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マンションの大規模修繕工事とは。いつどんな工事をするのか、必要性や金額、資産価値への影響を解説

マンションで安全・快適に暮らし続けるには、定期的な大規模修繕工事が欠かせません。今回はマンションになぜ大規模修繕工事が必要なのか、その理由と工事内容、資産価値への影響を解説します。

①マンションの大規模修繕工事と目的

マンションの大規模修繕工事(以下、大規模修繕)とは、その名前の通り、足場などを設置して行う大規模な修繕工事のことをいいます。

建物も設備も、長年、風雨・紫外線にさらされることで、少しずつあちこちが傷み、劣化してしまいます。傷んでいる程度なら問題ありませんが、そのまま放置すると外壁が剥がれてしまったり、天井に穴があいてしまったり、手すりがさびついてしまったり。ときには漏水や断水といった不具合・事故が生じ、暮らしに支障をきたすこともあります。こうした経年劣化による影響をできるだけ抑え、マンションで長く快適に暮らすために欠かせないことが大規模修繕です。

大規模修繕の目的は、建物そのものを長持ちさせることにあります。特に大切になるのが、コンクリート内部の劣化を防ぐことです。コンクリートはひび割れや防水層の亀裂などがあると、水や空気が入り込んでしまい、内部から急速に劣化が進み、強度を保つことができません。こうした目に見えない劣化を防ぐために、傷みが軽度のうちに発見・修繕する必要があるのです。

これは人間の体にも似ています。定期的に健康診断をして、生活を改善して病気になることを防ぐことを「未病改善」といいますが、建物の大規模修繕も同様です。コンクリートや鉄筋が痛んでボロボロになる前に、傷みが軽度のうちにメンテナンスを行うことで、結果として建物そのものを長持ちさせることができるのです。

②大規模修繕のタイミングと内容

では、大規模修繕はいつ、どんなタイミングで、どんな内容を行うのでしょうか。

まず、時期ですが国土交通省令和3年度マンション大規模修繕工事によると大規模修繕の1回目は築15年以下、2回目は築26~30年、3回目は築41年以上で実施されていることがわかっています。イメージとしては、12年~15年に1度行われると想定しておくとよいでしょう。

続いては、修繕の内容です。大規模修繕では、主に外壁補修工事、屋上防水工事、鉄の塗装工事などを行います。特に外壁・屋上・ベランダは、風雨にさらされ、劣化しやすい箇所です。そのため、防水・洗浄・塗装工事を行うのです。ほかにも、駐車場やエントランス、駐輪場、エレベーターなどのメンテナンスを行います。また、普段は住民が占有使用している部分(バルコニーや玄関扉の外側、サッシなど)も工事対象になります。

大規模修繕の目的は、あくまでも躯体を長持ちさせることにあります。そのため、普段暮らしている自宅部分(いわゆる専有部分)の不具合や間取りの変更などは、基本的には別途、個人でリフォームします。もちろん、大規模修繕で、給排水設備工事を行うときに、工事のオプションとして、キッチンや洗面、バス・トイレの交換を行うこともありますが、あくまでもオプションであり、別料金が発生します。マンションで長く暮らす予定であれば、別途、自身で積立てをしておくとよいでしょう。

③大規模修繕にかかる費用はどこから出る?

分譲マンションを購入している人であれば、購入時に諸費用の一つとして「修繕積立基金」(50万円~80万円程度)を支払っていることもあるかもしれません。実はこのお金は、大規模修繕の不足分を補填する役割として前もって支払っているのです。この基金に加え、毎月、管理費とは別に「修繕積立金」を積み立てていき、時期を迎えたら大規模修繕工事を行うのが一般的です。

大規模修繕の全体の予算ですが、マンションの戸数・規模・駐車場のタイプや規模、エレベーターの台数などによって大きく変わってきます。ただ、目安となる費用は1戸あたり100万円前後です。そのため、300戸以上のように大規模マンションになれば、総額で数億円単位のお金がかかります。いかに大きなプロジェクトであることがお分かりいただけると思います。

④修繕積立金の値上げによる資産価値への影響

マンションの修繕工事の予算は、建物の形状や規模、立地、仕上げや共用施設、所有者のニーズなどによって変動します。マンションによっては修繕積立基金がなかったり、発売時に設定されていた修繕積立金が少なめに見積もられていため、入居してから値上げせざるを得なくなったというケースもよくあります。また、マンションの建設時期によっては、修繕積立金そのものがなかったり、管理組合が機能していないこともあります。

ただ、昨今の物価高、エネルギーや資材価格、人件費の高騰といった厳しい状況を鑑みたとき、今後、マンション修繕積立金が安くなる要素はあまりありません。また、建物が想像以上に傷んでいたり、積立金では不足ということもあるでしょう。そのため、今後、修繕積立金を値上げせざるを得ない管理組合が多く出てくることが予想されます。

では、修繕積立金が値上がるとどのような影響があるのでしょうか。大きくメリット・デメリットで解説しましょう。

<メリット>

  • 適切にメンテナンスでき、築年数を重ねても暮らしやすい
  • マンションの資産価値を維持しやすく、売却・賃貸しやすい

<デメリット>

  • 修繕積立金の支払いが苦しくなる世帯がでてくる
  • 修繕積立金が回収できないことがある
  • 値上げによって入居者同士のいざこざが発生することがある

もちろん、居住者のみなさんが値上げに賛成し、適切にメンテナンスができるのがいちばんです。美しく手入れされたマンションは、築年とともに味わいを増して「ヴィンテージマンション」になることもあるでしょう。

一方で、どんなものでも「値上げ大歓迎」という人はそうはいません。経済状況は家庭によって異なります。定年をむかえた人や教育費がかかる人など、修繕積立金がアップすることで支払いが苦しくなる家庭も出てくることでしょう。

そのため、修繕積立金の値上げは、一筋縄ではいきません。管理組合、居住者、管理会社で険悪になってしまうこともあります。また、仮に値上げをしたことで、支払えない住戸がでてきた場合、督促や差し押さえなどが発生することも。どちらにしても、難しい決断を迫られることになります。

⑤大規模修繕期間中の生活・制限事項

大規模修繕工事が行われるのは基本的に平日昼間です。おおよそ日常生活は行えますが、一定期間のストレスや不便が生じることもあるでしょう。まず、建物周囲に足場が組まれて覆いがかけられるので、部屋からの視界が遮られます。作業時間中は、臭いや粉じんが室内に入るのを防ぐため、窓を開けられなくなったりすることもあります。また、バルコニーにものを置いている場合は片付け、場合によっては撤去しなくてはいけません。

作業で自宅内部を横断する必要がある場合、アポイントにあわせて、工事スタッフを部屋に通す必要があります。ほかにも、以下のようなことを求められる場合があります。

  • エアコンの室外機を移動する
  • 廊下や階段・エレベーターの工事中は迂回
  • 駐車場の車を移動する

ただ、円滑に工事を行うためには居住者の理解と協力が欠かせません。一定期間は必要なこととして協力するのがよいでしょう。

マンションと一戸建てを比較し、マンションの方がしがらみが少ないと言われたのは、昔の話です。分譲マンションの維持管理は利害関係が入り組み、マンションの資産価値にも直結します。また、マンションが築年数を重ねるほど、住民も同時に年を重ねることになります。「高齢化が進んで管理費も修繕積立金も値上げしたくてもできない」「老朽化が激しくて売却できない」といった「老朽マンションの問題」は、すでにあちらこちらで起きています。

もちろん、一戸建てであっても、修繕は必要になります。自分たちで修繕用に貯金しておき、時期がきたらリフォーム会社に見積もりをとって金額と内容、日程を決めて自分たちで行わなくてはいけません。ただ一戸建てであれば、家庭の事情、経済状況にあわせて決めることができます。マンションのように管理組合や修繕委員会などの調整は不要です。

修繕をするうえで、マンション、一戸建てのどちらのメリットを取るのかは考え方によります。マンションは売却しやすい時期に売却し、コンパクトな一戸建て、平屋などに住み替えるという選択肢も、十分考えられることでしょう。


嘉屋恭子(かやきょうこ)  FP(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

編集プロダクションなどを経て、2006 年よりフリー。現在は SUUMO ジャーナルやフリーペーパー「○○で家をたてる」など、主に住まいや地域活性化の領域で取材執筆活動を行う。現在、横浜市内に夫と子 2 人、猫 1 匹で暮らす。