エリア広がり、中小ビルにも活路
働き方改革で
変わるオフィス市場

2018.08.31

いつ、どこで、どう働くのか―。働き方改革が叫ばれる中、それらは次第に働き手の裁量に委ねられつつある。その一方で、仕事の成果として今後ますます求められるのが、新しい価値の創造。オフィス市場には質的な変化も生じそうだ。

 従来のオフィスとは異なる働く場が、今花盛りだ。サテライトオフィスやコワーキングスペースである。

 サテライトオフィスを積極展開するのは、10万人規模の社員が自宅や外出先で働ける体制を整えると発表した日立製作所。2017年10月には自社オフィス外のサテライトオフィスとして「@Terrace(アットテラス)」を東京・八重洲に開設した。2018年4月時点で41カ所の拠点展開を図り、多様な働き方の推進や時間や場所にとらわれない業務遂行の実現を図る。

 2016年10月、東京・紀尾井町に本社を移転したのに合わせてビル内にコワーキングスペースを設置し社外にも開放するのは、ヤフーだ。コンセプトは「『!(びっくり)』を生み出す場所」。利用者同士を結び付けるコミュニケーターを配置し、社内外の情報交換や協業を生み出していくという。

 共通するのは、時間と場所を自由に選択できる「アクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW)」と呼ばれる、働き方の広がりである。

 「新しい価値の創造がこれまで以上に強く求められる中で、それが加速していると感じます」。こう指摘するのは、コクヨワークスタイル研究所主幹研究員の齋藤敦子氏だ。価値創造の主役とも言える社員が能力を最大限発揮できる方向に働き方は変わりつつある。

コワーキングスペースを
オフィス戦略に位置付け

コクヨ
ワークスタイル研究所
主幹研究員
齋藤 敦子

 働き方の広がりが加速する背景には、多様な働き方を支援することで優秀な人材の確保・定着を図っていきたいと考える企業側の思惑もあるという。

 「将来を見据え、いろいろなことに挑戦したいから、1つの会社に勤め続けることに疑問を抱く若い層が今は多い。若くて優秀な人材ほど、ベンチャー企業を志望する傾向も見られます。優秀な人材を獲得し引き留めるために、ベンチャー企業やNPO(非営利組織)との複業を認めるなど、多様な働き方を支援する企業がすでに出始めています」(齋藤氏)

 こうした働き方の多様化を、齋藤氏はコワーキングスペースを提供する立場からも実感している。

 コクヨグループでは2012年4月、東京・渋谷の渋谷ヒカリエにメンバー制オフィス「Creative Lounge MOV」を開設した。異文化・異分野の人が互いのアイデアやリソースを交換しながら新しい価値を創造する場だ。その開設当時を、齋藤氏が振り返る。

 「開設前のプレマーケティングでは、こうしたコワーキングスペースを企業はそう利用しないという見方が多くを占めていました。ところが、実際に開設したところ、企業は思いのほか利用することが分かった。東日本大震災の影響で働き方に対する価値観が変わったこともあって、オフィス戦略の一つに位置付けられるようになったのです」

 実際、サテライトオフィスやコワーキングスペースを供給しようとする事業者や運営者などのプレーヤーは、その厚みを増している。

 新規参入組で言えば、例えば東京急行電鉄が挙げられる。同社は2016年5月から会員制サテライトシェアオフィス事業「NewWork」を展開。自由が丘や横浜など東急沿線を中心とした郊外駅の周辺に拠点を置き、テレワークの需要に対応するほか、育児や高齢などの理由で通勤困難な人が自宅の近くで勤務に当たれる環境を提供する。拠点数は2018年7月現在、100カ所を超える。

Creative Lounge MOV
(クリエイティブラウンジ モヴ)

コクヨグループが2012年4月、渋谷ヒカリエ内に開設したコワーキングスペース。施設中央には会員メンバーが自由に利用できる大きなオープンラウンジがある。このほか、予約制の会議室、シェアオフィスとして利用できるレジデンスエリアなどが設けられている

企業ニーズの多様化で
オフィス立地に広がり

 コワーキングスペースの先駆けとも言えるのは、co-lab(コーラボ)を展開する春蒔プロジェクトだ。2003年5月、クリエーター専用のシェアオフィス「co-lab六本木」を開設したのを皮切りに、クリエーティブワーカー向けの拠点の展開とそのコミュニティー・プラットフォームの構築を進めてきた。現在は、二子玉川、代官山、墨田亀沢、日本橋横山町、渋谷キャストの計5カ所を運営する。

 立地を見ると分かるように、これらの拠点は必ずしも従来のオフィス集積地とは一致しない。サテライトオフィスであれば郊外のターミナル駅周辺に、コワーキングスペースであれば墨田亀沢や日本橋横山町など中小の工場や問屋がひしめく街にも立地する。働き方の多様化がオフィス立地にもこれまでにない広がりをもたらしている。

 働き方の多様化によって空間ニーズも多様化してきているという。齋藤氏は「事務作業が減る一方で、例えば顧客を招きパーティーを開きたい、という企業もあります。100人収容できるスタジオが欲しいというような、普通のオフィスビルの仕様には当てはまらないニーズも生じています」と明かす。

 そうなると、均質化した空間ばかりの既存のオフィス集積地より、多様性に富んだ空間を提供できるような、例えば工場・倉庫街の方がエリア全体としてニーズに応えやすい。オフィス立地の広がりには、こうした背景もある。

 働き方の多様化に伴い、今後はエリアの多様性も求められそうだ。齋藤氏は「コワーキングスペースの立地として渋谷が人気の理由は、中規模のオフィスからマンションオフィスまでそろっていて、クリエーターや個人事業主などの感度の高い人たちが集まってくるから。独自の文化も不可欠です。それがないと、人は離れていきます」とみる。

 東京のオフィス市場は、向こう3年にわたる大量供給によって、2019年前半にも潮目を迎えるとみられる。とりわけ既存の中小ビルは競争力の低下が避けられない。しかし働き方が変わり、エリアの多様性が求められるようになれば、そこに活路を開く手がかりを見いだすこともできそうだ。

東急リバブルVIEW

働き方の変化が新しいニーズを生む
競争力が弱かったビルやエリアにも脚光

東急リバブル
ソリューション事業本部
営業推進部 営業推進課長
久保 英士

 働き方の多様化に伴い、企業のニーズやオフィスのあり方も多様化しています。時間や場所にとらわれずに「いつ、どこでも働ける」環境が整いつつあり、テレワークの浸透や、シェアオフィス、コワーキングスペースといった新しいタイプのオフィスの開設が進んでいます。

 中小規模のビルも、新しい働き方を実現する場所の受け皿として期待されています。中小ビルは大規模ビルに比べて自由度が高く、新たなニーズにも柔軟に対応できる強みがあります。また、都心ではなく郊外に立地するビルに、企業がサテライトオフィスを設ける動きも増えてきました。今まで競争力が弱いと思われていたビルやエリアが新たに脚光を浴びています。

 そのような社会的なトレンドの変化に、不動産投資家も敏感に反応しています。施設オーナーや企業の不動産担当者は、所有不動産の活用や売買に関して、こうした新たな動きを踏まえて戦略的に対応していく必要があります。

 変化が激しく、先行きが読みにくい今だからこそ、企業の不動産戦略において情報の重要性はより増しています。東急リバブルは、オフィスビルなどの事業用・投資用不動産をメーンに取り扱うソリューション事業本部を2000年に立ち上げ、豊富な実績とノウハウを積み重ねてきました。全国を網羅するネットワークから寄せられる情報を基に、次々と変化する多様なニーズに応じて不動産ソリューションをご提供していきます。