区分所有法 改正
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区分所有法改正へ!2024年に変わることをわかりやすく解説

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

法制審議会は2023年1月、区分所有法の改正に関する要綱案をとりまとめました。要綱案には、主に高経年マンションで課題となっている「決議の取りにくさ」を解消するための仕組みを中心とした項目が盛り込まれています。改正法の施行は、2024年中を予定しています。

区分所有法とは?

区分所有法とは、マンションや団地といった区分所有建物の管理や権利、利用方法などの基本的なルールを定めた法律です。正式名称を「建物の区分所有等に関する法律」といいます。

マンションや団地は、それぞれの所有者が有する専有部分に加え、エントランスやエレベーター、共用施設などの共用部分に大別されます。専有部分については所有者が自由に管理・維持ができますが、共用部分と分離しているわけではなく、建物全体の管理や修繕、建て替えなどについてはすべての所有者が話し合い、決定していかなければなりません。

つまり、区分所有法は、一つの建物に複数の人や世帯が暮らす集合住宅を円滑に維持・管理・再生するための法律といえます。

区分所有法改正の背景

今回、区分所有法改正が議論されている背景には、以下のような問題があります。

高経年マンションの増加

分譲マンションストック戸数の推移

分譲マンションストック戸数の推移
出典:国土交通省「マンションを取り巻く現状について」

国土交通省によれば、2021年末時点のマンションストック総数は約685.9万戸あり、年々増加傾向にあります。

高経年マンションストックの数と推計

高経年マンションストックの数と推計
出典:国土交通省「マンションを取り巻く現状について」

さらに、このうち築40年を超える高経年マンションは115.6万戸にのぼりますが、およそ20年後の2041年には、2021年時点の約3.7倍の425.4万戸に達するといわれています。

住民の老い

マンション居住者のうち60歳以上のみ世帯の割合(平成30年度住宅・土地統計調査)

マンション居住者のうち60歳以上のみ世帯の割合(平成30年度住宅・土地統計調査)
出典:国土交通省「マンションを取り巻く現状について」

老いていくのは、マンションだけではありません。マンションに住む人の高齢化も進んでおり、管理組合の役員の担い手不足や総会の運営や議決が困難になっているマンションも多く見られます。建物の高経年化と住人の高齢化は「マンションの2つの老い」といわれ、社会問題になりつつあります。

所有不明所有者・空き家の増加

建て方別空き家数の推移

建て方別空き家数の推移
出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」

空き家というと一戸建てというイメージが強いかもしれませんが、マンションや団地といった共同住宅の空き家数も決して少なくありません。直近の2018年の調査では、全国の空き家数は846万戸。このうち半数以上を共同住宅が占めています。とくに都市部では共同住宅の空き家の数が多く、東京都では空き家に占める共同住宅の割合は7割を超えています。

近年では相続や投資のためマンションを取得するケースも増えているため、所在不明や非居住の所有者の増加も懸念されています。

現行の区分所有法の課題

区分所有法では、マンションや団地といった共同住宅の円滑な維持・管理・再生を推進するため、決議の要件が定められています。現行法における決議に必要な多数決要件は、以下のとおりです。

決議の内容多数決要件
共用部の簡易な修繕など(普通決議)所有者の過半数
共用部の構造に関わる大規模修繕(特別決議)所有者の4分の3以上
建て替え所有者の5分の4以上  

高齢者や外国人の所有者が多い、あるいは所有者不明、非居住所有者の割合が高いマンションでは、上記の多数決割合では合意形成が難航します。とくに高経年マンションはメンテナンスや修繕、建て替えが喫緊の課題となっているケースも多く、これらの決定のための議決以前の費用の積み立てや修繕計画のための議決を取ることさえままならないマンションも散見されます。

建て替えが実施されたマンションはごくわずか

マンション建て替え等の実施状況

マンション建て替え等の実施状況
出典:国土交通省

国土交通省によれば、2023年3月までに建て替えなどが実施されたマンションは、わずか282件にとどまります。2014年にマンション建替え円滑化法が改正され、マンション敷地売却事業や容積率の緩和特例の適用対象が拡大となったことで、近年では同法に基づく建て替えや敷地売却の数が増えましたが、それでも年間10件ほどしか実施されていません。

修繕積立金不足も深刻

修繕積立金の積立状況

修繕積立金の積立状況
出典:国土交通省「管理・修繕に関するテーマの検討」

国土交通省が行った2018年度のマンション総合調査によれば、「現在の修繕積立金の残高が計画に対して不足していない」と回答したマンションは、わずか33.8%にとどまります。一方、「不足している」という回答は34.8%。「不足していない」と回答したマンションを上回っています。2021年にはマンションの修繕積立金に関するガイドラインが改訂となり目安の金額が増額しましたが、修繕積立金額を上げるとしても普通決議が必要であり、それに伴う修繕計画や管理規約の改正には特別決議が必要です。

2024年改正へ!区分所有法改正のポイント

区分所有法の改正案には、決議の円滑化を図る仕組みおよび多数決要件の緩和策が盛り込まれています。今後は2024年内の改正を目指し、議論が進められる予定です。

決議円滑化のための新たな仕組み

現行制度では、相続などにより所在が不明となっている所有者であっても決議の母数に参入されることから、このような所有者が多いマンションではなかなか多数決要件を満たせないことが問題となっていました。改正法の要綱案では、管理組合などから請求があったとき、裁判所は所在等不明の所有者とその議決権を総会決議から除外することができるとしています。

所有者不明でなくとも、高齢・病気・怪我・海外居住などの理由から所有者が決議に出席できないケースも見られることから、以下の決議では、基本的に現行法の多数決割合を維持しつつ、所有者ではなく「出席者」の多数決による決議を可能とする仕組みも要綱案には盛り込まれています。

  • 普通決議
  • 共用部分の変更
  • 復旧決議
  • 規約の設定・変更・廃止の決議
  • 管理組合法人の設立解散の決議
  • 義務違反者に対する専有部分の使用禁止請求・区分所有権等の競売請求の決議および専有部分の引き渡し等の請求の決議
  • 管理組合法人による区分所有権等の取得の決議

また、国外居住の所有者は、国内居住者を「国内管理人」に選任できる案も盛り込まれています。国内管理人は、保存行為や総会における議決権の行使などができるとされています。

多数決要件の緩和

要綱案には、多数決要件の緩和策も盛り込まれました。まず、建替え決議は所有者および議決権の「5分の4以上」の賛成が必要ですが、以下のいずれかの事由が認められる場合にはこの割合が「4分の3以上」に緩和されます。

  • 耐震性の不足
  • 火災に対する安全性の不足
  • 外壁などの剥落により周辺に危害を生ずるおそれ
  • 給排水管などの腐食などにより著しく衛生上有害となるおそれ
  • バリアフリー基準への不適合

また、共用部の変更決議については、現行制度では所有者および議決権の「4分の3以上」の賛成が必要ですが、次の変更については「3分の2以上」の賛成に緩和されます。

  • 他人の権利などが侵害されるおそれがある場合における共用部分の変更
  • バリアフリー基準への適合

区分所有法改正でマンションの建て替えは進むのか

区分所有法の改正により決議円滑化のための仕組みの構築や多数決要件の緩和がされれば、建て替えや変更の決議は取りやすくなるでしょう。しかし、多数決要件が緩和されるのは、耐震性不足やバリアフリー基準への不適合などが認められるマンションに限られる見通しです。さらに、建て替えでは多くの場合、所有者に費用負担や転居に伴う負担が強いられるため、改正法により建て替えが可能になるマンションは限定的と考えられます。

とはいえ、同法改正は建て替え決議以前の適正な維持・管理をしやすくする効果もあるはずです。昨今では、長期修繕積立金ガイドラインの改定や管理計画認定制度の開始など、マンションの管理に関する法改正が相次いでいます。所有者は、このような改正を他人事とは思わず、マンションを適正に維持・管理する管理組合の一員である意識を持つことが大切です。

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