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長期優良住宅のメリットとデメリット、制度や条件、申請の流れを解説

執筆者プロフィール

海老原政子
ファイナンシャル・プランナー/住宅ローンアドバイザー

国内の生命保険会社にて生命保険募集人業務に携わるなかでライフプランの重要性に目覚め、生活者視点を活かしたFP業務を開始。千葉で、家計相談や執筆業務、個人・企業向けマネープランセミナーをおこなう。生命保険見直しや住宅ローンの借り換え、貯蓄ができない家計の体質改善アドバイスなど、わかりやすい情報提供が好評。

住宅購入(住み替え)を検討する際、終の棲家として「長く住める、質の高い住宅が欲しい」と考える人が多いと思います。そのような方であれば「長期優良住宅」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
今回の記事では、長期優良住宅とはどのような住宅か、長期優良住宅のメリットやデメリット、認定を受ける方法や必要書類についてまとめました。

長期優良住宅とは

長期優良住宅とは、数世代に渡って住み続けるに足る設備で、耐震性能や省エネ性能に優れており、かつ、補修や点検が計画されている住宅のことです。基準は「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」で定められており、決められた手順に沿って認定を受ける必要があります。

快適な住環境を保ち、長く住める住宅という安心感とは別に、長期優良住宅の認定を受けると、固定資産税の減税などさまざまな優遇を受けられます。住宅購入の選択肢として、検討の余地は十分にあるでしょう。

長期優良住宅の仕組み

長期優良住宅として認定を受けるためには、建物の設計や設備などが認定基準を満たしていることに加え、工事後は維持保全計画書に沿って点検や修繕を実行し、その記録を保管していく必要があります。

そのため、新築・増改築ともに、まずは着工前までに認定手続きを申請し、認定通知書の交付を受けましょう。

通常の建築工程より複雑になりますので、長期優良住宅の認定申請に手慣れた建築業者を選び、工期のゆとりを確認しつつ検討を進めるのが大切です。

長期優良住宅の認定基準

長期優良住宅の認定基準には次に挙げる10個の性能項目があり、そのすべてを満たす必要があります。詳細については後段にまとめているので、参考にしてみてください。

  1. 劣化対策(構造躯体の基準)
  2. 耐震性
  3. 省エネルギー性
  4. 維持管理・更新の容易性(設備配管の基準)
  5. 可変性(天井高さの基準)
  6. バリアフリー性
  7. 居住環境
  8. 住戸面積
  9. 維持保全計画
  10. 災害配慮

長期優良住宅のメリット

長期優良住宅認定を受けるメリットをみていきましょう。

住宅ローン控除・金利の優遇

2022年度の税制改正により、住宅ローン(年末時点の住宅ローン残高)の控除率は0.7%に引き下げられました。控除期間は新築住宅が13年間、既存住宅が10年間です。

長期優良住宅と一般住宅では、借入限度額に差があります。借入額が大きいほど、控除による恩恵も大きいと言えるでしょう。

【長期優良住宅・新築の場合】
2022年・2023年入居→借入限度額=5000万円
2024年・2025年入居→借入限度額=4500万円

【一般住宅・新築の場合】
2022年・2023年入居→借入限度額=3000万円
2024年・2025年入居→借入限度額=0円(※1)

(※1)2024年以降に建築確認を受ける新築住宅は、省エネ基準適合が住宅ローン減税の要件となるため対象外。

フラット35を利用される方は、金利の引き下げなどの優遇措置もあります。

たとえば、フラット35S(金利Aプラン)とフラット35維持保全型を併用した場合、当初5年間は年0.5%金利がさらに引き下げられます。またフラット50を利用すれば、返済期間も50年に延長可能です。

投資型減税・不動産取得税の減税

前項の「住宅ローン減税」と次にお伝えする「投資型減税」は、併用はできません。しかし床面積が大きい住宅を建てる方は、住宅ローン減税より最大控除額が大きい投資型減税を活用するほうがより大きなメリットを享受できる可能性があります。

投資型減税とは、標準的な性能強化用相当額(住宅の構造にかかわらず45,300円に床面積を乗じて得た金額)の10%相当額(上限650万円)をその年分の所得税額から控除できるというもの。仮に、住宅床面積を140㎡とすると634.2万円の10%相当額≒約63万円を所得控除可能です。なお、その年に控除しきれなかった分については翌年分の所得税額から控除できます(合計所得金額に上限あり)。

また、不動産取得税の優遇もあります。一般住宅が最大控除額1200万円であるのに対して、長期優良住宅は1300万円(+100万円)まで控除額が増額されるのです(※2)。

(※2)2024年3月31日までに新築された住宅が対象。床面積制限あり。

固定資産税の減税期間を延長

もともと新築住宅には固定資産税が1/2に減額される特例がありますが、長期優良住宅の場合さらに期間が延長されます。

【戸建て住宅の場合】
一般住宅:1/2減税の適用期間=3年間
長期優良住宅:同上期間=5年間

【共同住宅の場合】
一般住宅:1/2減税の適用期間=5年間
長期優良住宅:同上期間=7年間

いずれも2024年3月31日までに新築された住宅が対象、床面積制限あり。

長期優良住宅のデメリット

当然ながら長期優良住宅にはデメリットもあります。ケースごとに考えていきましょう。

通常の住宅よりも時間がかかるケースがある

長期優良住宅を建てる場合、建築着工までに申請手続きをおこなう必要があります(長期使用構造などの確認申請~認定通知書の交付)。そのため、一般住宅と比較して着工までに1週間から1カ月程度、余計に時間がかかることも珍しくありません。長期優良住宅を検討している場合は、ゆとりをもってマイホーム探しをはじめるのがおすすめです。

建築のコストが増額するケースがある

長期優良住宅の認定を受けるため、建築物は所定の基準を満たす必要があります。配管設備や点検口の設置、バリアフリー性や耐震性の確保など、一般住宅より高コストになりがちです。また工期が長いということは、完成までにより多くの職人日当が発生するため、人件費も上がる傾向にあります。

維持保全のためのメンテナンスが必要

認定基準のひとつに「維持保全計画」という項目があります。一般住宅においても、外壁の塗り替えや住宅設備の入れ替えなどの修繕や維持管理はありますが、頻度やグレードは決まっていません。

一方、長期優良住宅は、完成後も申請時に提出した計画に沿って長く維持保全をおこない、記録保管をする必要があります。維持管理を怠った場合、認定取り消しもあり得ることを覚えておきましょう。

長期優良住宅を受ける方法と必要な書類

続いて、長期優良住宅の認定の要件と申請の流れ、その際に必要となる書類を確認していきましょう。

長期優良住宅を受ける方法

長期優良住宅の認定を受けるには、認定基準をすべて満たす必要があります。申請のタイミングも重要で、着工前に登録住宅性能評価機関に確認申請をおこない、確認書の交付を受けること、所轄行政庁に認定申請をおこない、認定通知書の交付を受けることが必要です。

10項目の認定基準をすべて満たす

【1.劣化対策】…数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること
劣化対策では、劣化対策等級<等級3>、かつ、構造に応じた基準を満たすことが条件です。たとえば木造建築物の場合、床下有効空間を確保し、床下・小屋裏に点検口を設置するなどの点が挙げられます。

【2.耐震性】…きわめて稀に発生する地震に対し、継続利用のための改修を容易化するため、損傷のレベルの低減を図ること
耐震性の基準をクリアするためには、下記のいずれかを満たすことが必要です。

  • 耐震等級<等級2>である。
  • 耐震等級<等級1>、かつ、安全限界時の層間変形1/100(木造の場合1/40)以下である。
  • 住宅品質確保促進法に定める免振建築物である。

【3.省エネルギー性】…必要な断熱性能などの省エネルギー性能が確保されていること
断熱等性能等級<等級4>であることが必要です。

【4.維持管理・更新の容易性】…構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備について、維持管理(清掃・点検・補修・更新)を容易におこなうために必要な措置が講じられていること
戸建て住宅、共同住宅ともに、維持管理対策等級<等級3>を満たす必要があります。共同住宅の場合、このほか、更新対策等級<等級3>であることも条件となります。

【5.可変性】…居住者のライフスタイルの変化などに応じて間取りの変更が可能な措置が講じられていること
戸建て住宅の場合、基準適用はありません。共同住宅などでは、躯体天井高さ2650ミリメートル以上であることが条件に挙げられます。

【6.バリアフリー性】…将来のバリアフリー改修に対応できるよう共用廊下などに必要なスペースが確保されていること
こちらも戸建て住宅の場合、基準適用はありません。共同住宅などでは、高齢者等配慮対策等級<等級3>である必要があります。

【7.居住環境】…良好な景観の形成、そのほかの地域における居住環境の維持および向上に配慮されたものであること
地区計画や景観計画などの街並みに関する計画がある場合、それらとの調和を図ることが条件です。事前に申請先の所轄行政庁に確認しておきましょう。

【8.住戸面積】…良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること
戸建て住宅ならば75㎡メートル以上、共同住宅ならば55㎡以上の住戸面積が必要です。少なくともひとつの階の床面積は40㎡以上、とるようにしましょう。地域の実情に応じて、数値の引上げ、引下げがあるケースも見られます。

【9.維持保全計画】…建築時から将来を見据えて、定期的な点検・補修などに関する計画が策定されていること
以下の部分や設備について、定期的な点検・補修などに関する計画を策定します。

  • 住宅の構造耐力上主要な部分
  • 住宅の雨水の浸入を防止する部分
  • 住宅に設ける給水または排水のための設備

【10.災害配慮】…自然災害による被害の発生の防止または軽減に配慮されたものであること
災害発生のリスクのある地域では、そのリスクの高さに応じて措置を講じる必要があります。申請先の所轄行政庁に、事前にしっかりと確認しておきましょう。

登録住宅性能評価機関の性能評価を受ける

申請者(建築主・分譲事業者など)は認定申請に先立ち、登録住宅性能評価機関へ長期使用構造であるかの確認の申請(住宅性能の技術的な審査依頼)をおこないます。登録住宅認定機関はそれを受けて審査をおこない、確認書または設計住宅性能評価書を交付します。

認定通知書の交付を受ける

所管行政庁に確認書などの必要書類を添付し、長期優良住宅の認定申請をおこないます。

長期優良住宅の申請に必要な書類

申請はご自身で行うことが可能です(そのほうがコストがかかりません)。ただ、図面など必要書類の入手や申請書類の入手・記入などをすべて自分でおこなう必要があるため、難しい場合は住宅業者などに手数料を払って申請の代行をしてもらう方法もとれます。

以下、申請書類に必要な書類についても簡単に触れておきます。

認定申請書

申請者や認定を受ける住宅に関する情報、維持管理の方法や期間、費用概算額などの情報を記載して、以下に示す添付書類とともに所管行政庁(※)に申請します。

※住宅所在地を管轄する自治体(都道府県または市区町村)。申請書ひな形も自治体HPからダウンロードできる場合が多いため、「住宅の所在地 長期優良住宅」で検索してみましょう。

設計内容説明書

設計者名や構造材の種類、基礎の高さなどを詳細にまとめた資料。住宅が申請書のとおりに設計されているかを示すものです。

各種図面・計算書

設計内容説明書では説明できない部分を補足するため、建築図面や計算書などを添付します。

そのほか必要書類

認定計画実施者を単名から連名(連名から単名)に変更する場合は認定変更申請が別途必要です。また取りやめる場合にも所定の書式により申請が必要です。

まとめ

長期優良住宅の認定を受けるには、一般の住宅購入にはないプロセスがあり大変だと思いますが、数々の税制・金利優遇があることは事実です。これらが人生100年時代をともに過ごす、快適で長持ちする住宅を手にする一助となることは間違いありません。

ただし、税制は猫の目のようにクルクルと変わります。上手に制度を利用できるよう情報収集をして備えましょう。

この記事のポイント

長期優良住宅は減税に有利なのか?

投資型減税・不動産取得税の減税、固定資産税の減税期間の延長などさまざまな優遇を受けることができます。ただし、着工までの手続きにより時間がかかるケースもあるので注意しましょう。

詳細については、「長期優良住宅のメリット」をご確認ください。

長期優良住宅の認定を受けるには?

劣化対策や耐震性、エネルギー性、住居面積などの10項目の認定基準を満たし、性能評価を受ける必要があります。

詳細については、「長期優良住宅を受ける方法」をご確認ください。

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