2026.06.05

#不動産投資#節税対策#賃貸経営

不動産投資における「事業的規模(5棟10室基準)」の認定基準と税務上のメリット

不動産投資における「事業的規模(5棟10室基準)」の認定基準と税務上のメリット

ざっくり要約!

  • 事業的規模には青色申告特別控除や家賃滞納時の経費計上などのメリットがある
  • 最初から規模拡大を見据えて不動産会社を選ぶのがカギ

不動産投資を始める際、多くの人が一つの目標として掲げるのが「事業的規模」です。しかし、ネットで目にすることの多い「5棟10室」という具体的な基準について「自分にはまだ遠い世界の話だ」と感じる方もいるのではないでしょうか。

一方で、不動産投資が事業的規模として認められると、最大65万円の青色申告特別控除など、手残りの拡大につながる税制優遇を受けられるようになります。

この記事では、事業的規模を目指すための基礎知識から、税務上のメリット、見落としがちな注意点、さらには着実な拡大戦略までを徹底解説します。

「事業的規模」の不動産投資とは?

不動産投資における「事業的規模」とは、賃貸経営が趣味や小規模な投資なのか、それとも「一つの事業」として認められるのかを判断するための重要な物差しです。

税務署がどのような基準で判断しているのか、まずはその核心となる「原則」と「具体的な判定方法」について確認していきましょう。

「事業的規模」の原則

不動産投資が「事業的規模」として認められるかどうかは、国税庁が示す明確な数値基準によって決まります。

その基準とは、一般的に「5棟10室(ごとうじゅっしつ)基準」と呼ばれるものです。具体的には、以下のいずれかの規模を満たしている場合に事業的規模と判定されます。

  • アパートやマンションなどの貸し室については、独立した室数が10室以上であること
  • 独立した戸建てなどの貸し付けについては、おおむね5棟以上であること

不動産所得はその規模によって税制上の扱いが大きく変わるため、国税庁は「所得税基本通達(26-9)」において、この形式的な判定基準を定めています。例えば、以下のようなケースはいずれも事業的規模に該当します。

  • 10部屋あるアパートを1棟所有している
  • 6部屋のアパートを1棟と、戸建てを2棟、さらに区分マンションを2室所有している(合計10室換算)
  • 戸建てを5棟所有している

事業的規模と業務的規模(副業規模)の根本的な違い

不動産投資の規模は、前述の基準を満たす「事業的規模」と、それに満たない「業務的規模(いわゆる副業規模)」の2種類に分けられます。両者の根本的な違いは「税務上の特典(優遇措置)を活用できるかどうか」です。

どちらも「不動産所得」であることに変わりはありませんが、事業的規模として認められると、国から「あなたは事業主として本格的に経営を行っている」とみなされます。

その結果、業務的規模では認められないような強力な控除や経費計上が認められるようになります。これは、手残りの現金を増やす上で非常に大きなアドバンテージです。例えば、代表的な違いは「青色申告特別控除」の額です。

  • 業務的規模: 最大10万円の控除
  • 事業的規模: 最大65万円の控除(e-Tax利用等の条件あり)

この55万円の差額に所得税率を乗じた分だけ、毎年の納税額が変わります。また、後述する家族への給与(専従者給与)を経費にできるかどうかも、この規模の境界線で決まります。

・「確定申告」に関する記事はこちら
不動産投資に確定申告は必須? やり方や必要書類を解説

駐車場・土地・空室がある場合の判定基準

「5棟10室」という基準はシンプルですが、実際の投資では「駐車場」や「更地(土地貸し)」、あるいは「空室」が含まれるケースもあり、判断に迷うこともあるでしょう。

判定に迷った際は、国税庁の定める「換算基準」に当てはめて計算することで、正確な規模を把握可能です。

駐車場

おおむね「5台分」を「1室」としてカウントします。つまり、50台分の駐車場があれば10室分となり、それだけで事業的規模とみなされます。

土地(更地)の貸し付け

おおむね「5件」を「1室」としてカウントします。

空室の扱い

現在空室であっても、募集を行っており、いつでも貸し出せる状態(賃貸の用に供することができる状態)であれば、原則として「1室」に含めてカウントできます。

例えば「あと1室足りない」という場合でも、駐車場の併設などで基準をクリアできる可能性があるため、詳細な判定については不動産会社などのプロに確認することをおすすめします。

事業的規模の不動産投資がもたらす税務上のメリット

不動産投資で「事業的規模」を目指すメリットは、税制上の強力なバックアップを受けられる点にあります。会社員として給与所得がある方にとっては特に、不動産所得にかかる税金を抑えることは、手元に残る現金を増やすために最も効率的な手段の一つです。

青色申告特別控除が利用できる

不動産所得を計算する際、最も手軽に、かつ大きな節税効果を実感できるのが「青色申告特別控除」です。

不動産投資が事業的規模として認められれば、控除額が65万円まで拡大されます。一方で、事業的規模ではない「業務的規模」の場合は、青色申告をしていても控除額は最大10万円までです。

控除は、実際に出費を伴う「経費」ではないにもかかわらず、利益から差し引けるため、大きな節税メリットとなります。

例えば、所得税・住民税の合計税率が30%の方であれば、10万円控除と65万円控除では、毎年の納税額に約16.5万円もの差が生まれます。

「たった55万円の差」と思うかもしれませんが、これが10年、20年と続けば、数百万円単位のキャッシュフローの差となります。事業主として青色申告をすることは、それだけで強力な投資戦略といえるでしょう。

・「節税」に関する記事はこちら
不動産投資で節税ができる仕組みを解説! 住民税・所得税・相続税を節税したいときの注意点は?

家族への給与の必要経費算入

「家族に手伝ってもらいたいけれど、そこでかかるお金を経費にできるのか」という悩みも、事業的規模になれば解決できます。「青色事業専従者給与」という制度を利用することで、生計を一にする配偶者や親族に支払う給与を、全額必要経費にすることが可能です。

通常、家族への支払いは「身内での資金移動」とみなされ、経費としては認められません。しかし、事業的規模であれば、その家族が実際に経営を支える「従業員」としての役割を果たしていると認められるためです。

世帯全体で見れば、高い税率が適用されるあなたの所得を、低い税率が適用される家族へ分散させる「所得分散効果」が期待できます。

例えば、物件の巡回や清掃、帳簿付けを担ってくれる配偶者に、月額8万円(年間96万円)の給与を支払うとします。この96万円をあなたの不動産所得から差し引ければ、世帯としての手残りを大きく増やすことが可能です。
ただし、家族に給与を支払うには、事前に税務署へ届出書を提出し、支払う給与が仕事の内容に対して妥当な金額である必要があります。

資産損失の損益通算と繰越控除

不動産投資には、天災などの予期せぬリスクも伴います。こうした際にも、事業的規模であれば税務面での救済措置が手厚くなります。

やむを得ず物件の取り壊しを迫られたなどの場合に、発生した損失(資産損失)を、他の所得から全額差し引けます(損益通算)。また、引ききれない分は翌年以降の3年間にわたって繰り越し可能です。

なお、不動産投資の事業規模が「業務的規模」の場合は、こうした損失を差し引けるのは、その年の不動産所得の金額が上限となります。

つまり、不動産所得が赤字になっても、その赤字を給与所得などから引くことは原則としてできません(建物の未償却残高分などの制限があるため)。これに対して、事業的規模の場合は「事業から生じた不可避な損失」として、全額が損益通算の対象となります。

仮に、老朽化したアパートを建て替えるために取り壊しを行い、500万円の固定資産除却損が出たとしましょう。事業的規模であれば、この500万円をその年の給与所得と相殺して税金の還付を受けたり、残った損失を翌年の税金から差し引いたりといった柔軟な対応が可能です。

家賃滞納(貸倒損失)が発生した際の税務上の取り扱いƒ

賃貸経営において避けたいリスクの一つが家賃滞納ですが、この処理についても事業的規模かどうかで違いがあります。家賃が回収不能となった場合は、事業的規模であれば「その回収不能が確定した年」の必要経費として計上できます。

業務的規模の場合、回収不能となった家賃は「もともと収入に計上していた年の所得計算」をやり直して修正(更正の請求)しなければなりません。

一方で事業的規模であれば、通常の事業における「貸倒損失」と同じ扱いになるため、発生したタイミングでの経費処理が認められます。

・「家賃滞納」に関する記事はこちら
家賃滞納リスクにどう備える?不動産投資における債権回収と予防策

事業的規模の不動産投資を目指す際の留意点

事業的規模 不動産投資 留意点

不動産投資を拡大して事業的規模にすると、規模が大きくなる分「事業主」としての責任やコストも発生します。

特に会社員として働きながら規模を拡大する場合は、事前に確認しておかないと予期せぬトラブルや、シミュレーションの狂いにつながるポイントがいくつか存在します。

会社員の副業規定(就業規則)との兼ね合い

サラリーマン大家さんにとって、最も慎重に確認すべきなのが本業先との関係です。不動産投資を事業的規模とする場合は、勤務先の「副業規定」に抵触しないか、事前に就業規則を確認しておくことが重要です。

一般的に不動産投資は「資産運用」として認められ、副業禁止の会社でも許容されることが多い傾向にあります。しかし、5棟10室という「事業的規模」になると、会社側が「投資」ではなく「本格的なビジネス(副業)」と判断する可能性が出てきます。

特に公務員の方などは、投資規模が一定の規模を超えると事前の承認が必要になるなど、厳格なルールが設けられています。

・「副業規定」に関する記事はこちら
サラリーマンでも始められる?副業としての不動産投資ガイド
不動産投資は副業にならない? 副業禁止でも不動産投資はできるのか

・「公務員による不動産投資」に関する記事はこちら
公務員が不動産投資するには許可が必要? 認められる3つの条件とは

個人事業税の課税対象となるリスクと資金計画

不動産投資の規模が事業的規模になると、所得税や住民税とは別に「個人事業税」という税金が発生します。

不動産所得の金額によっては、都道府県に納める「個人事業税」が発生するため、その分の支払いをあらかじめ資金計画に組み込んでおかなければなりません。

個人事業税は、一定の規模以上で事業を行う個人に対して課される税金です。不動産貸付業の場合、原則として5%の税率が適用されます。

ただし、年間290万円の「事業主控除」があるため、所得がこの金額を超えない限りは課税されませんが、規模拡大を目指す中級者以上の方は避けて通れないコストとなります。

例えば、不動産所得(経費差し引き後)が500万円の場合、「500万円 - 290万円(控除)= 210万円」が課税対象となり、その5%である10万5,000円を納める必要があります。

せっかく青色申告で節税しても、個人事業税の存在を忘れていると「思ったより手残りが少ない」という事態になりかねません。

複式簿記での記帳

最大65万円の青色申告特別控除を受けるためには、帳簿の付け方にルールがあります。具体的には「複式簿記」という少し複雑な手法での記帳が必要です。

青色申告による控除額を最大化するためには、資産や負債の動きも記録する「貸借対照表」と「損益計算書」の作成が義務付けられています。

「難しそう」と感じるかもしれませんが、今の時代はクラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)を活用すれば、銀行口座やクレジットカードとの連携で、簿記の知識が乏しくても複式簿記に近い帳簿が自動で作成できます。また、e-Taxによる申告を行えば、控除額を最大の65万円にすることができます。

配偶者控除や扶養控除が受けられなくなるケース

家族に給与を支払って節税を図る場合は、配偶者控除や扶養控除との関係に注意が必要です。家族を「青色事業専従者」として給与を支払うと、その家族は配偶者控除や扶養控除の対象から外れてしまいます。

これは、税制上「青色事業専従者として給与の支払いを受けた人」は、給与額の多寡にかかわらず、他の親族の扶養に入れないとされているためです。

例えば、専業主婦の奥様に月々3万円(年間36万円)の給与を支払ったとします。この場合、あなたの不動産所得から36万円を差し引けますが、一方であなたは奥様を「配偶者控除(最大38万円)」の対象にできなくなります。

支払う給与額が控除額より少ない場合、かえって世帯全体の税負担が増えてしまう「逆転現象」が起きる可能性があるのです。家族に給与を支払う際は、経費として計上できる金額だけでなく、受けられなくなる控除とのバランスも踏まえて判断することが大切です。

未経験から「事業的規模」を目指すためのステップアップ戦略

「5棟10室」という基準を聞いて、今はまだ遠い目標のように感じているかもしれません。しかし、現在多くの物件を動かしている成功した投資家たちも、最初は1棟のアパートや1戸の区分マンションからスタートしています。

大切なのは、最初の一歩を踏み出す際に「将来の事業的規模」を逆算した戦略を持っているかどうかです。

効率的な規模拡大には信頼できるパートナーの存在が不可欠

不動産投資を単なる副業で終わらせず、着実に事業的規模へと拡大していくためには、信頼できるプロのパートナーを見つけることが最も重要な鍵となります。

不動産投資を「事業」として成立させるには、物件の収益性を見極める目利きだけでなく、金融機関との高度な融資交渉、空室リスクを抑える賃貸管理ノウハウ、そして節税を見据えた出口戦略など、非常に多岐にわたる専門知識が求められるからです。
特に本業を持つ会社員の方にとっては、これら全てを独力でこなそうとすると、膨大な時間がかかるだけでなく、判断ミスによるリスクも高まってしまいます。プロの知見を活用することは、リスクを最小限に抑えつつ、拡大のスピードを最大化するための賢明な選択です。

まとめ

不動産投資における「事業的規模」は、一般的に5棟10室基準を目安に判定されます。事業的規模として認められると、最大65万円の青色申告特別控除を受けられるほか、青色事業専従者給与や資産損失・貸倒損失の扱いなど、税務上の取り扱いが業務的規模とは異なります。

一方で、規模が大きくなるほど、記帳や申告の負担、個人事業税、副業規定との兼ね合いなど、確認すべき点も増えます。節税効果だけに注目するのではなく、収支や管理体制、勤務先のルールも含めて総合的に判断することが大切です。

不動産投資の規模拡大を検討する際は、5棟10室基準を一つの目安としながら、自身の投資方針や資金計画に合った運用を考えていきましょう。

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ワンポイントアドバイス

最速で事業的規模を達成するコツは、1件目に「区分」ではなく「6室以上の一棟アパート」を選ぶことです。これだけで基準の過半数を一気にクリアに近づけられるため、拡大のハードルが劇的に下がります。

また、融資の際は銀行へ出す収支計画を他人任せにせず、自ら説明できるよう準備しましょう。数字を把握する「経営者」としての姿勢を見せることが、2棟目以降の融資を引き出し、最短で目標へ到達するための最大の秘訣です。

この記事のポイント

Q. 不動産投資が「事業的規模」とみなされるのはどこからですか?

A. 不動産投資が「事業的規模」として認められるかどうかは、国税庁が示す明確な数値基準によって決まります。その基準とは、一般的に「5棟10室(ごとうじゅっしつ)基準」と呼ばれるものです。詳しくは「「事業的規模」の不動産投資とは?」をご覧ください。


 Q. 事業的規模の不動産投資で得られるメリットはなんですか?

A. 不動産投資で「事業的規模」を目指すメリットは、税制上の強力なバックアップを受けられる点にあります。詳しくは「事業的規模の不動産投資がもたらす税務上のメリット」をご覧ください。


 Q. 事業的規模の不動産投資になった場合、気をつける点はありますか?

A. 不動産投資を拡大して事業的規模にすると、規模が大きくなる分「事業主」としての責任やコストも発生します。詳しくは「事業的規模の不動産投資を目指す際の留意点」をご覧ください。

ライター:秦創平

海外も含めた不動産業界歴約12年を経て2019年からフリーランスのwebライターとして活動を開始。営業マン時代にはセミナー講師の経験も多数あり。国内・海外を問わず不動産投資に関する記事が専門。秦 創平の記事一覧

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