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インボイス制度の開始と不動産賃貸業におけるオーナーが採るべき考え方

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インボイス制度の開始と不動産賃貸業におけるオーナーが採るべき考え方

消費税に関するインボイス制度が2023年10月1日にスタートしました。
同制度は仕入税額控除に必要な適格請求書(インボイス)の発行と保存を義務付ける制度であり、インボイスを発行する事業者は税務署への登録が必要になります。不動産賃貸事業を行う事業者などはインボイスを発行できない場合、テナントの退去や募集の上で不利な状況になる場合もあります。この記事ではインボイス制度が不動産賃貸事業者はじめ不動産取引に係わる事業者に与える影響を解説します。

目次

  1. インボイス制度の概要と目的
    1. 仕入税額控除の方法とインボイス導入の背景
  2. 不動産取引への影響
    1. インボイス制度による不動産賃貸事業への影響
    2. インボイス制度による不動産売買への影響
    3. インボイス制度による賃貸管理への影響
  3. 不動産オーナーはインボイスへの対応を図るべき

インボイス制度とは事業者間で行われた取引きに際し、消費税を明確に記載した「適格請求書」の交付と保存を義務とする制度のことです。買手側の事業者が消費税の仕入税額控除を行う場合、売手側が交付した「適格請求書」が必要となります。

この制度における「適格請求書」を「インボイス」と言います。

インボイス制度は消費税制度の改善を目的としています。日本において消費税が導入されたのは1989年であり、当初の税率は3%でした。その後1997年に5%、2014年に8%、そして2019年には10%となり、同時に軽減税率8%も導入されています。

現在は品目により税率が異なるため、売上金額から簡単に消費税を算出することができません。そのため、税率の異なる消費税を明確に区分するフォーマットを共通化する必要がありました。

加えて免税事業者に支払った消費税額について、益税となっていた状況に対し批判を受けることもあり、消費税課税制度の課題を解消する手段としてインボイス制度が導入された一面もあります。

消費税課税および納税に関し現在は事業者を次の2つに区分しています。

  1. 課税事業者
  2. 免税事業者

年間の課税売上が1,000万円を超える場合は「課税事業者」とし、1,000万円以下の事業者は「免税事業者」として納税が免除されています。また、土地の譲渡や貸付、居住用の建物の貸付に関わる売上げは非課税のため、年間売上が1,000万円を超えていても免税事業者になるケースもあります。

この度のインボイス制度導入は、課税事業者が消費税の納税を行う際に行っている「仕入税額控除」の仕組みを厳格にするものです。仕入税額控除が適用できる範囲を課税事業者間の取引きに限定することで、免税事業者を選択していた事業者は課税事業者に移行する動機付けが行われます。

したがって免税事業者に生じていた「益税」が防止され、仕入税額控除の方法がより明確になることが期待されています。

仕入税額控除とは消費税を納税する際に、売上時点で預かった消費税から、仕入などの支払い時に相手側事業者に支払った消費税分を控除できる制度であり、インボイス制度導入前と導入後で次のような違いがあります。

インボイス導入前 インボイス導入後
売手事業者の種類 免税事業者でも控除可能 課税事業者のみ控除可能
請求書の様式 区分請求書 適格請求書

インボイス制度導入前は仕入税額控除を適用するには、買手側が受取った請求書に「軽減税率の対象品目」と「税率ごとに区分した合計額」が記載されている「区分請求書」であることが求められていました。

インボイス制度導入後は請求書に「税率ごとの消費税額」と「適格請求書発行事業者登録番号」が記載された「適格請求書」が必要になります。

インボイス制度の肝と言えるのは「適格請求書発行事業者登録番号」の記載であり、仕入税額控除の適用を受けるには、売手側が「インボイス発行事業者」として登録していなければなりません。インボイス発行事業者として登録するには、免税事業者は登録できず「課税事業者」であることが要件となっているのです。

不動産取引には売買と賃貸がありますが、土地の売買及び賃貸、居住用途の賃貸は非課税となっています。

すでに課税事業者として届出している不動産事業者は「インボイス発行事業者」の登録による影響はとくにありませんが、免税事業者は今後「課税事業者」への変更とインボイス発行事業者としての登録をするのか、免税事業者のままでいるのか検討が必要です。

不動産に関わる事業にはさまざまなものがありますが、ここでは不動産賃貸、不動産売買、賃貸管理、についてその影響を後述します。

なお、免税事業者がインボイス発行事業者として登録するには、課税事業者に変更する必要がありますが、令和11年9月30日までに登録を受ける場合は、経過措置として課税事業者としての届出を省略することができます。

また仕入税額控除をする相手方に対し、インボイスの発行がなくとも仕入税額控除ができる経過措置が令和11年9月まで設けられているので、早急な判断をしなければならないわけではないことも付け加えておきます。

【免税事業者からの仕入れに係る経過措置】

  • 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは仕入税額相当額の 80%
  • 令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の 50%

不動産賃貸事業者は賃貸する物件の用途により、インボイス発行のための事業者登録をするべきかしなくともよいのか判断が分かれます。

賃貸物件が居住用の物件であり入居者の用途も「居住用」の場合は、駐車場使用料も含め「非課税」となります。非課税売上のためインボイスの発行も必要がなく事業者登録の必要もありません。

居住用の物件でも入居者によっては居住用ではなく、たとえば事務所など非居住用にする場合もあります。この場合には消費税が課税され、しかも仕入税額控除のためインボイスの発行を求められることもあるでしょう。

複数いる入居者のうち1室のみが「非居住用」であった場合に、賃貸人としてはインボイス発行事業者登録を躊躇してしまうところですが、インボイスを発行できない場合は入居者が退去する可能性もあるので判断が分かれるところと言えるでしょう。

賃貸物件が事務所や店舗の場合は課税売上になります。年間売上により課税事業者か免税事業者に分かれますが、インボイスを発行できない場合はテナントが仕入税額控除をすることができません。消費税負担の増大は経営に影響を与えるため、インボイス発行可能な物件に移転しようと退去する可能性が高くなります。

このようにインボイス発行事業者として登録しない場合には、テナントの募集に支障が生じ賃貸事業の収益性が低下する可能性があります。

したがって免税事業者であっても課税事業者の届出をし、インボイス発行事業者登録の判断をしなければならないケースもでてくるでしょう。テナントが小規模な事業者であり免税事業者の場合、そもそも賃貸人からのインボイスを必要としないので、賃貸人も免税事業者のままでいるという選択も可能です。

また、オーナーが「サブリース」により賃貸を行っている場合には、サブリース業者がオーナーにインボイスの発行を求めるケースもあり、サブリース業者との協議が必要になります。

不動産売買取引でインボイス制度が影響するのは建物の売買です。

建物の売買には原則的に消費税が課税されますが、売主が個人でかつ事業者ではない場合は非課税となります。そのため個人から購入した不動産を事業者が売却した場合、仕入時点での消費税課税はありませんので、仕入税額控除はできません。また免税事業者からの購入についても、インボイスが発行されないため同様に仕入税額控除はできなくなります。

ただし不動産を売却する事業者が「宅地建物取引業者」の場合には特例が設けられています。

国税庁が公表している「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」には「帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用が受けられる場合」が定められており、宅地建物取引業者が棚卸資産としてインボイスを発行できない者から建物を購入した場合、帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められます。

この特例はインボイス導入前に仕入れた物件にも適用されます。ただし仕入税額控除する事業者が令和11年9月30日までのインボイス制度経過措置期間中に課税業者になった場合に限られます。

注意したいのはこの特例は「固定資産」に適用できない点と宅地建物取引業者に限るため、賃貸オーナーであっても宅建免許を有しない場合は適用されません。また、賃貸物件は棚卸資産にならずこの場合も特例は適用されません。

不動産の買取再販事業においては、再販する相手側が宅地建物取引業者であって「棚卸資産」としての購入であれば、インボイスの発行は必要ありません。ただし、相手側が宅地建物取引業者でない場合、もしくは固定資産としての購入の場合はインボイスの発行を要求される可能性が高くなります。

インボイスの発行ができない場合は相手側から、売買価格について消費税相当額の値引き要求をされるケースも考えられ、売上額の減少を招くデメリットもあるでしょう。

賃貸管理事業者の売上は賃貸オーナーからの管理委託料やクリーニング・修繕などの建物管理費や請負工事代金になり、すべて課税売上となります。

仕入に関する費用の支払先としては各種の工事業者であり、その他一般経費が支出されています。取引相手は小規模な事業者になることもあり、免税事業者との取引であれば仕入税額控除はできません。

そのため取引相手との調整や業者選択の見直しなどが必要になるでしょう。これらの調整や見直しは6年間の経過措置期間に行うことになり、自社の課税業者か免税業者の選択も含めて検討することになるでしょう。

また管理業務を委託するオーナーからインボイスを求められるケースもあり、管理会社がインボイスの発行ができない場合、管理会社の変更を余儀なくされる可能性があります。賃貸管理業者にとってもインボイス発行事業者としての登録は重要なことと言えるでしょう。

インボイス導入は消費税課税および納税に関する大きな制度変更です。消費税の仕入税額控除を行うには売手側が発行する「適格請求書(インボイス)」が必要であり、買手側はその保存が義務付けられます。

インボイスの発行は消費税課税業者であり、かつ「インボイス発行事業者」として登録しなければなりません。

土地の取引や居住用不動産の賃貸借など、一部に消費税が非課税となる取引きがありますが、不動産取引に係わる事業者は「インボイス発行事業者」として登録するかどうかの検討をする必要があります。

不動産賃貸・不動産売買・賃貸管理、それぞれの事業者は取引きの相手方との協議や調整も必要になるケースもあり、インボイス発行事業者を選択しない場合のデメリットも検討し判断する必要があるでしょう。

とくに不動産賃貸のオーナーはインボイスの発行ができずにテナントが退去する、あるいはテナント募集に不都合が生じる場合もあることを理解しておかなければなりません。

一級建築士、宅地建物取引士
弘中 純一 氏
Junichi Hironaka

国立大学建築工学科卒業後、一部上場企業にてコンクリート系工業化住宅システムの研究開発に従事、その後工業化技術開発を主体とした建築士事務所に勤務。資格取得後独立自営により建築士事務所を立ち上げ、住宅の設計・施工・アフターと一連の業務に従事し、不動産流通事業にも携わり多数のクライアントに対するコンサルティングサービスを提供。現在は不動産購入・投資を検討する顧客へのコンサルティングと、各種Webサイトにおいて不動産関連の執筆実績を持つ。