中古住宅の需要が高まり、価格が上昇したと考えられます。また、円安による海外資本の流入または景気拡大を見越した先行投資なども価格上昇を後押しした要因と言えるでしょう。

中古マンションと中古住宅に焦点を当てると、郊外のマンション・中古住宅の価格の上昇が目立ちました。これは、テレワークを導入した企業が増えたことが大きく影響しています。テレワークでは、自宅で仕事に取り組むため、会社の近くに住む必要がありません。また、仕事専用の部屋があると便利であるため、同価格帯で広い住まいが手に入る郊外の需要が高まったと考えられます。

しかし、2023年の5月には新型コロナウイルスの感染症法上の分類が変更されたことで、インフルエンザと同程度の扱いとなりました。これを機にテレワークを廃止し、従来通りの勤務形態に戻された場合には、都心回帰の流れで郊外の価格が下落に転じるということが下半期への懸念点として挙げられていました。

2023年上半期のリテールマーケット動向について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

関連記事:リテールマーケット動向から読み解く不動産市場~2023年上半期~

前章と同様、東急リバブルが独自に調査したリテールの売買状況に関するレポートから2023年下半期の不動産市場の動向を探ってみましょう。まずは中古マンション価格です。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

過去5年の価格の推移を見ると、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年4月を除いて順調に右肩上がりとなっています。

中古マンションの価格が右肩上がりとなっている要因には、依然として新築マンションの価格が高値圏で推移していることが挙げられます。不動産経済研究所が公表した「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年上半期(1~6月)」の結果は以下の通りです。

出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年上半期(1~6月)

供給戸数の減少が見られるものの、埼玉県を除くエリアでは、平均価格、㎡単価ともに前年同月比で上昇しています。首都圏全体の平均価格、㎡単価は最高値を大幅に更新しており、新築マンションの価格上昇が比較的安価に手に入りやすい中古マンションの需要を高め、価格を押し上げていることが分かります。

しかし、新築マンションの価格が下がると、購入のハードルが低くなり、中古マンションは需要の低下とともに価格が下がる可能性があるので注意が必要です。

他の価格上昇の要因として、海外資本の流入が挙げられます。中古マンションは立地条件が良い場合が多く、資産価値の下落が比較的生じにくいです。また、安定した需要が期待でき、投資用不動産としても人気です。特に円安の昨今は、日本の不動産を安く取得できるため、海外資本の流入が進んでいます。

ただし、現在の円安は、日銀の金融緩和政策による金利差の影響が大きいと考えられます。金融緩和政策を終了させた場合、大きく円高に触れる可能性があり外貨ベースでの不動産の資産価値上昇に繋がります。それに伴い、外国人投資家が売却に転じ不動産価格が下落する可能性があるので注意が必要です。

社宅用として所有しているものの使用していない中古マンションがある場合、考えられる選択肢として「賃貸」「売却」の2つが挙げられます。賃貸では家賃収入を得ることで業績寄与が期待できる一方、売却では手持ち資金が増えることでキャッシュフローの安定化を図れるでしょう。

また、賃貸用として所有しているものの手持ち資金を増やしてキャッシュフローの安定を図りたい、多額の費用がかかる修繕をそろそろ実施しなくてはならないなどのケースでは、売却が最適なCRE戦略と言えます。どのような戦略を選択することが自社にとって最適な選択肢なのかをよく考えましょう。

2023年の下半期も右肩上がりの推移が見られる中古マンション市場ですが、10月の郊外の価格が下落に転じた点が気になるところです。東京23区と東京都が上昇した一方、郊外は下落に転じているため、上半期のレポートの懸念点であった都心回帰の流れとなっている可能性があります。

都心回帰の場合には、東京都は今後価格が上昇する可能性が高く、郊外は価格が下落に転じる可能性が高くなります。今後のマーケット動向を確認し、すぐに行動できるように備えておきましょう。

続いて中古住宅の価格動向を探ります。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

過去5年の価格の推移を見ると、中古マンションと同様、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年4月は大きく下落しましたが、前年同月比では年々堅調に価格が推移しています。しかし、高値の更新が続く中古マンションと比較すると、若干価格上昇の限界が見られつつある点が気になるところです。

中古戸建住宅の価格が堅調に推移している要因として、依然として新築戸建住宅の価格が高値圏で推移していることが挙げられます。東日本レインズが公表している「月例速報」の結果は以下の通りです。

出典:東日本レインズ「月例速報(新築戸建住宅レポートより)

首都圏の新築戸建住宅価格は、4,000万円台と高値での推移が続いています。その理由として、木材価格の高騰、円安による建築資材の高騰、人件費の上昇などがあります。新築戸建住宅の価格が上昇している間は、比較的安価に取得できる中古戸建住宅の価格も高値で推移する可能性が高いでしょう。

しかし、先ほども触れた通り、高値の更新が続く中古マンションと比べて、若干価格上昇の限界が見られる点が気になります。住宅街にある中古戸建住宅は、中古マンションのように地価上昇の影響を受けにくく、投資用不動産としての需要も高くないので円安による海外資本流入の恩恵も受けにくいです。そのため、高値での推移が続けば問題ありませんが、下落に転じると、価格を押し上げる要因がなく価格が大きく下がる可能性があるので注意が必要です。

テレワークが普及したコロナ禍では、仕事部屋を確保しやすいため、中古戸建住宅の需要が高まりました。特に同価格で広い住環境が手に入る郊外の中古戸建住宅も活発に取引されました。しかし、郊外の取引件数の減少が見られ、テレワークの廃止に伴う都心回帰の流れが強まっていると予想されます。

使用していない中古戸建住宅がある場合、売却が有効なCRE戦略と考えられます。価格が高値で推移しているため、売却することによって手持ち資金を増やし、キャッシュフローの安定化を図れるでしょう。一方、賃貸用としての需要はあまり期待できません。特に郊外の取引件数の減少が都心回帰によるものであった場合は賃貸需要の減少も考えられるため、売却を選択するのが得策でしょう。

現時点では2023年下半期も堅調な価格推移が期待される中古戸建住宅ですが、価格上昇の限界が感じられることを踏まえると、ここから少しずつ下落に転じることが考えられます。郊外では成約件数の減少から売却に時間がかかる可能性があります。いつまでに現金化したいのか考慮しながら売却を進めましょう。


続いて土地の価格動向を探ります。

【東京23区】

【東京都】

【埼玉・千葉・神奈川県】

出典:財団法人東日本不動産流通機構成約データより作成

過去5年の推移を見ると、東京23区と東京都は堅調な価格推移が見られる一方、郊外では価格上昇が目立ちます。

土地の価格が堅調に推移している要因として、日本の経済がインフレの状況にあることが挙げられます。インフレとは、物価が上昇し、お金の価値が下がる現象のことです。日本の経済がどのような状況にあるかは、総務省が公表している消費者物価指数で判断できます。「消費者物価指数(2023年9月分)」の結果は以下の通りです。

出典:総務省「消費者物価指数(2023年9月分)

2020年の基準を100とした2023年の消費者物価指数は、どの項目も上昇しているため、インフレが起きていることが分かります。インフレの状況下では、お金の価値が下がるため、土地を含む不動産の取得に多くのお金が必要になる結果、価格も上昇するのが一般的です。そのため、土地価格が堅調に推移している背景には、インフレによる物価高の影響があると考えられます。

しかし、物価高の状況が続くと、生活が厳しくなります。そのため、政府はインフレによる物価高を抑制しようとしており、その施策が功を奏した場合は、今度は物価が下がることで土地の価格が下落する可能性があるので注意が必要です。

事業用として先行投資で取得したものの使用していない土地がある場合、貸し出すことはおすすめしません。その理由は、貸し出しても更地では得られる利益が少なく、かといって建物を新築して貸し出すには建築費用が高額である状況を考えると割に合わないためです。放置していても固定資産税の負担が生じることを考慮すると、売却するのが得策でしょう。

また、欧米諸国はインフレ抑制のための金利の引き上げに踏み切っており、その影響による景気後退が懸念されています。景気後退の状況によっては、影響が日本へと及び、不動産の価格が大きく下落する可能性があるので注意が必要です。

2023年上半期は堅調に推移しましたが、下半期は上記の理由から徐々に価格が下落に転じる可能性があります。順調な郊外の土地価格についても、仮に上昇要因がテレワークの需要に対する先行投資の場合、需要が続けば問題ありませんが、都心回帰の流れが強まると下落に転じる可能性があるので慎重な判断が求められるでしょう。

2023年下半期は少し先行きが不透明になりつつある不動産市場ですが、2024年は以下の外的要因で不動産市場が大きく変動する可能性があるので注意が必要です。

  • 金利政策
  • 為替変動

それぞれの影響を詳しく見ていきましょう。

不動産価格の上昇要因の1つに大規模な金融緩和政策が挙げられます。金融緩和政策とは、市場に出回るお金の供給量を増やして経済を活性化させ、景気回復を図る金融政策です。

具体的には、日銀が金利を下げたことで金融機関の貸出金利が下がった結果、企業や個人が借入しやすくなることによって経済活動が活性化し、物価が上昇するということです。

実際に金融緩和政策が取り入れられてから金利が下がったことで、不動産の購入や投資が進み、不動産価格が上昇しました。

しかし、 金融緩和政策の裏で長期化する円安や悪いインフレが生じたため、日銀は状況の改善を図るために長期金利の上昇を容認しました。

つまり、今まで続けてきた金融緩和政策の方針を変更するということなので、2024年には金融緩和政策が事実上終了すると予想されています。金融緩和政策が終了するとローンの金利が上昇し不動産への資金流入が弱まり、不動産価格が下落する可能性が高まるため気を付けなくてはなりません。

日本は、金融緩和によって金利の低い状況が続いています。金利の高い通貨を持っていれば利息を受け取れることから、金利の低い日本円が売られ、金利の高い外貨が買われることで円安が進行しているのが現状です。

海外の投資家は円安であるほど日本の不動産を安く購入できます。例えば、1ドル100円で5,000万円の不動産を購入する際は50万ドルの資金が必要ですが、1ドル125円の場合は40万ドルと10万ドルも安く取得できるのです。そのため、円安は海外資本の流入によって不動産価格を上昇させる要因となります。

一方、円安から円高に転じると外貨ベースでの不動産の資産価値が上がることになります。先ほどの事例では、1ドル125円で5,000万円の不動産を購入する際は40万ドルの資金が必要でした。仮に1ドル100円になると、売却時も同額の5,000万円を受け取れた場合はドルに換金すると50万ドルになるため、10万ドル資産が増えたことになるのです。

円高は外国人投資家が不動産を手放す可能性が高まる要因の1つで、不動産価格が下落に転じるかもしれません。

現時点では、円安による輸入資材の高騰やガソリン価格の上昇、インフレによる物価高など様々な要因で不動産価格が高いため、今すぐ大きな変動が生じる可能性は低いです。しかし、将来的に売却圧力が高まり不動産価格が下落する可能性があるので注意が必要です。

不動産価格の上昇が継続していますが、リーマンショックや新型コロナウイルスのような不測の事態によって不動産価格が大きく変動する可能性があるので注意してください。

現在の不動産価格の上昇は、円安、インフレ、低金利による影響も大きく、今後円高やデフレ、金利高に転じた場合の影響を考えておかなくてはなりません。

企業不動産を有効活用できていない場合、無駄な維持費の発生によって事業資金を減らす恐れがあります。無駄な支出を減らし、キャッシュフローの改善を図るほか、リスク分散の観点からも、売却、転用などのCRE戦略を立てて企業価値の向上を図りましょう。

適切なCRE戦略を立てるには、リテールマーケット動向の確認だけではなく、為替変動や消費者物価指数、金融政策などの情報を収集しておくことも大切です。今すぐにCRE戦略を練る必要がない場合でも、常に不動産市場の動向を確認し、いつでも行動に移せる状況を整えておきましょう。

宅地建物取引士
矢野 翔一 氏
Shoichi Yano

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。保有資格:2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者。不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。