| 狛江湯プロフィール |
| 1955年に創業し、今年で70周年を迎える銭湯。2023年に創業者・長谷川氏の孫にあたる西川隆一さんが3代目オーナー(湯主)に就任し、同年4月にリニューアルオープンを実施した。BLUE BOTTLE COFFEEやHAYなどの設計を手がけるスキーマ建築計画の長坂常氏が設計を手がける。 <SNS情報> 公式サイト「狛江湯」 Instagram「狛江湯」 |
憧れのライフスタイルを送る話題の人に、暮らしと住まいのこだわりをお聞きする本企画。今回登場いただくのは、2023年にリニューアルオープンした「狛江湯」の3代目オーナー・西川隆一さん。カフェバーを備えたニュースタイルの銭湯で、街との関わり方や銭湯がある暮らしの魅力について伺いました。
街のニューシンボル「狛江湯」
新宿から20分、下北沢から17分。都心からアクセスの良い立地でありながら、多摩川や野川などの水辺に囲まれた自然豊かな街・狛江市。東京で1番小さい市としても知られ、小さな街ならではのあたたかい雰囲気が魅力です。

そんな狛江の新たなシンボルとなりつつあるのが、2023年4月にリニューアルオープンした「狛江湯」。狛江駅から徒歩3分、コンクリート打ちっぱなしの外壁と真っ白な暖簾が目印です。
狛江湯は今年で70周年。そんな老舗銭湯に大きな変革をもたらしたのが3代目オーナーの西川隆一さんでした。
西川さんは神奈川県川崎市生まれですが、祖父母が営む狛江湯を母ら4姉妹が継いだことを機に中学生の頃からアルバイトをスタート。美大卒業後、一度は映像関係の制作会社へ就職するも退職し、2008年頃から狛江湯の社員に。15年間の勤務を経て、2023年より3代目オーナーに就任しました。
「日常」も「非日常」も体験できる場所
リニューアルの設計を担当したのは、BLUE BOTTLE COFFEEやHAYなどの設計を手がけるスキーマ建築計画の長坂常(ながさかじょう)氏。西川さん自ら依頼をしたことがきっかけで、今回のリニューアルが実現しました。

開放感のある入口から暖簾をくぐり建物に足を踏み入れると、淡いグリーンのタイルで描かれた富士山をバックに、番台と一体化したコの字型のカウンターがお目見え。昭和の面影を残しながらもイマドキらしさが散りばめられた空間が広がります。
「銭湯もそうですけど、昔ながらの大衆的なものを新しいスタイルで提供することで、きっと若者たちにも受け入れてもらえると思ったんです」と西川さん。
カウンターの横には、縁側をイメージしたフリースペースを配置。番台に併設するカフェバー「SIDE STAND」では、クラフトビールをはじめとしたドリンク、魯肉飯やカレー・ホットドッグなどの“サウナ飯”をおともに、湯上がりの心地よい時間を過ごせます。なかでも人気を集めているのは、地元・狛江の「和泉ブルワリー」で買い付けたクラフトビール。

クラフトビールを置くことを提案したのは長坂さんですが、「最初は反対だったんです」と西川さん。1杯1,000円前後という価格もあり、銭湯に来る人たちはそんな高いものを飲まないと予想していたそうです。
しかし、実際に置いてみるとお客さんの反応は上々。
「そのとき、若者の間では銭湯が日常ではなく“非日常の体験”になっていることに気づいたんです。だからこそ、ここでしか飲めないものや食べられないものに価値を見出してくれているんですよね」

狛江の街にはクラフトビール屋やブルワリーが多いのも特徴で、小さな街のなかにクラフトビール屋さんが3〜4軒、ブルワリーが3軒あるそう。西川さんは、そういった地域のお店とのつながりや循環も大事にしたいといいます。
「クラフトビールに興味がある人はたくさんいるけれど、新規で専門店に入るのはちょっと敷居が高いと感じる人も多いと思うんです。だったら、狛江湯はそういう人たちの入口的存在でありたい。ここで飲んで気に入ったら、実際にブルワリーにも足を運んでもらえるとうれしいですね」

従来の銭湯といえば、お風呂がなくて困っている人が通う場所でしたが、ほとんどの家庭にお風呂がある現代では、銭湯のあり方に変化が。
「今の若者は銭湯に行ったことがない人が多いので、彼らにとっては新しい体験なんですよね。だったら、銭湯以上の価値がある場所でなければならないと思うんです。そういった意味でもリニューアルの際、カフェバーの設置は必須でしたね」
コロナ禍に見た客層の変化

デザインのこだわりは、もちろん浴場にも。元々の構造を活かしつつも、淡いグリーンで統一された空間は、レトロさのなかにどこか新しさも感じます。狛江湯のテーマカラーでもある淡いグリーンのタイルは特注品。異なる大きさのタイルを組み合わせて描かれた文字や絵など、入浴中も視覚的に楽しめる工夫が各所に施されています。


リニューアル前、お客さんのほとんどが地元のお年寄りだったという狛江湯。しかし、コロナ禍を機に客層の変化が見られたといいます。
不要不急の外出自粛を呼びかけられ、ほとんどのお店がクローズせざるを得ない状況になったコロナ禍。但し、銭湯は例外でした。お風呂がない人のためにも開けておかなくてはならなかったのです。
未知のウイルスに世の中が怯えるなか、西川さんは必死で営業を続けました。
「あんな状況だし、誰も来ないだろうと思うじゃないですか。でも、常連さんは毎日のようにやって来るんです。またそれとは別に、普段は来ない若者が集団で来るようになったのも驚きでした。

というのも当時は居酒屋や飲食店がみんな閉まっていたので、友達と集まって喋る場所がなかったんですよね。そのなかで、唯一営業している銭湯に来ておしゃべりするという流れが生まれたんだと思います。その様子を見て、コロナが明けてからも若者が銭湯に来てくれるんじゃないかという希望を感じるようになり、よりリニューアルへの思いが高まりました」
誰かと一緒でも、ひとりでもいい
自身がオーナーになるまでの間、長年リニューアルの構想を温め続けていた西川さん。そのなかには、銭湯という枠を超えた「みんなの居場所」を作りたいという気持ちがありました。
「今はインターネットがあれば家で仕事や買い物ができる時代。でも、ずっとひとりでいると鬱々としていくと思うんです。かといって、どこかのコミュニティに属することは面倒だと感じる人もいて。だからこそ、ひとりでも楽しめるコンテンツや居場所を作りたいと思ったんです」

誰かと一緒でもいいし、ひとりでもいい。周りに気を遣わずにお酒やごはんを楽しめるよう、心地よい距離感を保った接客も狛江湯のこだわりです。
「誰かとしゃべりたい訳ではなく、スマホをいじりながらひとりでお酒を飲みたいときもあるじゃないですか。でも、まわりに人がいる心地よさみたいなものを味わいたい。だからといって、行ったことのない飲み屋にひとりで入るのは躊躇してしまう。そんなとき、銭湯ついでにふらっと飲める場所があれば、少し気楽に外へ出られると思うんです」

一般的には、銭湯=地域に根ざした商売というイメージがありますが、狛江湯では他の街とつながる取り組みが積極的に行われているのも特徴です。
不定期で開催されているイベントもそのひとつ。内容は、パンやコーヒー・音楽・落語・フリーマーケットなど幅広く、狛江市内のお店はもちろん、他のエリアからも多数出店しています。
「狛江市民に限らず、無意識に自分の街から出ていない人って結構いると思うんです。それってすごくもったいないと思っていて。だったら、市外から人を呼び込むのはもちろんだけど、市内の人にも『狛江の外に出ようよ』と呼びかけるのが大事だと考えたんです。


たとえば、経堂のパン屋さんをイベントに呼ぶと、それをきっかけに狛江の人が経堂へ行ってみようと思うかもしれない。逆にそのパン屋さんは『狛江の銭湯でパンを販売します』と発信してくれるかもしれない。そうやって、狛江と他の街とのつながりを作っていけるいいなと思っています」
街のメディアとして機能する「銭湯」
リニューアルを機に、SNSなどを通じて若者やインバウンドのお客さんが多く訪れるようになった狛江湯。遠方からわざわざ足を運ぶお客さんも多く、その影響は狛江の街にも少しずつ広がってきています。
「狛江って、元々よそから人が来る街ではなかったんですよ。観光地もなければ大学もないので、いわゆるベッドタウンなんですよね。ただ、リニューアル後は狛江湯のお客さんだけでも1日200人以上が狛江駅を利用してくれているようです。狛江湯帰りに駅前の飲食店を利用する人も多いようで、お店の方からお礼を言っていただいたこともありますね」

そうして、街の発展に貢献するとともに“人と人とのつながり”を生み出す役割を担っていく狛江湯。最後に、西川さんが考える今後の展望を聞いてみました。
「単なる銭湯ではなく、“街のメディア”でありたいと考えています。というのも、銭湯って元々はメディアだったんですよね。家にTVもお風呂もない時代、情報は銭湯から出回っていたんですよ。毎日街の人がお風呂に入りに来るので、〇〇に子どもが生まれたよ〜とか、誰と誰が喧嘩しているらしいよとか、最新の情報は銭湯で手に入れていたんです。

今はTVやインターネットがあるし、体を洗うのは家でもできる。でも人と人が生身で触れ合う時間は、やっぱり大事だと思うんです。だからこそ、狛江湯は人と人のつながりが生まれる場所でありたい。老若男女、色々な人にとって、ふらっと外に出るきっかけになればいいなと思いますね」

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