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地役権と地上権の違いは?メリット・デメリットを解説

執筆者プロフィール

桜木 理恵
資格情報: Webライター、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、管理業務主任者

大学在学中に宅地建物取引士に合格。新卒で大手不動産会社に入社し、売買仲介営業担当として約8年勤務。結婚・出産を機に大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し約5年勤務。その他信託銀行にて不動産事務として勤務経験あり。現在は不動産の知識と経験を活かし、フリーランスのWebライターとして活動。不動産や建築にまつわる記事を多数執筆。「宅地建物取引士」「2級ファイナンシャル・プランニング技能士」「管理業務主任者」所持。

ざっくり要約!

  • 地役権とは自分の土地の利便性を高めるために他人の土地を利用する権利
  • 地役権が設定された土地(承役地)を購入することで、使用料などの対価を受け取れる可能性がある

土地に関する権利には所有権や借地権、地上権などがありますが、地役権という権利も存在します。民法によって定められている権利で、自分の土地の利便性を高めるために他人の土地を利用することができる権利です。

地役権には通行地役権や送電線路敷設地役権、囲繞地通行権などがあり、それぞれ目的や設定された背景が異なります。

この記事では地役権についてわかりやすく解説し、メリットやデメリット、地役権が不動産売買に与える影響を紹介します。

また地役権の登記手続きや関連する税金についても触れますので、この機会に地役権を理解しておきたいという方は、ぜひ参考にしてください。

地役権とは?

地役権とは自分の土地の利便性を高めるために、他人の土地を利用する権利です。しかし何でもできるというわけではなく、一定の目的として定めた範囲内となります。公序良俗に反することや、他人の所有権を侵害するようなことはできません。

他人の土地を利用する側の土地を「要役地」、利用される側の土地を「承役地」といいます。

たとえば最寄り駅まで行くのに、他人の土地を通行した方が便利な場合などに、通行を認めてもらうために設定するのが通行地役権です。

また自分の土地にガス管が埋設されていない道路にしか接道していないために、他人の土地を経由してガスを引き込みたいときに、埋設目的で地役権を設定することもあります。お互いの合意があれば、他人の敷地にガス管を埋設することもできます。

地役権には他にもさまざまな種類があります。あとに続く章で代表的な地役権について紹介します。

地役権の法的枠組みと意義

地役権は当事者が合意することで成立し、期間を定めない場合は永久的に地役権を行使できるとの見解が通説です。

地役権について第三者に対抗するためには、基本的には登記が必要になります。登記すれば承役地の所有権が新所有者に移転されたとしても、要役地の所有者は引き続き承役地を利用できます。地役権の登記手続きについては、後半で詳しく紹介します。

ちなみに承役地を利用する側へ使用料等を請求することもできますが、無償とすることも可能です。

登記により地役権が設定された土地を購入したときは、引き続き利用を認めなければなりません。また使用料などを定めている場合は、承役地の所有者は相手側に対価を求めることができます。

ただし地役権が行使できるときから利用しない期間が20年を経過したときは、時効により権利は消滅します。

なお要役地から地役権だけを切り離して売却したりすることはできません。あくまでもその土地の利便性を高めるための権利です。

地役権図面とは

地役権の登記は当事者が申請することもできます。しかし手続きや必要書類が複雑なため、基本的には司法書士へ依頼することをおすすめします。

地役権の登記をする際は、承役地の登記識別情報(もしくは登記済証)などのほかに「地役権図面」が必要になります。

地役権図面とは、承役地のうちどの部分に地役権を設定するのかを示すための図面です。なお承役地全体に対して地役権を設定する場合は、地役権図面は不要です。

地役権図面は司法書士が作成することも可能ですが、土地の測量が必要な場合は土地家屋調査士へ依頼します。

地役権と地上権の違い

地上権とは借地権の一種で、他人の土地利用できる権利です。他人の土地を利用するための権利である点や物権である点は、地役権と同じです。

なお、地役権は自分の土地(要役地)の利便性を高めるために、他人の土地である承役地を利用しますが、地上権は他人の土地のみで完結する権利です。
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したがって地役権だけを売却することはできず、要役地に付随する形で売却することになりますが、地上権は単独で売却することができます。

地上権については、以下の記事で詳しく解説しています。

さまざまな地役権

地役権には通行地役権や送電線路敷設地役権、囲繞地通行権などがあり、目的や設定された背景が異なります。それぞれの特徴や違いを解説します。

通行地役権送電線路敷設地役権囲繞地通行権
契約の要件当事者間の合意による当事者間の合意による民法により当然に発生する権利。契約することも可能
他人の土地を利用する範囲当事者で定めることができる当事者が定めることができる囲繞地の所有者に対して負担が少ない範囲
登記の有無第三者に対抗するためには登記が必要第三者に対抗するためには登記が必要基本的には不要
利用に対する対価当事者間で定める(有料・無料どちらも可能)当事者間で定める(有料とすることが多い)基本的に対価が必要(公道に面していた土地が分筆などにより袋地になった場合は、その分割した者の所有地のみ通行できるものとし、対価を必要としない)
有効期限当事者間で定めることができる当事者間で定めることができる期間の定めなし

通行地役権

自分の土地の利便性を高める目的で、他人の土地を通行するための地役権です。たとえば自分の土地が道路に面している場合でも、他人の敷地を通行することによって、駅へ最短距離で行くことができる場合などに通行地役権を設定します。

お互いの合意により「地役権設定契約」を締結し、地役権の範囲や対価を定めます。無償とすることや、有効期限を定めないことも可能です。

第三者に地役権を対抗するためには登記が必要になるため、一般的に登記することが多いです。

送電線路敷設地役権

土地の上空であっても、電気事業者は送電線を通過させることについて土地所有者の承諾を得る必要があります。

高圧線が上空を通過する場合は、建物などと一定以上の距離を保つ必要があり、土地の所有者は土地の利用について高さ制限を受けることがあります。

通常、送電線架設保持に関する契約を締結しますが、電気事業者が第三者に対抗するために送電線路敷設地役権を設定します。

対価は設定時に一括で支払われることが多く、有効期限や範囲は当事者間で取り決めます。

囲繞地通行権

敷地の周りを土地に囲まれ、他人の敷地を通行しないと外へ出ることができない土地を袋地といいます。民法では袋地の所有者に対し、公道に出るために周囲の土地(囲繞地)を通行することを認めています。

一般的にこの通行権を囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)と呼んでいますが、民法では「公道に至るための他の土地の通行権」として定めています。

袋地の所有者を救済するための通行権ですが、囲繞地の所有者に対価を支払う必要があり、利用する範囲も囲繞地の所有者の負担が少ない範囲としなければなりまません。

しかし分割により接道しなくなった場合は、分割した人の土地を通行する必要があり、その場合対価は不要です。

地役権のメリット・デメリット

地役権が設定された土地(承役地)の購入を検討するのであれば、メリットとデメリットを理解しておく必要があります。承役地の所有者や買主とトラブルにならないように注意しましょう。

地役権のメリット

地役権が設定されていることで、使用料などの対価を受け取れる可能性があります。しかし無償のケースがない訳ではありませんので、事前に確認することが必要です。

送電線路敷設地役権が設定されている場合は、使用料を受け取れるケースが多いため、契約内容や建築制限を確認して購入するかの判断をしましょう。

地役権が設定されていることで土地の評価が下がり、その分固定資産税や相続税など税金が安くなる可能性があります。

地役権のデメリット

通行地役権が設定された部分には、建物を建てたり通行の邪魔になるようなものを置いたりすることはできません。地役権が設定されている範囲や対価の有無を確認し、購入価格が妥当なのか判断しましょう。

送電線路敷設地役権が設定されている場合は、建物の高さが制限される可能性があり、希望する建物が建たないおそれがあります。また要役地のために水道管などを埋設する場合は、地下室の広さや位置が制限される可能性があることも理解しておきましょう。

地役権が不動産売買に与える影響

地役権が設定されることにより生じる影響や、承役地を売却するときの注意点を紹介します。

不動産の価値などに及ぼす影響

地役権が設定されていることで敷地の中に利用できない部分が存在し、建物の高さや地下室の深さなどが制限される可能性があります。利用価値が低くなるため、売却時には市場価格よりも安く設定する必要があるでしょう。

また制限の度合いや条件によっては、売却が難しくなることも考えられます。地役権の設定を了承する場合は、条件や範囲、対価をよく考慮するようにしましょう。

地役権付き不動産の売買時の注意点

地役権は登記をしなければ、基本的に第三者に対抗できません。しかし要役地の所有者が地役権を設定した通路部分を整備するなどし、物理的に利用されていることが明らかなときは、第三者に対抗できるとした判例があります。

つまり登記されていない場合でも、新所有者は引き続き要役地の所有者に利用を認める必要があるということです。売買契約を締結するときは、購入希望者に地役権が設定されていることを説明し、地役権について引き継ぐようにしましょう。

地役権の登記手続き

地役権設定登記の手続きについて紹介します。

登記手続きの流れ

地役権の設定手続きを当事者が行う場合は、正確性を確保するために共同申請が原則です。承役地の所在地を管轄する法務局へ、承役地の所有者と要役地の所有者が共同して登記の申請をします。

なお司法書士へ依頼する場合は、次章で説明する必要書類を揃えて相談します。

ちなみに地役権が設定されていることは承役地の登記簿の乙区を見ることで確認できますが、地役権者の住所や氏名は記載されず、原因や目的、範囲、要役地の所在などが記載されます。

登記に必要な書類

地役権設定登記を司法書士へ依頼する場合に必要になる、おもな書類は以下の通りです。

  • 地役権設定契約書(登記原因証明情報)
  • 承役地の所有者の実印・印鑑証明書(3カ月以内)
  • 承役地の登記識別情報(または登記済証)
  • 承役地と要役地それぞれの所有者の本人確認書類
  • 要役地の所有者の認印
  • 司法書士へ登記を依頼する委任状(代理権限証明情報)
  • 地役権図面(承役地すべてが対象になる場合は不要)

登記にかかる費用

地役権の設定登記をする場合は、承役地の1個に対して1,500円の登録免許税がかかります。つまり土地が2筆の場合は3,000円になります。

司法書士へ地役権設定登記を依頼する場合は、司法書士への報酬と登録免許税を合算した金額を支払います。

司法書士によって報酬は異なりますが、一般的に5~10万円が相場です。実際には依頼する司法書士へ確認するようにしましょう。

不動産の登記費用の相場については、以下の記事で詳しく紹介しています。

地役権と税金

地役権が設定されていることで敷地の一部もしくはすべての利用が制限されるため、不動産としての評価が下がり、その分税金も軽減されます。地役権に関する税金や税務申告する際の対処法を解説します。

地役権に関連する税金

地役権に関連するのは固定資産税と、権利金などに対する分離課税です。

地役権が設定された土地は利用が制限されるため、その分土地の評価額は低くなります。固定資産税や都市計画税は土地の課税標準額に対して税率を乗じて算出するため、地役権が設定されていない土地と比べて固定資産税等は安くなります。

地役権などの対価として受け取った権利金(一時金)は、原則不動産所得になります。しかし権利金が多額(土地の時価の1/2以上)になる場合は、土地の一部を譲渡したとみなされ譲渡所得となるので注意しましょう。

通常所得は総所得金額に対する税額を求めて確定申告をしますが、不動産の譲渡所得については申告分離課税制度に該当するため、ほかの所得とは分離して申告しなければなりません。

税務申告に及ぼす影響と対策

地役権が設定された範囲や条件によっては土地の評価が減額となり、納めるべき相続税が減額になる可能性があります。

地役権が設定されていることにより建物が建築できない場合は50%、建物の規模等に制限を受ける場合は30%評価を減額できます。

正しく申告することで節税できる可能性がありますので、相続税の申告については税務署もしくは相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

この記事のポイント

地役権にはどんなものがある?

地役権には通行地役権をはじめとしたさまざまなものがあり、目的や設定された背景が異なります。

通行地役権とは、自分の土地の利便性を高める目的で、他人の土地を通行するための地役権です。たとえば自分の土地が道路に面している場合でも、他人の敷地を通行することによって、駅へ最短距離で行くことができる場合などに通行地役権を設定します。

そのほかに、送電線路敷設地役権、囲繞地通行権(いにょうちつうこうけん)があります。

詳しくは「さまざまな地役権」をご覧ください。

地役権の登記手続きはどうやるの?

地役権設定の手続きを当事者が行う場合は、正確性を確保するために共同申請が原則です。承役地の所在地を管轄する法務局へ、承役地の所有者と要役地の所有者が共同して登記の申請をします。

なお司法書士へ依頼する場合は、次章で説明する必要書類を揃えて相談します。

詳しくは「地役権の登記手続き」をご覧ください。

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