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2023年「路線価」発表!コロナ禍からの回復が鮮明に

記事監修・取材先 さくら事務所会長 長嶋 修
1967年、東京生まれ。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。
業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動など、様々な活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。
2023年6月現在、登録者数6.5万人のyoutubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界を読む」)を運営。不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするyoutuberとしても活動中。

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

国税庁は7月3日、2023年の路線価を発表しました。全国平均は昨年に引き続き2年連続の上昇となり、上昇地点も増加するなど、コロナ禍からの回復傾向が顕著に見られます。昨今では、日経平均株価が3万3,000円を超え、33年ぶりに高値を更新したことも話題になっています。今後、不動産価格はさらに上がる可能性があるのでしょうか?

本記事では、さくら事務所の会長で不動産コンサルタントの長嶋修さんに伺った2023年の路線価の所感と今後の不動産市場の見通しをレポートします。

路線価とは?

路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価格を指します。路線価は、相続や贈与税の財産を評価する際にも適用される価格です。路線価は、公示地価の8割を目安に定められています。

路線価・公示地価・基準地価の違い

路線価と同様に、土地の価値を示す指標に「公示地価」や「基準地価」が挙げられます。3者の違いは、次のとおりです。

路線価公示地価基準地価
調査主体国税庁国土交通省土地鑑定委員会都道府県
調査地点全国約32万地点の宅地・田畑・山林等都市計画区域内の標準値都市計画区域外も含まれる基準値
鑑定方法公示地価等を基に評価2人以上の鑑定士が鑑定1人以上の鑑定士が鑑定
評価時期1月1日1月1日7月1日
発表時期7月1日3月中旬〜下旬9月中旬〜下旬

上昇率拡大!コロナ禍からの回復が顕著に

路線価が前年を上回った25都道府県と対前年比率

前年を上回った都道府県名対前年比率   
北海道6.8%
岩手県0.1%
宮城県4.4%
秋田県0.2%
山形県0.2%
福島県0.4%
茨城県0.4%
埼玉県1.6%
千葉県2.4%
東京都3.2%
神奈川県2.0%
石川県1.1%
愛知県2.6%
京都府1.3%
大阪府1.4%
兵庫県0.5%
岡山県1.3%
広島県1.4%
山口県0.4%
福岡県4.5%
佐賀県1.9%
長崎県0.6%
熊本県2.3%
大分県0.7%
沖縄県3.6%
(出典:国税庁

2023年の路線価の全国平均は前年比+1.5%で、2年連続の上昇となりました。上げ幅も前年比+1.0%と拡大しています。都道府県別の平均を見ると、25の都道府県が前年を上回り、都道府県庁所在地の最高価格は前年の約2倍となる29の都市で観測されています。全国的に上昇エリアが広がっている要因について、長嶋さんは次のように考察します。

「コロナ禍ではインバウンドがなくなり、国内の動きも弱まり、20年から22年上半期頃まで地価も頭打ち、あるいはマイナスになった地域も多く見られました。今回、上昇率が拡大し、上昇地点も増えたというのは、インバウンドや経済活動が戻り、コロナ禍の収束が見えてきたということの現れでしょう。」(長嶋さん、以下同)

東京・神奈川・埼玉は下落地点ゼロ

一都三県も、こぞって平均路線価が上昇しました。東京都と埼玉県は3年ぶり、神奈川県は15年ぶりに下落地点ゼロ。千葉県は、2010年以降最高の平均2.4%の上昇となりました。

「1度目の緊急事態宣言が明けた20年6月頃から、一次取得層を中心に住まいを見直す動きが加速しました。在宅時間が伸びる中、総じて手狭で遮音性も低い賃貸住宅から持ち家に住み替えたいという需要が増えたことで、東京23区だけでなく、都下や近郊エリアも上昇率が拡大しています。加えて、横浜など東京近郊の都市の地価が上がっているのは、23区の物件が高すぎるということも要因の1つだと考えられます。」

地方の上昇が目立つも、裏に潜む「三極化」

2023年の平均路線価は25都道府県が前年比で上昇し、昨年の20都道府県から大幅に増加しました。最も上昇率が高かったのは、北海道の6.8%。全国平均の1.5%を大きく上回るとともに、昨年の4.0%からも大幅に上昇しています。

地方都市上昇のキーワードは再開発・誘致

北海道が上昇率トップとなった要因には、北海道新幹線の延伸や札幌市の再開発事業、札幌近郊の北広島市の日本ハムファイターズ新球場の誘致などが挙げられます。

一方、都道府県庁所在地の上昇率は岡山市が札幌市を抑え、9.3%でトップとなりました。岡山市では、新たなランドマークとすることを目指して市役所の新庁舎建設が進み、再開発事業「杜の街づくりプロジェクト」も推進されたことが、路線価上昇に影響したものと考えられます。

また、平均上昇率2.3%の熊本県で上昇率が最も高かった熊本市菊陽町は、+19%と全国で二番目に高い上昇地点となりました。菊陽町といえば、台湾の半導体メーカーTSMCの進出で注目される町です。路線価上昇で目立つ地方のエリアは、いずれも再開発や誘致といった背景が見られます。

地方でも“億ション”がこぞって売り出される

都道府県庁所在地の上昇率トップとなった岡山市の市役所筋沿いで21年に分譲された『杜の街グレース岡山ザ・タワー』は、すでに中古物件が1億円を超える価格で売り出されています。昨今では、東京、大阪、福岡などの大都市以外でも、いわゆる“億ション”が売りに出されることが少なくありません。

「地方であっても、立地などの条件や分譲戸数さえ見誤らなければ高額な物件も売れます。その一方で、地価が下落し続けるエリアもあります。地価が維持あるいは上がるエリア・なだらかに低下するエリア・大きく下落するエリアの三極化は、大きな視点で見れば都心・都市近郊・地方の間で広がっていますが、フラクタル構造のように、県や市の、町の中でも進んでいるのです。」

路線価の評価時期と2023年下半期の異なる点

日経平均株価(終値)の推移(円) 2022年7月1日〜2023年7月6日

上昇率が拡大かつ上昇地点も増えた2023年の路線価ですが、評価時期は1月1日時点です。当時は、まだ新型コロナウイルス感染症の分類が5類に移行する前で、日経平均株価も2万5,000〜6,000円ほどでした。年明けから株価はぐんぐん上がり、6月には3万3,000円を突破しています。

「1月1日時点の評価ですので、この約半年間のインバウンドの復活や国内旅行者の増加、株価の上昇などは折り込まれていません。現時点では、路線価に現れている以上に地価は上昇しており、上昇している地点も増えているはずです。今年の路線価からさらに5〜10%上がっていると見ていいと思いますよ。もちろん、三極化が進んでいることから『上がっているエリア』に限定されますが。」

好立地の不動産価格はもう一段上昇の余地あり

ここ数ヶ月、日経平均株価のひと月の上昇幅は2,000円を超えています。不動産価格は日経平均株価とほぼ連動するといわれていますが、今後さらに不動産価格が上がることはあるのでしょうか?

「日経平均株価にしても、不動産価格にしても、市場を支えているのは金利。低金利だからこそ、ここまで不動産価格が伸び、昨今の株価の高騰が起こっているのです。4月に日本銀行の総裁が変わりましたが、今後、0.25〜0.5%ほど上げることはあったとしても、他の先進国のように急激かつ大幅に金利を上げることはできないと思います。今後、株価は4万円を優に超えてくるでしょう。それに伴い、好立地の不動産の価格はもう一段、上昇する余地があります。」

まとめ

2023年の路線価は2年連続の上昇で、上昇幅、上昇地点ともに拡大しました。コロナ禍からの回復が加速しているものと考えられます。しかし、7月に発表された路線価は、1月1日時点のものです。年明けからさらにインバウンドは戻り、消費は回復し、日経平均株価は急激に高騰しています。長嶋さんは「現時点では、路線価以上の上昇が見られるだろう」といいます。ただし、国内、県内、市内において格差は確実に広がっているため、すべてのエリアで上昇が見られるわけではありません。今後も不動産価格が上がる余地があると長嶋さんはいいますが、これは三極化をより進めることも意味します。

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