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オーバーローンとは?住宅ローンと財産分与のトラブル解決方法を解説

執筆者プロフィール

海老原政子
ファイナンシャル・プランナー/住宅ローンアドバイザー

国内の生命保険会社にて生命保険募集人業務に携わるなかでライフプランの重要性に目覚め、生活者視点を活かしたFP業務を開始。千葉で、家計相談や執筆業務、個人・企業向けマネープランセミナーをおこなう。生命保険見直しや住宅ローンの借り換え、貯蓄ができない家計の体質改善アドバイスなど、わかりやすい情報提供が好評。

ざっくり要約!

  • オーバーローンとは住宅ローン借入額(残債)が物件の価値を上回る状態
  • オーバーローンで住宅を購入した場合、オーバーローン状態を早期に解消しておくのがおすすめ

人生最大の買い物ともいえる「マイホーム購入」。結婚を機に家を買う人やお子様が小学校に入学する前に買う人など、購入のタイミングも人それぞれです。なかには頭金や諸経費をためつつ、並行して住宅購入を検討している方がいるかもしれません。

金融機関や住宅ローンの申込者次第ではありますが、初期資金が少ない方にとって選択肢のひとつとなり得るのが、物件価格に諸費用などを含めて住宅ローンを組む「オーバーローン」です。

オーバーローンとは?

オーバーローンとは、「オーバー」の名が示す通り、住宅ローン借入額(残債)が物件の価値を上回る状態を指します。

借り入れ当初からオーバーローンで住宅ローンを組むケースがまずひとつ。もうひとつは、借り入れ当初はオーバーローンではなくとも、住宅ローンを組んで一定時間経過後に、地価や物件の評価額が下がった結果、オーバーローン状態になるケースです。住宅ローン返済中の方もご注意ください。

オーバーローンとフルローンの違い

住宅資金借り入れ時のオーバーローンについて、もう少し詳しくお話ししましょう。

最初にフルローンとの違いですが、フルローンは頭金ゼロで物件価格100%を住宅ローン借り入れでまかなうことを指します。オーバーローンは、さらに下記のような諸費用も上乗せして資金融資を受ける状態となります。

<諸費用の一例>

  • 土地購入に係る仲介手数料
  • 融資手数料
  • 火災保険料や地震保険料
  • つなぎローンに係る費用
  • マンション修繕積立基金(引渡時一括分に限る)

出典:借入対象となる諸費用とはどのようなものですか?|フラット35

たとえば、物件価格4000万円に、諸費用を300万円加えた4300万円を当初借入額として住宅ローンを組むケースがこれに該当します。

オーバーローンで住宅ローン控除額は増える?増えない?

オーバーローンを組むことで、結果的に住宅ローン控除額も増えます。

なぜなら、住宅ローン控除とは、住宅ローンを借り入れて住宅の新築(物件取得)または増改築等をした場合「年末のローン残高の0.7%を所得税(一部、翌年の住民税)から最大13年間控除」する制度だからです。

住宅ローンの借入額が増えれば、年末のローン残高はおのずと増えます。

出典:住宅ローン減税|国土交通省

オーバーローンのメリット・デメリット

何事にも良い面と悪い面があります。オーバーローン状態で住宅を購入した場合のメリット・デメリットは何でしょうか?

メリットをまず2つ挙げます。

物件の買い逃しを防げる

新築・中古を問わず、理想のマイホームと出会えるかどうかは探すタイミングによるところが大きいです。たとえ理想の物件に出会えたとしても頭金の準備ができず購入を見送った場合、再びそれ以上に理想的な住まいと出会えるかは誰にもわかりません。

「希望物件の買い逃しを防げる」という点は、オーバーローンのメリットといってもよいでしょう。

手元資金を残せる

頭金や諸費用など住宅購入資金の一部を自己資金でまかなう場合が少なくありませんが、裏を返せば、手元資金がそれだけ減ってしまいます。

その点、頭金や諸費用など含めオーバーローンで借り入れできれば、手元資金にその分のゆとりが生まれます。

引っ越し費用や家具・家電購入など、家の購入後もなにかと物入りです。

働き方も多種多様となり、収入を安定的に得るのがなかなか難しいご時世ですので、手元に資金が残せることは、とくに預貯金額の少ない世帯にとって大きなメリットなのではないでしょうか。

続いて、オーバーローンのデメリットについてみていきましょう。

金融機関との関係悪化リスク

オーバーローンで住宅を購入する行為自体は違法ではありません。
ただし、金融機関に正しく申告をして許可を得た場合に限ります。「物件価格は○○円で、諸費用として○○円を含めて借入希望です」と必要な書類をそろえて正直に申し出て金融機関から承諾を得た場合、ということです。

問題なのは、違法性のあるオーバーローンです。
本来あってはならないことですが、物件を販売・仲介する不動産業者によっては、売買契約を1件でも多く取り交わしたいばかりに、金融機関に対して物件価格を諸費用分水増しした偽造契約書を作成、提出する可能性もあります。

金融機関がオーバーローンを認知しない状態で住宅資金を借り入れた場合、物件購入者は大きなリスクを抱えることになります。

融資が通った数年後、もしオーバーローンだということが金融機関に知られた場合、あなたはローン残債の一括返済を迫られるかもしれません。

あなた自身は不正行為に一切加担していないとしても、金融機関とのトラブルや関係悪化は免れません。

売却や資金計画にもデメリットがある

オーバーローンで住宅購入資金を調達したとしても、基本的に毎月のローン返済ができていれば問題にはなりません。

問題があるとすれば、何らかの事情で住宅ローン返済中に持ち家を売却するケースになります。

家のおよその現在価値、つまり不動産の査定価格以上に住宅ローンが残っている状態ですので、仮に査定通りの金額で売却できたとしてもローンは残ります。このままでは金融機関が設定した抵当権を抹消することができず、持ち家を売却することができません。

毎月のローン返済が困難になり、家の売却に踏み切りたい方にとってたいへん困った事態です。

また、住み替えを前提に持ち家を売却しようと考えている方も、資金計画を大きく軌道修正する必要に迫られてしまいます。

売却を含むオーバーローンの解決方法

オーバーローン状態の持ち家を売却する方法はいくつかあります。

ローン残債分を手持ちの資金で完済する

まず考えるのが、売却価格を差し引いても残ってしまう住宅ローン残債を自己資金で完済することです。

現状の住宅ローン完済により抵当権の抹消ができれば、通常の家の売却と同様の手順で家を売ることが可能になります。

持ち家の査定金額と現時点での住宅ローン残債を確認したうえで、不動産の仲介手数料や抵当権抹消のための費用など売却に必要な諸費用や引っ越し費用、新たな住居を確保する費用などを加味しても手元資金で十分完済できる見込みがあれば、まずこの方法を検討してみましょう。

任意売却のメリットと手順

毎月のローン返済が困難なために家の売却をすすめたいケースで検討したい方法が、「任意売却」です。

任意売却とは、融資を受けた金融機関(債権者)の許可を得て、住宅ローン契約者(債務者)が自ら家の買い手を見つけ、なるべく高い売却価格で持ち家を売る方法です。

そもそも競売では任意売却ほど高い値段で売却することができず、売却金もすべて住宅ローン残債の弁済に充てられ、持ち家を退去する引っ越し代に充てることもかないません。

一方、任意売却が可能になれば、市場価格に近い値段で持ち家を売却できる可能性が高く、売却後も、仲介手数料などの諸費用を売却費用から出すことができ、引き渡し時期を買い手と交渉することもできます。

<一般的な任意売却の流れ>

  1. 住宅ローンの滞納後、金融機関から督促が届く
  2. 住宅ローン残債を返済予定表で、記帳して手元資産も確認
  3. 不動産業者に査定を依頼(任意売却を進めるため)
  4. 金融機関(債権者)から        任意売却の許可を得る
  5. 任意売却手続きを進める
  6. 買い手が見つかり売買契約を締結
  7. 不動産の決済・引渡し・所有権移転
  8. 引越し、(残債務があれば)その返済

競売を避けるための対策と考慮事項

住宅ローンの返済が滞れば、行きつく先は融資した金融機関による競売、(退去の)強制執行です。

金融機関(債権者)は、住宅ローン契約者(債務者)からの返済が見込めなければ、一定の手続きを経て担保不動産を強制的に売却し、融資資金の回収を図るからです。

まずは、融資を受けた金融機関に早めに相談することです。

金融機関との関係悪化は、任意売却の交渉などで後々損をする元凶です。ぎりぎりまで何の連絡もせず住宅ローンの支払いをしないなどは絶対にやめましょう。

離婚時のオーバーローンと財産分与

結婚後に持ち家を購入した場合、夫婦の住まいである持ち家は夫婦の共有財産となります(相続で取得したケースを除く)。とはいえ、持ち家がオーバーローン状態にあるとき、その取り扱いは難しさを増します。

財産分与におけるオーバーローンの扱い

家の価値以上にローン残債があるオーバーローンの家は、単体ではいわば負の財産です。

しかし、生命保険や預貯金など夫婦の総資産で見積もるとプラスに転じると判断されれば、持ち家含め何らかの形で財産分与を行う必要があります。

注意すべきは、持ち家の対応については、最終的に金融機関の許可が必要になることです。

たとえば、収入状況によっては妻単独の住宅ローン契約者への変更が認められなかったり、融資条件が変わったりすることが十分あり得るのです。

離婚後の住宅ローン返済と責任

すでに触れたように、オーバーローン状態の家の売却は難しいでしょう。

現実的には、そのまま家に残る側がローン返済も肩代わりし、完済後に正式に登記を居住者に変更すると夫婦で合意する、あるいは子を養育する側が持ち家に住み続け、家を出る側が養育費の意味合いでローンを引き続き支払うことも考えられます。

財産分与では通常、離婚に伴って諸々の所有者が一致して変更されますが、オーバーローン住宅を財産分与するときは、住宅の居住者とローンの支払者、登記上の所有者が合致しない時期が長く続く可能性があります。

離婚した一方が再婚することもあるでしょう。元夫婦とはいえ、公正証書を利用して持ち家の取り扱いをきちんと書面で契約しておくほうが安心できると筆者は考えます。

オーバーローン対策としての資金計画

オーバーローンで借り入れしたもののローン返済が重荷で今後の返済が厳しいケースもあるかもしれません。そのような状況になったら、きちんと「毎月の返済は続けた」うえで、早めに金融機関に相談するようにしてください。

金利や返済計画の見直し

住宅ローンの条件変更は一般的に難しいとされていますが、不可能ではありません。

たとえば、当初返済期間35年で住宅ローンを組んだものの、その後子どもが生まれたり、子の大学進学費用で家計収支が圧迫されたり等、状況が変わって毎月返済額が負担になった場合、返済期間を延長できないか金融機関に相談してみるのも一案です。

返済期間が延びて総支払い利息は増えますが、毎月のローン返済額は下がり家計収支は改善されます。

家計の切り盛りがよりしやすくなるかもしれません。

融資金利も、借りた時期によっては他の金融機関に比べて高めということもあり得ます。自分で他の金融機関の金利を調べたうえで変更できないか相談してみましょう。

金融機関との交渉と再審査のポイント

いたずらにローン返済を遅延するとその後の交渉はままなりません。1番にいえることは、状況を悪化させる前に早めに金融機関に相談をすることです。

また、勤務先を変えるなどローン契約時の状況を大きく変えると交渉が難しくなる場合が多いため、その意味においても不利な状況に陥る前に早めに相談、交渉することを意識しましょう。

ローン返済を続けるにしても、家を売却するにしても、オーバーローンは足かせとなる場面が多いもの。

早期にオーバーローン状態を解消しておくことが最大のリスクヘッジかもしれません。

この記事のポイント

オーバーローンとフルローンの違いは?

フルローンは頭金ゼロで物件価格100%を住宅ローン借り入れでまかなうことを指します。

一方、オーバーローンは仲介手数料などの諸費用も上乗せして資金融資を受ける状態となります。

詳しくは「オーバーローンとは?」をご覧ください。

オーバーローン住宅の場合、離婚時の財産分与はどうなる?

財産分与では通常、離婚に伴って諸々の所有者が一致して変更されますが、オーバーローン住宅を財産分与するときは、住宅の居住者とローンの支払者、登記上の所有者が合致しない時期が長く続く可能性があります。

詳しくは「離婚時のオーバーローンと財産分与」をご覧ください。

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