事業用資産の買換特例(前編)重要な誤解3つ
- 会計士による税務解説
事業用資産の買換特例の適用条件や期日、計算方法や、繰延金額や取得費、減価償却費等における『重要な誤解』について解説しています。
動画もくじ
- 00:34
- 冒頭ご挨拶
- 01:09
- 講師紹介
- 01:39
- 今回お伝えしたいこと
- 02:24
- 質問と解説1 事業用資産の買換特例って何?
- 08:12
- 質問と解説2 個人で買換特例を適用した場合の具体的な数値は?
- 09:35
- 質問と解説3 法人で買換特例を適用した場合の具体的な数値は?
- 10:22
- 重要な誤解1 売却益の繰延額について
- 13:12
- 重要な誤解2 取得費について
- 14:51
- 重要な誤解3 減価償却費について
- 17:01
- 締めのご挨拶
動画の要約
事業用資産とは
貸付規模、賃料水準、貸付期間などから総合的に判断される。
事業用資産の買換特例の適用要件
- 売却するとき
- 譲渡する年の1月1日で所有期間10年超、かつ事業を行っている土地・建物・構築物等
- 購入するとき
- 国内にある300平米以上の土地と建物。取得してから1年以内に事業に使うこと。
300平米以上というのは、登記簿上の面積で判断されるため、建築可能面積は関係がない。
逆に、再度測量した結果、300平米を超える土地であった場合は、地積更正をして、登記上の面積を正しいものに直した上で、買換特例を受けることをお勧めする。
売却後、いつまでに買換資産を取得すればいいのか
売却した年か、その翌年の末までに購入が必要。
ただし、先行して前年に購入することも認められている。
これは、事業会社が事務所移転をする場合など、先に購入をして購入先が決まった後に売却をするというケースが多い。
年度
- 個人の場合
- 1月1日から12月31日まで
- 法人の場合
- その会社の事業年度、決算年度(例:4月1日〜3月31日)
事業用資産の買換えの特例を適用した場合の計算方法
買換特例を適用した場合、譲渡益の8割が繰延べられ、残りの2割が課税される。
個人と法人で、税率が異なる。
取得費2,000万円、売却費1億円、新たに購入した資産1億円の場合(長期譲渡所得の場合)
譲渡益 8,000万円
個人
- 買換特例
なし - 8,000万円×約20%=1,625万円
- 買換特例
あり - 繰延金額は、8,000万円×80%=6,400万円
※ (8,000万円-6,400万円)×20.315%≒325万円
法人
- 買換特例
なし - 8,000万円×約34%=2,720万円
- 買換特例
あり - 繰延金額は、8,000万円×80%=6,400万円
※ (8,000万円-6,400万円)×約34%=544万円
- 補足説明
- 売却費を、全額買換資産の購入に充当することで、繰延割合が大きくなるが、一方で、売却費を全額新たに購入した資産に充当しているため、手元に資金は残らない。
そのため、売却にかかる税金は、手出しする必要が出てくる。
その場合は、借り入れをうまく使って、レバレッジを効かせることで対策をすると良い。
重要な誤解 1「譲渡益の繰延金額」
必ず、譲渡益の8割が繰延べられる。売却した金額のうち、買換資産に投入した割合が加味され、繰延べられる。
取得費 2,000万円、売却費 1億円、新たに購入した資産 5,000万円の場合(長期譲渡所得の場合)
譲渡益 8,000万円
買換特例ありの場合、個人にかかる税金は、
繰延金額は、8,000万円×80%×(5,000万円 / 1億円)=3,200万円
(8,000万円-3,200万円)×20.315%≒975万円
重要な誤解 2「買替え時の取得費」
買換えで、新たに購入した資産の取得費は、購入金額になる。買換えで、新たに購入した資産の取得費は、購入金額から繰延金額を引いた額が、簿価となる。
取得費 2,000万円、売却費 1億円、新たに購入した資産 1億円の場合
繰延金額は、8,000万円×80%=6,400万円
取得費は、1億円-6,400万円=3,600万円
従前の低い資産の取得時がこちらに引き継がれる。
そのため、後にこの資産を1億円で売却する場合は、
1億円で購入し1億円で売却しているように見えるため、税金がかからないように感じるが、実際は、取得費を3,600万円として計算するため、税金がかかることとなる。
買換特例によって、課税が永久的に免除されるわけではなく、課税の繰延が行われているという事になる。
重要な誤解 3「事業用資産の買替え特例における減価償却費」
買換特例を適用すれば、支払う税金は必ず少なくなる。買換特例を適用すると、場合によっては不利になるケースが出てくる。
上記の条件で、耐用年数4年の中古物件を、1億円で購入した場合
買換特例なしとありでは、取得費に差が生じるため、減価償却費が大きく異なることとなる。
- 買換特例
なし
減価償却費 - 1億円÷4年=2,500万円
- 買換特例
あり
減価償却費 - 3,600万円÷4年=900万円
4年間では、6,400万円も償却費に差が生じることとなる。
つまり、特例を適用したために、買換資産の取得価格が圧縮され、結果的に、圧縮された自分の減価償却費が減り、保有期間中の税金が増えてしまうケースが出てくることもある。
※動画および本ページの内容は、公開日当時の法令等に基づいております。
解説者
大木 宣幸
大木国際会計事務所:代表
株式会社International CPA Firms:代表
日本公認会計士協会東京会:第二ブロックブロック長
日本公認会計士協会 東京会 豊島会 会長
日本公認会計士協会 税務業務部会東京分会 副分会長
世界BIG4の監査法人にて上場企業の監査に携わる。他にも国内外を問わず不動産売買に特化した会計・税金のコンサルティングやセミナーを実施。