資産管理会社を使った不動産投資とは?法人化のメリットと落とし穴
ざっくり要約!
- 資産管理会社は節税だけでなく資産拡大の加速にも有効
- 資産管理会社には3つの形態があるが、不動産所有方式が最適
不動産投資で順調に収益が上がってきたものの、確定申告のたびに「こんなに税金で持っていかれるのか」と愕然とした経験はありませんか?
苦労して満室経営を続けても、個人の税率は所得に応じて高くなるため、手元に残るお金は思うように増えません。そんな状況を打破し、資産形成を加速させる有力な手段が「資産管理会社の設立(法人化)」です。
しかし、「会社を設立する手続きって難しそう」「会社に副業がバレないか心配」と二の足を踏んでしまう方も多いでしょう。
この記事では、法人化によって手取りを増やす仕組みから、サラリーマン大家の方が気になるリスク対策まで、失敗しないための判断基準を分かりやすく解説します。
目次
資産管理会社とは?
資産管理会社とは、その名の通り、不動産や有価証券などの「資産」を管理・所有することを目的とした会社のことです。一般的には「プライベートカンパニー」とも呼ばれます。
「会社を作る」と聞くと、何か新しい事業を始めたり、多くの従業員を雇ったりするイメージがあるかもしれません。しかし、不動産投資における資産管理会社は、ご自身やご家族だけで運営するケースがほとんどです。
また、資産管理会社を設立する主な目的は「税金対策」と「資産の円滑な継承」にあります。
不動産投資において法人化が推奨される理由は、個人のままでは避けられない「税金の問題」を乗り越えて、資産形成のスピードを上げられるからです。
個人と法人(会社)の税率の違い
ある一定以上の利益が出ている場合は、個人よりも法人の方が圧倒的に低い税率で資産を運用できます。
個人の所得税は「超過累進税率」が採用されており、所得が増えれば増えるほど税率が高くなります。住民税と合わせた最大の税率は約55%です。一生懸命働いて収益を上げても、その半分以上を税金として納めなければなりません。
一方で、法人税は「比例税率」に近い仕組みになっており、所得の額にかかわらず税率はほぼ一定です。資本金1億円以下の中小法人であれば、実効税率(実際に負担する税率)は約23%〜34%程度に収まります。
個人では頑張って稼ぐほど税負担が重くなりますが、法人は稼いでも税負担が一定水準に留まるというのが大きな違いです。
単なる節税だけではない!「資産拡大スピード」への影響
賃貸経営で法人化するメリットは、単なる節税だけではなく「手元に残るキャッシュを最大化し、次の投資へのスピードを加速させること」にあります。
不動産投資などの資産運用においては、税引き後の手残り資金(キャッシュフロー)こそが、次の物件を購入する「再投資の原資」となるからです。
法人と個人の税率差を活かし「浮いた税金分の資金」を次の物件の購入資金に充てることで、個人で運用するよりも早いサイクルで資産規模を拡大できます。法人化は単なる「守りの節税」ではなく、資産を増やすための「攻めの戦略」とも言えるでしょう。
・「法人化」に関する記事はこちら
不動産投資で法人化するメリット・デメリット! 適切なタイミングは?
資産管理会社は「不動産所有方式」がおすすめ
資産管理会社を作るといっても、「会社がどのように不動産に関わるか」によって3つの形式に分かれます。この選択を間違えると「苦労して法人を作ったのに、期待したほど節税効果がなかった」という結果になりかねません。
本格的な節税と資産形成を目指すのであれば、「不動産所有方式」が最もおすすめです。他の方式との違いを解説します。
管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式の違い
資産管理会社の形態は、大きく分けて「管理委託方式」「サブリース方式」「不動産所有方式」の3つがあります。節税効果を期待して法人を設立するのであれば、所得を可能な限り多く個人から法人へ移すことが必要です。
会社の形態によって、法人が物件から得られる収益の割合、つまり「個人の所得をどれだけ法人に移せるか」は異なります。
管理委託方式(効果:小)
不動産は個人が所有したまま、清掃や集金などの「管理業務」だけを法人に委託する方式です。管理委託方式では、個人から法人に移せるのは、家賃収入の5〜8%程度の管理料のみとなります。
サブリース方式(一括借上方式)(効果:中)
不動産は個人が所有し、法人がそれを一括で借り上げ、入居者に転貸する方式です。法人には家賃の10〜15%程度が手数料として残ります。管理委託よりは多くの利益を法人に残せますが、それでも家賃の大半は個人の所得となります。
不動産所有方式(効果:大)
法人そのものが不動産(建物、または土地と建物)を所有する方式です。入居者からの家賃収入は「100%法人の売上」となります。
管理委託やサブリースでは、あくまで「手数料」レベルのお金しか法人に移せません。一方で、不動産所有方式は収益のすべてを法人のものにできるため、節税効果が最も大きくなります。
資産管理会社を設立するメリット

法人化によるメリットは、個人との税率差を活かした節税だけではありません。法人格を利用した他のメリットについても解説します。
所得分散と節税効果
法人格を利用した最も分かりやすいメリットの一つは、家族を巻き込んだ「所得分散」による節税効果です。
所得税の計算ルール上、一人でお金を稼げば稼ぐほど税率は高くなります。つまり、物件オーナーだけが高額な家賃収入を受け取ると、その分だけ高い税率が課せられてしまいます。
しかし、法人化して配偶者や親族を役員にし、「役員報酬(給与)」を支払えば、オーナー自身の所得を抑制可能です。
そのほか、給与の支払いによって「給与所得控除」を人数分使えます。これは、サラリーマンの「経費」のようなもので、給与額に応じて無税になる枠のことです。家族それぞれがこの控除枠を活用することで、世帯全体で見た時の課税所得を圧縮し、手取り額を最大化できます。
経費にできる範囲の拡大
個人事業主と比較すると、法人の方が会社の経費として計上できる範囲は広いものです。このため、実質的な生活費の一部を法人の経費で賄うことが可能になります。特に効果が大きいのが以下の制度です。
社宅制度の活用
法人が借りた物件を「社宅」として役員(あなた)に貸し出すことで、家賃の大部分(50%〜80%程度)を会社の経費にできます。個人としては格安の賃料負担で家に住めるため、手元のキャッシュが大きく浮くことになります。
出張手当(日当)
遠方の物件確認や管理業務のために出張した場合は、交通費や宿泊費などの実費とは別に、「出張手当(日当)」を支給可能です。この手当は法人側では経費になり、受け取る個人側では「非課税」となるため、税金のかからないお金を個人に移す手段となります。
生命保険の活用
契約内容によりますが、法人名義で加入する生命保険は、保険料の一部または全額を経費にできます。これを将来の「役員退職金」の積立として活用すれば、節税しながら老後資金を準備することも可能です。
相続税対策にも
資産管理会社は、今の税金を減らすだけでなく、家族に資産を残す際の「相続税対策」としても有効です。
個人で不動産を持ち続けると、毎月入ってくる家賃収入によってあなたの現金資産は増え続けます。これは良いことですが、同時に将来の相続税額も増えていくことを意味します。
そこで有効なのが不動産所有方式の法人です。物件からの収益は法人のものとなり、個人の資産増加を防げるため、相続税の増加を抑制できます。
また、資産を「不動産」から「会社の株式」に変換して保有できる点も大きなメリットです。不動産そのものを子供たちに分割して相続させるのは大変で、共有名義にしてトラブルになるケースも少なくありません。しかし、株式であれば「長男に50株、次男に50株」といったように、公平かつスムーズに分割できます。
【シミュレーション】年収1,000万円で法人化すると手残りはいくら増える?
「法人化すれば税金が安くなるのは分かったけれど、最終的に自分の手元にはいくら残るの?」これが、皆さんが最も知りたいポイントではないでしょうか。
税金が減っても、税理士費用などのコストがかさんで手取りが減ってしまっては本末転倒です。ここからは、具体的な数字を用いたシミュレーションで、法人化のリアルな効果を検証します。
個人と法人の税額・手取り比較表
例として、「本業の給与収入が700万円、不動産投資の利益が年間500万円」ある方を想定してみましょう。合計年収は1,200万円となり、個人課税では税負担がかなり重くなります。
この不動産利益500万円を、個人で受け取り続ける場合と、法人化して(例えば配偶者に役員報酬を支払うなどして)分散・経費化した場合の手残りを比較します。
| 項目 | 個人所有のまま | 法人化(不動産所有方式) |
|---|---|---|
| 不動産投資の利益 | 500万円 | 500万円 |
| 税金コスト | 約165万円 所得税・住民税の増加分 ※税率約33%〜43% | 約110万円 法人税+個人の税金増加分の合計 |
| 維持コスト | 0円 | 約40万円 税理士報酬・均等割など |
| 最終的な手残り | 約335万円 | 約350万円 |
一見すると「手間をかけて年間15万円のプラスか…」と思われるかもしれません。しかし、これは単純な税率差だけで計算した最低限の数字です。
ここからさらに、「社宅活用(家賃を経費化)」や「出張手当」などを組み合わせると、個人の生活費(支出)を法人の経費で賄えるようになるため、実質的な手取りメリットは年間50万円〜100万円以上に拡大するケースが一般的です。
税理士費用や社会保険料を引いてもプラスになるのか?
法人化すると、個人にはない特有のランニングコストが発生します。「節税額」がこれらの「維持コスト」を上回らなければ、法人化する意味はありません。法人化によって発生する主なコストは以下のようなものです。
- 税理士顧問料:年間30万〜50万円程度
- 法人住民税(均等割):赤字でも年間約7万円
- 社会保険料:社長一人でも加入義務あり(年間数十万円〜)
特に要注意なのは「社会保険料」の負担です。社会保険料をまともに払うと、節税メリットが吹き飛んでしまうこともあります。
多くのサラリーマン投資家は、ご自身は法人の役員報酬をゼロ(または社会保険がかからない範囲)にして、配偶者を社長にして社会保険を最適化するなど、コストを抑える工夫を行っています。
結論として、不動産の利益(キャッシュフロー)が年間400万円〜500万円を超えてこないと、十分なメリットを出すのは難しいというのが現実的なラインです。
法人のお金を個人に還流させる「出口戦略」の重要性
法人化に関するもう一つの注意点が、「法人に残ったお金をどう使うか」です。社長であっても、法人に入ってきたお金を自由に使うことはできません。法人の業務とは関係のないことにお金を使うと「役員賞与を支払った」とみなされ、追徴課税されます。
そのため、法人化する際は、どのようにお金を個人へ戻すかという「出口戦略」を考えておく必要があります。以下の4つが主な方法です。
- 役員報酬で戻す:毎月定額の給与として受け取る(所得税がかかります)。
- 経費として使う:社用車、社宅、出張手当など、事業に関連する形で還元する。
- 退職金で戻す:将来、勇退する際にまとめて受け取る。
- 再投資に回す:個人へ戻さず、そのまま次の物件購入の頭金にする。
特に「再投資」は最強の選択肢と言えます。個人へ戻す際に発生する税金がなく、利益を丸ごと複利運用可能です。
・「出口戦略」に関する記事はこちら
不動産投資の出口戦略とは? 売却・相続・法人化、適切な出口を見極めるポイント
法人化の適切なタイミングと条件
「結局、自分は今すぐ法人化すべきなのか、まだ待つべきなのか?」と思う人もいるのではないでしょうか。ここまでメリットやシミュレーションをお伝えしてきましたが、最終的な決断を下すための具体的な基準について解説します。
一般的に言われる基準だけではなく、維持コストを含めた「現実的な損益分岐点」を知ることが、後悔しないための鍵です。
所得の目安
よくインターネット上では「課税所得900万円を超えたら法人化のタイミング」と言われています。900万円を超えると個人の税率(33%)と法人の税率が逆転するためです。
しかし、これを鵜呑みにするのは少し危険です。法人を維持するためには税理士報酬や均等割、社会保険料といった「維持コスト」が必ず発生します。
単に税率が低くなるだけでなく、これらのコストを支払ってもなお手残りが増える状態でなければ、法人化する意味はありません。現実的な目安は以下の通りです。
- 不動産所得(利益)が年間400万円〜500万円以上あること
- 給与を含めた個人の課税所得が1,000万円を超えていること
上記のラインを超えてくると、維持費を差し引いても十分な節税メリット(手残り増)を実感できるようになります。
逆に、まだ利益が年間100〜200万円程度であれば、焦って法人化せず、個人事業主として経費計上を工夫する方が手元にお金が残るケースが多いでしょう。
所有物件の増加
所得金額が増えたときだけでなく、「これから物件を増やしていく局面」も法人化に適したタイミングです。特に、新規物件を購入する直前は、法人設立のベストタイミングと言えます。
個人で所有している物件を後から法人に移そうとすると、売買契約の手間だけでなく、「登録免許税」や「不動産取得税」といったコストが再度かかるからです。
最初から法人名義で物件を購入すれば、これらの二重コストを回避できるうえに、最初から家賃収入を全額法人の収益にできます。
例えば「今はまだ規模が小さいけれど、将来的に家賃収入2,000万円を目指したい」という明確な拡大意欲がある場合は、現在の所得が低くても、先行投資として今のうちに法人を作っておくのも賢い戦略です。
相続・事業承継を検討している
「所得税の節税」ではなく、「資産の防衛」が必要になった時も法人化のタイミングです。ご自身やご両親が高齢になり、「そろそろ相続のことを考えないと」と思い始めたら、所得の額にかかわらず法人化を検討すべきです。
「節税メリットが出るまで待つ」のではなく、「家族に資産をスムーズに残すための必要経費」と割り切って、早めに法人化に踏み切る方も少なくありません。
「会社バレ」のリスクと回避策
サラリーマンをしながら不動産投資を拡大したい方にとっては、「会社への発覚(副業バレ)」が気になるのではないでしょうか。「住民税を自分で納めれば大丈夫」という情報をよく見かけますが、注意点は他にもあります。
住民税よりも危険な「社会保険」による発覚
住民税を対策していても会社バレにつながる最大のリスクは「住民税」ではなく「社会保険(健康保険・厚生年金)」です。
よく「確定申告の際に住民税を『普通徴収(自分で納付)』にすればバレない」と言われます。これはあくまで「副業が個人事業または雑所得」の場合、あるいは「法人から給与をもらっていない」場合に限られる話です。
もし法人を設立して「役員報酬(給与)」を受け取り、さらに法人が社会保険に加入した場合は、確実に会社に副業が発覚するでしょう。
法人で社会保険に加入すると、本業の会社と自分の会社の2ヶ所で社会保険に加入することになります。結果的に、年金事務所から本業の会社へ「二以上事業所勤務被保険者決定通知書」という書類が送られます。
この通知書には、副業先(あなたの法人)の報酬月額などが記載されているため、経理担当者が見れば「他で給与をもらっている」ことが一目瞭然です。
本人は「非常勤役員」?妻を社長にする?具体的な防衛スキーム
会社バレを防ぐための最も確実な方法は、「あなた自身が法人から給与(役員報酬)をもらわず、社会保険にも加入しない状態を作る」ことです。具体的には以下の2つのスキームが有効です。
本人は「非常勤役員(無報酬)」になる
あなたは法人の代表になりますが、役員報酬を「ゼロ」に設定します。報酬がなければ社会保険への加入義務は発生しません。また、常勤性がない(実務は管理会社や家族が行う)「非常勤役員」という立場であれば、社会保険の加入対象外となります。
無報酬の非常勤役員と聞くと「給与がもらえないと意味がないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、法人の利益は「社宅家賃」や「将来の退職金」、あるいは「次の物件購入資金」として内部留保すれば、資産形成上のメリットは十分に享受できます。
配偶者を社長(代表)にする(妻社長スキーム)
これは、配偶者を社長にしてあなたは「出資者(株主)」に徹する方法です。これなら、あなたの名前は登記簿の代表者欄にも載らず、社会保険の問題も発生しません。配偶者に給与を支払えば、世帯全体での所得分散効果も狙えます。
副業禁止規定がある場合のコンプライアンス対策
多くの企業では副業が禁止されていますが、不動産投資や資産管理会社の運営は「資産運用」や「家業」とみなされ、懲戒対象にならないケースが多く存在します。ただし、トラブルを避けるためには以下のポイントを把握しておきましょう。
「実務」を行わないこと
本業の勤務時間中に物件の管理業務を行ったりすれば、職務専念義務違反となります。運用する物件の管理は管理会社へ委託し、「自分はあくまで出資者であり、実務は行っていない」という状態を徹底してください。
「相続・家業」の延長であること
もし会社に聞かれた場合は、「親族の資産管理のために名義上の役員になっているだけ」「相続対策の一環」と説明できるようにしておきましょう。営利目的の副業ではなく、資産防衛のための活動であることを強調すれば、多くの企業で許容範囲内と判断されます(公務員の方は別途許可申請が必要な場合があります)。
むやみに隠すだけでなく、万が一の際に堂々と説明できる準備をしておくことが、精神的な安定にもつながるでしょう。
資産管理会社設立の落とし穴と注意点
ここまで、資産管理会社の明るい面(メリット)を中心にお伝えしてきましたが、法人の設立も、もちろん良いことばかりではありません。
「節税になるはずが、かえって出費が増えてしまった」という失敗を避けるためには、事前にコストやリスクを正確に把握しておく必要があります。
設立にかかる費用
まず最初のハードルは、会社を作るための「イニシャルコスト(初期費用)」です。個人事業主であれば、税務署に開業届を出すだけで0円でスタートできますが、法人の場合は登記手続きに必ずお金がかかります。なお、会社の形態によって費用が異なります。
株式会社:約20万〜25万円
知名度や信用を得やすいですが、設立費用は高めです。
合同会社:約6万〜10万円
株式会社と比べて知名度などは劣りますが、設立費用を安く抑えられます。
「どちらが良いか迷う」という声を目にすることもありますが、資産管理会社は一般消費者向けのビジネスをするわけではないので、知名度はそこまで重要ではありません。節税や家族間の資産承継が目的であれば、コストの安い「合同会社」で十分なケースがほとんどです。
維持するための費用
設立時だけでなく、会社を持っているだけで毎年かかり続ける「ランニングコスト」にも要注意です。個人事業主と違って法人には赤字でも税金がかかります。
個人の場合、赤字なら所得税や住民税はかかりませんが、法人の場合は「法人住民税の均等割」という税金(金額は自治体による)が必ず発生します。
さらに、法人の決算申告は非常に複雑なので、ご自身で行うのは困難です。税理士に依頼するのが一般的で、その顧問料や決算料として年間30万〜50万円程度の費用がかかります。
つまり、法人を作った瞬間から、何もしなくても年間40万〜60万円程度の固定費が発生することになります。「節税額」がこの「維持費」を上回らなければ、法人化は失敗と言えるでしょう。
資産移転の手間とコスト
すでに個人名義で持っている物件を、後から法人に移そうと考えている方は特に注意が必要です。物件を移すためには手間とコストがかかります。
個人から法人へ物件を移すということは、法的には「不動産の売買」と同じ扱いになります。そのため、以下のコストが発生します。
登録免許税・不動産取得税
物件を買った時と同じように、名義変更のための税金が数十万〜数百万円単位でかかります。
譲渡所得税
物件の値上がり益が出ている場合、売却した個人側に税金がかかります。
融資の承認
ローンを利用して物件を購入した場合は、勝手にローンの契約名義を変えることはできません。名義変更には銀行の承諾が必要で、受け入れられないことも多いものです。
既存物件の移転はコスト倒れになるリスクも高いため、無理に移転させず「次に買う物件から法人にする」という判断をするケースも少なくありません。
融資姿勢の変化
「法人を作れば、銀行はどんどん融資してくれる」というのは誤解です。むしろ、設立直後の法人は「実績ゼロ」と同じ扱いであり、社会的信用は全くありません。そのため、設立して最初の1〜2期は、法人単独での融資は非常に厳しくなります。
ではどうやって物件を買うのかというと、代表者であるあなたの「個人の信用(年収や資産背景)」を担保にして、あなたが「連帯保証人」になることで融資を引くのが一般的です。つまり、最初はあくまで「個人の信用の延長」で借りる形になります。
また、売却時の税制にも要注意です。個人の場合は5年以上所有すれば売却益への税率が約20%に下がる優遇制度(長期譲渡所得)がありますが、法人にはそれがありません。短期で売っても長期で売っても、利益に対して約30%〜34%の法人税がかかります。
「数年で売却して利益確定したい(キャピタルゲイン狙い)」という場合は、法人化するとかえって税金が高くなる可能性があるため、出口戦略も含めて慎重に検討しましょう。
まとめ
資産管理会社の設立は、税金に関する悩みを解決し、不動産投資を「事業」へと飛躍させるための強力なステップです。しかし、メリットの裏側には「社会保険料の負担」や「維持コスト」、そしてサラリーマン特有の「会社バレ」といった落とし穴も潜んでいます。
後悔しないようにするためには、よく言われている「課税所得900万円」という一般的な基準だけで判断せず、ご自身の家族構成や将来のビジョンに合わせた検証が必要です。
「自分の場合は本当に手残りが増えるのか?」「会社にバレずに進めるにはどうすればいいか?」そんな不安を解消するためにも、まずは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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ワンポイントアドバイス
「法人化すると、会社のお金を自由に使えなくて窮屈そう…」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、捉え方によっては「不自由さ」も資産形成の味方になると言えます。個人の財布だとつい使ってしまうお金も、法人の口座にあれば自然と「再投資」へと回り、ハイスピードで資産が増えていきます。賃貸経営事業を拡大することが楽しくなってきたら、あなたの不動産投資と法人化は確実に成功したと言えるでしょう。
この記事のポイント
Q.資産管理会社とはなんですか?
A. 資産管理会社とは、その名の通り、不動産や有価証券などの「資産」を管理・所有することを目的とした会社のことです。一般的には「プライベートカンパニー」とも呼ばれます。詳しくは「資産管理会社とは?」をご覧ください。
Q. 資産管理会社を設立するメリットはありますか?
A. 法人化によるメリットは、個人との税率差を活かした節税だけではありません。法人格を利用した他のメリットについても解説します。詳しくは「資産管理会社を設立するメリット」をご覧ください。
Q. 資産管理会社を設立する時の注意点はありますか?
A. 「節税になるはずが、かえって出費が増えてしまった」という失敗を避けるためには、事前にコストやリスクを正確に把握しておく必要があります。詳しくは「資産管理会社設立の落とし穴と注意点」をご覧ください。