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不動産売却時に確定申告が必要なケースと確定申告の方法について解説

執筆者プロフィール

橋本秋人

FPオフィス ノーサイド代表 NPO法人ら・し・さ副理事長
ファイナンシャル・プランナー(CFP®、1級FP技能士)終活アドバイザー
早稲田大学卒業後、住宅メーカーで30年以上不動産活用の営業、分譲地開発、CRE(企業不動産戦略)等を担当。FPとして独立後はライフプラン、不動産、終活、相続等に関するセミナー、コンサルティング、執筆等を行っている。会社員時代より不動産投資を始め、早期退職を実現した元サラリーマン大家でもある。

ざっくり要約!

  • 不動産売却で損失が出た場合、基本的には確定申告が不要
  • 利益が出た場合や特例を受ける場合は確定申告が必要

土地や建物などの不動産を売却して利益が生じたときには確定申告をする必要がありますが、確定申告の方法がわからないという人も多いのではないでしょうか。不動産売却による利益を譲渡所得といいますが、本記事では、譲渡所得の計算方法や確定申告をするときの流れ、確定申告の必要書類、税理士への依頼方法など、譲渡所得の確定申告のいろいろな疑問について分かりやすく解説をします。

不動産を売却して利益が出た場合は確定申告が必要

不動産を売却して得た所得は譲渡所得に分類されます。一般的に譲渡所得は、給与所得・事業所得・不動産所得など他の所得と合算して所得税を計算する総合課税ですが、不動産の譲渡所得は、他の所得と切り離して税額を計算する分離課税となっています。

不動産の譲渡所得は次の計算式で算出します。その結果、利益が出た場合(=譲渡所得がプラスになった場合)は所得税がかかり、確定申告をする必要があります。

<譲渡所得の計算式>
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)

それぞれの項目の内容は次のとおりです。
・収入金額
土地や建物の売却金額のことです。

・取得費
取得費とは、不動産を取得(購入や建築)したときにかかる代金や諸費用のことです。
主な取得費には次のような項目があります。

  1. 土地や建物を購入したときの代金
  2. 建物の建築費から減価償却費(建物や設備が古くなっていくに従いその価値が減少する分)を差し引いた金額
  3. 土地や建物の取得時に支払った登記費用、印紙税
  4. 不動産の購入時に支払った仲介手数料
  5. 土地の埋め立てや盛り土をした場合の費用
  6. 不動産の取得にともなう不動産取得税
  7. その他、購入のために要した費用

相続した不動産を売却する場合、たとえば亡くなった父が購入したときの代金や諸費用が分かるときは、その金額を引き継いで取得費とすることができます。

なお、先祖代々引き継いできた不動産や、購入した時期が古く契約書や諸費用の領収書がないため取得費が分からない場合は、収入金額の5%を「概算取得費」とします。

そのほかにも、取得費加算の特例として、相続などにより取得した不動産を売却する場合、支払った相続税のうち一定金額を取得費に加えることができます。ただし、この特例を適用するためには、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却をしなければなりません。

・譲渡費用
譲渡費用は、不動産を売却するときにかかる諸費用のことで、次のような項目があります。

  1. 売却時に支払った仲介手数料
  2. 印紙税
  3. 売却するために建物を取りこわした場合の解体費
  4. 貸家を売却するための立退料
  5. 測量費、境界立会費用
  6. その他、売却のために要した費用

計算の結果、収入金額が取得費と譲渡費用の合計額より多ければ利益が生じ、確定申告が必要になります。

不動産を売却して損失が出た場合は基本的に確定申告が不要

収入金額から取得費と譲渡費用の合計額を差し引いた結果、譲渡所得がマイナスやゼロだった場合は、原則として確定申告をする必要はありません。

なお、同じ年に複数の不動産を売却し、利益が出た不動産と損失が出た不動産があった場合は、利益と損失を相殺して譲渡所得を算出します。その結果、利益が少なくなったりゼロになったりするケースもありますが、このような場合には、損失が出た不動産を含めて譲渡所得の確定申告をする必要があります。

特例を受ける場合は確定申告が必要

マイホームを売却したときにも、利益が出る場合と損失が出る場合があります。
マイホームを売却して利益が出た場合には次の3つの特例があり、税金が軽減されたりゼロになったりします。
これらの特例を受ける場合は、税金がゼロになる場合も含めて確定申告をする必要があります。

①マイホームの3,000万円の特別控除の特例
マイホームを売却したときに一定の要件を満たすと、譲渡益から最大3,000万円の特別控除を差し引くことができます。最大というのは、譲渡益が3,000万円以上の場合は特別控除額が3,000万円ですが、譲渡益が3,000万円未満の場合は譲渡益の金額が特別控除の額になるという意味です。
この特例では、次の計算式で譲渡所得を算出します。

譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額3,000万円

たとえば、マイホームを5,000万円で売却したとき、取得費が2,500万円、譲渡費用が200万円だった場合、譲渡所得は次のように計算します。

譲渡所得=5,000万円-(2,500万円+200万円)-特別控除額2,300万円=0円

このケースでは譲渡所得がゼロになるので、所得税はかかりません。
しかし、このように特例を使って譲渡所得がゼロになった場合は、確定申告をしなければなりません。

②マイホームの軽減税率の特例
売却したマイホームの1月1日現在の所有期間が10年を超えているなど、一定の要件を満たした場合、①の3,000万円の特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円までの部分については15.315%の軽減税率が適用されます(6,000万円を超える部分については通常の長期譲渡税率20.315%が適用)。

③マイホームの買い換え特例
売却したマイホームの1月1日現在の所有期間が10年を超えている、居住期間が通算10年以上あるなど、一定の要件を満たす買い換えであれば、マイホームの売却による利益が出た場合に譲渡所得を軽減することができます。

この特例の適用を受ける場合の譲渡所得は2つのパターンに分けて計算します。
・売却したマイホームの価格≦買い換えたマイホームの価格
譲渡所得はゼロとなり所得税はかかりません。
・売却したマイホームの価格>買い換えたマイホームの価格
  売却したマイホームの価格と買い換えたマイホームの価格の差額を収入金額とし、その収入金額に対応する譲渡所得にのみ所得税が課税されます。

なお、買い換え特例の場合は譲渡益が非課税になるわけではなく、買い換えたマイホームを将来売却したときまで課税時期を延ばしてくれるというものです。

また、買い換え特例は3,000万円特別控除や軽減税率の特例とは併用ができないので、自身の状況に合わせて、有利な特例を選択することが重要です。

不動産を売却して損失が出た場合でも確定申告をすると得をすることも

マイホームを売却して損失が出た場合は、確定申告をしたほうが得をすることがあります。それは、マイホームを売却して損失が出た場合の特例があるからです。

不動産の譲渡所得は原則分離課税ですので、損失を生じた場合でもその損失を他の所得から差し引くことはできません。
しかし、マイホームを売却した場合は、損失を給与所得など他の所得から差し引くことができるのです。さらに、損失が大きく他の所得から引ききれない場合は、売却した年と翌年以降の3年間、損失分を控除し続けることができます。
これを「マイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」といい、2つの特例があります。

①マイホームを買い換えた場合の特例
マイホームを売却し、住宅ローンを利用して新しいマイホームに買い換える場合に受けられます。

②マイホームを買い換えない場合の特例
住宅ローンが残っているマイホームを、住宅ローンの残高よりも低い価額で売却をして譲渡損失が生じた場合に受けられます。

どちらのケースも、確定申告をすることによって受けられる特例です。

確定申告の流れ

不動産の譲渡所得の確定申告は、売却した不動産を譲渡した年の翌年の2月16日から3月15日までの間に行なう必要があります。
そのため確定申告に必要な書類を揃えるなど、早めの準備が大切です。
なお、譲渡した日とは、原則として不動産を引き渡した日をいいますが、売買契約日に譲渡したものとすることもできます。いずれにしても、特例適用の有無や長短期による税率の違いがあるため、譲渡の年については十分に注意をしましょう。

期限内に確定申告を忘れると

申告期限内に申告をしないと、納めるべき税金の他に無申告加算税が課せられます。
無申告加算税の税率は、納めるべき税金の50万円までの部分が15%、50万円を超える部分は20%です。
ただし、申告期限から1カ月以内に自主的に申告をするなど、一定の要件を満たす場合には無申告加算税は課せられないため、万が一、期限内に確定申告を忘れてしまっても、できるだけ早く申告を行うことが重要です。
さらに、申告期限を過ぎた日数に応じて延滞税も納めなければなりません。
これらの税金を払わないためにも、期限内に申告をすることが大切です。

確定申告で必要な書類

不動産の譲渡所得の確定申告には次の書類を揃える必要があります。
(カッコ内は入手先、★は税務署でもらうか国税庁のホームページからダウンロード)。

  1. 売却時の売買契約書
  2. 取得時の売買契約書か建築工事請負契約書
  3. 取得費の領収書
  4. 譲渡費用の領収書
  5. 譲渡した不動産の全部事項証明書(法務局)
  6. 給与所得者の場合は源泉徴収票(勤務先)

また、特例を受ける場合は、上記の書類のほか、それぞれの特例により提出が必要な書類があります。

マイホームの3,000万円の特別控除の特例

① 戸籍の附票など(本籍地の市区町村)

マイホームの軽減税率の特例

① 籍の附票など(本籍地の市区町村)

マイホームの買い換え特例

  1. 戸籍の附票など(本籍地の市区町村)
  2. 買い換えたマイホームの売買契約書(法務局)
  3. 買い換えたマイホームの全部事項証明書(法務局)

マイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例・マイホームを買い換えた場合

  1. 戸籍の附票など(本籍地の市区町村)
  2. 買い換えたマイホームの売買契約書
  3. 買い換えたマイホームの全部事項証明書(法務局)
  4. 買い換えたマイホームの借入金残高証明書(借り入れた金融機関)
  5. 居住用資産の譲渡損失の明細書★
  6. 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書★

マイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例・マイホームを買い換えない場合

  • 戸籍の附票など(本籍地の市区町村)
  • 売却したマイホームの売買契約日前日の借入金残高証明書(借り入れた金融機関)
  • 特定居住用資産の譲渡損失の明細書★
  • 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書★

そのほか準備しておくもの

マイナンバーカードがあれば、電子申告を行う際のログインが便利です。

申告する場所

確定申告の提出先は、お住まいの住所地を管轄する税務署です。
また、e-Tax (国税電子申告・納税システム)を利用すれば税務署に行かなくても、インターネットを利用して確定申告書を税務署に送信することもできます。

確定申告を自分で行う方法

譲渡所得の確定申告は、頑張れば自分でもできます。
確定申告を自分で行う場合は、次の手順で進めます。

①譲渡所得の計算
譲渡所得は、収入金額、取得費、譲渡費用の項目が分かれば計算できますが、そのためにはそれぞれの金額が分かる契約書や領収書が必要です。

②マイホームの売却の場合、特例が受けられるかをチェック
国税庁のホームページにある「居住用財産を譲渡した場合の特例適用チェック表 」を用いて確認するとスムーズです。

③申告書類に記入
確定申告書等に手書きで記入しても良いですが、国税庁ホームページの「確定申告書作成コーナー 」を利用して、手順に従い入力すると簡単に作成できます。
また、確定申告の時期が近づくと役所や公民館などに確定申告相談会場が設けられます。親切に書き方を指導してくれるので利用してみるのも良いでしょう。

④申告書の提出
最後に、作成した申告書に必要書類を添えて税務署に提出すれば完了です。
なお、e-Taxを利用して申告する場合は、提出を省略できる書類もあります。

確定申告の書き方

譲渡所得の確定申告書に必要な確定申告書は次の通りです。

  • 確定申告書B様式
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
  • 確定申告書第三表

これらの書類は税務署で入手できますが、国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。なお、確定申告書作成コーナーを利用するとダウンロードしなくても簡単に申告書を作成できます。

引用:
確定申告書B|国税庁
譲渡所得の内訳書|国税庁
申告書第三表(分離課税用)【令和2年分以降用】|国税庁

確定申告を税理士に依頼する方法

最近は、ふるさと納税や医療費控除などの還付申告を自分で行ったことがあるという人も多いでしょう。とはいえ、譲渡所得は自分で申告するのは不安、また、申告書を作成するのが面倒、といった人もいるでしょう。
その場合は税理士に作成や提出を依頼すると安心です。

確定申告を税理士に依頼する場合の流れ

税理士の知り合いがいる人は、その税理士に相談してみましょう。
知っている税理士がいない場合は、知人や友人に紹介してもらったり、インターネットで探したりすることができます。
日本税理士連合会のホームページにある税理士情報検索サイト では、事務所の所在地や申告内容などを選択して登録税理士を探すことができます。
実際に税理士に問合せをして話をしたうえで、信頼のおける税理士に依頼をしましょう。

確定申告を税理士に依頼する場合の費用

不動産の譲渡所得の確定申告を税理士に依頼する場合どのくらいの費用がかかるのか不安な人も多いと思います。
譲渡所得や特別控除の内容などにもより幅がありますが、一般的には5万円から30万円程度といわれています。
税理士に依頼する費用を抑えたい場合は、複数の税理士事務所に問合せをして見積りを比較するのが良いでしょう。その際には内訳も確認してサービス内容に差がないかもチェックします。
また提出する書類を自分で取得することにより費用が安くなる場合もあります。

譲渡所得については、正しい知識や情報を入手して、賢く申告をすることが大切です。

この記事のポイント

不動産売却時に確定申告が必要なのは利益がでたとき?

不動産を売却して利益が出た場合、確定申告が必要です。
不動産を売却して得た所得は譲渡所得に分類され、次の計算式で算出します。
計算の結果、利益が出た場合は所得税がかかるため、確定申告が必要になるのです。

<譲渡所得の計算式>
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)

詳しくは「不動産を売却して利益が出た場合は確定申告が必要」をご覧ください。

不動産を売却して損失が出ても確定申告が必要になるケースは?

収入金額から取得費と譲渡費用の合計額を差し引いた結果、譲渡所得がマイナスやゼロだった場合は、原則として確定申告をする必要はありません。

ただし、同じ年に複数の不動産を売却し、利益が出た不動産と損失が出た不動産があった場合、損失が出た不動産を含めて譲渡所得の確定申告をする必要があります。

また、マイホームを売却したときには特例を受けることができますが、特例を受けるためには確定申告をする必要があります。

詳しくは「不動産を売却して損失が出た場合は基本的に確定申告が不要」をご覧ください。

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