投資物件の売却にかかる税金は? 譲渡所得税の計算と控除特例の活用で利益を最大化する方法
ざっくり要約!
- 譲渡所得税を計算するためには「取得費」と「譲渡費用」を正確に把握することが大切
- 物件の所有期間が5年を超えるかどうかで税率は約2倍変わる
- 特例制度を利用するためには確定申告が必要
「所有している投資物件の価格が上がってきたので、そろそろ売却を検討したい」
「相続したけれど、管理が大変なので手放したい」
投資物件の売却を考え始めるとき、期待とともに浮かび上がってくるのが「税金」に関する漠然とした不安ではないでしょうか。特に「譲渡所得税」は、物件の所有期間や売却のタイミング一つで、納める額が数百万円単位で変わります。
この記事では、投資物件の売却にかかる税金の全体像から、譲渡所得税の具体的な計算方法、そして手残りを最大化するための節税策まで解説していきます。
目次
投資物件の売却で発生する「譲渡所得税」とは
投資物件の売却について調べると「譲渡所得税」という言葉を必ず目にします。しかし、これは単一の税金を指す名前ではありません。
国に納める「所得税」と市区町村に納める「住民税」、そして「復興特別所得税」という3つの税金の合計額を指すのが譲渡所得税です。それぞれ納税先や納付のタイミングも異なるため、仕組みを正しく把握する必要があります。
内訳は所得税・住民税
投資物件の売却で得た利益に対して課される税金は、国に納める「所得税」と、市区町村に納める「住民税」の2つです。
不動産を売却して得た利益に対しては、給与所得や事業所得など他の所得とは合算せずに個別に税額を計算する「申告分離課税」という特別なルールが適用されます。このため、例え会社員であっても、会社の年末調整とは別に自分で確定申告を行い、国と市区町村それぞれに対する納税が必要です。
所得税
物件を売却した翌年の確定申告期間(原則2月16日~3月15日)に、税務署へ申告・納付します。
住民税
確定申告の情報に基づき市区町村が税額を計算し、売却した翌年の6月頃に届く納付書で納付します。
復興特別所得税とは
正確な納税額を把握するためには、前述の2つの税金に加えて「復興特別所得税」に関する計算も必要です。復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興財源を確保する目的で創設された国税です。2013年から2037年までの期間、所得税を納める全ての人に課税されます。
計算方法は「基準となる所得税額 × 2.1%」です。例えば、譲渡所得に対する所得税額が100万円だった場合、その2.1%にあたる2万1,000円が、復興特別所得税として追加で課されます。
譲渡所得税の計算方法

ここからは、実際に譲渡所得税がいくらになるのか、その計算方法を具体的に見ていきましょう。計算の全体像は非常にシンプルです。
まず、売却による「売却益(譲渡所得)」を算出し、その金額に、物件の所有期間によって決まる「税率」を掛け合わせることで税額が確定します。
税額 = 儲け(譲渡所得) × 税率
この「儲け」と「税率」を正確に把握することが、納税額を算出するための重要なステップです。
譲渡所得の計算方法
税金の計算の基礎となる「譲渡所得(売却益)」は、物件の売却価格そのものではなく、そこから購入にかかった費用などを差し引いた金額を指します。
税金は、あくまで売却によって最終的に得られた「利益」に対して課されるのが原則です。そのため、売却価格から、その物件を手に入れるためにかかった費用(取得費)と、売るためにかかった費用(譲渡費用)を差し引く必要があります。
譲渡所得は、以下の計算式で算出します。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
例えば、5,000万円で売却した物件の取得費が3,500万円、譲渡費用が150万円だった場合、譲渡所得は「5,000万円 – (3,500万円 + 150万円) = 1,350万円」です。この1,350万円に対して税金がかかります。
譲渡所得を計算する上では、「取得費」と「譲渡費用」を漏れなく正確に計上することが、最終的な納税額を左右する最も重要なポイントです。
・「所得税の税率や計算」に関する記事はこちら
不動産所得に税金はいくらかかる?計算方法や税率、不動産所得と家賃収入の違いを解説
取得費の具体例
取得費とは、物件の購入代金そのものに加え、物件購入に際して支払った諸費用を含めた合計金額のことです。
諸費用は正当なコストであり、税務計算をする上で売却価格から差し引くことができます。計上漏れがあると、本来よりも利益が大きく計算されてしまい、結果的に不要な税金を支払うことにつながるため要注意です。
取得費には、以下のようなものが含まれます。領収書や契約書を確認し、見落としがないかチェックしましょう。
- 物件の購入代金(土地・建物)
- 購入時に不動産会社へ支払った仲介手数料
- 登録免許税、不動産取得税、印紙税などの税金
- 物件購入のために借り入れたローンの利子(使用開始日まで)
- 増改築や一定のリフォームにかかった費用
建物の購入代金は、年数の経過による価値の減少分である「減価償却費」を差し引いて計算する必要があります。
また、購入時の売買契約書などを紛失して取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することも可能です。しかし、実際の取得費より大幅に低くなりがちで、税額が高額になるケースも多いため要注意です。
取得費を正確に算出することが節税にもつながるため、物件購入時の書類は大切に保管しておきましょう。
譲渡費用の具体例
譲渡費用とは、取得費とは別に、その物件を売却するために直接かかった費用のことです。取得費と同様に、売却価格から差し引くことで課税対象となる所得を減らす効果があります。譲渡費用には、主に以下のようなものが該当します。
- 売却時に不動産会社へ支払った仲介手数料
- 売買契約書に貼付した印紙税
- 土地を売るために建物を解体した場合の解体費用
- 測量費(実施した場合のみ)
- 賃貸中の物件で、入居者に支払った立退料
それぞれの費用を「この売却のために直接必要だったか」という視点で判断し、該当するものの領収書は必ず保管しておくようにしましょう。
長期譲渡所得・短期譲渡所得
算出した譲渡所得にかかる税率は一律ではありません。物件を所有していた期間によって「長期保有」と「短期保有」の2種類に分かれており、別々の税率が設定されています。
長期と短期で税率が分かれているのは、不動産の短期的な転売(投機的取引)を抑制し、市場の安定を図るという政策的な目的があるためです。長期的に所有した物件の売却については、税率が優遇される仕組みになっています。
| 区分 | 所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
ここで最も注意すべきポイントは「所有期間5年」の数え方です。これは単純な経過年数ではなく、物件購入日の翌年1月1日から数えて所有期間が5年を超えているかどうかで判定します。
例えば、2020年7月1日に購入した物件を、2025年8月1日に売却したとします。2021年1月1日から数えると物件の所有期間は5年に満たないため、この場合は「短期譲渡所得」に区分されます。
売却のタイミングが数ヶ月違うだけで納税額が数百万円変わるケースもあるため、所有期間の判定ルールは間違えないようにしましょう。
節税に役立つ控除特例と注意点
譲渡所得税の負担を軽減できる制度として、特定の条件を満たした場合に利用できる「控除」や「特例」が存在します。ただし、これらの制度は誰でも無条件に使えるわけではなく、自動的に適用されるものでもありません。
投資物件の売却で使える可能性がある代表的な特例と、多くの方が勘違いしやすい注意点などについて解説します。
事業用不動産の買い換え特例
「事業用不動産の買換え特例」とは、特定の事業用不動産を売却し、新たに別の事業用不動産を購入した場合に、売却益への課税を繰り延べられる制度です。
例えば、長年事業で使っていた土地建物を1億円で売却し、新たに1億円の事業用ビルに買い換えたとします。この特例を適用すると、本来売却時に発生するはずだった利益への課税が、次にその新しいビルを売却する時まで繰り延べられます。
ただし、所有期間や買い換える資産の種類などに、非常に細かい要件が定められているため事前に確認しておきましょう。
なお、これは課税が免除されるのではなく、あくまで「繰り延べられる」制度であることに要注意です。また、適用要件が極めて複雑なため、利用を検討する際は必ず税理士などへ相談することをおすすめします。
取得費加算の特例
「取得費加算の特例」とは、相続によって取得した投資物件などを、一定期間内に売却した場合、その物件を取得する際に支払った相続税の一部を「取得費」に上乗せできる制度です。
相続税を支払った上で、さらに物件の売却益に対しても譲渡所得税が課されると、二重課税的な負担が生じます。しかし、この特例を適用すれば負担を軽減可能です。
例えば、相続税として300万円を納付し、そのうち特例で取得費に加算できる金額が100万円だったとします。すると、本来の取得費に100万円をプラスして譲渡所得(儲け)を計算できるため、課税対象額が圧縮されて、譲渡所得税が安くなります。
なお、取得費加算の特例を適用するためには、「相続が開始された日の翌日から、3年10ヶ月以内」に物件を売却することが必要です。
取得費加算の特例は、相続した投資物件を売却する方にとっては、節税効果が非常に大きい制度です。一方で、売却に関する期間の制限があるため、相続が発生した際は、この特例の適用を念頭に置いて売却計画を立てることが重要になります。
マイホームが対象の特例は原則適用不可
不動産売却の節税策としてよく知られている「3,000万円特別控除」や「10年超所有軽減税率の特例」といった制度は、投資物件の売却には原則として適用できません。
これらの特例は、あくまで納税者が「自分が住んでいた家(居住用財産)」を売却した場合を対象とした制度だからです。
節税に関する情報を調べる際は「居住用不動産」の特例なのか、「投資用・事業用」でも使えるものなのかを明確に区別することが必要です。
控除特例の適用には確定申告が必要
ここまでご紹介した特例は、適用条件を満たしていても自動的に税金が安くなるわけではなく、確定申告を行うことで初めて適用が認められます。
例えば「取得費加算の特例」を適用した結果、計算上の譲渡所得がゼロになったとします。この場合、納める税金は発生しませんが、特例を適用したという計算過程を示すために、確定申告は必ず行わなければなりません。
申告を怠ると、後日、本来の税額に加えてペナルティが課される可能性もあるため注意が必要です。特例の適用と確定申告は、必ずセットで行うものと覚えておきましょう。
まとめ
税額を正しく計算する鍵は、売却価格から差し引く「取得費」と「譲渡費用」を漏れなく計上することです。また、税率は「売却した年の1月1日時点」での所有期間が5年を超えるかどうかで約2倍も変わるため、売却のタイミングが非常に重要になります。
利用できる特例がある場合は節税の大きなチャンスです。一方で、その適用を受けるためには必ず確定申告を行う必要があります。もし計算や手続きに少しでも不安を感じたら、一人で抱え込まず税理士などの専門家に相談しましょう。

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ワンポイントアドバイス
節税対策は、不動産の売買契約書に署名・捺印する「前」にしかできないことがほとんどです。例えば、売却の意思が固まった段階で税理士に相談すれば、最適な売却タイミングのアドバイスを受けられるでしょう。また、購入時の契約書を紛失した場合でも、他の資料から取得費を証明する方法がないか、アドバイスをもらうことも可能です。
「売却活動と並行して、あるいはその前に」税理士へ相談することをおすすめします。
この記事のポイント
Q. 「譲渡所得税」とはなんですか?
A. 投資物件の売却について調べると「譲渡所得税」という言葉を必ず目にします。しかし、これは単一の税金を指す名前ではありません。国に納める「所得税」と市区町村に納める「住民税」、そして「復興特別所得税」という3つの税金の合計額を指す通称が譲渡所得税です。詳しくは「投資物件の売却で発生する「譲渡所得税」とは」をご覧ください。
Q. 譲渡所得税の計算はどのようにすれば良いですか?
A. 「譲渡所得税の計算方法」にて、実際に譲渡所得税がいくらになるのか、その計算方法を具体的に見ていきましょう。計算の全体像は非常にシンプルです。
Q. 節税のための控除特例は何かありますか?
A. 譲渡所得税の負担を軽減できる制度として、特定の条件を満たした場合に利用できる「控除」や「特例」が存在します。詳しくは「節税に役立つ控除特例と注意点」をご覧ください。