採光とは？ 計算方法や物件選びのヒントを一級建築士が伝授

採光とは、建物内に自然光を取り込むことを指します。居室を明るくするだけでなく、健やかで快適な生活のため、法律で採光の基準が定められています。一方、採光だけを重視した家選びはおすすめできません。

この記事では、実際の採光計算方法や物件選びでの見るべきポイントなどについて解説します。

採光とは？

建築物における採光とは、屋内に自然光を取り入れることを指します。採光は人が活動するために不可欠なもので、健康的な暮らしを送るうえでも重視されます。採光の基準は、建築基準法第28条1項で定められています。

屋内に自然光を採り入れること

採光とは、窓（開口部）から建物の屋内に自然光を取り入れることをいいます。太陽光を取り入れることで、明るい居住空間を作ることができます。また、室内に自然光を取り入れることで電力の消費が抑えられ、健康的な暮らしが送れます。

採光は建築基準法で義務づけられている

採光は建築基準法で義務づけられており、必ず遵守しなくてはなりません。ただし、採光が義務付けられているのは、建物のうち継続的に利用する「居室」です。居室は、後述する基準以上の採光を確保するように定められています。

第二十八条　住宅、学校、病院、診療所、寄宿舎、下宿その他これらに類する建築物で政令で定めるものの居室（居住のための居室、学校の教室、病院の病室その他これらに類するものとして政令で定めるものに限る。）には、採光のための窓その他の開口部を設け、その採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、五分の一から十分の一までの間において居室の種類に応じ政令で定める割合以上としなければならない。ただし、地階若しくは地下工作物内に設ける居室その他これらに類する居室又は温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室については、この限りでない。
引用元：建築基準法第28条1項

有効採光面積とは

自然光を取り込むために有効な窓面積のことを「有効採光面積」といいます。住宅の居室には、有効採光面積以上の窓を設けなくてはなりません。

ただし、上の階にバルコニーがあったり、目の前にビルの壁が建っていたりすると、大きな窓があっても部屋が暗くなってしまうかもしれません。有効採光面積は、居室ごとに異なるこうした状況も考慮したうえで計算されます。

採光の計算方法は？

採光の計算方法は、シンプルにお伝えすると以下の通りです。

窓の面積（W）×採光補正係数（A）で求める「有効採光面積」が居室の床面積×割合（建物によって異なる）で求めた数値以上であること

ここから詳しく説明していきます。

そもそも採光計算が必要なのは？

採光計算が必要なのは、人が継続利用する「居室」だけです。「非居室」と呼ばれる廊下や納戸、トイレなどは採光計算は不要です。

また、平屋かつ延床面積200㎡以下の住宅は、新3号建築物特例（従来の4号特例。2025年4月の法改正で特例縮小）が適用されるため、居室であっても採光計算は不要です。

・「4号特例縮小」に関する記事はこちら 2025年4月省エネ基準適合義務化スタート！4号特例縮小の影響は？

有効採光面積以上の開口部を設ける

建築基準法に適合する有効採光面積の計算式は、以下の通りです。

居室の床面積×割合 ≦ 窓の面積（W）×採光補正係数（A）

上記の採光を求める計算式で登場する「割合」は、建物によって異なります。マンションやアパート等、集合住宅は1/7です。

一方、有効採光面積を計算する時に大切な数値が「採光補正係数」です。採光補正係数は、用途地域ごとに異なる計算式で算定します。

DとHは、以下の通りです。

採光計算をする開口部が道路に面する場合や公園や広場・川に面する場合などは見通しがよいことから、採光を取るうえで有利になります。

一般的住宅の居室の採光計算例

居室の床面積×割合≦窓の面積（W）×採光補正係数（A）＝有効採光面積
住宅の居室が21㎡の場合、採光有効面積は21㎡×1/7＝3㎡となるため、窓面積は3㎡以上必要です。たとえば、掃き出し窓が幅2.0m、高さ2.0mとすると、窓面積4.0㎡に採光補正係数1/7をかけて2.8㎡になり、採光NGとなるため、窓の大きさや数などを再検討する必要があります。

住宅の居室には緩和あり

2023年4月1日、採光に関する緩和策が施行されました。

床面積×1/7以上の採光上有効な開口部が必要ですが、住宅居室の床面において50ルックス（50lx）以上の照明設備を設ければ、1/10以上まで必要な開口部の大きさが緩和されます。

なお、マンションの間取り図で表記されている「S（サービスルーム）」や「DEN（一般的には書斎）」などは、非居室として確認申請が下りています。

・「S（サービスルーム）」に関する記事はこちら 間取り図の「S」とは？サービスルームのある物件のメリット・デメリットと注意点

採光がもたらす暮らしや健康への影響

ここでは、陽の光が人や暮らしに与える良い影響についてお伝えします。

省エネ効果

自然光が入る明るい居室は、日中は照明を使わずに済むため電力利用が抑えられ、冬は暖房使用時間を減らせます。また、引き違い窓や上げ下げ窓など開けられる窓では自然換気でき、エネルギー消費を減らせます。

・「省エネ」に関する記事はこちら 2025年4月省エネ基準適合義務化スタート！4号特例縮小の影響は？

開放感が高まる

採光には居住空間を広く見せる効果があり、開放感も高まります。自然光が降り注ぐ居室は、明るく広々とした印象を持ちます。吹き抜け窓やトップライト（天窓）があるとよりさらに開放感が高まります。

・「トップライト（天窓）」に関する記事はこちら トップライト（天窓）とは？メリット・デメリットと注意点を解説

免疫力が高まる

適切に日光を浴びることで、ビタミンDが作られ免疫力向上が期待できます。また、朝に太陽の光に当たることで体内時計を整える効果もあります。朝日を浴びて起き、活動することは、心身の健康維持や免疫力の向上に有効です。

心理的な効果も

神経伝達物質の「セロトニン」は、人の心身の健康と深い関係があると言われています。

日照時間が減る冬季や梅雨時期にはセロトニンも減少し、気分が落ち込みやすいとされる一方、自然光で明るい部屋は、気持ちが前向きになり、ストレスの軽減効果に期待できます。

窓は大きくて多ければ良いわけではない？ 物件選びで見るべきポイント

窓（開口部）は大きくて多ければ良いというわけではありません。季最後に、物件選びで見ておきたい採光に関するチェックポイントをお伝えします。

季節・時間帯による陽の入り方

季節や時間帯によって陽の入り方は変わります。角度にもよりますが、南西向きの大きな窓は、真夏の昼間には強い光が入り、まぶしさや暑さを感じることがあります。逆に、北向きの窓からは太陽光が入りにくいため、冬は寒く感じられることもあるでしょう。

断熱性・気密性

2025年4月から原則すべての新築住宅に省エネ基準適合が義務づけられたこともあって、新築住宅については、窓が大きくても断熱性・気密性に問題があることは少ないでしょう。

一方で、築年数の古い建物のサッシは気密性や断熱性が総じて低く、サッシのすき間やガラスから外気や熱の出入りがあり、冷暖房効率も悪くなる可能性があります。古い家屋を購入する場合は、断熱改修も検討すると良いでしょう。

・「高気密高断熱住宅」を含む物件一覧はこちら ・「断熱」に関する記事はこちら 断熱等級とは？ 省エネ基準と新設された等級5・6・7は何が違う？ 断熱窓はDIYできる？リフォームの種類や費用、補助金も紹介

耐震性

建物は、法律に則り、検査にも合格したうえで建築されています。そのため、建物に大開口（大きな窓）があっても耐震性を心配しすぎる必要はありません。

ただし、建築基準法はたびたび見直され、特に耐震性については厳しくなっている傾向にあります。一概にはいえないものの、現行の木造の耐震基準になるより前に建築されていて（2000年5月以前）、大きな窓を採用している場合は耐震性に影響がある可能性があります。

・「新耐震」を含む物件一覧はこちら ・「耐震」に関する記事はこちら 旧耐震と新耐震の違いは？地震発生時のリスクも解説 耐震等級は1・2・3でどれくらい違う？メリットや調べ方を紹介

プライバシー

窓が多いと外からの視線が気になることもあります。住宅密集地では隣地境界線近くまで建てている建物も多いです。窓からのプライバシーを守るため、カーテンやブラインド、ガラスに貼る目隠しシートなどで工夫が必要になるケースもあります。

防犯性

窓が多いと採光性は高まりますが、開口部が多ければ多いほど空き巣などの侵入経路が増えます。

1階であれば窓にシャッターのある物件、防犯ガラスの建物を選んだり、補助錠の利用も防犯性を高めます。植栽や塀などで窓ガラスが隠れてしまうような死角がなく、通行人から見える位置であることも、空き巣の抑制になります。

・「防犯」に関する記事はこちら プロに聞いた！防犯を考慮した家選びのコツ～空き巣や強盗対策～

まとめ

採光は健康で快適に生きていくうえで、非常に重要な要素です。採光が確保された居室は、省エネ効果も高く、心理的な開放感や安心感を得ながら生活できます。ただし、物件選びはバランスが大切です。採光だけでなく、防犯面や外からの視線が気にならないかなどを考慮して物件を選ぶようにしましょう。

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