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マンション建て替え円滑化法とは?改正ポイントや補助金についてわかりやすく解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。
https://grow-profit.net/

ざっくり要約!

  • マンション建て替え円滑化法の制度を利用した建て替えでは、マンション建て替え組合を設立する
  • マンション建て替え円滑化法は2026年4月1日よりマンション再生円滑化法に生まれ変わる予定

日本のマンションは、建物の老朽化と区分所有者の高齢化という「2つの老い」を抱え始めています。

国土交通省によると、築40年以上のマンションは2024年末で約148万戸存在し、10年後の2034年末には約2倍、20年後の2044年には約3.3倍にも増加する見込みです。

マンションは建て替えが急務となっており、マンションの建て替えに関する法整備と運用が喫緊の課題です。

マンションの建て替えに関しては、マンション建て替え円滑化法という法律が存在します。

この記事では「マンション建て替え円滑化法」について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

マンション建て替え円滑化法とは?区分所有法との違いは?

マンション建て替え円滑化法とは?区分所有法との違い

マンション建て替え円滑化法(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)とは、主にマンションの建替えを円滑に行うことが目的の法律です。

2002年に制定された法律であり、複数回の改正を経て現在に至っています。

一方で、区分所有法とは、マンションのような区分建物に関する管理や運営、建て替え等の基本的なルールを定めた法律のことです。

建て替えに関する基本的なルールは区分所有法で定められており、マンション建て替え円滑化法は区分所有法によって決定された建て替えを円滑に進めるための法律です。

マンションの建て替えは、近い将来に重くのしかかる社会的課題です。
建て替えをよりスムーズに進めるためには法整備が急務となっており、区分所有法やマンション建て替え円滑化法は2025年に大きく改正されました。

マンション建て替え円滑化法は2026年4月1日以降からは、マンション再生円滑化法(マンションの再生等の円滑化に関する法律)へと名称が変わる予定です。

マンション建て替え円滑化法の目的

マンション建て替え円滑化法は、「マンションの良好な居住環境の確保すること」と「地震による倒壊または損壊から国民を守ること」を目的とした法律です。

マンションの良好な居住環境の確保に関しては、区分所有法の建て替え決議成立後における手続きをスムーズに行うことができる制度を定めています。

また、耐震性が不足しているマンションに関しては、除却(取り壊し)のための特別な措置を設けています。

制定や改正の背景

前述したように、日本のマンションは建物の老朽化と区分所有者の高齢化という「2つの老い」を抱えており、建て替えの必要性が高まっています。

加えて、所有者不明部屋の増加や非居住化の進行により、建て替え決議を取ることも困難になっている状況です。

マンションの新築から再生までの全体を見通して、管理および再生の円滑化を図る必要性が高まっており、マンション建て替え円滑化法も改正されました。

さらに、2025年には区分所有法も含めたマンション関連法が改正され、マンション建て替え円滑化法は2026年4月1日よりマンション再生円滑化法に生まれ変わる予定です。

マンション建て替え円滑化法で知っておきたいポイント

マンション建て替え円滑化法で知っておきたいポイント

マンション建て替え円滑化法で知っておきたいポイントについて解説します。

マンション建替組合の設立

マンション建て替え円滑化法の制度を利用した建て替えでは、マンション建て替え組合を設立する点がポイントとなります。

マンション建て替え組合とは、マンションの建て替えを行うことを目的とした組合であり、既存のマンション管理組合とは別組織です。

マンション建て替え組合は法人格を有しており、マンション建て替え組合が建て替え工事の請負契約や資金の借り入れを行うことになります。

マンション建て替え組合の構成員は、建て替えに合意している区分所有者とデベロッパーです。

建て替えに反対していた区分所有者は組合から外れており、また専門知識を持ったデベロッパーが加わっている点が普通のマンション管理組合とは異なる点です。

なお、マンション建替組合は、建替合意者の4分の3以上の同意を得た後、都道府県知事等の認可を経た上で設立されます。

要除却認定

マンション建て替え円滑化法では、要除却認定制度があります。
除却とは、取り壊しのことです。

耐震性の不足等の一定の要件を満たすマンションは、自治体に申請することで要除却認定を受けられます。

要除却認定を受けたマンションは、容積率緩和や、マンション敷地売却および団地における敷地の要件緩和といった特別措置を受けることができます。

要除却認定の対象となるマンション

要除却認定の対象となるマンションは、以下のような懸念のある物件です。

  • 耐震性の不足
  • 火災に対する安全性の不足
  • 外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ
  • 給排水管の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ
  • バリアフリー基準への不適合

権利変換制度

権利変換制度とは、区分所有権や敷地利用権、抵当権等の建て替え前のマンションに存在する全ての権利関係を建て替え後のマンションにそのまま移行する制度のことです。

住宅ローンを組んでマンションを購入している場合、物件に銀行の抵当権が付いています。
建て替えによってマンションが取り壊されてしまうと、抵当権が消滅してしまうため、抵当権者が建て替えに反対し、建て替えの進行が困難となってしまいます。

抵当権者の反対を防止するために、従前のマンションに付着している権利を建て替え後のマンションにそのまま移行できるようにしたのが、権利変換制度です。

容積率の緩和

容積率とは、敷地面積に対する建物の延床面積の割合のことです。

建て替え後、容積率が余っていると余剰の分譲床を生み出すことができ、その部分を売却して建て替え資金に充当できることから建て替えがしやすくなります。

要除却認定を受けたマンションの建て替えであれば、許可の範囲内において一定の容積率の緩和を受けられる措置があります。

マンション売却敷地制度

マンション売却敷地制度とは、マンションの建て替えに反対している区分所有者からマンションを時価で買い取る制度のことです。

マンションの建て替えは区分所有者の一定割合以上の同意があれば可能ですが、逆にいうと一部の反対者が残っていても建て替えを実行できることになります。

反対者にはどのように対応するかというと、時価で買い取ることで納得してもらいます。

マンション建て替え円滑化法による建替えの流れ

マンション建て替え円滑化法による建替えの流れ

マンション建て替え円滑化法による建て替えの一般的な流れは以下の通りです。

  • 区分所有法による建て替え決議の成立
  • マンション建て替え組合の設立および認可
  • 不参加者に対する売渡請求
  • 権利変換手続きの立案及び実行
  • マンションの明け渡し
  • マンションの取り壊し
  • 新築マンションの建設

マンション建て替え円滑化法の手続きは、全て区分所有法による建て替え決議の成立後である点が最大の特徴です。

建て替えの反対者や権利変換計画の反対者に対しては、時価で買い取る売渡請求の制度が存在します。

国土交通省による合意形成マニュアルの内容

マンションの建て替えに成功するためには、区分所有者の合意形成を図ることが最大のポイントです。

国土交通省では「マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル」を公開しています。

有志による勉強会から始める等の進め方が丁寧に記載されているため、ご参考ください。

マンション建て替え円滑化法と等価交換事業による建替えの違い

マンション建て替え円滑化法と等価交換事業による建替えの違い

等価交換とは、建物の建築主と地主との間で、竣工した建物と土地を等価で交換しあう開発手法のことです。

等価交換事業による建替えでは、デベロッパー等が事業の主体となって行われます。

マンション建て替え円滑化法に基づかないことから、行政手続きが不要であり、計画に柔軟性を持てる点がメリットです。

ただし、例えば建て替え前に抵当権を抹消しなければいけない等のデメリットがあり、マンション建て替え円滑化法で定められている便利な制度が利用できません。

マンション建て替え円滑化法で利用できる補助金制度

マンション建て替え円滑化法で利用できる補助金制度

マンション建て替え円滑化法では、直接的に補助金制度を設けていません。

しかしながら、マンションの建て替え円滑法の要件を満たす一部の建て替えでは、補助金を受給できる場合があります。

優良建築物等整備事業都市再生住宅制度といったものは、マンションの建て替え円滑法の要件を満たすことで利用できる補助金制度です。

それぞれの補助金制度では、さらに面積要件等も満たす必要があります。
詳しい内容は、参画しているデベロッパーに確認することをおすすめします。

マンション建て替え円滑化法に関するお悩みは専門家への相談がおすすめ

マンション建て替え円滑化法に関するお悩みは専門家への相談がおすすめ

マンションの建て替えは、専門家に相談しながら進めていくことが適切です。

デベロッパーやゼネコンに声をかければ無料で対応してくれますが、いきなりデベロッパー等に相談してしまうと、その会社の色がついてしまいます。

そのため、最初は客観的な意見を聞くためにも第三者の専門家に依頼することが望ましいです。

マンションの建て替えに関しては、都道府県の自治体が相談窓口を設けています。

また、住まいダイヤルマンション再生協議会を活用することも効果的です。

住まいダイヤルとは、国土交通省から指定を受けた住宅専門の相談窓口になります。
マンション再生協議会とは、マンション再生全般に関する相談を受け付けている公的な機関のことです。

まとめ

以上、マンション建て替え円滑化法について解説してきました。
マンション建て替え円滑化法は、2026年4月1日以降にマンション再生円滑化法に変わる予定の法律です。
マンション建て替え円滑化法には、マンション建て替え組合や要除却認定、マンション敷地売却制度といったものがあります。

マンション建て替え円滑法では、マンション建て替えの反対者に対して売渡請求できる点がポイントです。
マンションの建て替え方法としては、他に等価交換事業も存在します。
マンションの建て替えを検討している方は、まずは専門家に相談することをおすすめします。

この記事のポイント

マンション建て替え円滑化法とは?

マンション建て替え円滑化法(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)とは、主にマンションの建替えを円滑に行うことが目的の法律です。

2002年に制定された法律であり、複数回の改正を経て現在に至っています。

詳しくは「マンション建て替え円滑化法とは?区分所有法との違いは?」をご覧ください。

マンション建て替え円滑化法による建替えの流れは?

マンション建て替え円滑化法による建て替えの一般的な流れは以下の通りです。

  1. 区分所有法による建て替え決議の成立
  2. マンション建て替え組合の設立および認可
  3. 不参加者に対する売渡請求
  4. 権利変換手続きの立案及び実行
  5. マンションの明け渡し
  6. マンションの取り壊し
  7. 新築マンションの建設

詳しくは「マンション建て替え円滑化法による建替えの流れ」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

2026年4月1日から施行されるマンション再生円滑化法では、建て替えや除却だけでなく、一棟リノベーションや隣接地も取り込んだ建て替え等の新たな再生手法も取り入れられる予定です。再生方法を建て替えに限定していないことから、建て替え円滑化法から再生円滑化法に名称が変更されました。
新しいマンション再生円滑化法は、区分所有法の改正とも連動しており、今まで以上に建て替えがしやすくなります。建て替えを検討しているマンションは、マンション再生円滑化法が施行されてから計画を進めた方が良いかもしれません。