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不動産M&Aとは?スキームやメリット・デメリットを解説

不動産の売買手段として、近年注目を集めている「不動産M&A」。企業自体を買収するM&Aに対し、不動産取得を目的として不動産保有企業ごと買収するのが不動産M&Aです。
不動産M&Aは、不動産取得のみをする不動産売買に比べ、大きな節税効果が期待できる方法として注目されています。この記事では、不動産M&Aの基本的な知識やメリット・デメリットについて分かりやすく解説します。

目次

  1. 不動産M&Aとは?
    1. 会社清算による不動産売却と不動産M&Aの違いとは?
  2. 不動産M&Aのスキーム
    1. 株式譲渡を行う場合の不動産M&Aのスキーム
    2. 会社分割を行う場合の不動産M&Aのスキーム
  3. 不動産M&Aのメリット・デメリット
    1. 売り手側のメリット
    2. 売り手側のデメリット
    3. 買い手側のメリット
    4. 買い手側のデメリット
  4. 不動産M&Aにかかる税金
    1. 株式譲渡による不動産M&Aの税金
    2. 会社分割による不動産M&Aの税金
  5. 不動産M&Aは税制上のメリットが大きいがリスクについては慎重に検討を

不動産M&Aとは、企業が保有する不動産を売却する際に、株式として不動産を売却する方法です。通常のM&Aは、企業を買収する際に企業が保有する不動産も取得しますが、本来の目的は事業の買収です。

それに対し、不動産M&Aでは、不動産の取得を目的として保有する企業ごと買収します。

不動産の取得が目的であれば、不動産のみ売買するのが一般的でしょう。しかし、不動産M&Aでは、不動産のみの売買に比べ大きな節税効果が期待できるというメリットがあるのです。

不動産M&Aは主に、不動産事業を営む企業同士で行われます。ただし、不動産そのものに魅力がある場合、業界を問わず行われるケースも多くあります。また、廃業を検討している場合にも不動産M&Aが行われることがあります。

会社清算で不動産のみを売却する場合と、不動産M&Aを行う場合では、流れが大きく異なります。

会社清算で不動産売却する場合、企業が売主となり不動産を売却し現金化した後に、会社清算をします。
売却代金は、清算後にオーナー経営者に清算配当として交付されるため、売却代金を手に入れるまでに時間がかかり、清算配当には所得税が課税されます。

それに対し、不動産M&Aでは、売り手側のオーナー経営者は企業を介さずに、買主に直接企業の株式を譲渡します。従って、オーナー経営者は、買主から株式の譲渡代金として不動産売却代金を直接得られるのです。

不動産M&Aのスキームには、次の2つがあります。

  • 株式譲渡によるスキーム
  • 会社分割をするスキーム

それぞれ見ていきましょう。

株式譲渡によるスキームは、一般的なM&Aと同様の手法となります。買収側が、不動産を所有する企業の株式をすべて得ることで、企業ごと不動産を所有します。買収された企業は完全子会社となり、買収側は子会社を通して不動産を所有する形となります。

買収された子会社は、そのまま事業を営んでいくことも考えられるでしょう。しかし、そもそも不動産M&Aを目的に買収されているため、将来性を見出せない場合や、そもそも廃業を検討している場合は、不動産の所有権移転を行った後に会社清算するケースもあります。

会社分割とは、事業の権利義務のすべて、もしくは一部を別の企業に継承する方法をいいます。

売り手側である企業が会社分割して、不動産のみを所有する子会社を新設します。買収側は、分割された子会社の株式を買うことで、不動産M&Aを成立させるのです。

会社分割を活用した不動産M&Aの場合、組織再編税制の特例措置を受けられるというメリットもあります。

ここでは、不動産M&Aのメリット・デメリットについて、売り手側・買い手側それぞれの視点で見ていきましょう。

売り手側のメリットには、次のようなことがあります。

  • 大きな節税効果が期待できる
  • 廃業コストを節減できる

特に大きなメリットとなるのが、節税効果が見込める点です。

通常の不動産売却と不動産M&Aでは、課税の仕組みが異なるため、不動産M&Aのほうが大きな節税効果が期待できます。節税効果については、後述するので参考にしてください。

また、通常の会社清算では、廃業時に設備や在庫の処分費用、店舗などの原状回復費などの廃業コストがかかります。不動産M&Aでは、譲渡対象は不動産だけでなく、事業や店舗なども含まれるため企業全体をそのまま引き継ぐことができ、余分なコストをかける必要がありません。

売り手側のデメリットとしては、次のようなことがあります。

  • 手続きに時間と手間がかかる
  • 買い手が限定的で見つかりにくい

不動産のみの売買に比べ、不動産M&Aでは、事業や設備などをまとめて譲渡するため、手続きに時間と手間がかかります。場合によっては1年以上かかるケースもあるため、売却を急いでいる場合にはデメリットとなるでしょう。

また、譲渡先を見つけるのも難しいという点に注意が必要です。とくに、多額の負債を抱えてしまった場合などは見つけるのが困難になります。

自社で不動産M&Aを進めることも可能ですが、買い手を見つけることや手続きが難しいため、一般的には専門業者に依頼するケースが多いでしょう。

買い手側のメリットには、次のようなことがあります。

  • 不動産取得にかかる税金などのコストが不要
  • 不動産取得費用が割安になる可能性がある
  • 市場に出回らない不動産の取得が可能

通常の不動産売買の場合、不動産取得に対して取得税や印紙税・登記費用など多くの税金やコストがかかります。不動産M&Aであれば、これらの税金やコストがかかりません。

また、節税効果が見込める分、不動産価格の交渉も視野に入れることができ、取得費用を抑えることができる可能性があります。

企業が保有する不動産は、売買目的でない限り市場に出回りにくいものです。なかには投資対象として魅力的な不動産を保有している場合もあるため、そのような市場に出回らない魅力的な不動産を見つけられる可能性が高くなることもメリットの一つです。

買い手側のデメリットには、次のようなことがあります。

  • 売り手企業の簿外債務など、マイナス要素も承継するリスクがある
  • 手続きに時間と手間がかかる
  • 買収監査を行う経費がかかる

不動産だけではなく企業ごと譲渡されるため、売り手側の財務状態によってはマイナス要素も継承するリスクがあります。負債や簿外債務を含め、売り手側の債務状況を正確に判断しなければ、大きな負担となる可能性が高いので注意が必要です。

また、売り手側を企業ごと譲渡されるので、通常の不動産売買よりも手間と時間が掛かる点には注意しましょう。

ここでは、不動産M&Aに掛かる税金について具体的に見ていきましょう。

株式譲渡スキームと会社分割スキームでは、税金も異なってくるので分けて説明していきます。

株式譲渡による不動産M&Aでは、買い手側への不動産取得税などの課税はなく、主に売り手側に税金が課せられます。売り手である株主に対し、株式譲渡益に対する税率約20%が課せられます。

ちなみに、不動産売却のみをした場合、売り手側には、売却利益で得る譲渡益に対して法人税や所得税が課せられます。

法人税は売却益に対し約30%。それに加えて法人税控除後に配当を受ける場合は残額に応じた税率で所得税が課せられ、残額が多ければ多いだけ課税率が高くなります(最大税率55%)。

対して、不動産M&Aでは、約20%の税金が課せられた残りは、すべて手元に残せるので高い節税効果を見込めるのです。

会社分割で不動産M&Aをする場合、新設分割時には売り手側、買い手側ともに次のような税金が課せられます。

  • 売り手:継承される資産や負債の損益に対する法人税
  • 売り手:対価が株主に交付される場合の株主への配当所得に対する所得税
  • 買い手:不動産継承のための不動産取得税

しかし、新設分割の場合、条件を満たすことで組織再編税制の特例措置を適用でき、売り手側は法人税や所得税が、買い手側は不動産取得税が課税されません。

ただし、株式譲渡が短期所有土地の譲渡と見なされる場合は、新設分割が租税回避行為とみなされるなど、税制上不動産M&Aが困難な場合もあります。不動産M&Aには専門的な知識が必要になるので、詳しい専門業者などに相談しながら進めるとよいでしょう。

企業ごと不動産を売買する不動産M&Aは、売り手企業、買い手企業とも節税が期待できます。

ただし、買い手側にとっては、企業を買収するのですから、例えば買収前には把握していなかった問題点が見つかるといったリスクもあります。そうした事態に陥らないためにも、専門業者によるデューデリジェンス(買収監査)などを事前に行い、リスク回避できるか検討が必要です。

また、売り手側も、買い手側が上記のようなリスクを恐れて不動産M&Aに二の足を踏んでしまうことのないよう、信頼のおける専門業者を利用することが重要です。

ただし、税制上不動産M&Aできないケースもあるので、まずは専門家に相談しながら進められることをおすすめします。

宅地建物取引士、FP2級技能士(AFP)
逆瀬川 勇造 氏
Yuzou Sakasegawa

明治学院大学卒。地方銀行勤務後、転職した住宅会社では営業部長としてお客様の住宅新築や土地仕入れ、広告運用など幅広く従事。
2018年より独立し、不動産に特化したライターとして活動している。

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