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競売にかけられるのはいつ?住宅ローン滞納後の流れを解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • 競売物件とは住宅ローンなどの借金の返済に窮した人が債権者(お金を貸している人)のためにおこなう売却物件
  • 住宅ローン滞納後、金融機関から督促状が届くなどいくつかの段階を経て競売にかけられる

住宅ローンを滞納した場合、自宅を競売にかけられることがあります。せっかく手に入れたマイホームを手放さざるをえない状況にならないよう、住宅ローンの支払い計画をしっかり立てておくことが大切です。一方で競売にかけられた物件は、一戸建ての相場よりも安く購入できる可能性があり、買主にとっては魅力もあります。この記事では、競売にかけられるまでの流れや競売物件の特徴、メリット・デメリット、注意点などについて解説します。

競売物件の意味とは?

競売物件とは、住宅ローンなどの借金の返済に窮した人が債権者(お金を貸している人)のためにおこなう売却物件のことです。債権者が設定した抵当権に基づいておこなわれる法的な手続きであり、裁判所が窓口となっておこないます。
なお、抵当権とは債権者が担保を設定した物件から優先的に弁済を受けられる権利のことです。

競売は、情報公開期間が短期間であり、入札形式で売買がおこなわれます。
入札の最低基準となる買受可能価額は市場価格よりも安く設定されており、上手く落札できれば市場価格よりも安く購入できることも多いです。

競売は、バブル崩壊を受けて一般市民でも利用しやすい開かれた制度とするため、2003年に大きな制度改革がありました。

かつてドラマに描かれていたような占有屋といった存在は排除できるようになっており、制度を学べば個人でも安全に利用しやすくなっています。近年では、競売をマイホームの購入手段の一つとしている人も多いようです。

競売物件と公売物件の違い

競売物件と類似のものに「公売物件」があります。
公売とは、税金滞納者の不動産を国や地方公共団体が差し押さえ、入札形式で売却する制度です。

競売が借金滞納者の不動産売却であるのに対し、公売は税金滞納者の不動産売却であるという点が違いです。

比較項目競売公売
売却される不動産借金滞納者の物件税金滞納者の物件
窓口裁判所税務当局(国・地方自治体)
引渡命令ありなし

競売は窓口が裁判所のみに対し、公売は国や地方自治体などの多岐に渡る点が特徴です。

なお、公売には引渡命令という制度がなく、占有者がいる場合は競売よりも苦戦します。引渡命令制度とは、簡易な手続きをおこなえば、明け渡しの強制執行の権利を取得できる制度のことです。

住宅ローン滞納から競売までの流れ

ここでは、債務者(ローンを借りている人)向けに住宅ローン滞納から競売までの流れについて解説します。

1.金融機関から督促状が届く

住宅ローンを滞納すると、金融機関から督促状が届きます。
滞納が1~2回であれば、まだ挽回のチャンスがありますので、早めに対策を取ることが必要です。

滞納分をすぐに払える状況であれば、まずはすぐに銀行に連絡して滞納分を払うことを優先します。

一方で、滞納分を払える貯金がなく、今後も滞納が続きそうな場合には、銀行に対して条件変更を申し出ます。

条件変更とは返済条件の見直しのことであり、例えば返済期間を10年から20年へと伸ばす変更手続きを行うことができます。

10年ローンを20年ローンに変更することで、毎月の返済額を引き下げることができます。
条件変更は、返済期間(スケジュール)を再度変更するものであることから、通称リスケ(リスケジュールの略)とも呼ばれています。

住宅ローンを滞納したからといって、すぐに競売や任意売却に移行するわけではありません。
任意売却とは、債権者の合意を得て行う競売以外の売却方法のことです。

滞納を発生させたら、まずは銀行に条件変更の申出を行って競売や任意売却を避けることが適切といえます。

2.一括返済を求められる

住宅ローンの滞納が3~6ヶ月程度続くと、債務者は「期限の利益」を喪失し、債権者から一括返済が求められます。

期限の利益とは、契約書上で決められた支払日まで月々の返済額を支払わなくても良いとする債務者側の利益のことです。
例えば、35年ローンなら35年間かけてゆっくり返済すれば良いという利益になります。

住宅ローンを3~6ヶ月程度滞納した人は、債権者との間で信頼関係をすでに失っています。
債権者はこれ以上待てないという状態にあるため、債務者に与えられている期限の利益を剥奪し、一括返済を求めているというのがこの段階です。

債権者は一括返済を求めているだけであるため、このタイミングで残債を一括返済できるようであれば問題ありません。

例えば、債権者の了解の下、物件を売って売却代金で残債を一括返済するという選択肢もあります。
このように競売以外の方法で任意に売却して返済する方法を、任意売却と呼びます。

3.代位弁済通知が届く

一括返済が求められた後、そのまま放っておくと代位弁済通知が届きます。
代位弁済通知とは、債務者のローンを保証会社が代わりに支払ったという通知のことです。

住宅ローンを組む際は、保証料を支払って保証会社の保証を付けていることが一般的です。
この保証会社は、債務者が住宅ローンを滞納したときに代わりに銀行に残債を支払ってくれる役割を果たします。
つまり、保証会社は銀行を守っている会社ということです。

保証会社が代わりに支払ってくれたからといって、債務者の借金がなくなるわけではありません。
保証会社が銀行に対して代わりに弁済した後は、保証会社が新たな債権者となって債務者に一括返済を請求してくるようになります。

つまり、債権者の地位は銀行から保証会社に移転しているため、次は保証会社に対して一括返済していかなければならないということです。

4.裁判所へ申し立てされる

債権者が保証会社に代わって以降も、競売にならないように任意売却へ切り替える交渉を行う債務者は多いです。

保証会社が任意売却を認めれば任意売却へ移行しますが、保証会社が任意売却に合意しない場合や債務者が何もせず放置し続けた場合等においては、保証会社は裁判所に対して競売の申立を行います。

5.競売開始決定通知が届く

債権者による競売の申立が受理されると、競売開始が決定されます。
債務者に対しては、競売開始決定通知が届きます。

債権者が競売を申立てしたとしても、債権者は途中で競売を取り下げることが可能です。
債権者は、万が一の最終手段として競売の手続きを進めているケースもあります。

例えば、債務者から任意売却の申出があったものの、提案された任意売却による売却予想価格が低過ぎるといった場合があるとします。

そのようなときは、とりあえず競売の申立をしておき、引き続き債務者の任意売却の交渉を継続することもあるのです。

競売の手続きを進めている間に、もし債務者が良い条件の買受人(買主のこと)を見つけることができたら、債権者は競売を取り下げ任意売却に切り替えることもあります。

競売の取り下げ可能な期限は、売却が実施されて売却代金が納付されるまでです。
相当ギリギリのタイミングまで取り下げ可能であるため、任意売却を選択したい債務者は粘り強く交渉できるといえます。

任意売却は入札による売却ではないことから、買受人を指定できる点が1つのメリットです。

例えば、リースバックを使うことで今の家にそのまま住み続けられるという選択もすることができます。
リースバックとは、いったんリースバック会社に物件を売却し、その後、リースバック会社に家賃を支払うことで今の家に住み続けられる売却方法のことです。

債権者が納得する金額で買い取ってくれるリースバック会社を見つけることができたら、任意売却とリースバックをセットで利用し、今の家に住み続けることもできます。

6.裁判所の執行官が自宅の調査に来る

競売開始決定通知が届き、その後1ヶ月くらいすると裁判所から執行官と鑑定人が調査に訪れます。
裁判所の令状を持ってきますので、合法的に家の中に入られることになります。
国家権力による強制的な調査であり、仮にこの段階で夜逃げしていたとしても部屋の中に入って調査が行われます。

7.入札の開始と開札

執行官や鑑定人の調査が終わると、最低売却価格等が決まりインターネット等で競売情報が公表されます。

情報公開から2週間後には入札が行われ、さらにその2週間後には改札が行われます。
1ヶ月後には落札者が決定し、さらにその1ヶ月後に物件の引渡が行われるという流れです。

競売物件(差し押さえ物件)を購入するメリット

競売物件の主なメリットについて解説します。

価格が安い

競売物件は、うまく落札できれば市場で買うよりも安く購入できる確率が高いです。入札形式の売買であるため、必ずしも安く購入できるわけではありませんが、ある程度なら安く購入できる可能性はあります。

競売では、「売却基準価額」が定められます。
売却基準価額から20%減額した金額が「買受可能価額(実質的な最低落札価格)」です。売却基準価額は、一般的に市場価格から3割減価された金額で設定されています。

よって、買受可能価額は市場価格の56%(=0.7✕0.8)が基準となっており、最低ラインが市場価格の半額近くとなっていることから安く買える可能性があるのです。

ただし、買受可能価額で物件を購入できるわけではありません。
競売は、あくまでも入札形式であり、最も高い金額を提示した人が購入できます。
良い物件であれば市場価格並みの金額で入札する人もおり、競争が激しい場合には競売でも安く買えないことはあります。

物件の種類が多様

競売は、物件の種類が多様です。更地や戸建て、マンションだけでなく、アパートのような収益物件やオフィスビル、店舗も存在します。

また、借地権付き建物や底地(借地権の設定されている土地)など、市場ではあまり見かけない物件もあります。

手続きが少ない

競売は、売却までの期間も短いことから、手続きは比較的少ないです。
購入までは、保証金を振込み、入札書を提出すれば、あとは売却決定を待つだけになります。
売却決定がなされれば、代金を納付し、所有権移転の登記がなされます。

競売物件(差し押さえ物件)の特徴

一方のデメリットについて解説します。

物件情報が少ない・内覧ができない

競売物件は、多くの場合、内覧(物件内を見ること)ができず、物件購入の判断材料が少ない点がデメリットです。

裁判所では「物件明細書」「現況調査報告書」「不動産評価書」の3つの資料(3点セットという)を用意しており、入札者は3点セットを元に短期間で購入の可否を判断する必要があります。

物件明細書

物件明細書とは、裁判所の判断が記録されている書面です。物件明細書には「買受人(買主)が負担することとなる他人の権利」が記載されており、重要な書類となります。
例えば、抵当権が設定される前からいる賃借人など、正当な権限を有する占有者がいる場合には、強制執行によっても立ち退かせることができません。

現況調査報告書

現況調査報告書とは、裁判所の執行官による調査結果をまとめた書面です。
占有関係を中心に調査内容が記載されており、写真も添付されているため、中の様子をある程度知ることができます。

不動産評価書

不動産評価書とは、不動産鑑定士による売却基準価額を評価した書面です。
物件の公法上の規制が記載されているため、仲介の売買における重要事項説明に似た内容を知ることができます。

明け渡しに手間がかかることがある

不動産の用語には、「引き渡し」と「明け渡し」の2つ言葉があります。引き渡しとは所有権を引渡すことであり、明け渡しとは占有者のいない状態で明け渡すということです。

競売は落札後に代金納付を行えば所有権は無事に引き渡されますが、すんなりと明け渡されるとは限りません。
例えば、前所有者がそのまま住んでいるなどの不法占拠者がいる場合があります。多くの場合、買受人が占有者と話し合って退去してもらいます。しかし、話し合いで折り合いがつかなければ、強制執行によって退去させることが必要です。

不法占拠者を立退かせるには、法的には本来明け渡し訴訟をおこなう必要がありますが、競売には先述のとおり引渡命令制度という簡易な手続きが備わっています。

引渡命令の申立をおこなうと、債務名義(明け渡しを認めた法的な文書)を取得することができ、明け渡しの強制執行の手続きをおこなうことが可能です。占有権限のない占有者であれば、強制執行によって立ち退かせることができます。

一部の契約不適合責任がない

契約不適合責任とは、「目的物が契約の内容に適合しない場合の売主責任」のことです。
一般の不動産売買では、売主が契約内容と異なるものを売った場合、買主は購入後に売主に対して以下のいずれかを請求できます。

  • 追完請求(主に修繕の請求)
  • 代金減額請求
  • 契約解除
  • 損害賠償請求

競売物件では、種類または品質に関する不適合を除き、例えば権利が欠けているなどの不適合については契約解除または代金の減額を請求することが可能ですが、売買の性質上、売主に追完請求と損害賠償の請求は原則として認められていません。

トラブルは買主が解決しなければならない

競売物件ではトラブルを自分で解決しなければなりません。
例えば、明け渡しの強制執行で残置物の処分費用が発生した場合、本来であればこれらの費用は強制執行を受ける側が負担することになります。

しかし、相手方(例えば債務者)には資力がないことが多いため、実際には買受人が負担せざるを得ないことがよくあります。

競売物件で起こりうるトラブル・注意点

ここでは、競売物件で起こりうるトラブル・注意点について解説します。

所有者が立ち退きに応じない

買受後、所有者が立ち退きに応じないこともあります。ただし先述のとおり、所有者には占有権限がないため、任意の話し合いで立ち退きに応じない場合には引渡命令を申立て、強制執行によって退去させることができます。

旧所有者の残置物がある

旧所有者の残置物がある場合、勝手に処分してはいけません。引渡命令を申立て、強制執行をおこなう必要があります。
先述のとおり、処分費用は資力のない旧所有者には払えないため、買受人が負担することが多いです。

住宅ローンが組みにくい

競売物件における住宅ローンは、入札時点では本審査が行われないことが一般的で、落札後に本審査が行われることが多くなっています。さらに、競売物件の住宅ローンは消極的な金融機関が多く、落札後に本審査に通過するとも限りません。そのため、住宅ローンが組みにくいのです。

なお、入札では最初に保証金(売却基準価額の20%)を支払いますが、保証金の支払いは住宅ローンが実行される前となるため、保証金は現金で用意することが必要です。

競売物件の探し方

昨今の競売物件は、裁判所が運営する不動産競売物件情報サイト(通称BIT)で探すことが一般的です。

BITでは現況調査報告書、不動産の図面などが添付された評価書、物件明細書それぞれの写しを1冊のファイルにした、通称「3点セット」をダウンロードできます。

ただし、ダウンロード版は個人情報にかかわる部分はマスキングされており、マスキング部分を確認するには裁判所に見に行く必要があります。

また、BITでは年間の売却スケジュールも公開されています。3点セットは公告日に公開されることから、裁判所のスケジュールにあわせて検討期間を十分に確保することがコツです。

さらに、BITでは過去の入札結果も公表されています。売却基準価額に対していくらくらいで落札されているのかわかるため、入札金額の参考にできます。

出典:競売物件検索|BIT 不動産競売物件情報サイト – 裁判所

競売物件に住むまでの流れ

競売物件に住むまでの流れは、下表のとおりです。

手続期間
公告日(3点セットの公開)2週間
入札期間1週間
入札終了後~開札期日1週間
開札期日~売却決定4日~1週間
売却許可決定の確定1週間(執行抗告期間)
売却許可決定の確定~代金納付約1カ月
引渡命令の申立~確定2週間~約1カ月
明け渡しの強制執行の申立~催告約2週間
催告~強制執行の実施約1週間

代金納付後、占有者がすんなりと明け渡せばすぐに住むことは可能です。明け渡し協議が整わない場合、引渡命令を申立て、強制執行の手続きをおこないます。

競売物件購入は専門家へ相談してみよう

競売物件の購入では、専門知識を必要とし、検討期間も短く、物件内も直接見ることができないことから購入可否を決める判断が難しいです。
占有者に関しては、無権限者であれば引渡命令によって強制執行ができますが、中には正当な占有権限がある占有者も存在します。正当な占有者は引渡命令によっても退去させることができないため、十分に確認することが必要です。

特に初心者の方は、自分で勝手に判断すると大きなリスクを負うこともあります。

はじめて競売物件を購入する方は、弁護士などの専門家に相談しながら手続きを進めていくことをおすすめします。

この記事のポイント

住宅ローン滞納から競売までの流れは?

住宅ローン滞納後、金融機関から督促状が届く→一括返済を求められる→代位弁済通知が届く→裁判所へ申し立てされる→競売開始決定通知が届く→入札の開始と開札といった流れで競売にかけられます。

詳しくは「住宅ローン滞納から競売までの流れ」をご覧ください。

競売物件の探し方は?

昨今の競売物件は、裁判所が運営する不動産競売物件情報サイト(通称BIT)で探すことが一般的です。

年間の売却スケジュールや過去の入札結果も公表されており、売却基準価額に対していくらくらいで落札されているのかわかるため、入札金額の参考にできます。

詳しくは「競売物件の探し方」をご覧ください。

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