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免震構造とは?耐震・制振構造との違いやマンションと一戸建ての事例を紹介

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • 免震構造とは、地面と建築物との間に免震装置を入れて建築物に伝わる揺れを減らす構造
  • 免震構造の耐震性能を十分に発揮するには、建物の高さと幅の比は3:1が望ましい

建物の耐震性を表す用語として、免震構造や制振構造、耐震構造があります。
このうち、地震に対する耐震性能が最も高いのは免震構造です。

一方で、免震構造はよく耳にするわりには、該当する建物が少なく感じるかもしれません。実際には免震構造まで採用しなくても、十分な耐震性が確保できます。
免震構造を採用する場合には、メリットとデメリットを把握しておくことが望ましいです。
この記事では「免震構造」について解説します。

免震構造とは

免震構造とは、地面と建築物との間に免震装置を入れて、建築物に伝わる揺れを減らす建物の構造のことです。
免震装置で地震の揺れを吸収するため、建築物に伝わる揺れが小さくなります。
免震構造の建物は、通常の建物よりも家具等が倒れにくくなることが特徴です。

免震構造の仕組み

免震構造は、建築物の基礎と上部構造の間に免震部材を取り付けて地震の揺れを吸収し、建築物に地震のエネルギーを直接伝えにくくする構造です。

大規模で重荷重の建物に効果的ですが、近年では軽量の木造建物でも採用されることがあります。

また、免震構造は鉄筋コンクリート造では10数階程度が適切な範囲となりますが、近年では超高層ビルでも免震構造が採用されています。

免震層に取り付ける免震部材は、免震装置と呼ばれます。
免震装置は、積層ゴムが採用されることが一般的です。

免震構造は、建物の上部構造のデザインを変更することなく、耐震性能を上げることができます。
地震時に建物にゆがみが発生するリスクも少ないため、外壁パネル等の脱落も防げることができる点が特徴です。

免震構造の耐震性能を十分に発揮するには、建物の高さと幅の比は3:1が望ましいとされています。
3:1が理想であることから、免震構造が採用されている建物は寸胴(ずんどう)な形状の建築物が多いです。
細長い建物を免震構造にしてしまうと、地震時に外端の柱に引張力や圧縮力が生じ、積層ゴムの水平変形能力の劣化や、ゴムの座屈が生じる恐れがあります。

また、免震構造では、地震が発生すると最初にいったん大きく揺れて地震力を逃すことが特徴です。ゆえに、建物の外周部にはクリアランス(隙間)を設ける必要があり、敷地が十分に広くないと建てられません。

日本の建築における免震技術の歴史

地震大国である日本では、免震技術の歴史も古いです。
古くは京都にある三十三間堂に免震構造の考え方が取り入れられています。

三十三間堂では、お堂の中にさまざまな説明パネルが貼られています。
建物に関するパネルもあり、そこには現在の免震構造に通じる考え方でお堂が建てられていることが解説されています。

免震構造・耐震構造・制振構造の違い

免震構造と耐震構造、制振構造の違いについて解説します。

各構造形式の特徴と機能

免震構造が、地面と建築物との間に免震装置を入れて、建築物に伝わる揺れを減らす構造である一方、耐震構造は建物自体の強度を増すことで地震力に耐える構造です。
いわゆる普通に建てた建物は、耐震構造の建物になります。

建築基準法では、耐震構造を念頭に耐震設計法の基準が規定されています。
建築基準法の耐震設計法は、1981年(昭和56年)6月1日を境に大きく変わりました。
1981年5月31日以前に建築確認申請を通過した建物は「旧耐震基準」、1981年6月1日以降に建築確認申請を通過した建物は「新耐震基準」と呼ばれています。

制振構造とは、建物内に共振を抑える制振ダンパーを設けることで地震に対する応答を減らす構造です。
振りを制御することから「制振」と記載します。インターネット上には「制震」という誤記も多く見られますが、制震構造という記載は漢字の間違いです。

制振構造は、免震構造と比較すると耐震性能は劣りますが、耐震構造よりは耐震性能が高いです。
敷地に余裕がなくても採用できることから、都市部のオフィスビルに多い傾向があります。

なお、耐震性を表す指標として「耐震等級」が存在します。
耐震等級は主に耐震構造の地震に耐える力を表したものであり、制振構造や免震構造といった区分けとは全く異なる分類指標です。
耐震等級と免震や制振等の分類は関連付けられているわけではなく、それぞれ別の見方の区分けとなっています。

適用される建物のタイプとその効果

耐震構造は、どの建物でも広く採用されています。
普通に建てれば耐震構造になるわけですから、戸建てに限らずマンションやオフィスビル、店舗、倉庫等のあらゆる建物が耐震構造となっています。

制振構造は、都市部のオフィスビルで採用されることが比較的多いです。
制振構造が都市部のオフィスビルで多いのは、免震構造のように建物の外周部に十分なクリアランスを確保しなくても良いという理由からです。

都市部のオフィスビルは、敷地にめいっぱいの広さを使って建てられることが多いです。
クリアランスを確保する余裕がないことから、制振構造が多く採用されています。

免震構造は、研究所やマンション等の建物に採用されることが多いです。
研究所は寸胴な形状の建物が比較的多く、免震構造の効果が発揮しやすいことも多く採用される理由といえます。

また、マンションは敷地内に余裕を持って建てられることが多いです。クリアランスを確保しやすいことから、免震構造を採用しやすいといえます。

高層建築物となるマンションは、購入検討者も地震対策に関心を持つ人が多いです。免震構造にするとマンションに付加価値が付くことから、マンションデベロッパーの販売戦略上、免震構造を取り入れている物件を見かけることがあります。

免震構造のメリット

免震構造のメリットについて解説します。

設計自由度が大きい

免震構造には、基礎部分に免震装置を取り付ける「基礎免震」と、地下階や地上階に免震装置を取り付ける「中間免震」の2種類が存在します。

この2種類のうち、基礎免震であれば上部構造のデザインに影響を与えることなく耐震性能を上げることができます。
そのため、上部構造の設計の自由度が大きくなる点がメリットです。

たとえば、制振構造では建物内に制振ダンパーを入れる必要があります。設計の際、制振ダンパーの存在に一定の制約を受けるため、制振構造の設計自由度は免震構造に比べて劣るといえます。

室内へのダメージを抑えられる

免震構造の建物は、最初に建物が大きく揺れて、その後はほとんど揺れないといった揺れ方をします。
耐震構造のようにガタガタと揺れが続くといったことは少ないです。

免震構造は全く揺れないわけではありませんが、揺れる時間が少ないため、室内へのダメージは少なくなります。
室内の設備機器や家具、什器、備品等が壊れることは少なく、転倒もほとんどない点が特徴です。

免震構造は、地震に対する居住者の安心感が増すことも大きなメリットといえます。

大地震後の大きな補修が不要

免震構造は、1回大きく揺れてその後はほとんど揺れないため、建物の上部構造に損傷を与える可能性が低いです。
そのため、上部構造に関しては大地震後に大規模な修繕が発生することは少ないといえます。

ただし、大地震によって免震装置が破壊されれば、免震装置の修繕は必要です。クリアランス部分が破壊されれば、こちらも修繕しなければなりません。

免震構造のデメリット

免震構造のデメリットについて解説します。

ゆとりのある敷地面積が必要

免震構造は、建物の外周にクリアランスを設けなければならないため、ゆとりのある敷地面積が必要となる点がデメリットです。
免震構造では、最初に建物が大きく揺れますが、クリアランスは建物を大きく揺らして力を逃すために必要な部分となります。

たとえば、建物の外周部に余裕がない都市部のオフィスビル等では免震構造は採用しにくい構造となっています。

免震構造が採用できない建物がある

免震構造は「建物の高さと幅の比が3:1で寸胴形の建物」に適しています。
細長い建物には適していないため、免震構造を採用しない方が良い建物も存在します。

また、地盤条件によって免震構造の採用を避けた方がいい場合もあります。
軟弱地盤や液状化の恐れがある地盤では、地震動の長周期成分が増幅されて免震構造の建物に入るため、免震効果が期待できません。

低層建物ほど建築コストが高騰

免震構造は、基礎部分に免震装置を設置することが必要です。
免震装置は低層建物でも高層建物でも必要となるため、延床面積が小さい低層建物では建築費単価が特に割高となってしまいます。

また、低層建物に関わらず、免震構造は免震装置が必要となることから、同じ規模の建物と比べると建築費が割高です。

さらに、免震構造では免震装置の定期的なメンテナンスが必要となります。
そのため、通常の建物と比べると維持管理費が割高となる点もデメリットといえるでしょう。

免震構造の住宅への採用事例

免震構造の住宅への採用事例について解説します。

マンション

免震構造の建物は全体としては決して多くはありませんが、分譲マンションでは比較的みられる構造となります。

分譲マンションは個人が資産として購入することから、耐震性を気にする買主が多いです。

また、分譲マンションは広い敷地に余裕を持って建てられることが多く、建物の外周部にクリアランスを設けやすいという特徴があります。

一方で、同じマンションでも、賃貸マンションでは免震構造は少ないのが特徴です。
賃貸マンションは、分譲マンションに比べると狭い敷地に建てられる傾向があり、クリアランスを確保しにくい物件が多いといえます。

また、賃貸マンションは建築費やランニングコストを極力抑えないと投資採算性が合わないことから、貸主が免震構造を採用したがりません。

そのため、賃貸マンションでは免震構造の物件はほとんどないといえます。

一戸建て

免震構造は軽量の建物に対してはそれほど効果的ではないことから、一戸建てで採用されることは少ないです。

それでも一部にはニーズがあることから、近年では戸建てで免震構造を提供するハウスメーカーも出てきました。

戸建ての場合、免震構造を採用するよりも高い耐震等級を望むニーズが強いです。
免震構造を選ぶケースよりも、耐震構造の中で地震に耐える力をより強くすることで、耐震等級を2または3にするケースの方が多い傾向があります。

また、免震構造は、免震装置のメンテナンス費用が発生してしまいます。個人の住宅で免震装置を維持していくには負担が重いです。

そのため、維持費用の観点からも、戸建て住宅では免震構造は選ばれない傾向があります。

・「免震構造」を含む物件一覧はこちら

この記事のポイント

免震構造とはどんなもの?

免震構造は、建築物の基礎と上部構造の間に免震部材を取り付けて地震の揺れを吸収し、建築物に地震のエネルギーを直接伝えにくくする構造です。

大規模で重荷重の建物に効果的ですが、近年では軽量の木造建物でも採用されることがあります。

詳しくは「免震構造とは」をご覧ください。

免震構造のメリットは何ですか?

免震構造には、基礎部分に免震装置を取り付ける「基礎免震」と、地下階や地上階に免震装置を取り付ける「中間免震」の2種類が存在しますが、基礎免震であれば上部構造のデザインに影響を与えることなく耐震性能を上げることができます。
そのため、上部構造の設計の自由度が大きくなる点がメリットです。

また、免震構造の建物は、最初に建物が大きく揺れて、その後はほとんど揺れないといった揺れ方をします。全く揺れないわけではありませんが、揺れる時間が少ないため、室内へのダメージは少なくなります。

詳しくは「免震構造のメリット」をご覧ください。

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