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家を相続する手続きの流れや名義変更の方法を解説

執筆者プロフィール

東本隼之
ファイナンシャルプランナー、マネーライター

独立系ファイナンシャルプランナーとして執筆業を中心に活動中。金融記事を中心に執筆・編集・監修を担当。税金・社会保険・資産運用・生命保険・不動産・相続分野を得意とし、自身の経験に基づいたライティングを強みとしている。難しい金融知識を初心者にわかりやすく伝えることが得意。

ざっくり要約!

  • 相続した家を売却したり活用したりするには、相続登記をしなければなりません。
  • 相続した家を3年以内を目安に売却すると節税効果が期待できます。

家を相続する際は、相続財産の調査や遺産分割協議、相続登記など、さまざまな手続きが必要です。相続登記をしなければ、家を売却したり活用したりすることができません。また、相続税がかかる場合は、相続を知ってから10ヶ月以内に申告しなければ、延滞税や無申告課税などのペナルティの対象となるので注意が必要です。

本記事では、家を相続する手続きの流れと、相続税がいくらになるかの計算方法を紹介します。

家を相続する手続きと流れ

家を相続する際は、以下の流れで手続きを進めるのが一般的です。

  1. 遺言書の確認
  2. 相続人の特定
  3. 相続財産の特定
  4. 遺産分割協議
  5. 相続登記
  6. 相続税の申告・納付

それぞれの手続きを詳しく見ていきましょう。

1.遺言書の確認

遺言書とは、被相続人(亡くなった人)が自身の財産を「誰に、いくら遺すか」を記載した書類です。遺言書は故人の意思として尊重され、相続において優先されるため、まずは遺言書の有無を確認することが大切です。

遺言書は、自宅や法務局、金融機関の貸金庫などに保管されていることが多いので、心当たりがある場所から探しましょう。1989年以降に公正役場で作成された遺言書は、全国の公証役場で遺言書の有無や保管場所が検索できます。遺言書が自宅で見つからないときは、公証役場で確認してみるとよいでしょう。

2.相続人の特定

遺言書がなければ、法律で決められた割合で「法定相続人」が相続するのが一般的です。

法定相続人には「配偶者+血縁関係で優先順位が高い人」が選ばれます。血縁関係者の優先順位は、第1順位 子ども、第2順位 父母、第3順位 きょうだいと決められており、順位の高い人がいれば、ほかの親族は法定相続人になることができません。

たとえば、被相続人に配偶者と子ども、父母がいた場合の法定相続人は「配偶者と子ども」になります。

遺産を相続する割合は、法定相続人の組み合わせによって以下のように異なります。なお、被相続人に配偶者がいない場合は、優先順位が最も高い人が100%相続することとなります。

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法定相続人の組み合わせ法定相続人相続割合
配偶者と子ども 配偶者 2分の1
子ども 2分の1
配偶者と父母 配偶者 3分の2
父母 3分の1
配偶者ときょうだい 配偶者 4分の3
きょうだい 4分の1

3.相続財産の特定

相続人が確定したら、被相続人の相続財産を確認します。相続財産には、現預金や不動産、有価証券などが該当し、住宅ローンなどのマイナスの財産も含まれます。

相続財産の確認漏れがあると、無申告加算税や過少申告加算税といったペナルティを受けたり、相続手続きのやり直しが必要になったりする原因になります。そのため、相続財産は入念に調査することが大切です。

なお、想定以上にマイナスの財産が多いときは、プラスの財産とあわせて「相続放棄」することも可能です。相続放棄の詳細は後述します。

4.遺産分割協議

遺産分割についての遺言書がない場合、あるいは遺言書とは異なる相続をする場合は「誰が、どの財産を、いくら相続するか」を決める遺産分割協議を行います。

遺産分割協議は、相続人全員が合意したうえで遺産分割協議書を作成することで成立します。そのため、遺産分割協議への参加を拒否したり、分割方法に反対したりする人がいる場合は遺産分割を進めることができません。

相続人が合意していない状態で遺産分割をすると、トラブルに発展する可能性があるので、弁護士や司法書士と相談しながら進めていきましょう。

5.相続登記

土地や家を相続する際は、不動産所有者の名義を変更する「相続登記」が必要です。

相続登記は、戸籍謄本や住民票などの必要書類を準備したうえで法務局で申請することで完了します。登記手続きに不安がある場合は、司法書士に相談してみましょう。

6.相続税の申告・納付

遺言書や遺産分割協議によって相続割合が決まったら、相続税申告の準備をしましょう。

相続税申告は、相続を知った日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。期限内に申告・納付できなければ、延滞税や無申告加算税などのペナルティ対象となるので、申告期限に遅れないように申告しましょう。

相続税の納付が困難な場合は、一定要件を満たすことで「延納」が認められます。ただし、延納期間に応じた利子税が加算されるので、可能な限り期限内に納付しましょう。

家の名義を相続人に変更する「相続登記」とは

相続登記とは、相続した土地や建物の名義を相続人に変更する手続きのことです。

相続登記をしていなければ、ほかの相続人が亡くなることで権利関係がより複雑化したり、法定相続分を無断で売却されたりする可能性があります。相続トラブルに巻き込まれないためにも、可能な限り早く相続登記をすることが大切です。

売却・活用するには相続登記が必須

相続登記をしていない土地や家は、賃貸物件として活用したり売却したりすることが基本的にできません。不動産を売却せずに所有していると、固定資産税や都市計画税などを負担し続けることになるので、遺産の分割方法が決まったら相続登記を進めましょう。

相続登記の必要書類

相続登記の必要書類は、遺産の分割方法によって以下のように異なります。

遺産分割協議による相続

  • 戸籍謄本・除籍謄本・住民票の除票(被相続人)
  • 戸籍謄本・住民票(相続人全員)
  • 固定資産評価証明書
  • 遺産分割協議書
  • 印鑑証明書(相続人全員)

法定相続分による相続

  • 戸籍謄本・除籍謄本・住民票の除票(被相続人)
  • 戸籍謄本・住民票(相続人全員)
  • 固定資産評価証明書

遺言がある/遺言執行者が選任されている相続

  • 戸籍謄本・除籍謄本・住民票の除票(被相続人)
  • 戸籍謄本・住民票(不動産取得者)
  • 固定資産評価証明書
  • 遺言書

相続登記には登録免許税が課される

相続登記をする際は「固定資産税評価額×0.4%」で算出した登録免許税を納めなければなりません。このとき必要な最新年度の固定資産税評価額は、自治体の固定資産課税台帳や納税通知書に記載されているので、事前に確認しておきましょう。

2024年4月から相続登記が義務化

2024年4月から相続登記が義務化されます。相続で所有権を取得したことを知ってから正当な理由なく3年以内に相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料が科されることがあるので注意が必要です。

なお、遺産分割協議が長期化したり、相続人が重病にかかっていたりなど、正当な理由がある場合は、過料の対象とならないとされています。

相続時に家を分割する4つの方法

相続時に家を分割する方法には、以下の4つが挙げられます。

  1. 換価分割
  2. 現物分割
  3. 代償分割
  4. 共有分割

それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

1.換価分割

換価分割とは、土地や家などを売却して得られた現金を相続人の間で分割する方法です。

換価分割には、現金がない状況でも相続財産を分割しやすいメリットがある一方で、不動産を手放さなければならないデメリットがあります。また、売却益に対して譲渡所得税が発生することもあるため、受け取れる相続財産が減ってしまう可能性があるので、どの分割方法が適切であるかを慎重に選ばなければなりません。

換価分割をする際は、代表相続人を決めて相続登記をしたうえで売却するのが一般的です。遺産分割協議が進まなければ相続登記ができないため、換価分割がスムーズに進まないケースも考えられるでしょう。

換価分割に期限はありませんが、売却したことによる対価を相続税の納税に充てる場合は、納税期日である相続開始から10ヶ月後までに売却しなければなりません。

2.現物分割

現物分割とは、家や有価証券などを売却することなく、そのままの状態で分割する方法です。たとえば、土地と家は長男、現預金を次男といった形で分割するケースが挙げられます。

現物分割では、株式や不動産を売却する手間がかからないので、手続きがスムーズに進みやすいメリットがあります。しかし、特定の相続人に遺産が偏ってしまうことがあるため、一部の相続人が不満を抱く可能性もあるので注意が必要です。

土地を現物分割する場合は、1つの土地を複数に分筆することも可能です。ただし、分筆後の敷地面積が建築基準法の最低限度に満たない場合や隣家との境界が確認できない場合は、相続した土地に建物が建てられなくなってしまうので、分筆前に確認しておきましょう。

3.代償分割

代償分割とは、特定の相続人が遺産を取得し、ほかの相続人に法定相続分に応じた代償金を支払う分割方法です。たとえば、評価額が1000万円の土地を2人で相続する場合は、土地を取得した相続人が、もう一方の相続人に500万円の代償金を支払うこととなります。

不動産の共有を避けられるため、共有名義でのトラブル回避にもつながります。また、被相続人と同居していた相続人が自宅を相続した場合、小規模宅地等の特例が適用となり、自宅の建つ土地の相続税評価が最大80%軽減されるため大幅な節税となります。

さらに、法定相続分で遺産を分ける代償分割は、遺産が均等に配分しやすいこともメリットの1つです。ただし、代償金を支払えるだけの資金力が必要となったり、評価額への認識が相続人間で異なったりすることが原因でトラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。

4.共有分割

共有分割とは、土地や家などの不動産を特定の相続人が取得するのではなく、相続人が共有状態で取得する方法です。

共有分割は、代償金を支払える相続人がいない状態でも、相続人に遺産を均等に配分できるメリットがあります。また、共有とすることで、不動産を売却したときには各々が控除特例が利用できるため、譲渡所得税の節税にもつながります。

しかし、家を取り壊したり売却したりするときに共有者全員の合意が必要となるため、売りたいタイミングに売れなくなってしまうリスクがあります。加えて、共有分割をした相続人が亡くなると、所有権が配偶者や子どもなどに移ることになるため、権利関係がより複雑になってしまうのが難点です。

家の相続にかかる費用

家を相続した際にかかる主な費用は、以下の通りです。

種類目安金額
登録免許税不動産の固定資産税評価額 ×0.4%
必要書類の取得費用数千円から数万円
専門家(司法書士・税理士)への依頼費用相続財産の0.5〜3%

専門家への依頼費用は、相続登記や相続税申告を自身ですることで節約できます。しかし、登記申請書に不備があったり、相続税計算を間違えていたりすると、手間や納税額の負担が増えてしまうことがあるので、可能な限り専門家へ依頼したほうがよいでしょう。

家の相続税の算出方法

家にかかる相続税は、建物と土地の相続税評価額から基礎控除を差し引き、相続税率をかけることで求められます。

建物の相続税評価額は、固定資産税と同額となるため、自治体の固定資産課税台帳や納税通知書などを確認しましょう。土地の相続税評価額は、国税庁が毎年1月1日に公表している「路線価」を用いて計算します。路線価とは、道路に面している土地の1㎡あたりの価額のことをいい、不動産時価の80%程度になるのが一般的です。

建物と土地の相続税評価額が求められたら、現預金や有価証券などの相続財産と合算します。墓地や墓石、仏壇などは非課税財産です。また、債務や葬式費用なども相続財産に該当しません。

相続財産の合計金額から基礎控除額を差し引くことで、相続税計算の基礎となる「課税遺産総額」が求められます。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 」で求められ、課税遺産総額が基礎控除額未満であれば、基本的に相続税がかかりません。

最後に、課税遺産総額に応じた相続税率をかけることで相続税の納税額が求められます。

課税遺産総額税率控除額
1,000万円以下10%
1,000万円超3,000万円以下15%50万円
3,000万円超5,000万円以下20%200万円
5,000万円超1億円以下30%700万円
1億円超2億円以下40%1,700万円
2億円超3億円以下45%2,700万円
2億円超6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

建物と土地の相続税評価額は、小規模宅地等の特例などを活用することで引き下げられる可能性があります。特例制度の適用要件は、複雑なケースが多いため、事前に税理士や不動産会社に相談するのがおすすめです。

相続したくない場合の相続放棄について

家を相続したくない場合は「相続放棄」をする選択肢があります。

相続放棄とは、被相続人の財産に対する相続権をすべて放棄することで、プラスの財産もあわせて放棄することとなります。そのため、家の相続だけを放棄して、現預金や有価証券のみを受け取るといったことができません。また、相続放棄した人に子がいたとしても、当該子は被相続人の財産を代襲相続することはできません。

相続放棄をするには、相続の事実を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをする必要があります。なお、相続放棄をする前に相続財産を使ったり、有価証券を売却したりすると、相続放棄ができなくなってしまうので注意が必要です。

相続放棄を希望する際は、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら手続きを進めましょう。

相続した家は「3年以内」を目安に売却すれば節税できる

建物や土地の売却によって利益を得た場合は、譲渡所得税を納めることとなります。譲渡所得税の納税額は、以下の計算式で算出した譲渡所得に税率をかけることで求められます。

譲渡所得 = 売却金額 ー (取得費 + 譲渡費用) ー 特別控除

取得費とは、建物や土地の購入代金や相続登記の登録免許税などの不動産の取得にかかった費用をいいます。先祖代々の土地のように取得費がわからない場合は「売却金額 × 5%」を概算取得費として計算するのが一般的です。譲渡費用は、売却時の仲介手数料や印紙税といった売却にかかった費用のことです。

特別控除には、一定要件を満たした場合に適用される「取得費加算の特例」や「相続空き家の3,000万円特別控除」などが該当します。これらの特別控除の適用を受けるには、相続した家を3年以内を目安に売却しなければなりません。

譲渡所得税の納税額を抑えるためにも、それぞれの特例の適用要件と節税効果を確認しておきましょう。

取得費加算の特例

取得費加算の特例とは、相続した家を相続を知った翌日から3年10ヶ月以内に売却することで、以下の計算で求めた金額を取得費に加算できる制度です。

取得費加算の特例は、建物や土地といった不動産だけでなく、株式や債券などの有価証券にも適用できます。ただし、事業として株式投資をしていた場合は、適用対象外となるので注意しましょう。

相続空き家の3,000万円特別控除

相続空き家の3,000万円特別控除とは、相続を知った日から3年目の年末までに家を売却した際に3,000万円の控除が受けられる制度です。すべての相続空き家が適用対象となるわけではなく、以下の要件を満たした場合に適用されます。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された建物である
  • 区分所有(マンション・アパート)ではない
  • 被相続人以外に居住者がいなかった
  • 売却までに賃貸などに活用していない
  • 売却時に耐震基準を満たしている、または建物を解体している
  • 売却代金が1億円以下である

相続空き家の3,000万円特別控除は、令和5年12月31日までが適用期限でしたが、令和5年度の税制改正によって令和9年12月31日まで延長されることとなりました。この税制改正に伴って、耐震リフォームや解体時期の適用要件が以下のように改正されているので、耐震基準を満たしていない空き家を所有している方は工事時期を確認しておきましょう。

現行(令和5年12月31日まで)改正(令和6年1月1日から)
売却時に耐震基準を満たしている、または建物を解体している売却する翌年2月15日までに耐震基準を満たしている、または建物を解体している

加えて、相続人が3人以上いる場合は、控除額が3,000万円から2,000万円に減額されます。譲渡所得が2,000万円以上になるのであれば、令和5年12月31日までに売却できるように調整するのがおすすめです。

まとめ

家を相続する際は、相続財産や遺言書の調査、遺産分割協議といった多くの手続きが必要です。期限内に手続きを進めなければペナルティを受ける場合もあるので、可能な限り早く手続きを進めましょう。

相続によるトラブルを防ぐには、生前贈与や遺言書作成といった事前の対策が欠かせません。相続に不安がある場合は「相続のプロ」に相談しておきましょう。

この記事のポイント

家を相続したら何から始めればいいですか?

遺言書を探しながら、相続人と相続財産を特定しましょう。その後、遺産の分割方法を決めてから相続登記の準備を進めます。相続税が発生する場合は相続発生後の10ヶ月以内に申告・納付しなければなりません。

詳しくは「家を相続する手続きと流れ」をご覧ください。

相続した家はいつまでに名義変更しなければなりませんか?

2024年4月以降は「相続で所有権を取得することを知ってから3年以内」に相続登記しなければなりません。正当な理由がなければ、10万円の過料が科せられる可能性があります。

詳しくは「2024年4月から相続登記が義務化」をご覧ください。

家の相続税はいくらかかりますか?

土地と家の評価額によって異なります。家にかかる相続税は、建物と土地の相続税評価額から基礎控除を差し引き、相続税率をかけることで求められます。

詳しくは「家の相続税の算出方法」をご覧ください。

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