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海外投資家から見た
日本の不動産市場について

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海外投資家から見た日本の不動産市場について

投資対象として不動産が一定の価値を築いた昨今では、国境を越えた不動産投資も盛んに行われるようになりました。
2020年以降、世界的な情勢の変化が数多くありましたが、そのなかでも日本の不動産市場は海外の投資家から注目を集めています。
本記事では、世界的な不動産市場の動向や日本の位置づけを紹介し、なぜ海外の投資家にとって日本の市場が魅力的に映るのかを解説します。

目次

  1. 海外の不動産投資市場動向
  2. 海外における日本の位置づけ
    1. 2021年世界の都市総合力ランキング3位
    2. 経済分野に課題
  3. 海外から見た日本の不動産市場の価値
    1. 2022年も日本の不動産需要は継続する見込み
  4. 日本のインバウンド需要は今後どうなるのか
    1. コロナ禍で「働き方の柔軟性」指標で高く評価される東京

不動産の金融商品化により、不動産は投資対象として世界的に注目されるようになっています。
元々投資の対象としては株や債権などの資産が主流で、流動性の低い不動産は国を超えての取引が難しい側面がありました。しかし、日本におけるJ-REITのような不動産の証券化スキームの発展により、グローバルな不動産取引が手軽に行えるようになりました。

このような潮流の中で不動産市場は世界的に拡大していきましたが、2000年代にアメリカで起きたサブプライムローン問題により市場は一時停滞します。

アメリカでは当時住宅ブームを背景にサブプライムローン(信用力の比較的低い人に対する住宅ローン)の利用者が増加していましたが、2006年後半以降、住宅価格の下落に伴う返済遅延や差押が急増し、ローン会社は破綻。サブプライムローンは貸付債権として金融商品にも組み込まれていたため、その影響は金融市場全体に波及しました。

このサブプライムショックによって不動産投資市場は縮小しましたが、各国で講じられた金融政策により状態は徐々に回復し、近年では投資家による海外への不動産投資の取引額も大きく拡大しています。

不動産総合サービス会社のJLL(ジョーンズラングラサール)の調査では、2021年の世界の不動産投資額が前年比54%増の1兆2500億ドルと拡大し、統計調査開始以来過去最高になったと報じており、クロスボーダー投資(国境を越えての投資)が活発化していることがわかります。

日本から海外への不動産投資は前年並み、海外から日本へ向いた投資はコロナ禍前の水準に戻っており、クロスボーダー投資は増加傾向にあります。

出典:JLL 世界の商業用不動産投資額 2021年通年|JLL

海外からみた日本の都市における実力はどのくらいの位置づけなのでしょうか。「世界の都市総合ランキング」の資料をもとに解説します。

森記念財団による「世界の都市総合力ランキング」(GPCI)では、世界の主要都市の総合力を、経済・研究・開発文化・交流・居住・環境・交通・アクセスの6分野で複眼的に評価しています。

世界の48対象都市をランキングしており、2021年にはロンドン、ニューヨークについで東京が総合3位となりました。順位は前年と同じものの、ロンドンやニューヨークを追い上げる形となっており、特に「働き方の柔軟性」が改善されスコアを伸ばす結果となっています。4位以降はパリ、シンガポール、アムステルダムと続きます。

東京が抱える今後の課題は経済分野にあります。経済分野の上位4都市は、ニューヨーク、ロンドン、北京、東京と続き、前年から順位に変化はありません。

市場に魅力があれば経済分野でのスコアの加点に繋がりますが、例えば、証券取引所の時価総額の下降傾向が経済分野のスコアを落とす要因ともなっており、今後、GDP成長率の伸びが東京の課題となりそうです。そのためには、観光地などをより充実させることがキーポイントになるともいわれています。

出典:世界の都市総合力ランキング|森記念財団

ここからは海外から見た日本の不動産市場の価値について解説します。

コロナ禍で世界的な「カネ余り」が話題になる中、日本の不動産市場は海外投資家から注目を集めています。日本の不動産は規模と安定性に優れており、特に東京などの都市部の不動産賃料は世界的に見れば高いという見方があります。日本不動産研究所の資料をみると、東京のマンションの分譲価格を100とした場合、ニューヨークやシンガポール、北京は東京とほぼ同程度ですが、香港は205.2、ロンドンが175.8、台北が118.4、上海が116.9という数値で東京よりも割高です。
昨今の円安傾向からしても海外投資家から見ると日本への不動産投資は魅力的なものといえます。

JLLの2022年第一四半期の世界の都市別投資額ランキングでは、東京が14位、大阪は37位となっています。さらに「世界オフィス賃料調査」によれば、トップ10のうち3つを東京の丸の内・渋谷・新宿が占めており、東京以外でも名古屋が12位、大阪が21位に入るなど、日本の物件の市場価値の高さが覗えます。
こうした背景から、2022年も日本の不動産市場への注目は継続すると考えられるでしょう。

出典:ジャパンキャピタルフロー 2022年第1四半期|JLL

出典:JLL、世界86都市のプレミアムオフィスビル賃料を比較|JLL 世界オフィス賃料調査

日本の不動産投資市場を左右するインバウンド需要は、今後どうなっていくのでしょうか。コロナ禍で海外旅行がしづらい中でも、いずれインバウンド需要は復活すると考えられます。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響もあるため、この先の見通しは難しいでしょう。

海外投資家は何故、日本の不動産に投資するのでしょうか。背景としては、世界的なカネ余りの状況と急激な円安傾向が挙げられます。特に、都心部の不動産賃料は国際的にみても高い点、為替の面でも過去40年間の最安値水準にある点などが、海外投資家にとっては魅力的な市場となっています。

国土交通省が公表している地価LOOKレポート(令和4年度6月)によれば、地価動向は、住宅地・商業地ともコロナによる影響から緩やかな回復傾向にあり、堅調と言えます。
住宅地においては、マンションの販売状況が前期から引き続き上昇を維持しています。商業地においても低金利環境の継続などを背景にした投資需要を受け、下落地区は減少し、変動率区分が上方に移行した地区が複数出ています。

ウクライナ情勢は先行きの予想が難しいもので、不動産市場においても不確実性が増しています。資材高騰の影響で建築コストは上昇しており、今後、新築物件の価格は上昇していくと考えられます。そうなれば新築物件の不動産投資案件は利回り的にも芳しくない状況になり、結果的に中古市場へ目が向く格好になります。その結果、中古の市場価格もより上昇傾向になると予想されます。

日本の不動産価格は世界の市場価格から見れば比較的安価でありながら、東京都心のオフィス賃料や住宅賃料は高いという状況です。したがって、海外投資家にとって東京都心の不動産はデフレ印象の強い日本といえども付加価値が高い不動産投資市場であると認識できます。

「世界の都市総合力ランキング」(GPCI)において、2021年はロンドン、ニューヨークについで東京が総合3位となっている点は前述の通りです。さらに「働き方の柔軟性」において、2020年の41位から2021年では2位に急上昇しており、順位のアップにはこの点が大きく影響しています。

コロナの影響によるオフィス環境の変化やリモートワークなど、働き方の変化は柔軟性が増した部分であり、東京の働き方の柔軟性は海外の都市と比べてもトップレベルに達しています。

働き方の柔軟性の向上は、コロナ禍でのテレワークや在宅ワークの普及が功を奏した結果です。東京は世界の都市でも評価が高いため、今後も不動産投資市場としては魅力的な都市といえるでしょう。

グローバル化が進み、日本の不動産市場も世界の経済動向と切り離せなくなっています。世界の動向も着目し、世界から見た日本の位置づけも把握しておきましょう。

出典:世界の都市総合力ランキング|森記念財団

不動産投資アドバイザー(RIA)、住宅ローンアドバイザー(住宅金融普及協会&金融検定協会)、相続診断士、既存住宅アドバイザー、貸家経営アドバイザー
寺岡 孝 氏
Takashi Teraoka

住宅コンサルタント。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年に独立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行い、これまでに2500件以上の相談を受けている。