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2023年基準地価発表!コロナ禍前を上回る上昇

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

国土交通省は9月19日、2023年の都道府県地価(基準地価)を発表しました。基準地価とは、全国約2万地点の基準値における7月1日時点の標準価格です。

全国平均は前年比+1.0%で、2年連続の上昇となりました。上昇地点の増加と上昇率の拡大は全国に広がっており、コロナ禍からの回復が顕著に見られています。

コロナ禍からの回復がより鮮明に

2023年の公示地価や路線価からもコロナ禍からの回復が鮮明であることが見受けられました。しかし、公示地価や路線価は、評価時期は2023年1月1日となっており、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行やインバウンドの復活、日経平均株価の急上昇などが起こる前の評価でした。今回発表された基準地価は、7月1日時点の評価となっているため、これらの事項が反映されており、事前の予想どおり回復傾向がより顕著な傾向が見られました。

2年連続プラスでコロナ禍前を上回る

国土交通省によれば、基準地価の全国平均は全用途平均・住宅地・商業地、いずれも2年連続で上昇し、上昇率が拡大しました。全用途の全国平均は、前年比「+1.0%」となり、コロナ禍前2019年の「+0.4%」を大きく上回っています。

2019年と2023年の訪日外客数の比較
※ 左軸:2019年訪日外客数、2023年訪日外客数(単位:人) 右軸:2023年訪日外客数の対2019年比率
出典:日本政府観光局(JNTO)

日本政府観光局(JNTO)によれば、2023年7月の訪日外客数は約232万人と、コロナ禍前の2019年の80%ほどまでに回復しています。1月時点では60%程度だったため、いかにこの半年でインバウンドが戻ってきたかがわかります。

日経平均株価の推移(終値ベース、2020年1月〜)

日経平均株価は、2020年3月19日のコロナショックの底値から2倍近く上昇し、コロナが5類に移行した2023年の5月8日からは12%ほど上昇しています。コロナが終息し、経済が本格的に再開されたことが、地価上昇の追い風になった一因になっていると考えられます。

一都三県の上昇率は急拡大

都道府県用途変動率(カッコ内は22年)
東京都 住宅地 +3.0%(+1.5%)
商業地 +4.5%(+2.0%)
神奈川県 住宅地 +2.1%(+0.8%)
商業地 +4.3%(+1.9%)
千葉県 住宅地 +2.5%(+1.0%)
商業地 +3.7%(+2.0%)
埼玉県 住宅地 +1.5%(+0.8%)
商業地 +2.0%(+1.0%)
一都三県の住宅地・商業地変動率

一都三県すべてで住宅地・商業地ともに地価が上昇しています。前年と比べると、上昇率はいずれも2倍前後に拡大しました。

東京都

東京都平均価格推移指数(用途別・地区別)

東京都平均価格推移指数(用途別・地区別)
(出典:東京都

東京都の住宅地は11年連続でプラス、商業地は昨年に続き2年連続でプラスとなりました。市区町村別でも島しょ部の商業地を除きすべてでプラスで、中でも都心5区の住宅地の平均上昇率は4.5%と高水準です。

順 位基準値の所在変動率
1台東区浅草1丁目17番911.9%
2台東区西浅草2丁目66番211.5%
3台東区浅草1丁目7番199.9%
4台東区浅草1丁目56番29.9%
5足立区千住3丁目70番29.7%
2023年基準地上昇率順位一覧(商業地)

商業地の上昇率トップから4位まではすべて浅草で、いずれの地点も10%前後と高い上昇率を示しています。浅草は国内有数の観光地であることから、インバウンドの復活と国内観光客の増加が起因しているものと考えられます。

神奈川県

神奈川県では交通利便性の高いエリアを中心に、住宅地・商業地ともに上昇率が拡大しました。2023年3月に開業した相鉄・東急直通線の影響により利便性が向上した羽沢横浜国大駅や湘南台駅などの周辺地域では、地価の上昇が継続しているようです。川崎市緑区の橋本駅周辺もまた、リニア中央新幹線事業への期待感から継続して上昇しています。

順 位住宅地(変動率)商業地(変動率)
1茅ヶ崎市(4.5%)茅ヶ崎市(8.8%)
2藤沢市(4.1%)川崎区(8.7%)
3大和市(3.8%)西区(7.6%)
地域別上昇率順位

すべての区が上昇した横浜市では、市内南部のバス圏でも上昇が見られています。市区町村別では、住宅地は4.5%、商業地は8.8%上昇した茅ヶ崎市がいずれもトップです。中心部以外の地価上昇が目立つ要因には、コロナ禍での働き方の変化による暮らし方の多様化が挙げられます。これまで下落傾向にあった県西部や三浦半島などでも上昇に転じた地点が見られ、下落しているエリアにおいても下落率が縮小しています。

千葉県

順 位住宅地(変動率)商業地(変動率)
1市川市(11.3%)浦安市(14.2%)
2浦安市(8.9%)市川市(13.0%)
3流山市(7.2%)船橋市(10.2%)
4船橋市(6.7%)流山市(8.7%)
5我孫子市(6.7%)一宮町(7.2%)
地域別上昇率順位

千葉県の住宅地の中で最も高い上昇率だったのは、市川市の+11.3%です。商業地のトップは+14.2%の浦安市となりました。両市は住宅地、商業地、いずれも上昇率が高く、東京都と隣接していることからコロナ禍で一層、人気が高まっています。市川駅前では再開発事業も進んでいることから、この期待感も後押ししているものと考えられます。

一方、東京から一定の距離がある銚子市や勝浦市、御宿町などの地方圏では、住宅地、商業地ともに下落が目立ち、県内で二極化が進んでいるようです。ただ、地方圏の中でも一宮町は住宅地が+2.4%、商業地にいたっては+7.2%と高い上昇率を見せています。一宮町は、東京オリンピック・パラリンピックのサーフィン競技会場に選ばれたことでサーファーからの人気が高まり、移住先としての需要も高まったものと推測されます。

埼玉県

市町村平均変動率(住宅地)

市町村平均変動率(住宅地)
(出典:埼玉県

埼玉県も千葉県と同様に、東京に隣接するエリアを中心に地価が上昇しています。上記、赤やピンクで示された上昇地点は前年の「30」から「35」に増加していますが、いずれにしても県南東部の東京に近いエリアであることがわかります。

用 途順 位基準値の所在変動率
住宅地 1 川口市芝2丁目8番78外 7.7%
2 川口市上青木1丁目5番14 7.4%
3 川口市飯原町239番2 7.1%
商業地 1 戸田市大字新曽字芦原2196番1 7.8%
1 戸田市大字新曽字柳原420番1 7.8%
3 さいたま市大宮区桜木町2丁目4番9 7.3%
変動率上位地点

住宅地の上昇率トップは3位まで川口市が独占しており、東京だけでなく、さいたま市にも隣接している利便性の高いエリアの需要が高まっているものと考えられます。商業地の上昇率1位は、商業集積度が高まっている戸田駅周辺です。

地方圏の住宅地は31年ぶりの上昇

一都三県のみならず、地方圏でも各地で地価の情報が見られます。地方圏の住宅地の地価上昇は実に31年ぶり、商業地の上昇は32年ぶりのことです。

地方4市の住宅地の上昇率は「7.5%」

札幌市・仙台市・広島市・福岡市の地方4市の住宅地の平均変動率は+7.5%と非常に高く、地方圏の上昇を牽引しました。地方4市では、全用途平均も11年連続で上昇しています。

上昇率が大きかった地点の特徴

順 位基準値の所在用 途 変動率
1熊本県大津町大字室字門出176番4商業地+32.4%
2熊本県大津町大字室字狐平1576番1工業地+31.1%
3北海道千歳市北栄2丁目1345番27商業地+30.8%
4北海道千歳市栄町5丁目3番外内住宅地+30.7%
5北海道千歳市東雲町5丁目52番住宅地+30.5%
全国全用途の上昇率順位

商業地、住宅地ともに上昇率トップの地点は熊本県と北海道が独占しています。1位・2位の熊本県大津町といえば、台湾の半導体メーカー「TSMC」の工場が誘致された菊陽町の隣に位置する町です。北海道千歳市もまた、半導体メーカーの「ラピダス」の新工場建設による期待感から地価が急上昇しています。

他にも軽井沢や鎌倉など、都市部へのアクセスも良く、移住先や観光地として好まれる地域の上昇が目立ちました。このことからも、暮らし方の多様化やインバウンドの回復が伺えます。

下落し続けるエリアとの二極化が進む

地方圏でも地価の上昇が目立つエリアがある一方、地方4市を除くその他の地域の平均変動率は-0.2%です。下落率は縮小しているものの、二極化は確実に進行しているといえるでしょう。

下落率が最も高かったのは、石川県の正院町正院の-10.6%です。石川県は日本海沿いの中でも数少ない上昇した県で、北陸新幹線開業の期待感から局所的に地価が大きく上昇したエリアも見られますが、県内でも二極化が進んでいます。

不動産価格はこれからどうなる?

不動産価格指数【住宅】(令和5年5月分・季節調整値)

不動産価格指数【住宅】(令和5年5月分・季節調整値)
(出典:国土交通省

基準地価は2年連続の上昇となり、上昇幅は全国的に拡大しています。上記の不動産価格を指数化したグラフからもわかるように、2013年頃から始まった不動産価格の高騰は、コロナ禍を経てさらに加速しています。

一方で、欧米諸国の金利上昇や中国の不動産市場の不振など、気になるニュースも昨今耳にします。日本の不動産市場は今後、どうなっていくのでしょうか?

日本の不動産価格に大きく影響する金利については、9月22日まで開かれていた日本銀行の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の維持が決まったことから、当面は急激に上昇することはないものと考えられます。日銀は昨年末、長期金利の変動幅を±0.25%から±0.5%に、7月にはさらに±1.0%へと修正しました。これにより住宅ローンの固定金利には若干の上昇が見られましたが、昨今、ほとんどの方が選択する変動金利に変化は見られていません。

また、日本の金利の低さと不動産市場の安定性は他国からも評価されており、訪日外客も増加傾向にあることから、住宅地だけでなく、投資物件やホテル用地、主要観光地などの需要も上がっていくことでしょう。

  • コロナ禍からの回復
  • 低金利の維持
  • 国内外投資家からの需要増

この3つにより、今後も日本の不動産市場は堅調に推移していくものと考えられます。

まとめ

2023年の基準地価の全国平均は2年連続の上昇となり、上昇率はコロナ禍前である2019年を大きく上回りました。地価が上がった地点に共通するキーワードは「都市部」「再開発」「インバウンド」「誘致」です。逆にこれに当てはまらないエリアでは下落傾向が続いていおり、全国的に二極化はさらに進行しています。

日本の不動産市場は今後も堅調に推移していくものと考えられますが、これは需要の高い場所・低い場所の二極化をより際立たせるものだといえるでしょう。不動産の売買を検討している方は、所有している不動産、購入を検討している不動産の将来性を考慮したうえで、売り時・買い時を見極めましょう。

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