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中古マンションの建て替え費用を軽減できる制度とは?建て替えまでの流れも紹介

執筆者プロフィール

桜木 理恵
資格情報: Webライター、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、管理業務主任者

大学在学中に宅地建物取引士に合格。新卒で大手不動産会社に入社し、売買仲介営業担当として約8年勤務。結婚・出産を機に大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し約5年勤務。その他信託銀行にて不動産事務として勤務経験あり。現在は不動産の知識と経験を活かし、フリーランスのWebライターとして活動。不動産や建築にまつわる記事を多数執筆。「宅地建物取引士」「2級ファイナンシャル・プランニング技能士」「管理業務主任者」所持。

ざっくり要約!

  • 中古マンションの建て替えは築何年で必要になるという基準を出すのが難しい
  • 中古マンションの建て替えは自己負担が多くかかるため、反対する住民が多い傾向にある

築年数が経過したマンションに住んでいる方のなかには、「今後建て替えの話が出るのではないか」「建て替えの場合どのような流れで進むのだろうか」と不安に感じている方も多いでしょう。

マンションの建て替えには自己負担金がかかるケースも多いため、建て替えになった場合の流れや費用について理解する必要があります。

そこで本記事ではマンションの建て替えにかかる費用や流れ、建て替え時の選択肢について解説します。

マンションの建て替えについて不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。

中古マンションはいつ建て替えになる?

全国で建て替えられたマンションの平均築年数は33.4年ですが、マンションの個別性が高いため、一概に何年で建て替えになるとは断言できません。

対象事例のなかには、老朽化ではなく区画整備といった特殊事情で築年数20年未満のマンションが建て替えられたケースもあるため、平均年数は参考程度に考えておくといいでしょう。

マンションは構造によって法定耐用年数が定められており、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリートの法定耐用年数は47年です。

しかし、法定耐用年数はあくまでも税制上のルールであるため、47年で住めなくなる訳ではありません。

鉄筋コンクリート造のマンションの平均寿命は68年という調査結果もあります。

このような理由からマンションが建て替えになる築年数は一概に断言できないため、住んでいるマンションの管理状況や管理組合の総会や理事会での話し合いに注目しましょう。

中古マンションが建て替えになるまでの流れ

マンションの建て替えは以下のような段階に分けて進みます。

• 建て替えの準備、要望を集める段階
• 建て替えを具体的に検討する段階
• デベロッパーの選定など建て替えを具体的に計画する段階
• 実際に建て替えを実施する段階

それぞれの段階で行う内容について解説します。

1.建て替えの準備、要望を集める

建て替えの準備、要望を集める段階では、マンションの所有者で建て替えを行うべきかを考えます。

具体的には管理組合での話し合いや、外部コンサルタントによる建て替えに関する勉強会などです。

管理組合の総会などで建て替えに関する議題が挙がり、具体的に検討すべきかどうかを話し合っていきます。

2.建て替えを具体的に検討する

管理組合や理事会で建て替えを具体的に検討する方針になった場合、マンションの管理会社や外部のコンサルタントに依頼し、建て替え費用などを見積もります。

場合によっては建て替えではなく大規模修繕で対応するケースもあるため、それぞれの費用負担などを算出したうえで比較検討することが重要です。

この段階で管理組合のなかに建て替え検討委員会を設置し、具体的な計画を立てる準備に移ります。

3.デベロッパーの選定など建て替えを具体的に計画する

建て替え検討委員会が設置されたあとは、デベロッパーの選定など、より具体的な計画を建てます。

建て替えには区分所有者の4/5以上の賛成が必要なため、曖昧な計画では区分所有者の賛成は得られないでしょう。

そのため、建て替えに関する一通りの計画案を作成し、区分所有者にとって十分な判断材料を提供したうえで建て替え決議を行います。

また、マンション内だけでなく諸官庁や近隣住民との協議も必要になるため、時間をかけて意見交換が行われます。

4.実際に建て替えを実施する

建て替え決議によって4/5以上の賛成が集まった場合、建て替え組合を発足し、所有者の権利移転などさまざまな手続きを行います。

所有者の現在の持分に応じた住戸の選定や、抵当権の引き継ぎ、新管理規約の作成など、マンションが建て替えられたあとにスムーズに新しい生活をスタートできるように取り決めを行います。

なお、建て替えを行っている期間は仮住まいの必要が生じるため、仮住まい先の選定や転居などで忙しくなると考えておきましょう。

中古マンションの寿命や建て替えが必要になる築年数

鉄筋コンクリート造の建物は、コンクリートの良好な状態を維持できれば、一般的に100年以上持つといわれています。

また国土交通省の資料によれば、コンクリ―ト部材の効用持続年数は120年、外装仕上げをすれば耐用年数は150年にもなるとあります。

一方で設備は20~30年で交換が必要になります。中古マンションは躯体に問題あるというよりは、大規模修繕だけでは難しい設備の更新をするために建て替えを検討しているケースが見られます。

国土交通省のアンケートデータによれば、築30年超もしくは建て替え相談のある管理組合が問題として抱えていることで多かったのは、配管や給排水設備の劣化と地震などに対する安全性でした。

躯体そのものだけでなく、配管など設備に起因する建て替えも相当数あるということです。

別の国土交通省の資料によると、資産台帳の滅失データをもとに家屋の寿命を調べたところ、鉄筋コンクリート系の住宅は68年でした。このデータはマンションに限定したものではありませんが、参考にできる数字です。

マンションごとに構造も異なります。一概に何年で建て替えが必要だという目安を出すのは難しいです。一般的には、3回目の大規模修繕後に4回目の大規模修繕を実施するのか、それとも建て替えをするのか検討するケースが多いのではないでしょうか。

今後中古マンションのストック数が増えるにつれて建替え事例が増えれば、ノウハウも蓄積されます。実施した事例を参考に、建て替え時期を検討することをおすすめします。

出典:マンションの改修・建替え等について|国土交通省
期待耐用年数の導出及び内外装設備の更新による価値向上について|国土交通省土地・建設産業局不動産業課住宅局住宅政策課住宅局住宅政策課

中古マンションの寿命メンテナンスによって変わる

中古マンションは、適切な時期に適切なメンテナンスを行うことによってその寿命を延ばすことができます。

例えばコンクリート自体は堅固な構造ですが、屋上の防水層などから浸水してしまうと鉄筋を腐食させてしまうことになります。

また鉄部は定期的な塗装によって錆びの進行を止めることができます。小まめな点検と定期的なメンテナンスでマンションの寿命は異なります。

つまり管理が行き届いているマンションは、点検や修繕が適切に行われているため、マンションの寿命は長くなり、資産価値も下落しにくい傾向があります。

築60年ほどで建て替えに至った例も

日本初の分譲マンションといわれる、1953年築の宮益坂ビルディングの建替えを例として紹介します。

当時東京都が分譲したマンションで、当時周りには高い建物がなかったこともあり、11階建ての宮益坂ビルディングはかなり注目されました。

給排水管の老朽化などにより2003年(築50年時)に建て替え決議が成立します。しかし区分所有法がなかったときに建築されたマンションであったため、敷地の所有者である東京都から底地を購入する必要があり、権利関係の整理に時間がかかりました。

またリーマンショックの影響もあり、実際に建て替えして竣工したのは2020年でした。権利関係や費用工面など、マンションの建替えには乗り越えなければならない問題が多々あることが顕著になった事例です。

出典:マンションの改修・建替え等について|国土交通省

中古マンションの建て替えにかかる自己負担額

マンションの建て替えには1,000〜3,000万円ほどの自己負担額が必要になるケースがあります。

しかし、自己負担額はマンションの規模や権利関係によって大きく異なるため、具体的な計画が立たない限り正確な金額は予測できません。

建て替え時には、修繕積立金の金額にかかわらず自己負担額は発生すると考えておきましょう。管理規約では、一般的に修繕積立金は建替え費用に使用できるようには定められておらず、原則として修繕積立金は使用されないからです。

建て替えの自己負担額を抑えられるケース

容積率が大きいかつ人気エリアの場合、建て替えの自己負担額を抑えられるケースがあります。

建て替えで新たにできた部屋を第三者へ売却して建て替え費用をまかなえるため、所有者の自己負担額が抑えられるのです。ただし建て替えの際には一時的に数千万円程度を用意しなければならないので、一定の自己資金が必要となります。

中古マンションの建て替え費用を軽減できる制度

中古マンションの建て替えには多額な自己負担金がかかります。その費用を軽減できる制度を2つ紹介します。

高齢者向け返済特例制度

住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が満60歳以上の高齢者に対して直接融資するもので、耐震改修工事やバリアフリー工事を含むリフォームが対象になります。

融資限度額は1,000万円で、借り入れた本人が死亡した際に相続人が対象不動産を売却して一括返済する制度です。

高齢者住宅財団が保証することによって、毎月の返済額が利息のみになるのが特徴です。同居する家族がいる場合は、引越しをしなければなりません。よく検討したうえで利用することをおすすめします。

出典:まちづくり融資(高齢者向け返済特例)|住宅金融支援機構

マンション再生まちづくり制度

東京都が良質なマンションストックの形成と安心安全な環境づくりを目的として、マンション再生まちづくり推進地区に対して支援する制度です。

マンション再生まちづくり推進地区とは、市街地の更新を促進する地域として指定された地区で、区域内に旧耐震のマンションがあることなどが要件になります。

市区町村がまちづくり計画をとりまとめし、東京都がその計画を認定する流れです。マンション再生まちづくり推進地区の指定を受けられれば、区市町村や都から支援を受けることができます。

建て替え等を検討する管理組合に対し、市区町村は建て替えの合意に達するまでにかかった費用の一部を補助し、事業費の最大1,000万円/年の1/2を都と区市町村補助する制度です(通算5年間・団地は8年間まで)。

あわせて都が決定・許可するマンションに関しては、容積率の上限の緩和が受けられるのもメリットです。

出典:マンションの管理適正化や再生の促進に向けた都の取組|東京都住宅政策本部

中古マンションの建て替えが決定したあとの流れ

マンションの建て替えが決定したあとの流れは以下のとおりです。

  1. 新しい住戸の選定
  2. 仮住まいへの転居
  3. 工事着工
  4. 竣工
  5. 入居

建て替え時には新しいマンションの住戸を公平な方法で決定します。特定の住戸に希望が集中した際には抽選などで決める可能性も高いため、建て替え組合の決定に従って住戸を選びましょう。

新しい住戸を決めたあとは、建て替え工事が始めるため仮住まいへ転居し、完成を待ちます。マンションの規模によっては入居までに数年かかるケースもあるため、子どもの学区などを考慮して転居しましょう。

実際に建て替えに至るマンションは少ない

建て替えの話が挙がるものの、実際に建て替えに至るマンションは少ないのが現状です。

国土交通省の発表によると、2021年末時点で築40年を超えるマンションは全国に115.6万戸ありますが、そのなかで実際に建て替えが行われたマンションは2022年4月1日時点で270戸しかありません。

築年数が経過しているマンションは数多くあるものの、建て替えに至らない理由は大きく分けて3つあります。

  • 自己負担が多く反対する住民が多い
  • 実際に建て替えされるまでの流れが複雑
  • 建て替えが難しいマンションが多い

それぞれ解説します。

出典:築後30、40、50年以上の分譲マンション戸数|国土交通省
マンション建替えの実施状況|国土交通省

自己負担が多く反対する住民が多い

マンションの建て替えは自己負担が多くかかるため、反対する住民が多い傾向にあります。

マンションが新しくなることについては前向きなものの、実際にかかる費用を踏まえると、経済的な理由で賛成できないケースもあります。

また、築年数が経過しているマンションは、現在の住まいを終の棲家と考えている高齢者の方が多く、建て替えに消極的といった原因もあります。

前提として、区分所有者及び議決権のそれぞれ4/5以上の賛成がなければ、建て替えはできません(ただしマンション建替組合が設立・認可された場合は3/4)。

しかし今後耐震不足のマンションが増加することが想定されており、国や諮問機関はマンションの建て替えについて要件を緩和する方向で審議しています。

実際に建て替えされるまでの流れが複雑

マンションの建て替えは流れが複雑で、多くの時間がかかるため、建て替えに至らないケースが多いです。

具体的には権利調整が思いどおりにいかない、住み替えが面倒といった理由で、建て替えの話が挙がったものの、その後計画自体が頓挫するケースもあります。

建て替えが難しいマンションが多い

建て替えが難しいマンションが多いのも、マンションが建て替えに至らない原因です。

昔に建てられたマンションは現在の法令の制限を満たしていない既存不適格と呼ばれるマンションが多くあります。

容積率が超過している既存不適格のマンションは建て替えをすることで、現在の建物より小さくなってしまうケースもあります。

建物が小さくなると、住戸を増やし第三者に売却して建て替え資金を得る手段が取れません。

このような理由で資金難に陥るマンションや、住民の同意が得られないマンションが多く存在しています。

中古マンションの建て替えに賛同できない場合の選択肢

マンションの建て替えに賛同できない場合の選択肢は2つです。

  • 建て替え組合に売却して立ち退きする
  • 建て替えが決まる前に一般市場で売却する

建て替え決議後に建て替えに参加するかどうかの意思確認があるため、不参加の場合は立ち退きか売却を選択しましょう。

建て替え組合に売却して立ち退きする

建て替えに賛同しない場合や、建て替え費用が払えない場合は住戸を建て替え組合に売却して、立ち退きを検討しましょう。

立ち退き時の注意点は売渡請求権がなされ、半ば強制的に時価で売却させられる点です。

時価は以下のような方法で算出されるのが一般的です。

住戸部分の時価=建物全体の評価額×住戸の配分割合

建物全体の評価額と住戸の配分割合の求め方は以下のとおりです。

建物全体の評価額=建替後の総床価額―建替え費用

住戸の配分割合=住戸の専有面積比による評価、配分×各住戸の用途別、階層別、位置別の効用格差

場合によっては相場よりも安い価格での売却になる恐れもあるため注意しましょう。

建て替えが決まる前に一般市場で売却する

建て替えが決まる前に一般市場で売却することで、建て替え組合への売却よりも高値で売却できる場合があります。

しかし、建て替えが確定したあとは住宅ローンが組めなくなり、購入検討者が絞られてしまう恐れもあるため、売却のタイミングには注意しましょう。

一般市場での売却のポイントは以下のとおりです。

  • 売却相場を把握する
  • 真摯な不動産会社に依頼する
  • 物件の強みを担当者と考えて売却に出す

それぞれについて解説します。

売却相場を把握する

適正な価格で売却するためにも売却相場を把握しましょう。

同じマンション内や近隣のマンションの売却情報を調べることで、どの程度の価格で売却できそうか見当が付きます。

さらに詳しく知りたい場合は不動産会社へ査定を依頼しましょう。

誠実な不動産会社に依頼する

マンションの売却は誠実対応をしてくれる不動産会社に依頼しましょう

マンションの売却は不動産会社と協力して行うことが大切です。不動産会社がどれだけ真摯に売却活動を行ってくれるかで結果は左右されるため、信頼できる不動産会社を選ぶ必要があります。

また、売却中は不動産会社の担当者とやりとりするため、会社のブランドだけでなく、担当者についてもしっかりと見極めましょう。

物件の強みを担当者と考えて売却に出す

所有しているマンションにどのような強みがあるかを担当者と一緒に考えて売却に出しましょう。

建て替えの話が出ているマンションは投資家への売却も可能です。現在の状態で購入する方と、建て替えを狙って購入する方で分けて売却戦略を考えるのもおすすめです。

不動産のプロである不動産会社の担当者と、実際に生活をしてマンションの特徴を理解している所有者で物件の強みを考えることで、売却がよりスムーズに進むでしょう。

建て替えの話が出た際には売却も検討しよう

本記事ではマンションの建て替えにかかる費用や流れ、建て替え時の選択肢について解説しました。

マンションは築年数30年を超えたあたりから建て替えの話が出てきますが、自己負担額の大きさや法令の制限などによって建て替えが進まないケースも多いです。

もしも所有しているマンションで建て替えの話が挙がり、自己負担額を支払えそうにない場合は売却も検討しましょう。

早い段階から動き出すことで、一般市場で売却できるため、建て替え組合への売却よりも高値での売却が期待できます。

この記事のポイント

中古マンションの寿命や建て替えが必要になる築年数は?

マンションごとに構造が異なるため、一概に何年で建て替えが必要だという目安を出すのは難しいです。一般的には、3回目の大規模修繕後に4回目の大規模修繕を実施するのか、それとも建て替えをするのか検討するケースが多いでしょう。

また、管理が行き届いているマンションは、点検や修繕が適切に行われているため、マンションの寿命は長くなり、資産価値も下落しにくい傾向があります。

詳しくは「中古マンションの寿命や建て替えが必要になる築年数」をご覧ください。

中古マンションの建て替え費用を軽減できる制度はありますか?

中古マンションの建て替えには多額な自己負担金がかかりますが、その費用を軽減できる制度として、「高齢者向け返済特例制度」「マンション再生まちづくり制度」があります。

詳しくは「中古マンションの建て替え費用を軽減できる制度」をご覧ください。

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