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対抗要件とは?不動産における意味や民法での役割をわかりやすく解説

執筆者プロフィール

桜木 理恵
資格情報: Webライター、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、管理業務主任者

大学在学中に宅地建物取引士に合格。新卒で大手不動産会社に入社し、売買仲介営業担当として約8年勤務。結婚・出産を機に大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し約5年勤務。その他信託銀行にて不動産事務として勤務経験あり。現在は不動産の知識と経験を活かし、フリーランスのWebライターとして活動。不動産や建築にまつわる記事を多数執筆。「宅地建物取引士」「2級ファイナンシャル・プランニング技能士」「管理業務主任者」所持。

ざっくり要約!

  • 対抗要件とは第三者に自分の権利を主張するための要件で、不動産の売買における対抗要件は登記をすること
  • 不動産の所有権は売買契約を締結しただけでは第三者に権利を主張できず、対抗するためには不動産登記をしなければならない

普段の生活において、対抗要件を意識して商品を購入、もしくは譲り渡すことはまずないでしょう。しかし不動産は1つとして同じものがなく、また高額なので、権利を主張するために対抗要件を有しておく必要があります。

対抗要件とは、第三者に自分の権利を主張するための要件です。売買契約を締結して手付金を授受していても、所有権移転登記をしなければ、第三者にその権利を主張できません。つまり不動産の売買においては、登記が対抗要件になります。

この記事では、対抗要件について詳しく解説します。実際の事例や不動産登記をしないときのリスクについても紹介しますので、この機会に対抗要件について理解を深めておきましょう。

対抗要件の基礎知識

対抗要件とは、第三者に自分の権利を主張するための要件です。不動産の売買においては不動産登記が対抗要件になります。つまり登記をすることで、第三者に所有権を主張できます。対抗要件について、もう少し詳しく解説します。

対抗要件とは

対抗要件とは第三者に自分の権利を主張するための要件で、不動産の売買における対抗要件は登記をすることです。

たとえ売買契約を締結していたとしても、登記をしなければ第三者に所有権を主張できません。

売主が2人と売買契約を締結した場合(二重譲渡)、先に登記をした人が権利を得ることになり、売買契約の順序は関係ありません。

実際に最高裁の判例でも、所有者AからBが不動産を買い受けたものの、その登記が未了の間に、AからⅭが当該不動産を二重に買い受けて、さらにⅭからDが買い受けて登記を完了したケースが紹介されています。このとき、Ⅽが背信的悪意者にあたる場合でも、DがBに対する関係で背信的悪意者であると評価されない限り、当該不動産の所有権についてDはBに対抗することができるとした事例があります。(最高裁判例平成8年10月29日平5(オ)956号)

出典:最高裁判例一覧|不動産適正取引推進機構

対抗要件は、権利によって異なります。不動産の対抗要件は登記ですが、たとえば借地権は「土地の上の建物を所有すること」、動産の場合は「引き渡しを受けること」が対抗要件です。

民法における対抗要件の位置づけ

本来契約は、売主と買主の意思表示で成立します(民法176条)。たとえばお店で商品を買う場合、買い手側が「買う」と意思表示し、売り手側が「売る」ことを承認すれば、売買は成立します。

しかし民法177条によれば、不動産の権利の取得や変更については、登記をしなければ第三者に対抗できないと定めています。

つまり売主・買主間で契約は成立しますが、二重譲渡になった場合は、先に登記をした人が権利を有することになります。

出典:民法|e-Gov法令検索

対抗要件の適用例

不動産取引における対抗要件をより理解するために、この章では適用例を紹介します。

不動産取引における対抗要件

売主Aは、所有する土地の売買契約を買主Bと締結した後、Bよりも高値で買うと申し出たⅭとも売買契約を締結します。そして先にⅭへの所有権移転登記を済ませた場合は、Ⅽが所有権を得ることになり、Bはその所有権を主張できません。

しかしAとBの契約自体は有効であるため、BはAに対し損害賠償請求をすることができます。

この場合、Aは二重譲渡になることを知っていたことになりますが、売主も知らないうちに二重譲渡になるケースもあります。

売主Aが買主Bとマンションの売買契約を締結した後に死亡し、売買契約をしていることを知らない相続人がⅭへ売却するために売買契約して登記を済ませた場合、マンションの所有権はⅭが得ることになります。

買主Bは先に売買契約を締結していますが、登記を済ませていないため、Cに対して権利を主張できません。

債権譲渡時の対抗要件

債権とは「ある特定の人に金銭の支払いや行為を求めることができる権利」です。そして債権に対して支払いや行為の義務を負うことを債務といい、債務を負う人を債務者といいます。

債権は、債務者の承諾なく譲渡することができます。しかし債務者に対抗するためには、債権を譲渡した人から譲渡した事実を通知してもらう必要があります。なぜなら急に債権を求められても、真の債権者であるかどうか判断できないからです。

では債権譲渡を第三者に対抗するためには、どうしたらよいでしょうか。

民法では、第三者に対抗するためには、譲渡した人から債務者に確定日付のある証書(内容証明郵便など)で通知し、債権者が承諾する必要があるとしています。

そして二重譲渡の場合は、日付が早い方が債権者であると判断します。

ちなみに内容証明郵便で通知する以外に、債権譲渡の登記をする方法もあります。

不動産登記と同じように、先に登記をした人が権利を主張でき、債権譲渡の登記証明書を添付して債務者に通知します。

出典:民法|e-Gov法令検索

担保(譲渡担保)と対抗要件

担保(譲渡担保)とは、金銭などを借り入れる際に、動産(機械や車両など)を担保とすることです。不動産を担保とする場合は抵当権を設定しますが、動産も担保として設定できます。

借り入れた金銭を返済したら、動産の権利は債務者に戻りますが、債務不履行の場合は債権者に譲渡されます。

通常は、譲渡担保設定契約を締結しますが、第三者に対抗するために動産譲渡登記をするのが一般的です。

対抗要件における不動産登記の役割

第三者に所有権を対抗するためには、不動産登記をする必要があります。この章では登記の役割と、登記をしない場合のリスクについて解説します。

登記の役割と対抗要件との関係

売主・買主間の取引は、売買契約で成り立ちますが、第三者に権利を主張する(所有権を対抗する)ためには、不動産登記が必要です。

決済日には、不動産の所有権が第三者に移転していないことを確認したうえで買主は残代金を支払い、その場で司法書士へ所有権移転登記の申請を依頼します。

その日のうちに所有権を移転しますが、これは第三者に所有権が移転することを防ぐためです。

不動産登記をしない場合のリスク

不動産の売買契約を締結しても、不動産登記をしなければ第三者に権利を主張(所有権を対抗)できません。

たとえ売主に悪意がない場合でも、第三者が先に登記をすることでその権利を主張できなくなります。

基本的に残代金を支払った日に所有権の移転登記を申請しますが、解体する予定の建物については所有権移転登記を行わず、解体後に滅失登記をすることがあります。

売主が建物を第三者に売却する可能性は低いともいえますが、売主が信頼できる人物であるかどうか見極める必要はあるでしょう。

対抗要件に関するよくある疑問

売主が1つの不動産を2人に売却した場合は、二重譲渡になります。不動産は登記をしなければ、所有権を第三者に対抗できません。しかし第三者が犯罪とも思える行為している場合でも、所有権を主張できないのでしょうか。

この章では、対抗要件に関するよくある質問をQ&A形式で紹介します。

対抗要件と第三者の関係とは?

不動産の所有権は、売買契約を締結しただけでは第三者に権利を主張できず、対抗するためには不動産登記をしなければなりません。

しかし第三者が、詐欺や脅迫などの犯罪行為により登記を妨げる人や不法占拠者、背信的悪意者である場合は、登記をしなくても対抗できるとされています。

ちなみに背信的悪意者とは、真の所有者である人の権利を害する目的でわざと不動産購入したり、相手に不利益を与えるために、自分に所有権があることを主張したりするような人のことをいいます。

対抗要件の例外と特例とは?

二重譲渡になっていて、買主の一方が背信的悪意者であった場合は、登記をしていなくても不動産の所有権を主張できます。

しかし背信的悪意者がさらに第三者に売却して登記を済ませた場合は、その第三者に対して権利を主張できません。

つまり、背信的悪意者から不動産を買い受けた人が、背信的悪意者でない限り、その権利は保護されます。

二重譲渡を受けた相手側が背信的悪意者であっても、さらに所有権を移転される可能性があり、安心できませんので注意しましょう。

対抗要件にまつわる法改正の影響

相続法の改正により、相続不動産に関する対抗要件のルールが変更になりました。最後に、相続した不動産に関する対抗要件の変更点について解説します。

法改正での対抗要件の変更点

これまで遺言により相続した不動産については、登記をせずとも第三者に対抗できるとされていました。

しかし第三者が相続不動産の権利に影響を与える可能性があることから、法定相続分を超える部分については、相続登記をしなければ第三者に対抗できないと改められました。

相続登記が義務化

2024年4月1日から、相続登記が義務化されます。これまで相続登記は任意でしたが、相続登記がされないまま放置され、所有者がわからない土地が全国で増加したことが社会問題となり、相続登記が義務化されることになりました。

相続人は、土地や建物を相続したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。

相続登記をしない場合は、10万円以下の過料が課される可能性があるため注意しましょう。

なお、現時点で相続している土地や建物で、登記していない場合も対象になります。3年間の猶予期間はありますが、なるべく早く登記するようにしましょう。

出典:民法改正(相続関係)に伴う著作権法の一部改正 概要|文化庁
出典:相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地!~|東京法務局

この記事のポイント

対抗要件とはどんなもの?

対抗要件とは第三者に自分の権利を主張するための要件で、不動産の売買における対抗要件は登記をすることです。たとえ売買契約を締結していたとしても、登記をしなければ第三者に所有権を主張できません。

売主が2人と売買契約を締結した場合(二重譲渡)、先に登記をした人が権利を得ることになり、売買契約の順序は関係ありません。

詳しくは「対抗要件の基礎知識」をご覧ください。

対抗要件における不動産登記の役割とは?

不動産の売買契約を締結しても、不動産登記をしなければ第三者に権利を主張(所有権を対抗)できません。

たとえ売主に悪意がない場合でも、第三者が先に登記をすることでその権利を主張できなくなります。

詳しくは「対抗要件における不動産登記の役割」をご覧ください。

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