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誰でも役立つ不動産証券化の知識とは?

不動産投資

信託受益権

誰でも役立つ不動産証券化の知識とは

本記事では、一般の方にもご理解いただけるように、証券化スキームの専門的で詳細な部分よりもむしろ、資産運用や不動産投資に役立ちそうな本質的なポイントを中心に取り上げ、またこれに関連する商品として「J-REIT」、「不動産信託受益権」についても説明していきます

目次

  1. はじめに
  2. 不動産証券化とは
  3. 不動産証券化の目的
  4. 不動産証券化の仕組み
  5. 実際に投資してみようという方
  6. まとめ
  7. 不動産証券化の用語

 「不動産証券化」を解説する資料は、税務や法務についての知識が必要になるため、一般的に複雑で難解なものになりがちです。そのため、金融の専門家や不動産ファンドの実務関係者でない一般の方には敬遠されることが多いようです。
そこで本記事では、一般の方にもご理解いただけるように、証券化スキームの専門的で詳細な部分よりもむしろ、資産運用や不動産投資に役立ちそうな本質的なポイントを中心に取り上げ、またこれに関連する商品として「J-REIT」、「不動産信託受益権」についても説明していきます。

 「不動産証券化」とは、例えば国土交通省のWEBサイトの一文では「不動産の証券化とは、不動産の証券化という特別の目的のために設立された法人などが、不動産が生み出す賃料収入などの収益を裏付資産にして証券を発行して、投資家から資金を調達する手法※」等と説明されています。
(※国土交通省 WEBサイト「不動産証券化の実態調査」より引用)

 「流動化」という用語は、金融証券用語としての意味と、「資産の流動性を高める」という日本語的な意味を含んだ言葉として使用される場合で、その範囲と意味が少し異なります。
「資産の流動化に関する法律(以下「資産流動化法」)」の下記条文に準ずれば、上記の「不動産証券化」の取引も「資産の流動化」の一つとされます。

〇資産流動化法における「資産の流動化」
(「資産の流動化に関する法律」第一編「総則」第2条2より)

この法律において「資産の流動化」とは、一連の行為として、特定目的会社が資産対応証券の発行若しくは特定借入れにより得られる金銭をもって資産を取得し、又は信託会社(信託業法(平成16年法律第154号)第2条第2項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)若しくは信託業務を営む銀行(銀行法(昭和56年法律第59号)第2条第1項に規定する銀行をいう。以下同じ。)その他の金融機関が資産の信託を受けて受益証券を発行し、これらの資産の管理及び処分により得られる金銭をもって、次の各号に掲げる資産対応証券、特定借入れ及び受益証券に係る債務又は出資について当該各号に定める行為を行うことをいう。

一 特定社債、特定約束手形若しくは特定借入れ又は受益証券 その債務の履行
二 優先出資 利益の配当及び消却のための取得又は残余財産の分配

 本記事内では、特に明示しない限り「証券化」は「流動化」の意味を含み、また「流動化」は原則として、一連の証券化・流動化関連の枠組みを使って「複合的に流動性を高めたスキーム」を幅広く指す意味で使用します。
なお、「不動産信託受益権」については、これらの一連の証券化スキームでも特に重要な機能を提供し、それだけでも投資商品として機能することから「不動産証券化」商品として解説いたします。

 不動産証券化を「流動化」を含めた意味で、その本質的な目的・方法・効果をまとめてみました。

  • 目 的:不動産の流動性を高めること。
  • 方 法:不動産の権利を「証券」に変換する等して、小口化や集団投資等を合法的に実現し、資金調達や売買取引の多様な方法を可能にすることで、不動産の流動性リスク※を多様な投資運用ニーズにマッチする程度まで低減させる。
  • 効 果:特定の不動産の資金調達や処分を容易にしたり、不動産投資市場全体に対しては、国内外の多様な投資マネーを呼び込み、市場が活性化する。

※不動産の流動性リスクとは
不動産の「流動性リスク」とは、例えば資金が必要なときにすぐには換金できず、高金利の資金調達や希望価格での売却が困難で損失を被る、といったリスクです。
不動産は、その金額規模が大きいことから、売却先が資金力のある買い手に限定されたり、また利用ニーズ(立地や用途等)がマッチする買い手に限定される等の理由で、一般的に株式等の投資商品と比較して相対的に「流動性リスクが高い(=流動性が低い)資産」に位置付けられています。

不動産証券化の効果

「不動産証券化」は資金力豊富な機関投資家や富裕層に加えて資金力の少ない一般個人まで、また国内だけでなく海外投資家まで、幅広く多様な投資家の「投資マネー」を呼び込む効果があります。
この「投資マネー」には「金額規模」「運用期間」「リスク・リターン配分」、「市場相場変動リスク」等の多様な投資選好ニーズがあり、実物不動産投資だけでは、これらの一部にしか対応できないところを流動化の仕組みによって拡大することで市場活性化につながります。
なお、いくつか存在する「不動産証券化スキーム」には、それぞれ生まれた歴史的な背景や狙い、効果が異なり、生まれた当初の狙いや法整備、あるいは市場の認識が不十分だった時代には、市場活性化の効果が低い時期もあったように、スキームの内容や市場ニーズによって、呼び込める投資マネー、不動産市場全体に与える影響には差があります。

 次に、「市場活性化」という目的が必要となった背景と現在までの流れを整理しておきます。

2.1.「不動産証券化」が生まれた背景

 わが国で「不動産証券化」の一連の法的な枠組みが生まれた背景は、バブル崩壊による不動産を中心とした不良債権処理という政策的ニーズを発端として、下記のような同時進行していた不動産市場の構造変化と、不動産投資の意識の変化にあったと言えます。

不動産市場の構造変化

  • バブル崩壊=土地神話の崩壊~不確実性の時代
    →不動産は価格変動のあるリスク資産へ変化。
  • 土地神話の値上り益で隠されていた不動産固有の事業リスクが顕在化

不動産投資の意識の変化

上記構造変化により不動産投資スタンスも大きく変化。

  • 長期保有による含み益期待から、キャピタルゲインとインカムゲイン(運用収益)のバ ランス重視型へ変化
  • 不動産投資を「リスク対リターン」で投資する意識へ変化

2.2.時代のニーズと政策に合わせて変化

 例えば、不動産の小口化は証券化の大きな効果の一つですが、最近では従来よりも参入できる事業者の条件を緩和する等のいくつかの法改正があり、これによって地方の小規模な「空き家」のような不動産もインターネットによるクラウドファンディングで有効活用資金を集めるような流動化スキームも可能になっています。
いずれにしても、法制度と一体の不動産証券化スキームは、時代のニーズと政策的な思惑が絡み合って変化していくものと言えます。

 このように、不動産証券化は法制度(税制を含む)が密接に関係しており、古い記事等では法令改正後の内容と合っていないケースもあるため、最新の詳細な仕組みを把握するには注意が必要です。

 不動産証券化の目的の最後に、「メリット・デメリット」という形でもう少し具体的にみておきます。

3.1.売り手側から見たメリット

(1)オフバランス化として活用

 CRE(=企業等の保有不動産)の分野では、バブル崩壊の頃と同時に、グローバル基準の「時価会計」が導入されて以降は、企業資産の中で大きな比率を占める不動産は「リスク資産」とみなされるようになり、CRE戦略の重要性がクローズアップされるなかで、上場企業レベルではリスク資産を持たない経営を目指すことが当たり前となっています。
こうして「不動産証券化」を活用して企業が所有する不動産をバランスシートから消す=「オフバランス化」の流れが生まれました。

(2) 自己利用や買戻しも可能※な証券化

 近年では、本社ビルのような不動産をも証券化でオフバランス化する動きもCRE戦略の一環等で盛んに行われるようになっています。
本社ビルの売却では、またどこかのビルを借りる必要が出てきますが、これを借主として適正な賃料水準で継続使用することでオフバランス化と継続利用を両立した「セールアンドリースバック」が可能になりました。
また、「資金調達」を目的とした証券化であれば、実質的に買戻しが可能なスキームもあります。
(※オフバランス化前提のスキームでは100%買戻しが可能という訳ではありません)

(3)高く売れる可能性~グローバルマネーの流入

 不動産証券化市場ではグローバルで巨額な投資マネーも日本の不動産に投資を行っています。海外の投資家は、世界の不動産の利回りを確認しつつ、為替差損益なども含めて不動産の売買を決定します。この結果、売り手にとっては、国内投資家だけを相手にするよりも所有する不動産をより高く売れる可能性もあります。

3.2.買い手側から見たメリット

 一方で、買い手から見たメリットは以下のような点にあります。

(1)小口化メリット

 流動化スキームで小口化した商品では、数万円単位でも買える「J-REIT」や、一口500万円、1000万円といった、ある程度まとまった金額での投資商品等、投資家の資金力に応じた柔軟な不動産投資が可能になります。

(2)投資運用対象の多様化~オルタナティブ投資メリット

 投資金額の自由度が広がるだけでなく、現物不動産では難しい柔軟な運用期間設定や異なる用途の不動産へ投資するといった不動産投資の自由度が増します。
また、近年では、伝統的な運用投資対象である株式と債券への投資だけでは、分散投資効果が効きにくくなったと言われており、これ以外の資産への投資によるポートフォリオ分散投資(専門用語では「オルタナティブ(代替)投資」と呼ばれ、不動産もその一つ)の必要性も高まっています。
資金力の多寡を問わずオルタナティブ投資として不動産への分散投資がしやすくなったことも投資家側のメリットです。

4.1.売り手側から見たデメリット

(1)煩雑でコストがかかる

 不動産証券化の複雑なスキームを組むには、必要な契約手続きや各種申請など、実務専門家でないと難しい煩雑さがあり、時間や手間、コストが必要です。

(2)証券化できる不動産が限られる

(2.1.)投資対象として魅力がある不動産に限定される

 いくら証券化しようとも、投資家が期待する「投資メリット」が見込めなければ「売れない投資商品」となり、証券化する意味がありません。
従って、運用収益が安定的に見込める不動産や、将来の値上がり期待ができそうな立地等の、投資対象としての魅力がある不動産でなければ、現実的には証券化は困難です。

(2.2.)一定の規模が必要

 デメリットの(1)で述べた通り、証券化には一定の手間とコストがかかるため、このコストを差し引いても証券化メリットが期待できる金額規模が必要です。

(2.3.)遵法性が求められる

 遵法性に瑕疵がある物件はそのままでは法的に使用差し止めを受ける可能性や万一の場合は所有者責任を問われるケースもありますので、不測の損失リスクが高い物件は、コンプライアンス上の観点から、一般的には流動化対象不動産になりづらいと言えます。

 なお、現在では実務の定型化等で証券化コストが安くなっていることに加えて、小規模不動産等も多様な証券化ができる法制度の規制緩和も進んでいますので、これらのデメリットは一部解消されつつあります。しかし、そもそも「投資対象として魅力がある」、あるいは「開発によって投資家が期待する魅力的な不動産にできる」という条件がなければ「不動産証券化」が難しいことに変わりありません。

4.2.買い手側から見たデメリット

(1)相場変動によるキャピタルロスのリスク

 「不動産証券化」商品は預金のような元本保証はありません。
従って、最終的には配当金と売却差損益のトータルリターンで投資結果を見る必要があります。

(2)証券化コストの分だけ利益が減っている

 不動産証券化にはスキーム組成のためのコストがかかっていますので、その分、現物不動産よりも配当原資が減っていることになります。
しかし、一方で面倒な管理やマネジメントを不動産のプロに任せられること、また、大規模な不動産では、こうしたコストは相対的に小さいことから、必ずしも大きなデメリットという訳ではありません。

(3)リスクの本質が見えづらい

 証券化商品はスキーム毎にそのリスクとリターンの関係が多様化しており、どのようなリスクがどれくらいあるか、ということが見えづらくなる部分があります。
買い手(投資家)にとっては、多様な仕組みの不動産証券化商品が存在するため、その商品毎の違いを理解して、自分の資産運用ニーズにマッチした商品を選ぶ必要があると言えます。
また、米国のサブプライムローン担保証券では、信用度の低い個人への住宅ローンを証券化して様々な金融商品に組み込み、リスクが市場に拡散した状態で証券の不良債権化が起きて世界的金融危機の引き金となった例もあります。
「不動産証券化」は市場拡大の魔法の杖という訳ではないということです。

1.1.不動産の流動性リスクの課題を複合的に解決

 不動産証券化の具体的な仕組みの前に、「不動産証券化スキーム」の本質とは何かをみておきます。
「不動産の流動性を高める」という観点からみれば「不動産証券化スキーム=一連の証券化・流動化関連の枠組み」とは、下記のような複合的課題解決により不動産の流動性を高めたスキームと言えます。

  • 投資家の裾野を広げる投資金額の細分化や投資期間の柔軟性を高める仕組み
  • 投資家が期待する多様なリスク・リターン配分を生み出す仕組み
  • 現物不動産取引よりも税務的に不利にならない仕組み(後述の「二重課税回避」)
  • 運営事業者の倒産等で投資家が損失を被らない仕組み(後述の「倒産隔離」)
  • 以上のような課題を法規制に抵触しないで実現する合法的な仕組み

 「不動産証券化スキーム」とは、このような複合的課題を同時に解決する枠組みを「合法的」に構築することで可能になる資金調達や小口化による集団投資等のスキームであり、「流動性を高める=流動化リスクを低減する」というレベルを高めるための枠組みと言えます。

1.2.「不動産証券化スキーム」は「法制度や税制」と一体

 証券化関連法制は基本的には何らかを規制する内容のため、一見すると「道路封鎖や交通規制」の機能だけのように感じるかもしれません。しかし、市場拡大時の規制は、市場に悪影響を与えかねない取引や事業者等を予め規制することで市場に安心感を与えることができます。また、過去の規制の緩和や新規法制度では「この範囲と方法なら合法」ということを明確化することで、道路を整備し事業者が走りやすくなる「除雪車」のような機能も持っていると言えます。

 一方で、行き過ぎた市場拡大や何らかの問題発生の兆候が生じれば、政策的に何らかの「交通規制」をかけることも持続的な市場拡大には必要です。この「交通規制」と「除雪車」機能の双方を備えた法制度(税制を含む)こそが、不動産証券化スキームの具体的な仕組みの形を作っています。

 つまり、不動産証券化スキームは法制度や税制と一体の枠組みであり、前述のように市場動向や政策的ニーズにより常に変化していくということに注意が必要です。

 ここからは、具体的な不動産の証券化(流動化)スキームの概略についてご説明します。
下記の図は、不動産証券化の基本構造をまとめたものです。

不相談証券化の基本構造

 この図だけをみても、わかりづらい部分も多いかと思いますので、次項以下で、もう少し具体的にスキームの目的と効果、投資家からみたリスクとリターンの見方がお分かりいただけるようにポイントを絞って解説していきます。

3.1.不動産証券化の3つの類型

 目的類型からみた不動産証券化には大きく分けて以下のように3つの類型があります。

(1)資産流動化型

 オリジネーター(不動産保有者)がある目的(資金調達、資産処分、オフバランス化による財務体質改善等)のために特定の不動産をSPV(特別目的事業体)に譲渡し、その資産が生み出すキャッシュフローを原資に資金調達を行う仕組み。

(2)資産運用型

 複数の投資家を募って資金をSPV(特定目的)にプール(ファンド化)し、SPVを通じて不動産に投資し運用収益を投資家に分配する仕組み。

(3)開発型

 未稼働の土地等の開発目的で、SPVを通じて開発資金を調達する仕組み。資産流動化型の派生形であるが、倒産隔離で多額の開発資金を調達しやすくするといった目的等で活用される。

 当初は、資産流動化型が「資産ありき」、資産運用型では「資金ありき」のスキームという側面が強いと言えました。
また、歴史的にみれば、バブル崩壊後の不良債権処理目的で「資産流動化型」が制度化され、その後の法整備によってJ-REITや不動産私募ファンドのような「資産運用型」が本格的に可能になって、ようやく不動産証券化市場が拡大した、という経緯があります。

 一方、最近では「クラウドファンディング型」の流動化の仕組みのように、資金ありきの資産運用型が基本とは言え、まず「空き家」という不動産からスタートして、しかも、リノベ再生といった、「開発型」スキームの側面もあるため、単純な類型化ができないものも生まれています。

3.2.主な不動産証券化のスキーム

 法的枠組みからみた不動産証券化の主なスキームは、現在のところ大きく分けて、主に次の4つのスキームがあります。
各スキームは目的類型や対象不動産、集めたい投資家等の内容に基づいて最適と思われるスキームを選んで証券化されます。d.は何度かの法改正で可能になったa.~c.よりも新しいスキームです。

  • 資産流動化法に基づくTMK(特定目的会社)スキーム
  • 商法・会社法に基づくGK-TK(合同会社-匿名組合)スキーム
  • 投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)に基づくJ-REIT(不動産投資信託)型スキーム
  • 不動産特定共同事業法に基づくFTK(不特法型特例事業)スキーム

3.3.「倒産隔離」と「二重課税の回避」

 不動産証券化スキームの中でも投資家を集めるうえで特に重要な効果である「倒産隔離」と「二重課税の回避」について説明します。

(1)倒産隔離~投資家保護

 証券化ではオリジネーター(不動産の元の所有者)とSPV(ビークル:証券化の受け皿会社)にそれぞれ破たんリスクがあるため、投資家の利益に反する権利行使を回避する以下のような仕組みが必要です。

  1. オリジネーターが破たんした場合に不動産やSPVが影響を受けない仕組み
  2. SPVが破たんしにくい仕組み
  3. オリジネーターとSPVを実質的に切り離す仕組み=真正売買

(2)二重課税の回避~投資リターンを必要以上に減らさない

 不動産証券化における二重課税は、通常の法人課税方式では、不動産を証券化するSPV等に法人税がかかり、その後、投資家に配当する際に所得税や法人税がかかるという二重課税が生じます。
これでは証券化が普及しづらいために制度を創設する際に二重課税の回避措置ができるスキームが考え出されました。

 この他にも要因はありますが、既存の法制度や税制との兼ね合いを考慮しながら流動化の課題をクリアできる仕組みを編み出した結果、このような複雑なスキームが必要になっていると言えるでしょう。

3.4.不動産私募ファンドが利用するGK-TKスキームとは

 前掲した証券化の「基本構造図」を実際の法的枠組みの側面から理解するために、不動産私募ファンドの多くで活用されていて代表的な証券化スキームとして紹介されることが多い、c.のGK-TKスキームの事例で簡単にみておきます。

 GK-TK スキームとは、「GK=合同会社」、「TK=匿名組合」を組み合わせた投資ストラクチャーということで、こう呼ばれていますが、もっと広くとらえれば「SPV(特定目的事業体)とTK(匿名組合)を組み合わせたスキーム」と言えます。

GK-TKスキーム

このスキームを使う当初の理由は、一つは配当への二重課税を回避することと、信託受益権売買の非課税メリットという節税のためで、もう一つは、不動産特定共同事業法の適用による許認可を受けずに済む等のスキーム構築の簡便さからでした。
このようにGK-TKスキームは、節税メリットに加えて、不動産特定共同事業者の許可やSPV申請手続きが不要等という、柔軟で使い勝手の良い証券化スキームのため、多くの不動産私募ファンドがこのスキームを活用していますが、一方で平成19年に施行された金融商品取引法によって、金融商品取引業の登録を取得することが必須になり、このスキームへの規制が強化された部分もあります。

3.5.実物不動産と証券化商品のリスクとリターンの違い

 不動産証券化の主な基本構造としては、SPVが不動産を取得する際に、優先担保権を設定したノンリコースローン(保証のない不動産担保ローン)を銀行等から借り入れて、(負債=デットと呼びます)、その残りの資本(エクイティと呼びます)の部分を投資家が資金拠出するという形態が中心です。
従って、この場合は、エクイティ投資部分は担保の優先権を持つデット部分の金融債権者よりも投資元本毀損時の返済優先権が低いことになります。
J-REITでは、デット部分の借入比率が少なく、ミドルリスクミドルリターン、不動産私募ファンドの場合は、デットのノンリコースローンを多く借り入れてエクイティ部分のレバレッジを高くするハイリスクハイリターン型、とも言われています。

 一方、優先回収権が高い部分を小口化して投資家に販売するケースもあります。

 いずれにしても、各仕組みにおける、デットとエクイティの比率や、投資口の募集部分によってリスクとリターンの度合いが変わりますので、スキーム毎の出資する部分の違いも認識した上で、自分の期待するリスク対リターンのニーズに合っているかということを確認する必要があります。

 「信託受益権」を使うスキームだけが不動産証券化ではありませんが、特にGK-TKスキーム等で重要な役割を果たしている信託受益権について、もう少し詳しく解説します。

4.1.信託とは

 「信託」の意味については、例えば、一般社団法人「信託協会」のWEBサイトでは、以下のように説明されています。

「信託とは、自分の大切な財産を、信頼する人に託し、大切な人あるいは自分のために管理・運用してもらう制度のこと。
財産の管理・運用を、誰のために?どういう目的で?ということを自分が決めて、信頼できる人に託すこと(信託すること)が、信託の大きな特徴です。
財産を信託された人(受託者)は、信託した人(委託者)の決めた目的の実現に向けて信託された財産を管理・運用します。」

4.2.信託受益権と不動産信託

 次に、不動産の「信託受益権」とは何か(=不動産信託)についてみておきます。

(1)不動産信託の仕組み

 「信託受益権」は、資産をいったん信託銀行等の受託者に信託し、それによって取得した資産から発生する収入等を受託者から受け取る権利にしたものです。
この信託財産が不動産であるものが「不動産信託」です。

不動産信託の仕組み

(2)売買仲介の免許制度

 平成19年に金融商品取引法(以下、「金商法」という。)が施行されて以降は、「信託受益権」は金商法上の「みなし有価証券」となり、これを業として媒介等する場合には第二種金融商品取引業の登録が必要となりました。

4.3.信託受益権の節税メリット

 信託受益権の利便性は、GK-TK スキーム等における節税ニーズとも深くかかわっています。信託受益権の売買における流通課税が非課税である点がポイントです。
但し、信託受益権を解除すると、その時に不動産現物の売買と同じだけの流通課税がかかることにしてあるため、実質的には税の繰り延べですが、信託受益権のまま売買を繰り返す前提の不動産ファンド等にとっては大きな節税メリットがあります。

 最後に、実際に不動産投資をしてみようという方に向けて、誰もが数万円レベルの少額から資産運用できる「不動産証券化」の代表的商品である「J-REIT」と、数億円規模で一棟ビル等に投資できる商品として「不動産信託受益権」をご紹介しておきます。

 「J-REIT」から始めるとわかりやすい、というのは「投資対象」としての「不動産の特徴」を知ることで、自分なりの「資産運用戦略」が見えてくる、という意味です。以下では、この視点に沿ってご説明します。

1.1.「J-REIT」とは

 J-REITは多くの投資家の資金でオフィスビルやマンション、商業施設など複数の不動産などに投資しその賃貸収入や売買益を投資家に分配する不動産証券化商品です。
法律上は、「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づく投資信託に分類されますが、投資信託の運用対象資産が株式や債券ではなく「不動産」であるということです。

1.2.J-REITの種類~種類ごとに異なる投資対象や運用戦略

(1)アセットタイプ

 投資対象不動産の用途別の種類で、今のところは次の6つが主な分類です。
・オフィス、商業施設、住宅、物流施設、ホテル、ヘルスケア

 東京証券取引所がJリート市場を創設した2001年9月当初はオフィスビルに特化したJリート2銘柄の上場からスタートしましたが、2020年11月末ではオフィスは4割程度となり、多様化が進んでいます。
(東京証券取引所の発行「東証公式J-REITガイドブック」と一般社団法人「日本証券化協会」のWEBサイト「J-REIT.jp」に掲載された「J-REIT保有不動産の用途別比率」の資料より)

(2)単一型と複合型、総合型

 このアセットタイプの組み合わせにより、単一用途特化型と複数用途型に分けられます。さらに複数用途型は、2種類の用途で構成する複合型と、3種類以上のタイプに投資する総合型があります。
各型の特色は以下の通りです。

 まず、単一用途特化型は用途が限定されていてわかりやすいと言えます。
たとえば、住宅は景気変動の影響を受けにくく、安定性を重視するなら住宅という感じです。
タイプによっては景気変動のブレ幅が大きいので注意が必要です。
今であれば、コロナ禍の影響でホテル単一型の下落が大きいといった例です。

 一方、複合型、総合型では、用途が違う2種類以上を組み合わせるので分散効果があり、単一用途特化型よりも下落リスクが低い傾向にあります。

(3)投資エリア

 J-REITの投資エリア別の比率からみると、2019年10月で東京と首都圏で約9割近くのシェア※を占めています。
しかし、地方物件を組み込んだ銘柄もありますので、地域別のリスク分散をしたい方は、そうした銘柄を探して買うといいでしょう。

※一般社団法人「日本証券化協会」のWEBサイト「J-REIT.jp」に掲載された「J-REIT保有不動産の所在地別比率」の資料より。

1.3.J-REITによる資産運用~株式投資との違い~

 J-REITは少額から投資できるというだけでなく、数多くの組み合わせの銘柄の中から自分の投資ニーズに合った銘柄を探せることも魅力です。
一方で、大きな括りとしてのJ-REITは、株式投資信託、あるいは株式、国債、金といった他の投資商品と比較して、どんなニーズに向いているのでしょうか?

(1)株式と異なる相場変動~オルタナティブ投資として

 J-REITは、基本的には不動産の運用収益(収入ではなく管理運営コストと借入金利控除後の収益)の殆どを投資家が配当で受け取れる仕組みです。最近は株式会社も利益配当を増やす時代になりましたが、それでもJ-REITほどの利回り配当を行う企業は稀でしょう。
また、不動産証券化のメリットでも述べたように、代表的な投資商品の株式や債券以外の資産への投資による「オルタナティブ(代替)投資」としてのポートフォリオ分散投資の視点でJ-REITや、その他の小口化商品を検討してみるのもいいでしょう。

(2)直接投資とファンド・オブ・ファンズ投資

 J-REITの購入方法には、各銘柄を単体で直接購入する方法と、株式の投資信託と同じように複数銘柄を組み合わせたファンド・オブ・ファンズ型の投信の購入という2つの方法があります。後者にはJ-REITだけでなく海外REITを組み込んだもの等もあります。
各銘柄の直接購入では最低金額が銘柄別に異なりますが、1万円からでも買える、というのは、ファンド・オブ・ファンズ型の投資信託のことです。
実際に、個人投資家の場合はこのファンド・オブ・ファンズを購入しているケースが殆どであり、初心者にもこちらがおすすめです。

(3)J-REITの活用方法とは?

 J-REITの活用方法としては、下記のような特性を知ったうえで運用、投資を行うことがポイントと言えるでしょう。

  • 元本割れのリスクはある。
  • 配当利回りでみれば相対的に株式より高い。
  • 特定株式に投資して短期値上がりを狙うような投資には向かない。
  • 長期的な不動産(特に首都圏)の価値に連動した投資が可能。
  • 地震等の自然災害といった不動産固有のリスクがある。

 絶対的にこういう人に向いている、ということではありませんが、上記特性を考慮すれば、例えば、株式、金等との分散投資で資産のポートフォリオを構成し、中長期的に保有して運用配当を得ながらも、長期的なインフレヘッジをしておきたい人、等にはよい選択肢であるということが言えるのではないでしょうか。

2.1.資金力あれば不動産信託受益権も購入できる

 数億円以上の資金力があれば、一棟ビル等の不動産を購入することも可能です。通常は現物不動産の売り物件の中から探すのが一般的ですが、不動産投資ファンドが売買するような「不動産信託受益権」となっている物件も直接購入が可能ということをご存知でしょうか?
こうした物件は不動産ファンド間での売買のように市場に出づらいものが多いですが、通常の現物不動産と同じように売り物件として市場に出ているものも存在します。

2.2.不動産信託受益権の購入は現物不動産の購入とどう違う?

 まず、現物不動産と違って、比較的、金額規模が大きい不動産が中心になります。
売買時の流通税が非課税というメリットはありますが、何らかの理由で現物不動産に戻したい、となった場合はその時点で課税されます。
また、保有期間中は信託銀行等への信託報酬が必要で、一般のビル管理コストとは別のマネジメントフィーも含まれるので、一般的には現物不動産で運用するよりは実質の手取り収益は少なくなります。
しかし、既出の通り、信託受益権を業として売買仲介する場合は、第二種金融商品取引業の登録業者に限定されるため、普段お付き合いのある親しい仲介会社でなくとも、厳しい登録の許可を得ている信用、安心感はあります。

2.3.こんな人にお勧めの不動産信託受益権物件

 不動産信託受益権物件というのは、どのような方にお勧めなのかをまとめてみました。

(1)相続対策やインフレヘッジをしつつ長期安定収益を受け取りたい方

 別に本業があって多忙であるとか、難しい不動産の管理運営に煩わされるよりも、少々手数料がかかってもいいので、不動産運用のプロに任せて運用益だけを受け取りつつ、相続対策※や長期的なインフレヘッジ目的で不動産を保有したい。

※信託受益権物件の相続税評価は、受益者が誰となるかによって計算方法が異なります。
また、孫の代への資産承継といった相続対策手法が紹介されているケースもありますが、相続税の効果や計算は複雑な部分があるため相続対策で取得を検討される場合は税理士へのご確認をお勧めします。

(2)運用収益を楽に得ながらダイナミックにキャピタルゲインも狙いたい方

 運用益だけを楽に受け取りつつ、いざとなれば、自らの判断で売却するといった一棟ビル特有のダイナミックなキャピタルゲインを狙う投資をしたい。

2.4.信託受益権に特有のリスク

 なお、不動産信託受益権には不動産固有のリスクに加えて、以下のような「信託受益権」としての特有のリスクもあり、また信託契約の内容によっても異なる部分がありますので、実際の取得に際しては、下記内容と契約毎の詳細を把握したうえで取得することが大切です。

  • 受益者として負う信託法又は信託契約上の債務に関するリスク
  • 受益権の流動性に関するリスク
  • 受託者の業務・信用状態又は信託財産の信用状態に関するリスク 等

 不動産証券化の詳細実務は複雑でわかりづらい部分が多いですが、そこだけにとらわれずに、大きな視点から「不動産証券化」が生まれた背景やスキームの本質的な目的と効果を中心に理解していくことは、資産運用の幅を不動産という資産にまで広げて、自分の投資スタンスや資産運用ニーズにマッチした商品や組み合わせを柔軟に選ぶ上での大きな参考になるでしょう。

〇アレンジャー
不動産の証券化において、オリジネーター、レンダー、投資家等の間を取り持つ金融仲介を行い、各当事者のニーズを把握して、証券化の基本構造を構築する専門家です。
さらに、弁護士、会計士、不動産鑑定士等との専門的かつ実務的な交渉、および外部委託先選定等も行います。ストラクチャー構築後は証券引受先や融資先選定等も行うため、証券化スキームの全般において重要な役割を担います。

〇オリジネーター
保有不動産、不動産の信託受益権、不動産収益を裏付けとした貸出債権等をSPV等の証券発行主体(ビークル)に譲渡する者で、原資産保有者、資産譲渡人ともいわれます。

〇ストラクチャードファイナンス
新たに組成される金融商品によって企業と投資家とを仲介する高度な金融技術を表す「仕組み金融」のことを言います。
プロジェクトファイナンスや証券化といったストラクチャー(仕組み)を利用して企業が資金調達を行う手法もこう呼ばれます。

〇レンダー
投資家のうち、主にノンリコースローンを実行する金融機関のことです。

〇SPV・SPC・TMK
SPV(特別目的事業体、Special Purpose Vehicle)は、資金調達や資産の証券化など、ある特別な目的のために設立する事業体という意味です。
Vehicleは乗り物という意味であり、SPCや、SPCと類似するがSPCではない信託や組合なども含めたトータルな定義で使われています。

一方、でSPCは、特別目的会社(Special Purpose Company)の略であり、SPVの一種ですが、資金調達だけを目的とするような「会社」をいい、ペーパーカンパニーのような会社も含まれます。
これに対してTMKは特定目的会社の日本語のローマ字の頭文字であり、SPCのひとつですが、資産流動化法に基づく会社で、会社法に基づく会社とは異なります。

〇TK(匿名組合)
TKは「組合」という名前が付いていますが商法上の共同事業のための契約形態であり、通常の「組合」とは異なります。
TKの契約者は、通常の組合と異なり、匿名組合員同士は一切の契約関係にありませんので、TKの最大の特徴である「匿名性」が保たれます。この匿名性がTKをファンドとして利用する最大のメリットと言えます。

また、対外的法律関係を締結するのは、営業者であるため、組合員にとっての法律関係の煩雑さがないこともTKを利用する上でのメリットです。

営業者は不動産証券化スキームでは有限責任制を持たせるために、合同会社(GK)を採用し、GKと匿名組合員の間でTK契約を締結する、いわゆる「GK-TK スキーム」が主流です。