都心「収益マンション」の魅力はこの先も続くのか ~金融マーケットと金融機関の観点から考える~

公開日 2023.06.19
都心「収益マンション」の魅力はこの先も続くのか ~金融マーケットと金融機関の観点から考える~
もくじ

増え続ける我が国の資産家層

長らく続く金融緩和により、保有する株式や不動産価値の増加などもあり、日本における資産家層は増加しています。スイスの大手金融機関クレディ・スイスの「グローバル・ウェルス・レポート2022」によると、日本の資産家層(100万ドル以上の資産を持つ成人数)は、336.6万人に達しています(2021年)。さらに、2026年には42%増の479万人になると予想されています。

こうした資産家層をターゲットに、日本の銀行(以下邦銀)も資産家や会社経営者向けビジネスを再び強化してきているようです。

メガバンクも地銀も資産家層を強化

メガバンクでは、2023年2月にみずほファイナンシャルグループ(以下みずほFG)は、スイスの老舗プライベートバンクのロンバー・オディエ・グループと資産家層向けビジネスに関わる包括業務提携を結びました。ロンバー・オディエの運用商品をみずほFGの持つ顧客に提供したり、同社の研修にみずほFGの行員が参加するなど人材交流も行うということです。

三井住友信託銀行では、2021年8月にスイスの大手金融機関UBSとUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの営業を開始しており、株式・債券だけでなく投資一任運用サービス、資産承継やファミリーオフィスなど多様な資産家層向けビジネスを強化しています。

地方銀行の動きも活発化しています。2023年2月、静岡銀行はマネックス証券と資産家層向け資産運用に関して業務委託契約を締結しました。西日本シティ銀行では、2021年11月に「天神ビジネスセンター」に西日本シティTT証券とともに、豪華な専用ラウンジを設けるなど、資産家層取引の拡大を目指しています。

メガバンクも地銀も資産家層を強化

資産家層向け不動産投資ローンも積極的に

このように、資産運用、事業承継・相続、不動産投資などに関わる商品やサービスを増やすなど、邦銀による資産家層向けビジネスを強化する動きが活発化しています。
資産家層向け不動産投資ローンも、概ねどの銀行も積極的です。金融緩和により預金は増え続けているものの、法人向け融資や住宅ローンは競争が激しく利ざやが薄いなか、アパートローンや不動産投資ローンは、厚い利ざやが享受できることもあり、銀行にとっても依然として有望な市場なのです。なんと、静岡銀行の各ローンの残高は、前年比3.9%増加の1兆3,080億円に達する勢いとなっています。

もっとも、2018年のスルガ銀行の不正融資問題などもあり、審査基準や対象顧客の選定は厳格に行われています。例えば横浜銀行では、資産家向けの融資において、積算価格による保守的な担保評価を実施しており、より積極的な収益還元法は原則不可としています。また、静岡銀行では、不正防止の意味合いもあり、取り上げ可能な営業拠点を限定し、専門研修を受講した行員のみが対応しています。さらに、対象顧客の金融資産などエビデンスの厳格な原本確認、対象物件の入居率などを勘案した審査を行うとともに、担保評価は、外部業者による査定額を採用しています。こうした施策もあり、静岡銀行のアパートローン、資産形成ローンの延滞率(3か月以上)は、各々0.03%、0.14%と極めて低い水準で推移しています。

「株式」と「不動産」で財を成してきた資産家層

筆者は、資産家層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントの立場で、四半世紀に渡り、数多くの国内外の資産家層と接してきました。こうした経験も踏まえ、古今東西、資産家層が財を成してきたのは、その多くが株式と不動産だと考えています。

また、おおよそ金融資産で20億円を超えるような資産家層は、資産を更に増やすというより、長期・安定・保全取引を重視する傾向から、相続や税金対策への意識も高く、分散投資や国債など債券への投資を重視する傾向にあります。一方で、金融資産で1億円から10億円クラスの資産家層では、都心部の収益マンションなど不動産に加え、米国株式、劣後債などハイブリッド証券、ヘッジファンドやプライベート・エクイティといった金融商品による収益性を重視した積極的な投資により、更に資産を増やそうという意識が強い傾向にあります。

都心不動産への旺盛な需要は続く

長らくデフレ経済が続いた日本では、不動産投資は、税金対策か、投資の場合でも家賃収入などインカムゲインを主目的とするケースが殆どでした。

しかし、ここにきて都心部や京都、ニセコや沖縄などリゾート地を中心に、不動産価格そのものの値上り(キャピタルゲイン)を目的とする投資も増えてきています。

弊社においても、「住み替えのため都内の区分マンションを売却したところ、多額のキャピタルゲインを得た」(首都圏50代会社経営者)、「コロナ禍前に、ニセコで新規購入したホテルコンドミニアムの価格が、インバウンドの復活もあり上昇しており、売却を検討している」(都内40代外資系企業勤務)といった話を伺う機会が増えてきています。

特に都心部の収益マンションは、区分マンションでも1棟マンションでも、インカムゲインだけでなくキャピタルゲインも狙えることから人気が高まっています。その背景には、都心部における①人口増加と、②高額所得者の存在が挙げられます。

都心不動産への旺盛な需要は続く

都心部における①人口増加と②高額所得者の存在

東京都の「東京都区市町村別人口の予測」によると、都心3区(千代田、中央、港)の人口は2015年の44.2万人から2040年には63.5万人と約4割も増えると予測されています。

また同エリアは、平均世帯年収(市町村別の納税義務者数を課税対象所得で除した数値)は、港区1,150万円、千代田区944万円などと、軒並み全国平均の334万円を大きく上回っており(総務省、2017年度)、高額所得者を中心とした資産家や会社経営者が集中するエリアでもあります。

「キャピタルゲイン」にも注目

都心部の収益マンションのメリットは、人口増加が続きかつ、高額所得者が多いことから、多様で豊富な需要により、高い家賃が見込めます。角部屋、駅徒歩5分以内、再開発地域、ハザードマップなど好条件が揃えばなおのこと、空室率や家賃下落率も低く、継続的なキャッシュフローが見込めます。

また、限られたエリアで供給量自体も少ないことから、売却時のキャピタルゲインも期待できます。弊社においても、実際に、「地価上昇により自宅の売却を検討している。納税後も多額の売却益が見込めそうなので、セミリタイアして息子に仕事を任せ、軽井沢に新居を構え暮らすつもりだ」(港区在住60代自営業者)という方や、「値上り後の売却益を見込み、大手デベロッパー施工による都心3区の新築高級マンションに絞って、投資物件を探している」(都内資産家ご子息)という方もいらっしゃいます。

なお、都心部の収益マンションのデメリットを挙げるとすると、何といっても、不動産価格自体が高く、かつ上昇傾向が続くなか、利回りは相対的に低くなるため、相当程度の自己資金が必要なことでしょう。インカムゲインだけでは、十分なリターンを得られない場合が想定できます。

「キャピタルゲイン」にも注目

令和5年公示地価でも都内は2年連続上昇

国土交通省が2023年3月に発表した令和5年の公示地価によると、東京都内の住宅地、商業地、工業地を合わせた全用途での対前年平均変動率はプラス2.8%となり、2年連続の上昇です。特に、住宅地(23区)ではプラス3.4%となり、資産家層などの余裕資金が住宅需要に向かっているようです。例えば、東急リバブル「グランタクト」の港区における成約取引件数(1億円以上)は、前年比96件増加の411件(2022年1月から11月)と、高額物件を中心に活発化しています。

不動産市場に流れるマネー

このように不動産市場が好調な背景には、コロナ対策として、日米欧では、史上最大規模の金融緩和策と財政出動策がとられてきたことが挙げられます。金融緩和により、世界中でマネーが市中に流れ込むことになり、規模が大きく流動性もある株式市場だけでなく、ミドルリスク・ミドルリターンで相対的に高い利回りが見込める不動産市場にも大量なマネーが流れ込んできているのです。

金融緩和策はしばらく続く可能性

もっとも、足元では、インフレ抑制のため、既に断続的な利上げを伴う金融引き締めに転じている米国や欧州に続き、ついに日本でも2022年12月に日本銀行が従来の金融緩和策を一部「修正」しました。2023年4月には、植田日銀新総裁の就任もあり、「国内でも金融引き締めに転じるのでは」「この先、金利が上昇して不動産市場も悪影響を受けるのでは」といった懸念の声も高まっています。

しかしながら、欧米の景気減速懸念や金融不安に加え、賃上げが伴わない物価高にある国内経済の状況を勘案すれば、日銀が直ちに大幅な金融政策の変更を決断するのは困難であり、しばらくは従来に準じた金融緩和策が続き、カネ余り状態が続くのではないか、というのが筆者の考えです。

実際、日本において現時点では、依然として異次元の金融緩和による「カネ余り」が続いていることを忘れてはいけません。

最も恩恵を受けるのは国内外の資産家層

こうしたカネ余りの恩恵を最も受けるのは、既に資産・資金を十分に持ち、その資産・資金を元手に投資や開発を行うことができる国内の事業者や資産家層です。また、海外の事業者や資産家層にとっては、欧米で利上げが続くなか、低金利と円安により割安な日本への投資は魅力を増しています。

欧米での金融不安や利上げの動きなどには注視しながらも、国内では急激な金利上昇の可能性は低く、引続き一定の低金利環境が続くことで、カネ余り状況は続くことになります。特に、人気が高い都心部の一棟マンションや区分マンションなど収益マンションへの投資が続くことで、投資が投資を呼ぶ好循環も見込めそうです。

実際、弊社においても、こうした金融環境の恩恵を最も受ける資産家層からの不動産投資や金融商品に関する相談が増えてきています。

カネ余りに加え、①人口増加と、②高額所得者の存在により、都心部の人気化・ブランド化が進むなか、既に都心部の収益マンションを所有している方は、売却によるキャピタルゲイン確保のチャンスであり、新たに都心部の収益マンションへの投資を検討する方にとっては、ある程度の自己資本を用意することで、底堅いインカムゲインは無論、将来的なキャピタルゲインも期待できそうです。

※当コラムは、著者個人の見解に基づくものであり、東急リバブルの公式発表や見解を表すものではございません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。

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