セミナーレポート

この先の企業不動産マネジメントセミナー

企業価値を上げるためのCRE戦略とは

主催:日経ビジネス
協賛:東急リバブル ソリューション事業本部

CRE戦略

マーケット

企業価値を上げるためのCRE戦略とは

資産効率や生産性の向上などの経営課題解決に向けて、CRE(企業不動産)をどう生かすか――。企業価値の向上を目指したCRE戦略の必要性が問われている。不動産市況が堅調に推移する“今”は、戦略に基づき手を打つ好機。CREへの向き合い方を、3人の専門家がそれぞれの立場で説いた。

特別講演

プロパティデータバンク 代表取締役社長
博士(工学)
芝浦工業大学客員教授

板谷 敏正

 日本のCRE(企業不動産)には2つの社会的課題があるという。一つは、資産効率の低さだ。プロパティデータバンクの板谷氏は「バランスシートに占める不動産の割合は欧米企業の同業種に比べ3倍ほど多い」と指摘する。これに伴いROA(総資産利益率)も欧米企業に比べると低い。

 もう一つは、生産性の低さだ。付加価値1単位当たりの労働投入量を、米国企業を1として産業別に比べると、日本企業は多くの分野でその2~3倍に達するという。

 この2つの課題を、CREの活用で解決できると板谷氏は言う。

 「資産効率の向上にはCREの売却が有効です。売却額を借入金の返済に充てれば、バランスシートのスリム化を図れる。本業の設備投資に回せば、バランスシートは変わらないが、利益を増やすことができます」

 ただ、企業が取り得る戦略は多様だという。「ロケーションや財務面からポートフォリオマネジメントの視点に立って、最も有利な選択肢を選ぶ必要がある」と板谷氏。

 生産性の向上にはワークプレイス改革が有効だ。その役割は情報処理から知識創造に変わってきた。立地はサードプレイスやリゾートなども含め広域に考えていきたい。

 板谷氏は最後に、資産管理業務の効率化を支援する不動産のクラウドサービスとデータサイエンスの活用例を紹介。「CREの果たす役目は大きい。財務戦略と連携し、ポートフォリオの視点で考え、最も有利な選択をしたい」と総括した。

協賛セッション

東急リバブル 常務執行役員
ソリューション事業本部 副本部長

柿沼 徹也

 大都市圏ではオフィスビルの空室率がここ20年間で最低水準となり、公示地価やオフィス賃料は上昇基調にある。東急リバブルの柿沼氏は「企業のオフィス需要の高まりや金利の下落傾向が堅調な不動産市場を下支えしている」と語る。

 「底堅い市況は2020年以降も続くと予想しています。低金利が続き、イールドギャップが見込まれるためです。今後も大規模なインフラ整備や再開発計画が目白押しで、交流人口の増加や都心部への人口集中も続く見通しです」

 一方で、社会環境の変化を背景に、CRE(企業不動産)への取り組みに変化がみられている。

 「一つは、働き方改革を背景とするオフィスのあり方の変化で、多くの企業が労務環境改善のための投資を加速しています。また、働く場所を柔軟に選ぶことができるシェアオフィスや、地方にサテライトオフィスを設ける『ふるさとテレワーク』、採用や育成、組織の活性化を目的とした社員寮など、企業の間では様々な施設の導入が進んでいます」

 本業とは別に安定収益を確保する狙いから、不動産投資へのニーズも高まっているという。柿沼氏は具体例として、車離れが進む中ガソリンスタンドを経営する企業が福岡の商業施設を取得した例や、少子化を受けて学校法人が横浜のオフィスビルを取得した例などを紹介した。

 これらの動向を踏まえ、柿沼氏は「不動産を経営資源として見直し、経営課題に即した戦略を立てることが重要」と指摘。市況が堅調な今は不動産の活用で企業成長を狙う好機と訴える。

 続いて、同社が実際に顧客の課題解決に貢献した例を紹介。自然災害が懸念されるエリアに複数の不動産を所有する顧客には、BCP(事業継続計画)の観点から災害リスクを分散するため、新たに別地方の不動産の取得を支援。収益の向上と、新たな商圏の足掛かりにつなげた。また、全国に多くの遊休不動産を所有し、甚大な保有コストを抱える顧客には、東急リバブルによる一括引き取りサービスを提供。早期に全ての不動産の売却を実現し、財務内容を改善するとともに保有に伴う防災・防犯面のトラブルを回避することに成功した。

 東急リバブルでは企業の不動産に関する相談に応えるサービスメニューを数多く用意する。柿沼氏は「CRE戦略を成功させると財務改善と事業成長の両面から企業力が強化され、企業価値の向上をもたらせる」と、締めくくった。

基調講演

A.T.カーニー 日本法人会長
ワールドビジネスサテライト コメンテーター

梅澤 高明

 世界の各種機関が都市ランキングを公表している。それらから総じて読み取れることは、文化都市、観光都市、産業都市として東京が高いポテンシャルを持つこと。A.T.カーニーの梅澤氏は「まちのコミュニティー感を残すようにしないと、東京の魅力は失われる」と注意を促す。

 「私自身、各分野のイノベーター11人のチームで『NEXTOKYO』という東京のビジョンづくりに取り組んできました。『Creative City』『Tech City』『Fitness City』を3つの柱に、街づくり・産業づくりの提案を様々な関係者に行っています」

 それらの活動を通じて考える東京の成長課題は、イノベーション都市としての課題である。それは、技術があり、投資もあるが、ビジネスを仕立てられる人材が足りないこと。梅澤氏は「人材の集積、起業環境の改善、グローバルネットワークの3つが欠かせない」と指摘する。

 加えて観光都市としての成長課題もあるという。観光立国としてのポテンシャルは高いが、訪日客の評価では宿泊施設の魅力や文化コンテンツの認知度の弱さが目立つ。具体的な課題としては、「MICE・IR」「富裕層観光」「ユニークな観光資源、観光・宿泊体験」「ナイトタイムエコノミー」を挙げる。

 「これら成長課題への対応が、外国人向け住居・生活関連サービス、都心型フレキシブルオフィス、インバウンド観光関連施設といった不動産活用ニーズを生み出すでしょう」。東京の将来に期待を込めて話を締めた。

※本記事は日経ビジネス 2019年12月23・30日合併号掲載の記事からの転載です。

※会社名、所属部署名、役職はセミナー当時のものです。