事業承継とは?
事前に知っておきたい基礎知識|
メリットや注意点

公開日 2023.09.28
事業承継とは?事前に知っておきたい基礎知識|メリットや注意点

今回は、事業承継の全体像を紹介します。事業承継のポイントをおさえていただき、事業承継に向けた最初の一歩のきっかけにしていただければと思います。

もくじ

事業承継の基礎知識

まずは、事業承継に関する基本的な知識から解説します。

事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。経営を第三者に引き継ぐ手法はさまざまありますが、手法の如何を問わず、経営権を後継者へ引き継がせることを広く事業承継と呼びます。

なお、事業承継ではなく事業継承という言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。どちらも厳密な定義が定められているものではなく、多少ニュアンスは異なるもののいずれも会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指す言葉として用いられています。一般的には事業承継といわれることが多く、法律上、税務上も事業承継が用いられます。

事業承継とは?

なぜ事業承継をすべきなのか?

なぜ、早くから事業承継の準備をする必要があるのでしょうか。

その答えは本記事を読んでいただくとよくご理解いただけますが、結論だけまとめると以下のとおりです。

  1. 後継者の選択と育成に十分な時間をかけることができる
  2. 後継者に株式を承継させる際に生じる経済的負担を分散・軽減するための施策ができる
  3. 株式が複数の相続人の間で分散し、株主としての意思決定権が機能しなくなることを防げる
  4. 親族間の泥沼の経営権争いを防げる

遺言書で株式の相続人を定めることでリスクは回避できるのでは?と思われた方もいるかもしれません。たしかに③および④のリスクは、遺言書によって概ね回避し得ますが、遺言書だけでは後継者の長期的な選定や育成はできず、経済的負担軽減への工夫の余地もなくなります。これらは後継者となる方にとっても影響の大きい話です。

このように早くから準備を開始しておくことが、ひいては会社の安定的な経営の維持につながります。

事業承継のパターン

事業承継と一括りにいっても、後継者のタイプに応じていくつかのパターンがあります。

  • A.親族が承継するパターン
  • B.親族以外の、社内の役員や従業員が承継するパターン
  • C.社外から後継者となる人材を迎え入れて承継させるパターン
  • D.M&Aにより他の法人に承継されるパターン

等が挙げられます。

「創業一族で株を持ち続けたい」、「事業を存続させたい」、「事業承継の対価をできるだけ高くしたい」、「なるべく早いタイミングで承継させたい」等、事業承継を実施する際に重視する点もケースバイケースですから、目的に応じて適切なパターンを選択する必要があります。

先ほど、事業承継とは、会社の経営権を引き継ぐことであると説明しました。厳密にはこれには会社の株式を引き継ぐことと、会社の代表権を引き継ぐことの両方の意味が含まれます。

会社の代表は通常一名ですが、株式は複数名によって引き継ぐことも可能です。そのため、代表者と株主が必ずしも一致しないこともあり得ます。事業承継の目的に応じて、柔軟に設計することが可能です。

事業承継の主な流れ

事業承継をおこなう際の主なトピックは、後継者の決定と、スキームの決定です。

事業承継の最重要にして最大の課題は後継者探し

事業承継に向けた最大の課題は、後継者の決定です。

一族経営の場合もそうでない場合も、後継者の決定には、想像以上の時間がかかります。特に外部から後継者を迎え入れるケースでは、民間企業や各都道府県による後継者探しの支援サービスなどもあるものの、それでも後継者の候補者を見つけるだけでも数年単位の時間がかかることが一般的です。

また、後継者が決まったあとは、確実に会社の経営理念を承継させるために、また他の役員や従業員、取引先や金融機関との信頼関係を構築するためにも、現経営者と並走する形で、数年間の育成期間を設けることが重要です。この期間を省略してしまうと、会社の財産である人材や信頼などの肝心な部分が後継者に引き継がれず、事業承継が失敗に終わってしまうリスクがあります。

そのため、後継者探しは早期に動き始めることが肝要です。

スキームは多種多様。目的にあわせてカスタマイズを

事業承継のスキームは、目的から逆算し、多様な選択肢の中からカスタマイズして決定する必要があります。

最もシンプルで、多く活用されているスキームは、現経営者が保有する株式を後継者に承継させることによって経営権を譲り渡す方法です。

ただし、株式の大部分の売買となると対価が非常に高額となり、後継者の資金力の問題が生じます。そのため、会社や金融機関からの借り入れ等の金策も併せて検討する必要があります。最近では、後継者となる役員や従業員がファンドなどから投資を受けて承継資金を確保し、いわゆるMBO・EBO※1を実現する事例も増えつつあります。

※1
MBOとは、マネジメントバイアウトの略称であり、経営陣が自社の株式を買い取って経営権を取得することを意味します。
EBOとは、エンプロイーバイアウトの略称であり、従業員が自社の株式を買い取って経営権を取得することを意味します。

また、株式を承継させる手段ですが、売買以外にも、贈与や相続といった手段を活用することも可能です。そこで、贈与税や相続税の負担も加味しながら、長期計画で株式を順次譲渡するという方法も一案です。

これに対し、M&Aによって事業承継をおこなうケースでは、後継者が法人であるため資金力が課題となることは多くはありません。一方でM&A特有の問題として、事業承継と同時に不採算事業の整理をおこなう場合や、事業の一部分を承継したくないといった意向がある場合があります。それらの意向を実現できるよう、株式を承継させるのではなく、事業譲渡や合併などといったスキームで事業承継をおこなうこともあります。

どのようなスキームを選択するかによって、税務や法務の観点でも大きな差が生じることがありますので、事業承継を検討される際は専門家に相談しつつ最適なスキームを選択することが重要です。

事業承継の計画を立てる

ここまで、事業承継にはさまざまな選択肢があることをお伝えしてきました。事業承継の成功のためには、これらの事項について、しっかりと計画を策定し、実行していくことが重要です。

後継者を誰にするのか。後継者が決まれば、後継者の育成プランと承継スキームを踏まえて、承継のタイミングを決定します。

そのスケジュールをベースに、経営課題の洗い出しおよび解決、社内の体制整備、金融機関や取引先対応といった対応事項のスケジュール策定を順次おこなっていきます。なお、外部から後継者を迎え入れる場合やM&Aによる場合、会社は後継者決定よりも前に、当該後継者や買い手側企業によるデューデリジェンス※2を受けることになります。そのため、デューデリジェンス対応を見越して、経営課題の解決や体制整備などを後継者の決定より前に先回りして実施しておくことも重要です。

※2 デューデリジェンスとは、会社のリスクや価値を把握するために事前に実施する調査手続きを意味します。

事業承継のメリット・デメリットと注意するポイント

事業承継のメリットは、現経営者の引退後も事業を存続させられることです。事業が社会に与えている付加価値や、雇用を維持することができます。どのような事業承継の形であっても、それまで長年事業を育ててきたことで会社に蓄積された技術、人、信用が失われないということは、何よりのメリットといえると思います。

デメリットとしては、時間や費用がかかることが挙げられます。特に、候補者を一から探すことはハードルが高く、後継者の選択肢を広げるために外部機関を利用したりM&Aを実施したりすると、そのための費用がかかる場合もあります。

これらの課題を解消する方法の一つとして、民間企業や中小企業庁が実施している、後継者探しのための各種マッチングサービスを活用して後継者を探す方法があります。また、事業承継に伴って外部専門家を活用する場合には、その費用を補助するための助成金制度を中小企業庁が実施しています。さらに、後継者に生じうる相続税や贈与税の負担についても、一定の条件を満たす場合には税金が猶予又は免除される事業承継税制を活用することで、負担を軽減する余地があります。

スムーズな事業承継を実施するために、これらのサービスや制度等を活用することも有用です。

まとめ

事業承継のためには早めの準備が重要ということはご理解いただけたかと思います。それと同時に、手続きの大変さも感じられてしまったかもしれません。何から着手すればよいかわからないという方は、まずは事業承継を実施する目的や重視したい点を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

※当コラムは、著者個人の見解に基づくものであり、東急リバブルの公式発表や見解を表すものではございません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。

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